要旨

●賃金構造基本統計調査によれば、2015 年の女性の賃金水準は男性の72.2 となり、前年から差は縮まらなかった。女性の管理職比率は8.7%と過去最高を更新したものの、取り組み強化による改善ペース加速が期待される中、むしろ改善ペースはこれまでよりも小幅鈍化する期待はずれの結果となった。

●賞与については男女間の格差が所定内賃金よりも大きく、もっとも格差が広がる50 代前半においては女性の賞与は男性の半分弱に留まっている。また、業績が改善するほど業績連動度の高い上位役職者の賞与が改善することになり、管理職比率の低い女性の賃金回復が男性に遅れることになる。

●4月から施行された女性活躍推進法を受けて、各社女性活躍に向けた数値目標や行動計画を公表することになり、すでに2,000 社近くの取り組みが公表されている。内容をみると、女性管理職比率上昇を目標とし、女性採用や管理職への積極登用を掲げる企業が目立つ。

●労働力不足が指摘される中、公平な労働市場の形成は不可欠であり、そのひとつの指標として男女間の賃金格差の縮小や女性管理職比率の上昇は重要である。しかし、経済の好循環を支える家計を築くためには、より広い層への教育訓練機会の付与により、個々の生産性が上昇し安定的な賃金上昇が見込める社会の実現が必要だ。今後、管理職登用に限らず、広く女性の活躍を推進するような取組計画が増えることが期待される。

賃金格差縮小が足踏み

 平成27 年賃金構造基本統計調査が公表された。調査結果によれば、従業員10 人以上の企業における女性一般労働者の所定内給与は、男性を100 とした時に72.2 となり、前年から変わらず、ここのところ進んでいた男女間の賃金格差の縮小が一服した(図表1)。一方で、職階別データのある従業員100 人以上企業における女性一般労働者の所定内給与は、男性を100 とした場合に73.9 と昨年(74.5)から格差が拡大する結果となった。

縮小止まる男女間賃金格差
(画像=第一生命経済研究所)

 項目別に賃金格差の要因をみていくと、職階による格差や労働時間による格差が拡大している(図表2)。足元で女性の労働市場参加やパート労働者などの正社員登用が進んだことで、労働時間が少なく、非役職の労働者が増えたことが影響したとみられる。

縮小止まる男女間賃金格差
(画像=第一生命経済研究所)

 管理職比率をみると、2015 年の課長以上役職者に占める女性の割合は8.7%と前年(8.3%)から上昇した。ただし、昨今の取り組み強化により改善ペース加速が期待される中、むしろそのペースは小幅鈍化している。2012 年のアベノミクス以降でみると、係長以上で13 年が前年比+0.9%pt、14 年が同+0.8%pt と改善した後、15 年は同+0.6%pt に鈍化、課長以上で見れば13 年が同+0.6%pt、14 年が同+0.8%pt ときて、15 年は同+0.4%pt に鈍化しており、期待はずれの結果だった。管理職数の伸びで言えば、足元でも引き続き前年比10%近い伸びで女性管理職数は伸びているものの、男性も管理職数が増加したため、占率で言えば伸びが鈍化したようだ。

女性管理職比率伸び悩みで広がる格差

 以上は所定内給与についてみたものであり、賞与を含めた年収ベースで見ると男女間格差はさらに拡大する。もっとも格差が拡大する50~54 歳における女性一般労働者の所定内給与は、男性を100 とした時に62.0 と6割強の水準である(図表4)。一方で、同時期の女性の賞与は男性を100 としたときに49.0 と半分以下の水準だ(図表5)。仮に年収を(所定内給与+所定外給与)×12+年間賞与とすれば、女性一般労働者の年収は男性を100 とすると68.1 の水準に留まっており、前述の所定内給与の格差よりも4pt 近く拡大することになる(平成27 年賃金構造基本統計調査における所定内給与は平成27 年6 月時点のものである一方で、年間賞与については平成26年1 月から12 月の1年間の賞与合計と両者の調査時期は厳密には1 年ずれている)。

