「限定正社員」という働き方

 政府は今、長時間労働の是正、有給休暇の取得促進等の働き方改革により、働く人々が健康を保ちながら、多様な働き方を選択できる社会の実現を目指している。

 多様な働き方の一つに「限定正社員」がある(図表1)。それは、労働時間、勤務地、職務などが限定されている働き方の正社員であり、大企業中心に広がりを見せている。労働時間限定正社員は、フルタイムの正社員に比べて短い所定労働時間あるいは労働日数で働く正社員であり、短時間正社員とも呼ばれる。勤務地限定正社員は、住んでいる地域から通勤することが可能な勤務地に限定して働く正社員のことであり、転居の伴う転勤も制限されている。職務限定正社員は、職務が変わらない働き方をする正社員であり、専門性の高いキャリア形成が期待できる。

「限定正社員」という働き方の導入効果
(画像=第一生命経済研究所)

 これからの人生100年時代は、長く働くことで生計を維持しなければならない人が多くなるとされている。そのため、どのような職業生活を送るのかを働く人一人ひとりが主体的に考えて働くことも必要とされる。「限定正社員」は通常の正社員と同様、無期雇用でありながら、自らが望むライフスタイルやキャリア形成に応じて、働く時間や働く場所、仕事内容を主体的に選択できる働き方として注目されている。

限定正社員の導入効果

 こうした限定正社員という働き方を導入したことで、企業はどのような効果を実感しているだろうか。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」(2018年9月)によると、「人材の定着率が高まった」「社員のワーク・ライフ・バランスが向上した」「人材の採用がしやすくなった」の回答割合が約半数を占めており、社員のワーク・ライフ・バランスや人材の確保面で効果を感じている企業が多いことがわかる(図表2)。社員のモチベーションや労働生産性、専門性の向上に効果があったとする企業も約3割である。

 限定正社員という働き方を導入し、社員のワーク・ライフ・バランスに配慮することが、安定的な人材の確保や労働生産性の向上につながることを実感している企業が少なくないようだ。

「限定正社員」という働き方の導入効果
(画像=第一生命経済研究所より)

限定正社員の課題

 前述の調査によれば、限定正社員として働いている人の多くは納得感をもって働いており、いわゆる正社員と就労状況・処遇・昇進を比較して不満を感じたことがあると回答した限定正社員は約3割であった(図表省略)。

 不満がある人は、どのようなことを不満に感じているのか。不満の内容をみると、「不合理な賃金差がある」「共有がしっかりとなされない情報が多い」「不合理な昇進スピードの差がある」「労働時間と比較して、業務量が過大になった」などが多い(図表3)。賃金や昇進といった処遇面での適正さに加え、情報共有や、労働時間と業務量とのバランス確保といったマネジメント上の課題も指摘されている。

「限定正社員」という働き方の導入効果
(画像=第一生命経済研究所より)

 限定正社員は、労働者からみれば、自分のライフスタイルに合わせて柔軟性の高い働き方を実現できるものである。こうしたメリットを享受できることもあり、限定正社員として働いている人の多くは、処遇や昇進面で不満をあまり感じることなく働いているようだ。

 他方、不満に思っている人もおり、その内容から、限定正社員と企業(マネジメント)側との丁寧なコミュニケーションが課題であることがうかがえる。働き方に合わせた業務内容や業務量の合意、またその対価として、明確な評価基準をもとにした処遇が得られるように、相互にコミュニケーションを図ることが必要である。もちろん、こうしたことは、限定正社員にのみあてはまることではない。一般の正社員における処遇についても同様である。多様な働き方を可能とする限定正社員における課題を克服することが、人生100年時代に生きる多くの人々の働き方改革にもつながるものと思われる。

主席研究員 的場 康子
(ライフデザイン研究部 まとば やすこ)