百度、テンセント、シャオミ……すべて40代経営者が牽引

ハングリーな40代経営者,江口征男
(画像=The 21 online)

好調を維持する中国経済。その主役こそが「40代」の経営者たちだ。グローバルに活躍し続ける彼らの力の源はどこにあるのか。日本の40代と何が違うのか。自らも40歳を前にして中国でビジネスを始めた起業家にして、現代の中国事情を知り尽くした江口征男氏にご寄稿いただいた。

躍動する40代の中国人ビジネスマン

中国・上海に移住し、起業してから10年が過ぎました。この10年はまさに、日本と中国の立場が逆転していく過程を、肌で感じながら過ごした時間でした。

この間、日本経済はエスカレーターを緩やかに下り続けているようです。自信を持ち眼を輝かせている中国人が多い上海から出張で東京へ行くたびに、日本のどんよりとした暗い雰囲気を感じてしまいます。「明日は今日と同じなら御の字だ」という日本。「今日より明日のほうが良くなるはず」と誰もが考えている中国。なぜ、こんなに差がついてしまったのでしょうか。

日本を抜いてGDP世界2位へと飛躍した中国経済を牽引しているのは、中国が改革開放路線に舵を切ったときに成人を迎えた、1970年代生まれの40代ビジネスマンです。例を挙げれば、検索大手「百度」の李彦宏(49歳)、中国人のほとんどが利用しているSNSアプリ微信(WeChat)や、インスタントメッセンジャーQQで有名な騰訊(テンセント)の馬化騰(46歳)、中国のスティーブ・ジョブズと呼ばれる小米科技の雷軍(48歳)、中国のネットショップNo.2京東商城(JD)の劉強東(44歳)等、グローバルでも活躍する中国大手企業経営者の多くは40代です。

文革世代の60代、改革開放の40代、「一人っ子」の30代

では、中国における40代とはどのような世代なのか。日本ではよく「バブル前後」で世代が大きく変わると言われますが、変化がよりドラスティックな中国では、10年ごとに世代の断絶があると考えられています。

60代 文化大革命世代。大学に行くことすら叶わなかった。

50代 改革開放前の世代。自力で頑張っても報われるとは限らないため、とにかく節約節約で、贅沢はしない。

40代 改革開放の第一世代。まさに経済発展の波に乗ってきた世代であり、いい暮らしをしたい、家族にもさせたいという上昇志向が強い。

30代 一人っ子政策開始世代。稼いだものは全部自分のために使う。 

中でも一番大きな断絶は、30代と40代の間かもしれません。一人っ子政策の開始は1979年ですが、親と祖父母の「6つのポケット」で甘やかされて育てられた30代と、親から厳しく育てられた40代は大きく違います。

「チャンスを掴む」が成功への唯一の道だった

今の40代のハングリーさを支えているのは、一つにはこの時代背景です。これまで中国では、コツコツ頑張って仕事をして成功する……というキャリアモデルは存在していませんでした。最近でこそ外資系企業やIT企業では、経営幹部やエリート技術者に高い報酬を出す例も増えていますが、それもここ5~10年くらいの話です。

今の40代が育ってきた時代においては、「チャンスを逃さず掴む」のが成功を手にする唯一の方法でした。「これは儲かるかも」という話があれば、そこに全財産を投入する。株や不動産が上がるタイミングで一気に勝負をかける。ビジネスチャンスと見れば、政府へのコネをフルに動員して実現を図る……。

果敢にチャレンジして失敗するのは我慢できるけれど、目の前のチャンスをみすみす逃しては後悔してもしきれない、というのが彼らの基本的な考え方なのです。

その裏には、コツコツ頑張ったところでいつ政府の方針が変わり、努力が無駄になるかもしれないという恐れもあるでしょう。だからこそ、いち早く機会に飛びつき、早く稼いで利益を確定させようとするのです。

「会社一択の人生」はもはや通用しない

人に騙されたら「騙されたほうが頭が悪い」と言われ、政府も信用できず、自分の身は自分で守らねばならない中国。それを「民度が低い」「まだまだ発展途上」という言葉で片づけるのは簡単です。しかし、そんな中国、中国人のほうが元気があり、結果的にうまくいっているという現実から目を逸らしてはいけないと思います。

そして、今の日本もまた、中国同様に不安定でカオスな状況に陥りつつあるように見えます。たとえば、シャープ、東芝、神戸製鋼といった大企業が経営危機に陥るなど、10年前には信じられなかったでしょう。安定を求め大企業に入り、長年貢献してきたにもかかわらず、突然の経営危機により人生設計が狂ってしまった40代の同世代の日本人の話も聞きます。そのような不運な方の話を聞くと、確かに可哀想だと思います。

