要旨

● 景気の転換点は、景気動向指数の一致DIを加工したヒストリカルDIが50%を切る前月である。ヒストリカルDIはブライボッシャン法で決められるが、山谷の全貌を見定める際に7カ月先までのデータが必要になるため、直近の転換点が認定されるまでに1年以上かかる。

● 簡便的に景気の転換点を判断するため以前からよく使われていた3カ月連続基準は、景気の転換点にはならないのに3カ月連続でDIが50%を切るところがかなりあり、景気の転換点の精度は高くない。

● そこで考えたのが、一致DIが3カ月連続で50%を上回ったり下回ったりしたタイミングで時系列分析のARIMAモデルを使って先を予測し、それでヒストリカルDIを推定することで景気の転換点を早期発見するもの。

● 本手法は、3カ月連続基準で誤った山の推定を犯さない可能性が高いことが実証できる。また本手法を使うと、景気の山が平均で6.5カ月早くわかる。谷の場合はさらに平均で見ても12.5カ月早くわかり、谷の速報性が優れている。

● ARIMAモデルを使ってヒストリカルDIを推定することで、景気基準日付の早期の把握ができる。景気の転換点についても、ARIMAモデルを使い、速報値という形で早期に出していければ、転換点の注目度が高まる。

(注)本稿は2015年度景気循環学会中原奨励賞記念講演の内容を基に作成。

遅い景気の転換点認定

 筆者はこれまで景気転換点の早期化についていくつかの研究をしてきたが、今回、ARIMAモデルを使った転換点の速報化の研究と三面等価の原則に基づいた先行CIの開発について紹介する。

 まず、ARIMAモデルを使った転換点の早期化について説明する。これは景気循環学会副会長の池田氏からアイデアをいただき、実際にトライしてみたところ、有意な結果が出たので、論文にまとめたものである。そもそも問題意識としては、景気の転換点が実際に転換したときから認定されるまで1年以上遅れて発表されるということであり、これを何とか早期化したいというのが出発点である。

 景気の転換点は、景気動向指数の一致DIを加工したヒストリカルDIが50%を切る前月である。ヒストリカルDIは、ブライボッシャン法で決められる。ブライボッシャン法は3種類の移動平均をかけて転換点を決めるが、山谷の全貌を見定める際に7カ月先までのデータが必要になるため、直近の転換点が認定されるまでに1年以上かかる。例えば、景気の転換点で2011年の山が認定されたのが1年1カ月先、2002年の谷は1年5カ月先というように非常に時間がかかる。

景気転換点の早期発見に向けて(1/2)
(画像=第一生命経済研究所)

 そこで、簡便的に景気の転換点を判断するため以前からよく使われていたのが、3カ月連続基準である。例えばDIであれば、3カ月連続でDIが50%を切ったら、その前の月が景気の山、3カ月連続で50%を上回ったら、その前月が景気の谷とする。しかし、3カ月連続基準で判定すると、景気の転換点にはならないのに3カ月連続でDIが50%を切るところがかなりあり、3カ月連続基準で判定すると景気の転換点の精度は高くない。

景気転換点の早期発見に向けて(1/2)
(画像=第一生命経済研究所)

ARIMAモデルで転換点早期発見

 そこで筆者が考えたのが、一致DIが3カ月連続で50%を上回ったり下回ったりしたタイミングで、時系列分析のARIMAモデルを使って先を予測し、それでヒストリカルDIを推定することで景気の転換点を早期発見しようというものである。これは例えば、GDPの1次速報においては、民間在庫は法人企業統計が発表される前であり、ARIMAモデルで仮置きがされているが、それと同じような考え方である。

 実際に過去のデータを用いて検証してみた。一致DIは2007年1~3月にかけて3カ月連続で50%を下回ったことから、単純な3カ月連続基準だと2006年12月に景気が山を迎えた可能性があったが、本手法で判断すると、推定したヒストリカルDIは50%を切らず、景気後退局面入りしていないことがわかる。

 また、2004年9~11月にかけても一致DIが3カ月連続で50%割れしたが、実際には景気の山は認定されなかった。そこで本手法により当時のデータを用いて判断すると、推定したヒストリカルDIは50%を切らず、景気が山を迎えていないということが2005年1月の時点で判断できる。

 以上から、本手法は、3カ月連続基準で誤った山の推定を犯さない可能性が高いことが実証できる。

景気転換点の早期発見に向けて(1/2)
(画像=第一生命経済研究所)

景気基準日付の速報化を

 「景気基準日付の発表期に対する速報性」の表で、山の場合の第12循環を見ると、景気基準日付では1997年5月と発表されたのが1998年6月で、1年強かかっているが、ARIMAモデルを使い推定ヒストリカルDIで認定すると、1997年12月に確認できる。つまり、6カ月早く確認できることになる。同じように第13循環の2000年11月と発表された景気基準日付は、発表期は2001年12月で、1年強遅れたが、本手法を使うと、2001年5月時点で景気の山が認定できる。これも7カ月早く確認できことになる。平均で見ても6.5カ月早くわかることになる。

 谷の場合は、さらに速報性が高い。12循環の1999年1月の谷が発表されたのが2000年6月だが、本手法で計算すると1999年5月に確認でき、実際の発表から13カ月も早くわかる。13循環については、2002年1月の谷が実際に認定されたのは2003年6月であるが、本手法で行うと2002年6月に確認できる。つまり12カ月も早くわかり、平均で見ても12.5カ月早くわかる。つまり、谷の速報性が優れているという結果となる。

 このようにARIMAモデルを使ってヒストリカルDIを推定することで、景気基準日付の早期の把握ができる。例えばGDPについても、1次速報、2次速報が出るが、それはあくまで推計値であって、年末にまったく違う手法で計算されて確報値が出てくるわけで、景気の転換点についても、ARIMAモデルを使い、速報値という形で早期に出していければ、転換点の注目度が高まるのではないかと筆者は考えている。(提供:第一生命経済研究所

景気転換点の早期発見に向けて(1/2)
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