カンブリア宮殿,リノべる
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理想の我が家を安く~築47年のマンション大変身

名古屋市にある築47年のマンションに、4年前に越してきた鈴村嘉右さん、史美さん夫妻。室内はリノベーションを施してある。

「リフォームみたいに、間取りを残したままちょっと壁紙を変えるという発想ではなく、自分たちのライフスタイルに合わせて完全に間取りそのものを変えてしまう」(嘉右さん)

以前の間取りを変えずきれいにするリフォームに対して、リノベーションは、壁を全て取り払い、丸ごとつくり替えるというもの。買った時は2LDKだったが、広いリビングのおしゃれな1LDKに大変身した。

2人がリノベーションを選んだのは、「新築を買うよりもずいぶん安く、しかも自分たちの好きな形にしてくれる」(嘉右さん)から。マンションの購入費用とリノベーション代を合わせても、新築の半分ほどで済んだという。

同じマンションの住人、和田竜一さん、智香子さん夫妻のお宅もリノベーションされていた。実は鈴村さんのお宅を見学して気に入り、去年越してきた。和田さん最大のこだわりがキャットウォーク。寝室につながっており、その出入り口は額縁でできている。「奥に猫がいたら絵画みたいに見える」(智香子さん)というアイデアだ。

さらに5人家族の渡邊壮一郎さんは、リノベーションがしたくてこのマンションに越してきた。目につくのは広いリビング。3人の子供が小さいうちは、思いっきり遊べるスペースが欲しかったという。リビングには引き戸がついていて、部屋を分けることも。ゆくゆくは勉強部屋にするつもりだそうだ。

このように、自分好みの住まいにするため、あえて中古のマンションをリノベーションする人が増えているという。鈴村さんをはじめ、いくつものお宅をリノベーションしたのが、リノベる社長・山下智弘(44)。このマンションの150戸中10戸が、「リノベる」がリノベーションした「リノベる物件」だ。

このマンションでは、引っ越してリノベーションした人たちが中心となり、コミュニティーが活発になっているという。

例えばマンションの庭先にハーブを植えると、ガーデニングの輪ができたり、海外勤務が長かった住人が英会話教室を開くと、これまで英語に縁のなかった住人も参加するようになった。

さまざまなイベントで住民の交流が活発になったことで、マンションの人気が高まり、なんと資産価値まで上がっているのだ。

空き家問題の解決にも~中古マンションが劇的に変わる

カンブリア宮殿,リノべる
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今、全国で空き家が増え続けている。その数1000万戸以上。高齢化や人口減少がさらに進み、15年後には、3戸に1戸が空き家や空き室になるという。特にマンションでは管理が行き届かなくなり、修繕も難しくなる。リノベるが手掛けるリノベーションは、空き家問題の解決につながると、注目されている。

東京・渋谷にあるリノベる本社。設立からまだ8年、約200人の社員の平均年齢は29歳と、若い会社だ。

通常リノベーションする場合、客は、不動産会社、設計会社、工務店、ローンを組む銀行と、それぞれ個別に交渉しなければならない。しかしリノベるはそれらを全てコーディネート。リノベーション工事のコーディネート料を収入源にするという、新しいビジネスモデルを作り上げたのだ。

「住みたい街」として大人気の東京・吉祥寺。ある客の希望は、駅から徒歩10分圏内。山下が、提携する不動産会社、惠桜不動産の舩江修さんおすすめの物件を見に行く。

そこは2LDKの中古マンション。窓の外には目の前に井の頭公園が広がり、立地としては最高だ。舩江さんから「築47年の物件です」と聞くと、山下は「いいですね」。

リノべるの扱う物件のほとんどは、築20年以上の中古物件だ。

「築47年もなってくると、これ以上資産価値が落ちないんです。今、販売されている金額からそう変わらない。建物の価値はほぼゼロになっていて、土地値だけの金額になっているので、買ってもあまり変動しないんです」(山下)

もちろん古ければいいというわけではない。管理状態の調査を徹底している。この物件も、内装はすでにリフォーム済みで何も問題なさそうだが、「表面だけのリフォームだと思う。天井の中の配線や、キッチンの下の配管は交換されていない可能性もある。表面だけだと、また住む中で修繕しなくてはいけないんです」(山下)という。

大事なのはマンション本体の健康状態。だからリノべるは、これまでの工事履歴や修繕金の積み立て状況など、詳細な資料を不動産会社に要求している。知識のない客に代わって、物件選びから厳しい目を向けているのだ。