しかし、中国人と10年以上渡り合ってきた立場であえて書かせていただくと「考え方が甘い」と言わざるを得ません。なんとなく今の立場が危ういことに気づきながらも、「私に限ってそんな不幸は訪れない」と勝手に思い込み、会社頼みの一択を無意識のうちに選んでいたということだからです。

日本での副業ブームは悪いことではない

私は、日本人と中国人ビジネスマンとの一番の差は、「カオス環境でのサバイバル力」の違いだと考えています。

予測不能のカオスの環境で生き残るために重要なことは、常に「選択肢(オプション)を複数持つ」ということです。これがダメならプランB、プランCがあるという状況を常に作る。必ずしもこちらの想定通りにことが進むとは限らないカオスの世界では、一本足打法は致命的です。

多くの日本人ビジネスマンの「会社一択」の働き方は、そんな危険性を常にはらんでいるのです。自分の人生のハンドルは、他人や企業に任せるのではなく、自分自身で握るべきなのです。 

最近、日本でも「副業」という言葉が流行っているようです。中国人にとっては「何を今さら」という話でしょうが、いい傾向だと思います。もちろん、節度は必要ですが、自己責任で生きるのならば、副業を考えることは当たり前だからです。副業を禁ずる日本企業もまだまだ多いようですが、そもそも副業を禁止しないと人材を維持できないような会社であれば、将来はないと考えるべきでしょう。

40代からの挑戦は決して遅くない!

「毎朝、鏡に向かって『もし今日が人生最後の日だとしたら、今からやろうとしていることをしたいだろうか』と問いかけよう」……スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で行なった有名なスピーチの一節です。私はこのスピーチを聞いて勇気をもらい、30代後半で会社を辞め、中国に移住して起業しました。47歳になる今でもプレイングマネージャーとして中国各地を飛び周り、泥水をすすりながら、中国人社員とともに今日より幸せな明日を信じて、日々戦っています。毎日のように突発事件が起き気が休まる日はありませんが、自分自身で選んだ充実した日々を送っています。

時々日本に戻り、日本の友人と飲むことがあります。彼らの多くは快適な環境で生活し、私以上の年収を稼いでいる人も多い。ただ、なぜか彼らと会ってもワクワク感がありません。それは、過去の古き良き時代の話ばかりで、未来の夢の話や、現在いかに楽しく、充実した人生を過ごしているかの話で盛り上がることができないからです。

私自身もそうだったように、40代でもまだ人生の軌道修正は可能です。自分自身で取りつけた心のリミッターを外し、自分の心の声に従いましょう。人生は一度きりなのですから。

知っておきたい4人の40代中国人経営者

百度(バイドゥ)

李彦宏 Li Yanhong

1968年生まれ。山西省出身。北京大学卒業後に渡米し、コンピュータサイエンスの修士号を取得。インフォシーク等の企業でサーチエンジンの開発に携わる。その後、帰国し2000年に起業。検索エンジン「百度(バイドゥ)」のサービスをスタートさせ、中国最大の検索エンジンに育て上げる。現在ではその他さまざまなウェブサービスを展開している。

騰訊(テンセント)

馬化騰 Ma Huateng

1971年生まれ。広東省出身。98年にテンセントを創業。ウィーチャットやQQなどインターネット関連サービスを続々と展開。中でもウィーチャットは11億という膨大な数のユーザーを掴んでいる。また、売上高では世界最大のゲーム会社でもある。2017年には株価高騰により中国一の富豪になったことでも話題を集めた。

小米科技(シャオミ)

雷軍 Lei Jun

1969年生まれ。湖北省出身。若くして中国のIT企業の総経理(社長)として活躍後、2010年に小米(シャオミ)を創業しスマホを発売。短期間で中国でのシェア1位を獲得。現在では家電などへも進出。ジョブズに強い影響を受け、プレゼンのスタイルなどもそのまま踏襲していることから「中国のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれる。

京東商城(JD.com)

劉強東 Liu Qiangdong

1974年生まれ。江蘇省出身。98年、大学卒業の2年後に電子機器販売のビジネスを起業。2004年に正式にネット販売に進出すると、自社のネットモール「京東商城(JD.com)」をアリババの「タオバオ」に次ぐ中国No.2のシェアを誇るまでに成長させる。中国のEC市場は断トツの世界一であり、シェア2位とはいえ流通総額は膨大。

江口征男(えぐち・まさお)GML上海総経理
Tuck (Dartmouth) MBA。横浜国立大学大学院工学研究科修了。外資系経営コンサルティング会社、子供服アパレル会社を経て2007年より中国上海移住。現在上海にて経営コンサルティング会社2社(GML上海、Y&E)を経営。著書に『中国13億人を相手に商売する方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。中国ビジネスに関する講演、執筆多数。(『The 21 online』2018年1月号より)

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