日本では「準富裕層(プチ富裕層)」と呼ばれる人たちが増え、同時に「富裕層」の人数も世界で上位を誇っているそうです。どのような背景でこうした状況になっているのでしょうか。また、実際に日本の富裕層は何人くらいいるのでしょうか。
日本で「準富裕層」の存在感が増す
日本経済は縮小傾向にあるものの、準富裕層と呼ばれるサラリーマン世帯が増加していると言われています。準富裕層とは、安定した賃金を得て一定額の退職金をもらうことのできる大企業の社員や公務員のことなどを指す言葉です。
準富裕層の資産の定義には揺れがありますが、純金融資産が「3,000万円以上5,000万円未満」などとされていること多いです。いわゆる「アッパーマス層」を呼ばれる人々です。
特に最近は女性も仕事を継続する傾向が広がり、夫婦ともに大企業の社員や公務員という世帯も増加しています。共働きで親世代から住宅を相続できる世帯は、退職金を受け取る年齢になれば、純資産が1億円を超えるケースもあります。
金融機関は、準富裕層の人々をターゲットにした金融商品などを積極的に展開しています。準富裕層の世帯にとっても資産運用は大きなテーマで、コンサルティング会社などの支援を受けて節税対策などに取り組んでいる人も増えています。
日本にいる「富裕層」は何万人?
準富裕層に続いて、日本の富裕層についても見ていきましょう。こちらでは世界の富裕層に関してまとめた報告書「World Wealth Report」を参考にします。この報告書では、富裕層を100万ドル以上の投資可能な資産を持つ個人として定義し、その人々を「high net worth individual(HNWI)」と呼んでいます。
HNWIは全世界で増加しており、HNWIが占める全世界人口に占める割合は2010年に10.9%でしたが、2017年には18.1%に増加しています。国別のHNWIの人数は、アメリカが他国を圧倒しています。同国のHNWIの人数は2016年に479万5,000人でしたが、2017年に528万5,000人に増加しました。
これに続くのが日本です。日本のHNWIの人数は2016年に289万1,000人で、2017年には316万2,000人にまで増えました。米国が圧倒的に多くの富裕層を抱えるものの、日本も世界レベルで見れば富裕層の多い国だと言えるでしょう。
日本にいる代表的な富裕層の人々は?
では、日本の富裕層にはどんな人がいるのでしょうか。
米経済誌フォーブスの2018年版富豪番付によれば、日本の富豪で資産規模1位はソフトバンクグループの孫正義氏です。資産規模は227億ドルに上り、全世界での順位は39位となっています。これに続くのが、国内外で「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正氏です。資産195億ドルで、世界55位に付けています。
日本の3位は、キーエンス創業者の滝崎武光氏(資産175億ドルで世界68位)、4位は森ビルの森章氏(資産63億ドルで世界274位)、5位は日本電産創業者の永守重信氏(資産56億ドルで世界321位)、6位は楽天を創業した三木谷浩史氏(資産55億ドルで世界334位)、7位はユニ・チャーム創業者の高原慶一朗氏(資産50億ドルで世界388位)、8位はニトリ創業者の似鳥昭雄氏(資産44億ドルで世界480位)。
このほか、光通信創業者の重田康光氏、イトーヨーカ堂の創業者である伊藤雅俊氏らが上位にランクインしています。新たにビジネスを生み出した創業者が多くランクインしていることが分かります。
社会貢献にも取り組む富裕層の存在
富裕層が存在感を増す中で注目されているのは、社会貢献の視点を持つ富裕層がいるという事実です。「自分さえ豊かであればいい」という独善的な思考ではなく、自分が得た利益を社会に還元しようする富裕層が少なくないのです。
例えば、フォーブスの富豪番付で日本の1位となったソフトバンクグループの孫正義氏は、日ごろから経営方針において社会貢献を掲げていることで知られています。社会貢献への考え方は人それぞれですが、最近では「ノブレス・オブリージュ」や「プロボノ」という言葉も知られるようになり、豊かな人々による社会的貢献活動が注目されることも多くなってきました。
ノブレス・オブリージュとは、豊かな人や地位が高い人ほど社会に貢献する義務があるという考え方です。古くは貴族や王族に対して使われていた言葉ですが、近年では富裕層に対しても使われるようになりました。最近では開業医にもノブレス・オブリージュという考え方が浸透し、社会貢献に取り組む人が増えています。プロボノとは、専門的な知識や経験を持った人がボランティア活動を行うことを指します。
10年後、20年後に状況が大きく変わる可能性も
日本における準富裕層や富裕層の増減は、日本企業の業績や景気だけでなく、世界経済の影響も受けながら変わっていくでしょう。経済だけでなく、国際政治の動向も少なからず影響するはずです。そのため10年後、20年後には状況が大きく変わっていることも考えられます。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト / d.folio)