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理想の我が家ができるまで~リノベーション業界をけん引

渋谷から一駅の場所にある世田谷区・池尻大橋。中山雄太さん、陽子さん夫妻は、築37年の中古マンションを購入した。現在の間取りは2DK。内装はすでにリフォーム済みだが、これを全部取っ払ってリノベーションするという。

「どっちかというと新築の方が良かったんですけど」(雄太さん)

「何軒かモデルルームに行ってみたんですけど、正直に言えば、モデルルームを見た感想は『無難』。やはり自分の家であるからこそ、自分らしくつくりたいというのが一番ですね」(陽子さん)

2人は共働き。雄太さんは運送会社のドライバーで、毎日汗だくで働いている。そこで陽子さんは、大量の洗濯物を干したり、畳んだりできる専用の部屋を希望していた。一方、雄太さんは、仕事の疲れをとるため、新しいお風呂を希望する。

物件が決まったら具体的な設計プランを作成する。リノベるには社内に設計デザイナーがいる。担当は平田航介。暮らしのイメージや希望を聞き取り、図面に落とし込んでいく。

中山さんのリノベーションの予算は900万円。だが見積りは1000万円をオーバーしていた。そこで平田は、すでに付いているユニットバスを残して、その分費用を削減することを提案した。だが、雄太さんにとって新しいお風呂はこだわっていたポイント。「できたら新しい方がいいかな……」と、遠慮がちだが、そこはゆずれない。

ご主人の意をくんだ陽子さんは、新しいお風呂にすることを決めた。リノべるは、その分、床や壁の材質を落として節約することを提案。細かい要望にも、とことん向き合う。

7月、中山さんのマンションで解体工事が始まった。

以前は狭い部屋とリビングが区切られていたが、壁を取り払って全体をひとつの広い空間にした。

奥さんの希望だった洗濯ルームは、クローゼットを取り払い、そこに洗面台を持ってきて広くなった。洗面台があったところには棚を置いた。そこで洗濯物をたたむ。その上には物干し竿も付けられる。

お風呂もご主人の希望通り、最新のものに。さらに、以前あった壁をぶち抜き、そのままキッチンへ抜けられるようにした。お風呂上がりのご主人に、すぐに料理を出したいという、奥さんの心遣いだ。

自分たちのしたい暮らしができる家を、中山さん夫妻は手に入れた。

「もう大満足です」(雄太さん)

「人を呼びたいと思ったことはないけれど、これなら見てもらいたい」(陽子さん)

価格は、このエリアの新築物件の3分の2程度に抑えられたという。

8年前、わずか数件のリノベーションからスタートしたリノベる。それが今や、年間600件近くに上る。売り上げも右肩上がりで、業界をけん引する存在になっている。

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「挫折の連続」が教えてくれた~リノベるができるまで

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山下の半生は、挫折の連続だった。1974年、奈良県生まれ。お手伝いさんが3人もいる裕福な家庭に育ったが、小学生のころ、最初の挫折が訪れる。父が事業に失敗し、両親が離婚。母や弟たちと、4畳半2間の小さなアパートで暮らすことになった。

「『恥ずかしいな、こんな家に住んでいるのが』という思いがずっとありました。もっと家に自信を持つというか、小さくても大きくても、『この家いいじゃん』と思えていたら、違っていたと思う」(山下)

高校大学はラグビーにのめり込んだ。100メートル11秒の俊足を買われ、実業団に入るが、レギュラーになれず、2度目の挫折を経験する。

会社を辞めた山下は、子供のころから持ち続けていた「家」への強い思いから、ゼネコンに入社。与えられた仕事は、いわゆる地上げだった。

当時、山下が担当したのは、古い団地の住人との立ち退き交渉。「建物は新しくなるし、町もきれいになる」と、山下は、地上げは良いことだと考えていた。実際、多くの住人は立ち退き料や新しいマンションの部屋が手に入ると喜び、交渉は順調に進んでいた。

だが、ただ一人、首を縦に振らない人がいた。一人暮らしの木村節子(仮名)さん。山下は、木村さんのもとに足しげく通った。

「どうしようかなと思いながら、僕はその方に寄り添って、本当のおばあちゃんの『なぜ』を聞き出そうと思った」(山下)

根気強く通い詰める山下に、木村さんは次第に心を開いていった。入れてもらった部屋には、そこで暮らした木村さんの人生があった。そこには孫の写真もあったが、聞けば、孫たちとは疎遠になっているという。そこで山下が、「最新の広いマンションになれば、お孫さんの部屋もできるし、絶対に喜びます」と言うと、木村さんは判を押した。

