45歳からは「セカンドキャリアとしての転職」を考えよう

40代の転職,山崎元
(画像=The 21 online)

転職が身近になってきたものの、ミドル世代にはまだそのハードルは高い。しかし、転職は「難しくない」というのは、自身も12回の転職をしてきた経済評論家の山崎元氏。とくにミドル世代が注意するべき転職のポイントを、体験も踏まえお話しいただいた。

転職の最大のリスクはキャリアの断絶

新卒で入社した会社で働き続けることが当たり前の日本において「転職」はリスクを伴うと考える人はまだ多い。しかし、「将来が不確実なのはどこにいても同じ。変化に翻弄されるよりも、快適な働き場所を求めて自分から変化を起こすほうがコントロールしやすい」と話すのは、自身も12回の転職経験を持つ経済評論家の山崎元氏だ。

「たとえば、会社の業績不振から解雇されそうな場合、解雇されるまで待たないほうがいい。ズルズルと居残るうちに大規模なリストラが発生し、自分と同じような人材が転職市場にあふれれば、転職が困難になるからです。中には、自己都合で辞めると退職金が減るという理由で残る人がいますが、それよりも、自分が働きやすい環境に早く移り、将来において稼げる目途を立てるほうが大事。相手の都合に合わせて対応するのではなく、その半歩手前で、自分の意思で転職を考えるべきです。

ただし、転職先が決まる前に会社を辞めてはいけません。早く辞めたいという気持ちを抑えきれないかもしれませんが、たとえギリギリのタイミングでもより良い人がいたら、そちらを選ぶということが転職市場では起こります。最終面接を通ったとしても、もし入社の条件に健康診断があるなら、今の会社に転職の意思を伝えるのは、診断結果を待ち、転職先の会社とサインを交わしてからにするべき。最後のサインを交わすまで安心してはいけないのです」

そう山崎氏が指摘する理由は「キャリアの連続性」だ。

「とくにミドル世代にとって、転職先が決まらず無職の期間ができて仕事のキャリアに空白ができることはマイナスが大きい。次の転職の際の年収交渉にも不利になります。

また、キャリアの空白は、転職したとしても起こり得ます。たとえば為替ディーラーとしてキャリアを積んできた人が、希望に反して法人営業に配属されれば、為替ディーラーとしてのキャリアの価値が大きく損なわれてしまいます。2年後に再び為替ディーラーの職を見つけようとしても難しいかもしれません」

キャリアの断絶を避けるには、仕事の内容を次の会社と確認しておくことが重要だ。

「採る側も採られる側も、早く決めたい心理から、『細かな内容は入社してから決めればいい』と考えがち。転職における最大のリスクは、新しい仕事が自分の想像とは異なる場合があることと心得、自分が次の会社でどのような権限を持ち、どのような内容の仕事をするのかは、転職を決める前にきちんと確認しておく必要があります」

「人生100年時代」を見据えた転職もあり

山崎氏が最初に転職したのは1985年のこと。ファンドマネジャーを目指すため、より仕事を覚えられる環境を求めた転職だった。当時を振り返り、「転職に対する社会の評価や社内の反応は、ここ30年余りで大きく変わった」と話す。

「当時は転職をネガティブに捉える傾向があり、『前の会社で何かあったの?』とか、『今度は長く勤められるといいですね』などと同情されたものです。ところが、90年代後半になって転職者が増えると、『転職できるのは能力があり、求められる人材だから』と評価されるようになりました」

最近はミドル世代の転職も広がっていると感じるという。

「たとえば証券会社のアナリストやストラテジストなどは、昔は30代後半までしか採用しませんでしたが、今は40代や50代のミドル世代も採用しています。全体的な人材の流動性の高まりに加えて、人材不足もあり、ミドル世代も比較的転職しやすい環境になっています」

もし、転職をしようと考えていなくても、「転職する、しないに関わらず、ミドル世代は今からセカンドキャリアを考えたほうがいい」と山崎氏は言う。

「今の会社で働き続けるとしても、一般的には60~65歳で定年を迎えるでしょう。しかし、人生100年時代と言われる今、先の人生を考えると、65歳までの稼ぎでは老後資金が不足する家計が多いと推測されます。ですから、75歳くらいまで働き続けられるような環境を自分で用意しなければなりません」

セカンドキャリアに向けた準備は、定年の15年前、つまり45歳頃から始めるのがよいとアドバイスする。

「セカンドキャリアを現在のキャリアの延長線上に築く場合でも、新しい仕事を始める場合でも、『スキル』と『顧客』が必要です。

仮に、経理の仕事をしている人が定年後に税理士事務所を開業したいと思えば、税理士の資格を取得し、開業のための知識を身につけなければなりません。また、独立しても、すぐに顧客がつくわけでもありません。定年後のセカンドキャリアにスムーズに移行するには、長い準備期間が必要なのです」

山崎氏がセカンドキャリアを考え始めたのは、42歳のとき。そして、自分の将来の働き方を模索するため、12社目の転職先には、働き方が比較的自由で副業が可能な会社を選んだ。

「会社員に片足を置きながら、友人が経営するベンチャー企業の手伝いや、原稿執筆や講演、テレビ出演などいろいろな仕事に挑戦しました。そうするうちに、経済評論家としてのセカンドキャリアが見えてきたのです。

会社員としての収入は前職よりは下がりましたが、それでも定期的な収入がありながら、副業をするかたちでセカンドキャリアを築くのは、いきなり独立や起業を選ぶよりリスクが少なくて安心です。

もし勤務先で副業を認めてもらうのが難しいとしたら、セカンドキャリアを見据えたステップとして、柔軟な働き方ができる会社に転職するのも一つの方法だと思います」

転職準備はビジネスマンの基礎知識

これからのビジネスマンは、社会やビジネスの状況が変わることを前提に、将来を考えていかなくてはならない。とはいえ、10年後、20年後の状況を予測することは不可能だ。そんな中で私たちは自分の将来のために、今、何をすべきなのだろうか。

「職業人としての人材価値を高め、常にアップデートしておき、いつでも転職できる準備をしておくことでしょうね。リストラに遭ってから慌てるようでは、ビジネスマンとしてあまりにも不用意です。会社が社員の一生を面倒みてくれないことは明らかですから、社内でのキャリアの見通しや、転職の可能性は常に考えておくことが大切です」

自分に何ができるのかわからないという人は、自分のキャリアの棚卸しから始めてみよう。

「自分がやってきた仕事の中で、『これならできる』という仕事があるはずです。人材紹介会社に登録して、自分の市場価値をはかってみてもいいでしょう。

ビジネスマンにとって勤務先の会社は、『自分の仕事』を買ってくれる取引先のようなもの。転職とは、要はその取引先を変更することです。自分の価値をしっかりと見定め、転職も視野に入れて準備しておくことは、今や『ビジネスマンの基礎知識』の一つと言えるでしょう」

山崎 元(やまざき・はじめ)経済評論家/〔株〕マイベンチマーク代表取締役
1958年、北海道生まれ。81年、東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。野村投信、住友生命保険、メリルリンチ証券など、12回の転職を経て、[株]マイベンチマーク代表取締役。楽天証券経済研究所客員研究員。『信じていいのか銀行員』(講談社現代新書)、『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』(文響社)、『一生、同じ会社で働きますか?』(文響社)など著書多数。≪取材・構成:前田はるみ≫(『The 21 online』2018年6月号より)

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