考えがまとまる「思考整理術」
頭の中がごちゃごちゃで良いアイデアが浮かばない、考えがまとまらない、集中できない……そんな状態では仕事が進まない。頭の中すなわち思考の整理も、ビジネスマンにとっては必須のスキルだ。コンサルタントとして活躍する問題解決のプロ・井上龍司氏に、思考整理のコツについてうかがった。<取材・構成=内埜さくら>
思考整理のコツは部屋の整理と同じ!?
現代の仕事はマルチタスクが当たり前。通常業務の他に、飛び込みで依頼が複数舞い込んでくることも珍しくありません。
通常業務を迅速にこなしつつイレギュラー業務にも柔軟に対処するために必要な要素こそが、思考整理の技術。と言うと難しく感じるかもしれませんが、特別な才能やセンスは不要です。頭の中をスッキリと整え仕事の無駄を省き、ミスや見落としをせず短時間で仕上げる、思考整理のテクニックを身につけることは誰にでも可能です。
思考=頭の中で思い浮かべている考えを整理整頓するときのステップは、たった二つ。
1 無駄な情報を捨てる
2 残った情報を秩序立てて整える
どれだけ膨大な情報であろうと、大原則はこの二つ。「着なくなった洋服は捨てる」「本は本棚へ」と、部屋を整理するときにすることを、頭の中でも同様に実行することが、思考整理です。
情報を選り分けるときのポイントは、考えていることすべてを紙に書き出すこと。頭の中だけで整理しようとするのではなく、一度可視化するのです。パソコンにたとえるなら、情報の倉庫であるハードディスク内で直接作業をするのではなく、メモリ=情報を処理する作業テーブルにいったん乗せて整理するということ。その際に脳だけでなく紙を使うことで、その作業テーブルを拡大させるのです。
「書き出す」ことで雑念を取り払う!
情報を書き出す際は、頭によぎった内容を「すぐに」「全て」、要不要を判断せずに書き留めましょう。そのときは不要と思い書かなくても、のちに必要な情報だったと気づき後悔する可能性があるからです。連想ゲーム的に浮かんでは消えていく思考を出し切らないと、不安なままで仕事への集中力を欠くこともあり得ます。
文章にまとめるのではなく、言葉を細かい単位に分けて書き留めることもポイントの一つ。たとえば「売上げ減少の原因は競合の進出」という思考であれば、「売上げ」「減少」「原因」……と細分化した単語だけの記載にします。思考を文章でつなげてしまうと、書き出しに悩んだり、どこに分類すればいいのか判断できなくなり、整理に手間取ります。思考を書き留めた紙は他人に見せる機会がないので、「キレイに書こう」と考えなくてよいのです。
なお、思考を整理していると、雑念が浮かんだり、考えなければならない事柄以外のことが気になってしまうことがあるかもしれません。そういったときは、納得するまでそちらの思考に思い切って専念してしまうのも一案です。無意識に浮かぶそういった思考は、多くの場合は現実逃避かもしれませんが、意外と重要だからこそ浮かんでいる可能性もあるからです。いずれにせよ、紙に書き出しておきましょう。
その結果、重要な事柄ではなかった、ということも多々あります。しかし、書き留めることで頭からいったん外しておけるので、安心感を得られます。
集中できないときはいっそ「諦める」ほうがいい
体調が悪かったり、嫌な出来事が頭から離れないことは、誰にでもあると思います。そのようなときは、潔く諦めて、考える行為から離れてしまうのも一つの手です。仕事は「考える」ことばかりではありません。たとえば経費精算など単純な作業をする時間に充てましょう。
そしてそのぶん、脳をフル回転させる業務は集中力がみなぎっている「ゴールデンタイム」にやると決め、時間帯を振り分けるのです。たとえば、1日の中で朝をゴールデンタイムと位置づけ、毎日、始業時刻の1時間前までに出社している方を時々見かけます。他の人が出社していないうえに電話も鳴らないため、仕事がはかどるからです。このように、自分にとって集中力が高まる時間を見つけておくことも、思考整理に役立ちます。
言語化できないときは「モヤモヤする」とメモを
仕事では、業務の改善案など、一つの物事に対して数多くの案を出す必要があるケースもあります。この場合も、重複を恐れずとにかく書き出しましょう。こまめにチェックしすぎるとその瞬間、思考が停止してしまいます。重複していたらあとで削除すればよいのです。
いいアイデアが浮かんでいるのに、言語化できずにモヤモヤするケースもあると思います。その惜しい状態から脱して先に進むためにも、書き出す作業は有効です。単語やイラスト、落書きでもかまいません。どうしても言語化できなければ、「考えがまとまらない」「あ~、モヤモヤする!」と書いておくのも案外有効です。書くことで冷静になることができ、そこから言葉が浮かんでくることがあるからです。また、断片だけでも書いておけば、後日読み返したときにヒントが見つかる場合もあります。
また、声に出すことで整理できることもあります。頭の中ではわかったつもりでも、実際に口に出すと、何かが引っかかったり違和感がよぎったり、うまく説明できないことは多いものです。そこで論理展開の欠点を発見し修正することで、より筋の通った説明ができるようになります。プレゼン前のリハーサルにも活用してみてください。一人で行なっても構いませんが、聞いてくれる相手がいるとさらに良いでしょう。
問題解決のためには、図解による思考整理もお勧めです。図解のパターンは無数にありますが、その多くは「箱と線」でできています。
情報を一つずつすべて「箱」で囲み、「線」で箱同士の関係を表現します。似た情報をグルーピングしたり、時系列や因果でつないで関係を明確化するのも有効です。
「絵を描くのが苦手だから」と、図解を敬遠する方もいるかもしれませんが、決して難しくはありません。苦手意識を払拭するには、実践あるのみ。聞き流すだけでは英語を話せるようにはならないのと同じく、図解も手を動かさなければ作れるようにはなりません。私の場合は優れたパワーポイントの資料を真似して作る「パワポ写経」で練習を重ねて勘どころをつかみました。
