定年前の「生前整理」で、人生をもっと充実させよう!
仕事が忙しく、家の片づけを後回しにしていたら、定年を迎える頃には積もりに積もったものに囲まれて手がつけられない……というケースが増えているという。人生100年時代と言われる昨今、定年後の暮らしを快適にするためには、その前から身の回りを片づけていくこと。そんな「生前整理」の秘訣を、数々の家の問題を見てきた古堅純子氏にうかがった。
片づけられない中高年その理由とは?
20年前から家事代行サービスの仕事を始め、これまでに2,000軒以上を訪問してきました。以前はごく一部の富裕層からの依頼が中心でしたが、最近は一般家庭から「家を片づけてほしい」という依頼が増えています。片づけられない人が増えている――これが長年この仕事に携わってきた私の実感です。
たとえば、ファッションが趣味の、定年退職したばかりのご主人がいるお宅では、スーツや普段着、小物が1部屋を占領し、衣装ケースが廊下まであふれていました。退職後、スーツはそれほど必要ないはずですが、手放すつもりはない様子。ものを残したまま次々と新しいものを買い足していく現代人特有の消費行動が、家の中にものがあふれる状況を生み出しているのです。
片づけられない人の特徴は、一つは、ものに執着する、あるいは“もったいない精神”が強いためにものを捨てられないことです。このタイプの人は、思い出の写真や読み終えた新聞・雑誌など、過去のものを後生大事に取っておくクセがあり、とくに中高年世代に顕著です。
もう一つは、深く考えずに買ってしまうこと。先ほどとは反対で、ものに対する思い入れが少ないために、なんとなく買って、なんとなく取っておく。これは若者によく見られる傾向です。
ものが増えすぎると、家の中が狭くなって居心地が悪くなるうえ、ものを動かして掃除するのが大変でホコリも溜まる一方。心身ともに悪影響です。さらに、片づけを後回しにする人は、ものに煩わされるだけでなく、人生における決断を後回しにするため、さまざまな問題を悪化させることにもなりかねません。
そもそも片づけとは、要るか要らないかを判断し、要らないものを処分していく行為で、決断の連続です。片づけられない人は、ものばかりか、家計や健康、親の介護問題といった目の前の問題も放置しようとします。ものとの向き合い方は、その人の生き方そのものでもあるのです。
定年後では遅い! 今すぐ生前整理を
家の中をスッキリさせて、生き方も変えるために私がお勧めしたいのは「生前整理」です。これは、終活の一環としてものを整理することではなく、これからの人生を快適に生きるための前向きなものです。
私が生前整理の講座をスタートした2008年頃は、団塊世代が大量に定年を迎えた時期だったので、「定年したら始める生前整理」を提唱していました。しかし今は、定年してからでは遅いと感じています。40代ではまだ自分の人生後半を想像できないかもしれませんが、50歳を過ぎた頃から自分の身体の変化や、親の異変、死の訪れなど、「家とものの整理の問題」が一気に現実味を帯びてきます。
現実から目を反らそうと片づけを先延ばしにしていると、体力や気力の低下から片づけをする意欲が出てこなくなるうえ、そのうち自分自身の病気のリスクも高まり、入院や最悪の場合は死によって家族に迷惑をかけないとも限りません。
また、「定年後、時間ができたら片づけよう」と思っていても、実際に時間ができたら別のことをやりたくなってしまうもの。生前整理は、「時間ができたら」ではなく、意志を持って「今すぐ」取り組むべき優先事項なのです。
では、具体的に何をすればいいかというと「ものの数をしぼる」ことだけです。大量のいただきものを押し入れの奥にしまい込んだり、「いつか着るかも」と服を大事に取っておいたりしていませんか? 日の目を見ないものは死んでいるも同然。ものを持つ基準は、「まだ使えるか、使えないか」ではなく、「それを使うか、使わないか」です。
生前整理は、クローゼットや納戸など、家の中の各所にしまわれているものを取りだして、「今、使うものか?」を考えることからスタートします。以下の「4つのステップ」を参考に、生前整理にチャレンジしてみてください。「仕事が忙しくてそんなことをしている時間がない」という人もいるかもしれません。でも、着なくなった服や靴、読まない本はリサイクルに出すなど、ちょっとしたことから始めれば大丈夫です。
生前整理の基本は、自分にとって居心地の良い空間を作ること。スッキリ片づいた空間は、身体を健康に保つだけでなく、心も健やかにしてくれます。
「生前整理」4つのステップ
STEP①ものをすべて出す
