3月15日に3回目となる米利上げが決定された。FOMCのメンバーの金利予想が2017年内3回で昨年12月と変わらなかった。イエレン議長は、ハト派イメージを強めて、トランプ政権が口を挟んでくる口実を与えない構えを採ったように見える。勇み足でドル高・円安が夏場に進む可能性はいくらか後退して、同時に秋以降の円高リスクも小さくなったと見ることが出来る。

FFレートは0.25%の引上げ

 FRBは3回目の利上げを実施した。これでFFレートは0.75%~1.00%となった。通常、ドルの金利が上昇すると、ドル高・円安になると直観する。しかし、市場心理がFRBの利上げペース加速の可能性を強く読みすぎていたせいか、ドル高・円安にはすぐに反応しなかった。2017年内の利上げ回数は、昨年12月の3回から変わらずの3回の予想が据え置かれた格好だ。目先の長期金利も低下方向へと動かされた。読み方は、2017年に入って物価上昇率が加速し始めたので、FRBは3月利上げをもって、6・9・12月と年4回のペースで小刻みに利上げをする方向へと切り替わるのではないかと事前に予想された。しかし、先々の利上げペースを12月と変えなかったことで、逆にハト派のイメージが強まって、ドル高が足踏みした。本当は、FRBが利上げのタイミングを前倒しして、以前よりも利上げ方向の姿勢を鮮明にしている。そうしたタカ派色が薄まった印象が隠されてしまった分、円安圧力は潜在的にはまだ強いと見ることができる。

確信犯的に物価上昇に鈍感

 通貨価値を決めるのは、長い目でみて実質金利だという考え方がある。単に物価が上昇するのでは、通貨価値は割安になる。そうではなく、物価上昇率を差し引いた実質金利で見て、長期的に息の長い利上げ継続が成り立っていることが、通貨価値を上げる。つまり、タカ派に傾かないことが、息の長い利上げ、すなわち金利正常化を実現してドル高基調を継続させるとみられる。今回、FRBはインフレペースの進み具合を慎重に考えたからこそ、利上げペースの増加をアピールせずに済ませた。インフレ・リスクに寛容であることが、利上げのアピールで景気加速を抑え込んでしまう弊害を後退させた。多くの人は、イエレン議長はまだ様子見をしていると理解するかもしれない。その点、筆者はイエレン議長らはより確信犯的にインフレ・リスクに鈍感な姿勢をみせていると感じる。

 少し経緯を振り返っておくと、1月の雇用統計が20万人を越えた(当時、22.7万人増)。その後、ハト派のブレイナード理事の利上げに前向きな姿勢が3月利上げを感じさせる。そして、2月の雇用統計が前月比23.5万人の雇用者増になったことで、6月に予想されていた利上げが3月で確定的となった(1月23.8万人増→2月23.5万人増)。メルクマールとして7~12万人増とされていたのが、2ヶ月連続での20万人超えとなった。時間当たり賃金も、前年比が3%近くまで高まってきて、インフレ加速の判断材料は次々に塗りつぶされてきたのである。

 ここまでインフレの可能性を見せられても、イエレン議長らは利上げペースの加速に動かない。これはハト派をアピールするトリックとも受け止められる。

 実は、筆者は年内利上げが9月、12月とさらに続くと、各種ローン金利が上がることで、さすがに米経済の成長ペースが鈍化するだろうとみていた。だから、3月利上げから夏場にかけてドル高・円安が進むが、年後半は成長予想が下振れして、ドル安・円高へと揺り戻しがあると予想していた。今回のFOMCの内容は、夏場にかけて円安が進まない分、年後半の円高(円安からの修正)も起こりにくいという見方に変わらざるを得なくなった。

政治との距離感

 3月利上げに前後して、為替レートの決定要因は、トランプ発言からFRBの政権運営へと移っている。筆者は、トランプ・リスクの後退は着実に進んでいるとみる。

 この経緯は、2018年2月に任期を控えているイエレン議長の再任はないとトランプ大統領(候補者の時点)が発言したことにある。トランプ大統領はドル高を好まず、利上げを進めるFRBに不満だった。現在は、こうした不穏当な発言はしなくなったが、暗黙のうちに利上げの効果は働いている。

 今回のFOMCの判断は、影でトランプ政権からの厳しい目が光っていると考えて観察すると、なるほどと思わせる。インフレ指標は以前よりも強めなのに、FRBは利上げを急ごうとしない。特に、イエレン議長はハト派的で冷静に見える。しかも、誰からも政治的圧力をかけられた風ではなく、独立性を感じさせる。その実、3月利上げをしているから引き締めているのは明らかだ。もしも、インフレ加速がさらに進めば、自由に引き締めに動けばよい。トランプ政権に口実を与えない構えで、目に見えない敵と戦っている。

 一方、トランプ政権はいよいよ景気刺激のための財政措置を具体的に立案しなくてはいけない。議会調整が難航して、事前の期待が逆に失望に繋がるリスクもある。これぞパフォーマンス政治の落とし穴である。

 従来、米国は財政拡張+金融引き締めのポリシーミックスで、金利上昇=ドル高だとみられてきた。しかし、財政政策への失望はドル安リスクを高める。日本にとっても、トランプリスクの波及が円高を通じてやってくる。そこに、ドル安歓迎のトランプ発言が加われば、2017年中の日本の成長シナリオも危うくなる。

 こうした背景を頭に入れると、FRBの政策が安定感を増したことは、景気支援をより強化して、ドル安リスクを後退させたとみることができる。肝心のリスクは、予想外に物価上昇が6月にかけて進んで、次回利上げを9月にして毎四半期の利上げ見通しに変えることである。しかし、このところ、原油価格は1バレル40ドル台に下落している。エネルギー要因の物価上昇圧力が減圧したことは、誠にラッキーである。

拮抗する力

 世界経済は未だ視界不良である。オランダの選挙が始まり、次にフランス大統領選挙がある。いずれも経済にマイナス圧力にならなければ良いと思われている。イギリスもEU離脱を月内に通知するとみられる。欧州の波乱はユーロ安・ドル高圧力である。米国には実勢とは異なる要因でドル高が進むと、トランプ大統領の牽制発言を誘発するのではないかと思わせる。

 その一方、ECBの政策は物価指標が上向いたことで、緩和に一段落の印象が強まる。これは、ユーロ高の作用だから、政治リスクに拮抗する作用とも理解できる。日本にとっては、当面世界経済の不透明感が続くので、円高にも円安にも大きくは動きにくい展開だと感じさせるだろう。

 2017年の夏頃は、いくつかの政治イベントがこなされていき、リスクが後退する。その頃には先進国の成長率はさらに上向いているだろうから、日米欧の金融政策はスタンスを再修正する機会が訪れる。年前半は政治イベントによって金融市場の不透明感が強まるとしても、年央にかけて景気と政策によって相場が動かされる方向へとシフトしていくという見方である。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生