今月半ばに発生した「世界同時株安」からややあって、今、「結局のところ金融マーケットは元通りになるのではないか」という根拠の無い楽観論が再び首をもたげ始めているように感じる。かつて「今回だけは違う(This time is different.)」と喝破した経済学者がアメリカにいたが、結局のところ「今回もそうだった」、すなわち小康状態を取り戻したではないかというのである。その結果、若干のくすぶりは残りつつも、結局のところ、マーケットでは多くのプレイヤーたちがあたかも「何も起きなかった」かの様に動きつつあるようにも見える。

だが、実際には違うのである。マーケットにおいては機関投資家と個人投資家が存在している。両者はその資金量において圧倒的な差がある。だがそれ以上に両者を隔てているのは情報量なのである。当たり前のことの様に聞こえるかもしれないが、この差は余りにも圧倒的なのだ。

「インターネットがこれだけ普及しているご時世にそうした意味での情報格差は本当に意味があるのか」

第3回
(画像=ZUU online)

読者はそう思われるに違いない。むろん、インターネット上に大量に流れる公開情報、すなわち「無料で誰でもアクセスが可能な情報」は数限りなく、無限に近い。だが、それらはいずれも単なる事実の叙述である「インフォメーション」や生の「データ」に過ぎないのである。それらが担っている意味を取り出す、すなわち「インテリジェンス」を読み取ることが不可欠なのであるが、これを行うための方法論が未だに確立していないのが実態なのである。驚くことなかれ、これはかの「アメリカ中央情報局(CIA)」など世界有数のインテリジェンス機関や、名だたるグローバル・カンパニーにおいても事情は同じなのだ。

そしてこうした公開情報の読み方と合わせ、問題となってくるのが統計分析・数量分析なのである。ここ最近、データ・サイエンティストなる職種がもてはやされたことがあった。「データ・サイエンティストこそが世界を制する」とまで言われたが、どういうわけか下火になっている。なぜならば統計学上の手法の卓越した持ち主であっても、上記の様な公開情報や公開データを巡る「インテリジェンスの壁」を乗り越えることは容易ではないからである。つまり、「統計学上の計算である解が出た」としても、結局それがどんな意味を持っているのかを解釈するのはヒトであり、そのヒトにある種の能力、あるいはセンスが備わっていない限り、そこでひらめきを得ることはほぼ不可能なのである。

しかもこれは今圧倒的な勢いで世界を席巻している「デジタルの渦」とは真逆であることも指摘しておかなければならない。この意味での「ひらめき」を得ることが出来るのは唯一、ヒトの脳の中においてだからだ。そしてヒトの脳の中にはさまざまな「遊び」がある。つまり「オン・オフ」の二進法ではないのである。すなわちアナログそのものなわけであるが、その「アナログの最先端」こそがここでいう「ひらめき」をもたらす原理を巡る探求なのである。世間では今、とりわけ我が国において、「デジタル」であり、「AI(人工知能)」であると騒がれている。だが海の向こうの最先端の知の世界においては、もはやIoTといった情報収集の徹底は終わっており、そこからどの様な意味=インテリジェンスを読み取るのか、さらにはそれを読み取る能力や仕組みは一体何であるのかについてこそ、探求が行われているのである。だが例によって一周遅れの我が国においてはそうした実態が語られることはまずなく、現在に至っているというわけなのだ。

「ヒトにひらめきをもたらすカギはどこにあるのか」

何を隠そう、このことについて探求しているのが弊研究所なのである。具体的な手法としては二つのやり方を用いている。一つは「定量分析」である。最新鋭のアルゴリズムに基づいた確率分析に基づき、近未来のトレンド分析をアライアンス・パートナーと共に行っている。そしてもう一つが「定性分析」である。世界中の公開情報上で流される「文脈(narrative)」を読み解き、その背後にあって実質的な意図を想定し、それを前提にしながら予測分析シナリオを半年に一度作成し、公表している。定性分析は古代から現代に至るまで幅広い本当の歴史認識と、それを貫く「フラクタル(冪(べき))」の把握に基づいて行っている。我が国においては全く馴染みが無いことの様に見えるかもしれないが、実はこれこそ世界の最先端の一つ、「アナログ」の最前線なのである。

「肉食獣ではないウサギであっても身を守るための大きな耳が必要であるように、我が国においてもその意味におけるインテリジェンス機関が必要だ」

そう語ったのはかつて我が国の政界を取り仕切った後藤田正晴官房長官(故人)である。確かに攻めという意味でのインテリジェンス、あるいは「都合が悪ければ、たとえ外国における出来事であっても力づくで捻じ曲げてしまう」工作機関という意味でのインテリジェンス機関を我が国は必要としていない。だが、そうであるが故に「ウサギの耳」としては他を圧倒するほどのそれが必要なのである。そのことも忘れてはならない事実なのだ。

さて、最後にマーケットへと話を戻す。「2018年10月半ばにグローバル・マーケットは激震の時を迎える」と弊研究所では事が起きる前から発信してきた経緯がある。これは最先端の定量分析と定性分析がなせる業だったわけだが、実は同じ手法で読み解くと近未来ではっきりと見えていることがある。それは「二番底」がグローバル・マーケットでは程なくして訪れるというサインである。

「二番底」は一体何時なのか。この問いに対する答えを導き出すための一つのヒントはイギリスによるいわゆる「BREXIT」にある。その交渉がクリスマス前まで行われる中、もし「合意なきBREXIT」へといよいよ進み始めるならばグローバル・マーケットはどうなるのか。今後もこのコラムを通じて読者と共に適時的確に思考を進めていければと考えている。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

原田武夫 (はらだ・たけお)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役 (CEO)。社会活動家。
1993年東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省入省。アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に2005年3月自主退職。2007年4月同研究所を設立登記、代表取締役に就任。多数の国際会議にパネリストとして招かれる。2017年5月よりICC(国際商業会議所) G20 CEO Advisory Groupメンバー。「Pax Japonica」(Lid Publishing)など日独英で著書・翻訳書多数。