530万部超の名著『道をひらく』を「紙1枚」書くだけで実践する方法

道をひらく,浅田すぐる
『-超訳より超実践-「紙1枚!」松下幸之助』PHP研究所 (画像=The 21 online)

今年で100周年を迎えたパナソニックの創業者・松下幸之助の代表作である『道をひらく』。累計530万部超の大ベストセラー・ロングセラーであり、今なお売れ続けている書籍のため、あなたも読んだことがあるかもしれません。ところが、その内容を「日々の仕事で実践できているか?」という問いを投げかけてみると、途端に多くの人が目を背けてしまいます……。

いったいなぜ、『道をひらく』をはじめとしたビジネス書の名著や、偉人の名言集・超訳本等を読んでも、ビジネスに役立てられないのか。

最新刊『-超訳より超実践-「紙1枚!」松下幸之助』の著者であり、新入社員の頃から松下幸之助の言葉を大切にし、仕事で実践してきた浅田すぐる氏は、「3つのキーワードを理解すれば、実践への道をひらくことは十分可能」と説きます。

成長とは、「〇〇」×「〇〇」で定義できる

まずは、3つのキーワードのうち2つをまとめて紹介します。いきなりですが、1つ質問をさせてください。「成長」とは何でしょうか?

『道をひらく』をはじめ、名著といわれる書籍にいくつも触れているような読者の方であれば、成長意欲は非常に高いはずです。ところが、いざ「成長とは?」と問われてしまうと答えに窮してしまう人は、思いのほか多いようです。あなただったら、どう答えますか。

これが唯一の正解というつもりは全くないのですが、私の見解はこうです。「成長とは、2種類の側面から成るものである」と。「2種類の側面」とはそれぞれ、「器」と「能力」をさします。「人間力」と「スキル」という表現の方が理解しやすいのであれば、こちらの言葉でも構いません。

たとえば、「あの人は、仕事は物凄くできるんだけど、人間的にはイマイチなんだよな……」、あるいは「あの人は、人間的には本当に魅力的なんだけど、いざ仕事を任せてみるとからっきしダメなんだよな……」といった言い回しにすれば、具体的なイメージがわくでしょうか。前者は「器<能力」、後者が「器>能力」という捉え方をしているわけです。

このように、人の成長は「人間力的な器の大きさ」と、「日々の業務を遂行する能力の高さ」という2つの側面から捉えてみると、シンプルでわかりやすくなります。

さて、あなたの日々の学習、とりわけ読書体験は、「器を広げる」系か「スキルを高める」系のどちらが多いでしょうか。

多くの読者が、どちらかの書籍ばかりを好んで読んでいるようです。「名言集や超訳本、偉人伝や評伝的なものが好き」という人は「器」偏重タイプ。「スキル本や実務本をノウハウコレクター的に読み漁ってしまう」タイプの方は、「能力」偏重の読書スタイルということになります。自身の本棚を見ながら、どちらに重心が傾いているか、この機会に向き合ってみてください。

本当にあなたの器は広がっているか?

さて、このフィルターで眺めてみると、『道をひらく』をはじめとした松下幸之助の一連の著作は、「器を大きくする」系の本ということになります。『道をひらく』を読んだ翌日に、仕事で作成する資料が急にわかりやすくなったり、いきなり会議の進行が改善できたりするわけではありません。こういう本は折に触れて何度も読み返す中で、漢方薬のようにじわりじわりとその哲学や世界観を染み込ませていく。そんな読書スタイルを基本としている方が大半だと思います。

ただ、本当にそうしたスタンスで、偉大な先人達の思考回路を自身にインストールすることができるのでしょうか。日々の仕事に活かすことができるのでしょうか。「折に触れて読み返す」と書きましたが、大半の読者は、1回読んで満足したらあとは本棚で眠らせているだけ……。これが実態だと思うのですが、いかがでしょうか。

3つめのキーワードは「〇〇化」

耳の痛い話を書いてしまいましたが、こうした課題を改善する方法はあります。

読み方自体を、根本から変えればいいのです。スキル系の書籍を読むときと同じようなスタンスで、こうした器系の著作にもアタックしていく。その際、重要となってくるキーワードが「動作化」です。

試しに1つ、松下幸之助の名言を紹介しましょう。以下を読んでみてください。

ひろい世間である。長い人生である。その世間、その人生には、困難なこと、難儀なこと、苦しいこと、つらいこと、いろいろとある。程度の差こそあれだれにでもある。自分だけではない。

そんなときに、どう考えるか、どう処置するか、それによって、その人の幸不幸、飛躍か後退かがきまるといえる。困ったことだ、どうしよう、どうしようもない、そう考え出せば、心が次第にせまくなり、せっかくの出る知恵も出なくなる。今まで楽々と考えておったことでも、それがなかなか思いつかなくなってくるのである。とどのつまりは、原因も責任もすべて他に転嫁して、不満で心が暗くなり、不平でわが身を傷つける。

断じて行なえば、鬼神でもこれを避けるという。困難を困難とせず、思いを新たに、決意をかたく歩めば、困難がかえって飛躍の土台石となるのである。要は考え方である。決意である。困っても困らないことである。

人間の心というものは、孫悟空の如意棒のように、まことに伸縮自在である。その自在な心で、困難なときにこそ、かえってみずからの夢を開拓するという力強い道を歩みたい。

『道をひらく』

この名言は、「困っても困らない」という松下幸之助の有名なフレーズです。その意味を超訳してしまえば、要するに「どんな時もポジティブフォーカスで捉えよう」ということなのですが、以降を読みながらぜひ考えてほしいことがあります。

