グローバル社会における現実を考え、それを巡る真実をつかみとるにあたって一つの大きなカギになるのがトランプ米大統領の言動である。これは一般に次のように考えられている。
●トランプ米大統領はそもそもビジネスパーソンとしてもユニークな人物であり、奇人変人である
●したがってその言動には何らの脈絡もなく、それらは思いつきによるものである
●したがってその一つ一つについて精緻に考えたり、分析をする必要は一切ない
これに対して弊研究所はこの様に考えるのは全くもって誤りであると、同大統領の就任直後から警戒を呼び掛けてきている。なぜか。その理由を述べるならばこうなる。
●トランプ米大統領が就任早々からスキャンダルまみれになっているのは、そもそも大統領選挙中に国内インテリジェンス機関のいくつか、とりわけ米中央情報局(CIA)及び国家安全保障局(NSA)との関係構築をし損ねたからである。例えばCIAがお家芸としている対露諜報活動の延長線上で起きているのが「ロシア・ゲート」なのだ。トランプ米大統領と国内インテリジェンス機関との間の激しい抗争が、こうしたスキャンダルとなって顕れているに過ぎない
●対外的には例えば中国との間で「貿易戦争」をけたたましく始めているのがトランプ政権である。これによってグローバル社会全体における自由貿易体制・多角的貿易体制が危機に瀕していることは事実であるが、米中があからさまに激突することにより、結果としてとりわけ金融マーケットでヴォラティリティーが創り出され、そこでの指標が揺さぶられ、大きく動いているのである。つまり、金融マーケットにおける変動の維持によって投資家たちに対して損益を与え、そこでのゲームの続きを可能にしているという見方も出来るのである
●またトランプ米大統領は米国内における温暖化効果ガスの削減努力に対して「NO」と言い、また北米自由貿易協定(NAFTA)に対しても再交渉をカナダ、メキシコに対して強要するなどしている。これはグローバリズムというこれまでの流れからすれば確かに脅威の様に見える。だが、「黒点数がゼロになる」という太陽活動の激変に起因する気候変動のもたらす冬季における寒冷化こそが、今後、北極圏と赤道直下を除く北半球で加速度的に生じる現象なのだとすれば、「ますます寒くなる生活環境の中で人類社会の経済活動は低迷する」という経験則に従う限り、今後恐れるべきは強烈なデフレとグローバル経済全体の縮小・不活性化なのである。そうである時、トランプ政権が「寒冷化するのだからむしろ温暖化効果ガスは出すべきだ」と誘導し、同時に「より被害が少ない南米地域をも巻き込む形でアメリカ大陸だけで外部とは遮断された経済圏を要塞のように作り直すべき」と画策するのは大いに理にかなっているのだ
そしてこの様に考える時、非常に気になるのがここに来て生じた「世界同時株安」、さらにはその引き金の一つとなったトランプ大統領による「FRB(米連邦準備制度理事会)による金利引き上げはけしからん」という旨の発言なのだ。後者の発言によってグローバル社会全体に対し米金利上昇が問題としてハイライトされたことは間違いない。そしてこの発言の背景にあるのは明らかに「民意によって選ばれた自分(トランプ)でもコントロールの利かないFRBなる存在が、個別には何の民主的な手続きを経ることなく金利を引き揚げ、結果として中小企業を痛めつけているのは大問題だ」というポピュリズム的な発想であることも疑う余地がないのだ。
トランプ大統領が属する共和党の劣勢が伝えられている米連邦議会中間選挙(11月6日実施)に向けた選挙パフォーマンスという見方は当然出来るだろう。だがこれまで見てきたとおり、トランプ大統領は「思い付きのツイート」を繰り返しているように見えて、その実、中長期的な国家戦略シナリオに則って発言し、行動しているというのが実態なのだ。そうである時、近視眼的なポピュリズムに便乗し、FRBにあからさまな形で喧嘩を売っているという考えることに死角はないだろうか。トランプ大統領の「真意」は全く別のところにあると考えるべきではないか。 こう考えた時、現段階で思いつくのは「このまま金利引き上げをFRBが強行し続ける結果、その前に全世界的に行われた来た史上空前の量的緩和を通じたマネー・フローが盛大に反転し、グローバル経済システムそのものが破綻する勢いになった時、その責任を誰がとるのか」という問いかけなのだ。その時、トランプ大統領は間違いなくFRBを糾弾するであろう。いや、それを越えて中央銀行という制度そのものを激しく糾弾し、怒れる民衆たちと共にそれを徹底して破壊する可能性すらあるのである。
だがしかし、滑稽で傍若無人な様に見えてしまうトランプ大統領の背後には強烈かつ一貫した「意図」を感じるのである。それが一体誰の意図であり、私たち日本人を筆頭にグローバル社会全体をどこに誘おうとしているのか。―――これこそが同大統領による連日のツイートを分析する際の死角を埋めるために忘れてはならない問いかけなのである。
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株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
原田武夫 (はらだ・たけお)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役 (CEO)。社会活動家。
1993年東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省入省。アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に2005年3月自主退職。2007年4月同研究所を設立登記、代表取締役に就任。多数の国際会議にパネリストとして招かれる。2017年5月よりICC(国際商業会議所) G20 CEO Advisory Groupメンバー。「Pax Japonica」(Lid Publishing)など日独英で著書・翻訳書多数。