2年後、新しいマンションが完成した。以前の団地の住人は、新しい部屋になって喜んでいた。そこに木村節子さんの姿が。すっかり喜んでくれているものと思いこんでいた山下に、思いがけない言葉が返ってきた。

「あんたはあたしの人生を奪った。こんなの家じゃない。私の40年が全てどこかへ消えてしまった」

「おばあちゃんからすると、目の前に新しい鉄筋コンクリートの建物が建って、元々あった香りが何も残っていない。それを目の当たりにすると、やはり寂しさが、あふれ出てきたわけなんですよ。自分がやっていることは合っているのか、初めて迷いが生じてきた」(山下)

大きな挫折に打ちのめされた山下は、長期休暇を取って海外を放浪。そこで目にしたのは、人々が古い建物を、自分好みに改修し、大事に長く暮らす姿だった。

「ひとつの答えがこれだ、と思った。スクラップ&ビルドではなく、古いものを残しつつ、その一部分、必要な人の部分だけを、その方に合わせてつくり替えることが、たぶん一番幸せに近づく方法じゃないかと思ったわけです」(山下) 山下はゼネコンを辞め、設計や建築の基礎を学ぶ。そして2010年、リノベーションのコーディネートを専門とするリノベるを立ち上げた。

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本当の課題はどこに?~「客に寄り添う」営業

以来、山下は本当の意味で「客に寄り添う」ことの大切さを、社員たちに伝えてきた。 その最前線に立つのが営業だ。入社2年目の小野寺七海を訪ねた小川直人さん、幸恵さん夫妻。この日が3回目のカウンセリングだが、まだ購入を迷っていた。

「私はこのままお願いしたいと思っている。そもそもここに引っ張ってきたのは私なので」(幸恵さん)と、奥さんは乗り気だが、ご主人はまだ迷っている様子だ。

あまり語ることがなかった直人さん。小野寺はその本音を探ろうとする。

「ご主人様の中で、進める上でのご不安な点とかはありますか?」(小野寺)

「それはお金の面は心配ですけど」と言う直人さんだが、どうやら資金面以外にも、不安がありそうだ。小野寺は、直人さんの気持ちに寄り添う。

「少しでも頑張ってみたいと思っていただけるのであれば、全力でお手伝いします。そのうえで、やっぱり難しいというご判断ができれば、納得できると思うんです」(小野寺)

すると、直人さんから思いがけない本音がこぼれた。 「今、家がすごく汚いんですよ。結局いい家を買っても、そうなるなら意味がない」

「逆にリノベーションすると、お掃除はしやすくなると思います。今お持ちの物の“住所”を決めてあげられるので」(小野寺)

直人さんは、間取りや設備より、キレイに住み続けられるかどうかを気にしていたのだ。

「それが本当にできるなら、僕はそれで問題ない」(直人さん)

こうして、夫婦の間でも話すことがなかった本当の課題を引き出せた。

「詳しく説明してもらい、分かりやすかった」(直人さん)

「なかなか2人ではそこに気付けず、『何か乗り気じゃないな、でも私はお家、欲しいんだけど』という、ただそれだけで終わってしまいがちだったのですが、こうやって公的な場所でお話しすると、話が見えてきたなと思いました」(幸恵さん)

2人の本音を引き出した小野寺。1週間後、正式な申し込みをもらえたそうだ。

~村上龍の編集後記~

「リノべる」は、リノベーションによるオーダーメイド住宅をプロデュースする。徹底して客に寄り添う。ものすごい手間だと思う。

山下さんは、多くの失敗を経て「リノべる」にたどり着いた。「失敗は成功の元」などと言われるが、たいていは失敗者で終わる。「失敗ではなく、タックルで1回倒されたのと同じだと思った」。山下さんは、百メートルを11.0秒で走るラガーマンだった。倒されても、起き上がって走り続けた。また「今なぜ、タックルで倒されたのか」を、常に考え続けたはずだ。そういう人に限り、失敗は将来に活きる。

<出演者略歴>
山下智弘(やました・ともひろ)1974年、奈良県生まれ。近畿大学理工学部卒業後、リコーに入社するが、1年で退社。1998年、ゼネコンに入社。退社後、デザイン会社などを経て、2010年、リノべる設立。

放送はテレビ東京ビジネスオンデマンドで視聴できます。

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