縮小止まる男女間賃金格差
(画像=第一生命経済研究所)

 男女間の賞与格差が大きい背景には、女性管理職比率の低さが挙げられる。一般に、役職が上がるほど経営責任を担うこととなる。賞与の業績連動性が増す中、より上位の役職者ほど年収に占める賞与の割合が高くなる。

 年間賞与が所定内給与の何ヶ月分に相当するかをみた図表6をみても、非役職と係長以上の差は縮小しつつも、依然として1ヶ月分近い差がある。賞与の差は、所定内給与の差に、支払い月数の差が加わるため、所定内給与以上に賞与では職階による格差が大きくなるのである。

縮小止まる男女間賃金格差
(画像=第一生命経済研究所)

 また、より上位の職階になるにつれ、景気、企業業績との感応度が高くなり、好況期と不況期の差が大きくなる傾向にある。そのため、近年の円安、原油安に伴う企業業績改善の恩恵は、上位役職者に大きく分配されることになり、結果として役職比率の低い女性の年収改善が男性に劣ることになった。このように、男女間の賃金格差縮小を目指す上では、管理職比率の上昇が不可欠である。

女性活躍推進法スタート

 こうした中、4月1日より、女性が職業生活において、その希望に応じて十分に能力を発揮し、活躍できる環境を整備することを目的とした女性活躍推進法が施行された。同法により、301 人以上の企業に自社の女性活躍状況の把握、および行動計画の作成、開示が義務付けられている。厚生労働省の掲げる取組分野事例候補は図表7の通りとなっている。厚生労働省のデータベースには、すでに2,000 社近くものデータや行動計画が公開されている。

縮小止まる男女間賃金格差
(画像=第一生命経済研究所)

 ここで、厚生労働省に行動計画を掲載している従業員5,000 人以上規模の企業88 社について、行動計画の内容を概観してみたい。図表8における取組分野の各キーワードが各社の計画に含まれる回数をみると、採用95 回、登用67 件、育成119 件などが多くの企業で行動計画に取り入れられているようだ。実際に、各社の目標をみても、数値化しやすいということもあり、女性管理職比率を目標に挙げる企業が目立つ。管理職比率引き上げに向け、女性の採用を増やし、育成し、管理職に登用していくというのが、一番多い計画になっている。(図表8)。女性管理職比率について、年限を区切って、目標数値を掲げる企業が目立ち、各社ともかなり力を入れようとしている姿がうかがえる。目標が実現すれば、女性管理職比率は今後5年を目処にかなり高まるものと期待でき、前述のような男女間賃金格差の縮小が進むだろう。

縮小止まる男女間賃金格差
(画像=第一生命経済研究所)

 一方で、気になるのが男性も含めた長時間労働の是正を掲げた企業が意外と少ないこと、非正規から正規への転換や再雇用制度など非正規社員への門戸が意外と開かなかったことである。労働力不足が指摘される中、公平な労働市場の形成は不可欠であり、そのひとつの指標として男女間の賃金格差の縮小や女性管理職比率の上昇はもちろん重要である。実際に管理職比率が上昇すれば、所定内賃金だけでなく、賞与を含めた年収ベースでも賃金差は大幅に縮小することが見込まれる。しかし、先行きも労働力不足が懸念される中、より重要なことは誰もが望むだけ働け、自身のもつ能力を最大限生かせるような社会を築くことである。そうした社会の実現が、男女問わず持続的に生産性が上昇し、賃金が上昇することにつながり、経済の好循環を支える家計を築くことになるだろう。

 そうした観点からすれば、今回の行動計画はやや女性管理職比率上昇に傾き過ぎているように思われる。本来の女性活躍推進法の目的に立ち返り、新卒に偏らないより広い採用機会の確保、非正規も含めた教育訓練機会の付与など、より幅広い視野での女性活躍に向けた取り組みが強化され、推進されることが期待される。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 主任エコノミスト 柵山 順子