片づける場所を1カ所決め、中のものをすべて出す。たとえばクローゼットの中身をすべて外に出すと、いかにたくさんの洋服を持っていたかがわかるはず。その量を確認するだけでも、「片づけよう」という気持ちになる。このとき、出しすぎには要注意。その日のうちに片づけられる範囲に収めるように。
STEP②「今、使うもの」「今すぐ使わないもの」に分ける
出したものを「使用頻度」を基準に「今、使うもの」と「今すぐ使わないもの」に分ける。「今、使うもの」とは、1年以内に使うもの。これをさらに、普段よく使う「スタメン」、たまに使うものやストックなどの「控え」、1年に一度しか使わない「2軍」の3つに分類。次に、1年以内に使わないものや1年以上使わなかったものは、「今すぐ使わないもの」に分類する。これらは、プロ野球でたとえるなら「戦力外」。判断に困るものも戦力外に入れる。
STEP③「今すぐ使わないもの」を段ボールに入れる
段ボールなどを用意し、「今すぐ使わないもの」をその中に入れる。中身の内容と入れた日付を書いて、邪魔にならない場所に積み重ねておく。そして、もともと入っていた場所に「今、使うもの」だけを戻していく。「スタメン」は一番出し入れしやすい場所、「控え」はスタメンのそば、「2軍」は、収納場所の一番上や一番下など出し入れしにくい場所へ入れる。
STEP④「今すぐ使わないもの」は1年後に見直して手放す
STEP③から1年後、「今すぐ使わないもの」を入れた段ボールを開けて、中身を見直してみる。1年間、まったく使う機会がなかったものは、これからも使う機会はないと考えてよい。「処分してもいいな」と思えるはずだ。そのまま処分するか、業者に引き取ってもらおう。
「こんなものいらないんじゃない?」は禁句
もう一つ、早めに始めたいのが実家の片づけです。親が大量のものを残し、片づけに子供が苦労したり、遺品整理が原因で家族がもめたりする様子をたくさん見てきました。
親世代が片づけられないのは、ものが捨てられない“もったいない精神”に加えて、年齢も無関係ではありません。いくらきれい好きな人でも、高齢になるにつれ身体の自由が利かなくなったり、認知症などで不潔の概念が抜け落ちたりして、次第に掃除が行き届かなくなります。
また、高齢者の場合、「孤独」もものを増やす深刻な心理的要因です。誰ともコミュニケーションがない人は、寂しさを埋めるためにものを溜め込んでしまいます。今、社会問題となっているゴミ屋敷に、高齢者の一人暮らしが多いのもそれが理由ではないでしょうか。
実家の片づけは、親が元気なうちに始めるのが理想ですが、親に強制してはいけません。家の中のものはその人そのものでもあり、簡単には手放せないことを理解する必要があります。よく高齢の親に向かって「こんなものいらないんじゃない?」「こんなガラクタばかり溜め込んで!」などと非難したり、入院などで留守の間に勝手に処分したりする人がいます。それはその人を否定することと同じで、相手を頑なにさせるだけです。
ある一人暮らしの高齢女性は、大量の食器を大事に保管していました。おそらく娘さんのために料理をたくさん作ってあげたいのでしょう。「料理が好きなんですね」と私が言うと、とても嬉しそうでした。「でもこんなにお皿いる?」と聞くと、「そうね、もういらないわね」と自分で決められました。
どこかで片づけたい気持ちはあっても、片づけられないのは寂しいからです。話にきちんと耳を傾ければ、本人の心が満たされ、処分する決心がつきます。親子のコミュニケーションは簡単なようで難しいものですが、親の気持ちに寄り添って話を聞くことを心がけてください。
生前整理とは、「ものを捨てる」ことではなく、「これからの暮らしを快適にする」ためのポジティブな作業。ものを整理すれば生き方が変わります。人生百年時代を迎え、これから先も長い人生が待っています。その時間を幸せで快適なものにするためにも、早めに生前整理に取りかかりましょう。
古堅純子(ふるかた・じゅんこ)幸せ住空間セラピスト
1998年、老舗の家事代行サービスに入社。2,000 軒以上の家を訪れて整理収納のメソッドと技術を習得する。個人宅や企業の整理収納コンサルティング、収納サービスを提供するかたわら、大手住宅機器メーカーの収納開発に協力した実績もある。著書に、『定年前にはじめる生前整理 人生後半が変わる4ステップ』(講談社+α新書)など。≪取材・構成:前田はるみ≫(『The 21 online』2018年5月号より)
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