たとえば、あなたと同じ職場で働く部下が、この名言に触れて「よし、自分もこれからもっとポジティブ思考になるぞ」と決意したとしましょう。翌日、あなたは部下からこんな相談を受けることになりました。「ポジティブフォーカスの重要性はわかったのですが、すいません、1つだけ教えてください。いったいどうすれば、ポジティブ思考になれるのでしょうか?」と。あなただったら、部下にどう実践的なアドバイスをしますか。ひとしきり考えてから、以降を読み進めていってください。

さて、いかがだったでしょうか。「そんなこと言われても……」とお手上げだった方。あるいは、「人に聞かずに自分で考えろ!」という具合に思考を放棄し、反射的に相手に丸投げしたくなった人もいるかもしれません。もし少しでも思い当たるところがあったのであれば、ぜひ以下の事実と向き合ってください。

あなたは名言や金言に触れても、それを実践できてはいないのではないでしょうか。残念ながら、今のままでは実際に器を広げていくことは難しいと言わざるを得ません。

「紙1枚」書くだけで超実践

行動に移せるよう「動作」に変換しましょう。正しいゴルフのスイングを身につけるように、ジムで効果的なトレーニング法を習うように、できるだけ「身体操作を介するカタチ」にして、名言の内容を実践していくのです。

そうすれば、自動車や自転車の運転のように、はじめは意識的にやっていても次第に無意識レベルで実践できるようになります。それこそがまさに、「名言が身についた状態」といえるのではないでしょうか。

それでは、今回のケースについて具体的なやり方を紹介します。はじめのうちはできるだけ毎日が良いのですが、夕方から夜にかけての時間帯に5分ほど時間を確保してください。併せて、1枚の紙と緑・青・赤3色のカラーペンを用意しましょう(ない場合は黒ペンで代用可)。

まずは、緑ペンで縦線・横線を引いて画像のように16個のフレームをつくってください。

道をひらく,浅田すぐる
(画像=The 21 online)

続いて、一番左上のフレーム内に、「今日の日付」と「どんな1日?」と書きます。

あとは3分ほど時間を確保し、今度は青ペンで実際にあったこと・やったことを残りのフレームに埋めながら記入していってください。

ここまで終わったら赤ペンを取り出し、「前向きに捉えられるものは?」と紙に問いかけ該当するものを丸で囲っていってください。はたして何個囲えるでしょうか……。

やることは以上です。拍子抜けするくらいシンプルだったと思いますが、これで「ポジティブ思考」を行動に移せる「動作レベル」で実践することができます。

はじめのうちは、書き出したことの半分も丸で囲めないかもしれません。ですが、継続的に取り組むことで、1つ、また1つと囲めるものが増えてくるはずです。

名言に触れてからこの動作を行うと?

もし、あまり変化を感じられないという場合は、ぜひ松下幸之助の一連の著作を読んでみてください。松下幸之助は「ポジティブフォーカスの達人」といえる人物です。幸之助の言葉に触れた直後にこのワークをやってもらえば、間違いなく普段とは異なる解釈や捉え方が見えてくるはずです。そうした日々の小さなビフォーアフターの積み重ねが、松下幸之助の思考回路を自身に馴染ませる具体的なアクションになってきます。

これまで、ビジネススキルを教える講師として7,000人以上の受講者の方々にお会いしてきましたが、この方法で「私はなんでもネガティブに捉えてしまうんです…」というお悩みを改善できたビジネスパーソンはたくさんいます。ぜひ気軽にトライしてみてください。

「名言集を読むだけ」という現実逃避

最後に。こうした方法を紹介した時、読者の感想は大きく2つに分かれます。一方は、「確かにこれなら実践できるな」と素直に捉え、淡々と行動にうつしてくれる人。もう一方は、変化から目を背ける人たちです。「くだらない」「こんな簡単なことで変わるわけがない」「自分には合わない」等々、感情的な言葉を並べて反発しますが、要するに「やらない」のです。

やってもいないのに、なぜ良し悪しが判断できるのでしょうか。なぜ他の人はこれで成功しているという事実があるのに、それを無視するのでしょうか。こうした矛盾にぜひ気づいてほしいですし、どうか変化することへの恐怖心や不安から逃げないでください。成長するために必要な行動から目を背けないでください。

名言集を読んで感動しているというのは、実は現実逃避をしているだけなのかもしれない。そのチェックポイントは、あなたが読後に成長し、成果を出し、現実を変えているかどうかです。

「器を広げる」タイプの著作ばかりを読んでいるビジネスパーソンが、今回の記事や私の著作を通じて、目を覚ましてくれることを切に願います。

浅田すぐる(あさだ・すぐる)”伝わるカイゼン”「1枚」ワークス(株)代表取締役
1982年、愛知県出身。トヨタ自動車〔株〕入社後、トヨタ独自の「1枚」仕事術を修得する。入社4年目の米国駐在中に一時休職したことをきっかけに、「1枚」による目標達成と時間短縮の両立を追求し、400時間超だった残業時間をゼロにまで減らす。その後、日本最大のビジネススクールであるグロービスへの転職を経て、2012年に独立。企業研修や個別コンサルティングなどを通じて、これまでのべ7,000名以上の受講者に指導を行なっている。著書に『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』『「いまの説明、わかりやすいね! 」と言われるコツ』(以上、サンマーク出版)、『-超訳より超実践- 「紙1枚!」松下幸之助』(PHP研究所)がある。(『The 21 online』2018年05月23日 公開)

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