パワーポイントの前にエクセルを立ち上げよう
パワーポイントで資料を作るときには、「思考」と「作業」を分けることが重要です。考えが定まらないうちにパワーポイントを立ち上げるのは、下書きなしでいきなり内容を作成するということ。まとまらない内容になったり、作り終わってからやり直すことになったり、余計な手間が発生します。
プレゼン資料を作る際には、パワーポイントより先にエクセルを立ち上げましょう。そして、エクセル1行をパワーポイント1ページとみなし、「最初に昨年の売上げ報告」「次ページで売上げ減少の理由を説明」「その次に売上げ向上策の説明」というふうに、話す内容を考え、列挙します。エクセルで事前に思考をまとめ、パワーポイントではスライド作成の作業だけに専念するのです。
このように、先に下書きをまとめておくと思考が整理され作業が効率化されます。
5W1Hを使って問題を素早く解決
仕事において課題解決をするうえでは、さまざまな可能性を検討したり、ヌケモレのないように状況を整理する必要もあります。そのようなときは、「5W1H」を用いる方法が有効です。
たとえば、自社で販促イベントを開催することになったとします。その場合、
・What(何を)
→新商品の販促イベント
・Who(誰が)
→営業部の鈴木、田中
・When(いつ)
→四月七日(土)14時~15時
・Where(どこで)
→商業施設○○ 4階広場
・Why(なぜ)
→新商品の認知度UP
・How(どのように)
→CMタレントをゲストに
という具合に、ひとつひとつ検討していくと、ヌケモレなく計画を作成できます。
情報を偏らせる2つのバイアスとは?
思考を整理する際にもう一つ重要なのが、アイデアを生み出すための素地となるインプット(情報収集)の質や量です。人は無意識に、バイアスという「思考の偏り」に引っ張られがちなので、情報収集の段階から注意が必要です。
バイアスにはさまざまなものがありますが、ここでは2種類紹介します。
1 調査対象などに偏りが出る「選択バイアス」
2 自分に都合のいい情報のみを集める「確証バイアス」
バイアスは思考を歪ませてしまいます。インプットをする際は意識的に日頃見ない情報にも目を向けてみてください。インターネットでの情報収集がメインなら、雑誌や書籍に場を移してみる、といったバランスを意識すると、より客観的に思考を整理することができます。
行き詰まったら顧客を観察せよ!
また、商品のアイデアなどの思考に行き詰まったら、考える工程から一度離れ、顧客を徹底的に観察してみると、スランプ脱出の一助になります。
マーケティングでは「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」という概念があります。顧客が言語化できるのが顕在ニーズで、顧客が言語化してくれなかったり、顧客自身も気づいていなかったりするのが潜在ニーズです。潜在ニーズは見つけづらい分、発見できると競合他社に大きなリードをつけられます。
この潜在ニーズを見つけるうえで、近年注目されているのが「デザイン思考」というアプローチです。これは、IDEOという世界的に有名なデザイン会社が採り入れている、優れたアイデアを生み出すための思考法です。この最初のステップが「共感」。つまり、顧客目線で徹底的に観察すると、顧客自身も気づいていない不便さや、言いづらくて言えないような不満に気づくことができる、というものです。考えることに行き詰まったら、観察を行なってみましょう。
思考整理のトレーニング法4
1 情報を多面的に分類する
普段から情報を分類する癖をつけると、思考の整理力が養われる。たとえば、自身の顧客を分類する。「年代別」「地域別」「収入別」「職業別」など多様な分け方ができるはずだ。また、「利益=売上-コスト」と分けてみると「コスト削減案ばかりで売上げアップ案が不足している」など、ヌケモレの発見もしやすい。分類できる引き出しが多いほど、思考の整理も短時間かつスムーズに行なえるようになる。
2 SNSで感想を書く
FacebookやTwitterへの投稿など、多くの人が日常的に使用する場面を活かしてトレーニングするのも効果的。頭の中で浮かんでいる内容を言語化する訓練になる。映画などの感想を書いたら、同じ作品に対する他の人のレビューの閲覧もしてみてほしい。着眼点や言い回しの引き出しを増やせるだろう。
3 図解をストックする
ネットや新聞、書籍は図解の宝庫。目についた図解はスマートフォンで撮影してコレクションしておこう。中でも気に入った図解は、自分でもマネしてパワーポイントや手書きでの作成にチャレンジを。口に出さないと英語を話せるようにならないのと同じで、眺めているだけでは自分の血肉にはならない。図解の体得はインプットと練習の繰り返しが肝要だ。
4 聞いた話を図解にしてみる
人から聞いた話を図で整理する習慣をつけると、思考の整理力やプレゼン力が飛躍的に向上する。一見意味が取りづらい文章も、図解してみるとわかりやすくなるはずだ。
井上龍司(いのうえ・りゅうじ)コンサルタント
1976年、東京都生まれ。東京音楽大学中退後、慶應義塾大学環境情報学部卒業。外資系コンサルティング会社であるプライスウォーターハウスクーパース(現在はIBMにより買収)に入社。以後、電機、自動車メーカー、総合商社、都市銀行、生保・損保など各業界の大手企業における戦略策定や業務改善、システム導入などのコンサルティング業務に10年以上にわたり従事。現在は外資系金融機関において業務改善、システム開発などのプロジェクト計画・管理に携わる。著書に、『生産性が高い人の思考整理のキホン』(すばる舎)などがある。(『The 21 online』2018年5月号より)
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