四大国有銀行(工商銀行、農業銀行、建設銀行、中国銀行)の上半期財務報告が出た。利益は少なくとも5%は伸び、順調のように見える。しかし各メディアは、別の面に注目した。“四大行半年で3.2万人をリストラ”といった見出しが圧倒的に多いのである。「金融界」「今日頭条」など多くのメディアが伝えている。中国の銀行業界は危機なのだろうか。詳しく分析してみよう。

四大銀行の上半期の成績

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(画像=PIXTA)

上半期の数字は次の通り。(営業収入/伸長率/株主利益/伸長率/不良債権比率)

工商銀行  3874億5100万元 7.0%  1604億4200万元 4.87%  1.54%
農業銀行  3063億200万元 10.6%  1157億8900万元 6.63%  1.62%
建設銀行  3399億300万元 6.09%  1470億2700万元 6.28%  1.48%
中国銀行  2514億4700万元 1.3%  1090億8800万元 5.21%  1.43%

利益と不良債権率は、計ったように横並びである。不良債権比率は、工商銀行が6四半期連続で下落、他行も前期比で下落した。「銀行経営は安全」をアピールしているように見える。

人員削減

メディアは別のところにニュースバリューを見出した。人員削減である。その様子は次の通り。

(18年6月行員数/17年12月行員数/減少数/18年6月派遣数/17年12月派遣数/減少数/減少数に占める派遣比)

工商銀行  44万3169人 45万3048人 9879人  77人  141人  64人 0.65%
農業銀行  47万7040人 48万7307人 1万267人 8218人 8541人 323人 3.15%
建設銀行  34万6164人 35万2621人 6457人  4190人 4792人 602人 9.30%
中国銀行  30万5655人 31万1133人 5478人  未公表 未公表

合計では、正社員3万2081人、派遣社員989人の削減だった。主な削減対象は、支店の人員である。

農業銀行の社内資料によると、同行では労働組合と協調を図りつつ、支店人員の再配置、再教育を進めている。2015年、支店のテラーは14万9700人で、総人員に占める比率は、29.8%だった。それが2017年には13万8400人となり、28.4%に減少した。

さらにBoston Consulting Group の「人工智能対金融業務労働市場的影響」というレポートは、2027年までの10年間、中国の銀行業は全体で、104万の職位を失うと予想している。止まらぬ人員削減の背景は何か。

銀行のスマート化

近年、金融科技(Fintech)の発展は、日進月歩である。それにつれて銀行業務の処理形態は激変した。ポイントは2点。

1 支店業務のAI化、軽量化。
2 ネットバンク業務範囲の拡大。従来型支店業務との置き換えが進む。

トップバンクの工商銀行では、6月までに、1万5318支店のAI化(AI化されたスマートカウンターの設置)を終了。半年で421店増加した。

そして上半期には、237項目の金融業務をAI化によって決済し、その総額は338兆元におよんだ。インターネット業務カバー率は、97.9%に上昇した。

他行も同じようにAI化を進めている。中国銀行のAI化支店は、全体の93.6%に達した。ネット業務カバー率は95.3%である。建設銀行では、4万9160台のスマートカウンターを導入し、ほとんどの支店をカバーしている。

一方でこのAI化進展の副産物として、個人金融、モバイルバンキング、信用カードなど、個人業務を広範囲にカバーできるようになった。企業金融を主力とする四大銀行に、半ば自動的に個人金融業務強化への道が開かれ、拡大したのである。

しかし、個人金融業務では、IT巨頭(アリババ、テンセント、バイドゥ百度、シャオミ)系のネットバンクが急速に業績を伸ばしている。これらは日常的に使用するアプリの延長線上にあり、使い勝手は極めてよい。実際に、四大銀行のAI化は、IT巨頭との提携も一つの柱としている。四大銀行の個人金融業務の将来は、決して明るいわけではない。

希望は、ネット金融業務

記事は、四大銀行をリストラされた行員たちのその後について、次のように記述している。

1 中小の銀行へ移籍する。大銀行のような激しい派閥争いに消耗することもなく、かえって自らの潜在能力を発揮できるかもしれない。

2 公務員や一般企業へ転身する。末端のテラーだった場合、一族の人間関係から職を探すしかない。運よくIT企業へ転職できたとしよう。待遇は大銀行より上の場合もある。しかし伝統的銀行業務からは想像できない、厳しいプレッシャーに耐えられるかどうか。

3 銀行以外の金融業へ転業する。証券や信託、投資信託、資産管理、担保会社など他の金融機関である。そうした機関のネット金融業務はとくにおすすめである。待遇は大銀行と引けを取らない上に、新しい技能の習得も期待できる。

AI化に伴う人員削減事例の象徴として興味深い。離職した元銀行員たちは、ネット金融こそ伝統的大銀行の進化形とみなしているようだ。社会的上昇のチャンスも、大銀行より多いと考えられている。

某元銀行員は、不遇をかこつのではなく、新しい知遇を得る機会、と積極的に捉えているという。そもそも中国人は個人でも法人でも、金融リテラシーは非常に高い。足りなければ借り、余っていれば貸す。じっとしていることはない。

それなりの会社なら、たいてい金融子会社か、金融部門を持っている。そしてここでも人は要る。四大銀行の人員削減は、金融業界内部の微調整という意味合いだろう。銀行業界は危機かも知れないが、金融業界はそうでもない。当面、元銀行員たちが職に窮することはなさそうだ。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)