地方の高齢低所得世帯の負担軽減効果大も、個人消費への恩恵は限定的か

要旨

● 電気料金の価格は東日本大震災を経て急激に上昇しており、電気料金が家計支出に占める割合も拡大傾向にあったことがわかる。

● 総務省の家計調査を用いて、2014年の消費支出に占める電気料金の割合を算出すると、世帯主の年齢階層が高いほど電気代の割合が高く、電気料金値下げの恩恵を受けやすいことになる。

● 年収階層別でみると、年収600万円未満世帯で電気代割合が平均を上回る。

● 地域別に比較すると、一人当たり利用額では北陸・四国、消費支出に占める割合では沖縄・東北の利用が高い。電気料金が引き下げられれば、特に地方の高齢者世帯や低所得者層世帯への恩恵がより大きくなる可能性が高い。

● 2014年の総務省家計調査を用いた試算では、一人当たり年平均47,163円を電気代に費やしている。これは、仮に電気代が5%安くなると国民一人当たり2,358円の負担軽減につながるため、家計全体では3,018億円程度の負担軽減になる。

● 内閣府の最新マクロモデルの乗数を用いて、電気料金が5%引き下げられた場合の効果を試算すると、個人消費の+0.03%押し上げを通じて経済成長率を+0.02%ポイント押し上げる。

● 2014年平均の総務省家計調査を用いて世帯主の年齢階層別の負担軽減額を算出すると、世帯主の年齢が20代の世帯では5000円/年を下回るも、世帯主が40代以降になるとその額が6000円を上回る。世帯の年収階層別では、年収が1000万円以上の世帯では8000円を上回る、年収200万円未満ではその額が5,000円を下回ることになる。

はじめに

 4月の電力小売り自由化に向けて、新規電力事業者が顧客の獲得へ動いている。自社商品とのセット割引や独自の販売網を活かし、電力大手のシェアを奪おうとしており、自由化で新たに生まれる年8兆円の市場を巡る争いが激化している。実際、総務省の統計によれば、電気料金の価格が東日本大震災を経て急激に上昇しており、電気料金が家計支出に占める割合も拡大傾向にあったことがわかる。

電力小売り自由化のマクロ的影響
(画像=第一生命経済研究所)

地方の高齢低所得世帯に恩恵大

 まず、電気は生活必需となるため、これが引き下げられれば低所得世帯により恩恵が及ぶ可能性がある。また一方で、外出の頻度が低い傾向があるため、相対的に高齢層の負担軽減効果が高い可能性がある。

 実際、総務省の家計調査を用いて、二人以上の世帯主の年齢階層別と年収階層別に分け、2014年の消費支出に占める電気料金の割合を算出した。結果は、世帯主の年齢階層が高いほど電気代の割合が高く、電気料金値下げの恩恵を受けやすいということになる。

電力小売り自由化のマクロ的影響
(画像=第一生命経済研究所)

 また、年収階層別でみると、年収600万円未満世帯で電気代割合が平均を上回る。なお、地域別に比較すると、一人当たり利用額で見ると北陸・四国、消費支出に占める割合でみると沖縄・東北の利用が高いことがわかる。

 従って、電気料金が引き下げられれば、特に地方の高齢者世帯や低所得者層世帯への恩恵がより大きくなる可能性が高い。

電力小売り自由化のマクロ的影響
(画像=第一生命経済研究所)
電力小売り自由化のマクロ的影響
(画像=第一生命経済研究所)

料金5%引き下げで個人消費+0.03%押し上げ

 一方、2014年の総務省家計調査を用いた試算では、一人当たり年平均47,163円を電気代に費やしていることになる。これは、仮に電気代が5%安くなると国民一人当たり2,358円の負担軽減につながるため、家計全体では3,018億円程度の負担軽減になることを示唆している。

 そこで、内閣府の最新マクロモデルの乗数を用いて、電気料金が仮に5%引き下げられた場合の効果を試算すると、個人消費の+0.03%押し上げを通じて経済成長率を+0.02%ポイント押し上げることになる。

電力小売り自由化のマクロ的影響
(画像=第一生命経済研究所)

 また、2014年平均の総務省家計調査を用いて世帯主の年齢階層別の負担軽減額を算出すると、世帯主の年齢が20代の世帯では5000円/年を下回るも、世帯主が40代以降になるとその額が6000円を上回る。同様に、世帯の年収階層別では、年収が1000万円以上の世帯では8000円を上回る、年収200万円未満ではその額が5,000円を下回ることになる。(提供:第一生命経済研究所

電力小売り自由化のマクロ的影響
(画像=第一生命経済研究所)
電力小売り自由化のマクロ的影響
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