自社の上場について、経営者であれば一度は頭を過ぎったことがあるはずです。上場は市場からの資金調達が有利に働くなど高いメリットを享受できますが、一方で自社が経営者の手を離れ、パブリックカンパニーとしての側面を強めていくということでもあります。本稿では、上場のための基本的なポイントと、上場のメリット・デメリットについてお伝えいたします。

東証1部に上場するには

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(写真=PIXTA)

上場とは端的にいえば、取引所において、企業の株式の売買が許可されることです。上場の条件はけっして容易ではなく、厳しい審査があります。とくに国内最高の株式市場である東証一部への上場は極めて難しく、主な条件は以下にようになります。

「東証一部上場の主な条件」
・株主数:2,200人以上
・流通株式数:2万単位以上
・時価総額:250億円以上
・連結純資産の額が10億円以上(かつ、単体純資産の額が負でないこと)
・最近2年間の利益の額の総額が5億円以上、または時価総額が500億円以上

上記に比較すると東証二部の上場条件はややゆるく、以下のようなものとなります。

「東証二部上場の主な条件」
・株主数:800人以上
・流通株式数:4,000単位以上
・時価総額:20億円以上
・連結純資産の額が10億円以上(かつ、単体純資産の額が負でないこと)
・最近2年間の利益の額の総額が5億円以上、または時価総額が500億円以上

これらの基準は、一時的に満たされれば良いわけではなく、常に一定の基準を満たさない限り、上場廃止となってしまいます。

「東証一部・二部上場廃止の主な基準」
・株主数:400人未満(猶予期間1年)
・流通株式数:2,000単位未満
・流通株式時価総額:5億円未満(猶予期間1年)
・時価総額が10億円未満(書面提出の上、猶予期間9ヵ月)
・債務超過:猶予期間1年

このように上場への基準を満たし、また維持し続ける事は大変難しく、乗り越えるべきハードルが複数存在する事がうかがえます。

上場のメリット、デメリット

上場への道のりはきわめて困難ですが、晴れて上場を果たせるのであれば、企業にとって多大なメリットをもたらします。

●メリット

・会社の知名度向上
新聞や、ネットでの株式欄への掲載を始め、東証1部上場を機に多くの人が自社名に触れる事となり、確実に知名度が向上します。

・社会的信頼性の向上
東証1部への上場基準は厳しいため、それを達成したということは、極めて安定性の高い信頼できる企業であることの裏付けになります。

当然、取引先をはじめ、販路の開拓など、自社の経営健全性を大いにアピールできます。人事面においても、自社の経営および組織への信用度が著しく向上するため、従業員の士気向上や離職防止につながります。また、新規採用においても優秀な人材が確保しやすくなるなど大きな影響を及ぼします。

・資金獲得力の強化
東証1部へ上場するということは、国内最大級の市場への参入が許されたということです。それに伴い、金融市場からの資金獲得が大いに期待できます。さらに先述の社会的信頼性の向上という観点からも、金融機関からの融資を受けやすくなる効果が出てきます。

・経営の健全化
上場にあたっては法令順守や内部統制などの徹底が求められます。そのため、上場を目指した場合、それに向けて経営体制や組織面での見直しを行うことにもつながり、健全化された経営を行うことが可能になります。

・創業者利益の享受
東証1部上場の際に、株価が上がったタイミングで自社株を手放す事によって、創業者利益を享受する事も可能です。

●デメリット

東証1部への上場を果たすことが企業価値を大きく向上させることがわかりました。では上場を果たすことでデメリットはあるのでしょうか。ポイントをまとめてみます。

・買収リスクの向上
上場するという事は、端的にいえば企業を広く薄く市場に売却することを示します。このため、会社はこれまでのような経営者や役員だけでなく、株主のものともなるのです。当然、それに伴って株主は経営に関与してきますし、ときに株式の買い占めなどを通じて経営権を奪われるおそれも生じます。

・短期的な業績思考に陥る可能性
買収を阻止するためにも、株主側の意向をも勘案した経営を行う必要が出てきます。短期的な利益を求める株式が多くなれば、それに合わせて短期的な業績の獲得に走りやすくなる可能性があり、長期的な経営戦略の妨げになる事があります。

・管理コストの増大
先述の上場廃止基準に抵触しない為にも、継続した内部統制の徹底が求められます。結果、年間上場料、監査報酬、株主名簿管理料などの直接的な費用に加え、管理部門の工数増加分の経費など間接的な費用も発生し続けます。

上場判断は「経営方針」ありき

「大企業を目指すのであれば、いずれは東証1部に上場を」とお思いの経営者もきっと多いことでしょう。その一方で、各業界でトップクラスのシェアを誇る企業であっても、上場を目的としない企業は多数存在しています。

上場を目指すか否かは、企業風土や経営方針、そして理念によって異なります。株式会社リクルートホールディングスは長く非上場企業として運営されていましたが、2014年に東証1部に上場し、それ以降は海外のM&Aを積極的に展開しています。非上場によるメリットより、上場による市場からの資金調達力の強化を選択したという経営方針の転換の一例ですが、その善し悪しを一概に計ることはできません。

このように、上場するか否かの判断基準は「あくまで自社の『経営方針』ありき」であるといえます。自社の長期ビジョンを考える際に「上場」は果たしてメリットがある選択肢なのか、是非さまざまな角度から検証しましょう。(提供:みらい経営者 ONLINE

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