目次
1.はじめに 2.特別休暇制度の現状 3.特別休暇制度を導入する効果 4.まとめ
要旨
①当研究所では、民間企業で正社員として働く子育て世代の休暇に対する意識を探るためにアンケート調査を実施した。これを踏まえ本稿では、特に法定外の特別休暇制度に注目し、子育て世代の特別休暇制度に対する意識や実態から、特別休暇制度の意義を浮き彫りにし、今後の休暇制度のあり方について考える。
②特別休暇制度は企業が任意に設定するものであるため、多くの人の職場にはあまり普及していないようである。ただし、特別休暇制度の中には記念日休暇、学校行事休暇、病気休暇、リフレッシュ休暇など、勤務先に導入されていれば利用割合が高いものがあり、またそれらは利用意向も高い。年次有給休暇のみでなく特別休暇制度を導入することで、人々の休暇取得慣行に変化をもたらす可能性が期待できる。
③特別休暇制度の効果についてたずねた結果、「有給休暇を減らすことなしに休暇を取得できる」(46.0%)、「目的が明確なので職場の人の理解が得やすい」(42.4%)に4割以上が回答している。年次有給休暇と独立して特別休暇制度を導入することにより、年次有給休暇を補足し、休暇を円滑に取得できる効果があると認識している人が多いことがわかる。
④今後、企業は長時間労働の抑制など「働き方」のみでなく、年次有給休暇の取得促進に寄与する特別休暇制度を職場の状況に合わせて組み入れた休暇制度として整備するなど、「休みやすさ」にも視点を置いた見直しを図ることで、子育て世代のワーク・ライフ・バランスを支え、意欲と能力を発揮できる職場環境を整えることも必要と思われる。
キーワード:年次有給休暇、特別休暇制度、ワーク・ライフ・バランス
1.はじめに
(1)働き方改革の一環としての休暇制度の見直し
わが国では今、働く人の健康を確保し、仕事に対する意欲と能力を十分に発揮しながらワーク・ライフ・バランスのとれた働き方を実現するため、労働時間制度の改革が行われている。その一環として休暇制度の見直しも進められている。
休暇制度には、法定休暇と法定外休暇がある。法定休暇には、年次有給休暇や育児休暇、介護休暇などがある。厚生労働省が2015年10月に公表した「平成27年就労条件総合調査」によれば、2015年調査の年次有給休暇取得率(2014年(又は2013年会計年度)1年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く)に占める実際に取得した日数の割合)は47.6%である。依然として10年前である2005年調査(47.1%)の水準に留まっている。このため国は、労働基準法の改正をして年次有給休暇の取得義務化を定めるなど、その取得率向上を目指している。
他方、法定外休暇は、企業が休暇の目的や取得形態を労使による話し合いによって任意で設定できる休暇である。結婚休暇や忌引休暇などの伝統的な法定外休暇の他、厚生労働省が定めた「労働時間等見直しガイドライン」(2006年制定、2010年改正)において例示されている「特に配慮を必要とする労働者」(特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者、子の養育又は家族の介護を行う労働者、自発的な職業能力開発を図る労働者など)に対して付与される様々な休暇制度も該当する。例えば、病気休暇、ボランティア休暇、教育訓練休暇などがある(以下、年次有給休暇と区別するために「特別休暇制度」と称する)。国は年次有給休暇の取得促進のための取組とともに、「特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度の普及のための広報事業」など、特別休暇制度の普及促進を図り、人々が心身ともに充実した状態で意欲と能力を十分発揮して働くことのできる社会づくりを目指している。
特に子育て世代にとって「休暇」は、自分の健康維持ばかりでなく、子どもの世話・教育などの役割を果たす上で、職場での仕事と同様に重要な活動を目的としている場合がある。女性の活躍推進の視点からも、意欲的に仕事をしながら子育てとの両立を可能とするために、柔軟な働き方、休み方の実現が求められている。
こうしたことを背景に、当研究所では、民間企業で正社員として働く子育て世代の休暇に対する意識を探るためにアンケート調査を実施した。これを踏まえ本稿では、特に法定外の特別休暇制度に注目し、子育て世代の特別休暇制度に対する意識や実態から、特別休暇制度の意義を浮き彫りにし、今後の休暇制度のあり方について考える。
(2)アンケート調査の概要
アンケート調査の概要は図表1の通りである。
回答者の属性として、末子の学齢について性別、年代別に内訳を示したものが図表2である。全体では、末子が未就学児(「幼稚園・保育園に入る前」と「幼稚園・保育園」の合計)が約3割、小学生が約3割、中学生以上が約4割という分布である。性別にみても同様の傾向である。年代別では、20歳代は未就学児が9割以上、30歳代も未就学児が多く7割以上、40歳代は小・中学生が約6割、50歳代になると高校生以上が6割以上を占めている。
2.特別休暇制度の現状
(1)特別休暇制度の導入状況
まず、代表的な特別休暇制度を挙げ、回答者の勤務先に年次有給休暇とは別に導入されている特別休暇制度の有無をたずねた。その結果、「ある」と答えた人の割合を示したものが図表3である。全体では「自分の病気・けがの治療・療養のための休暇(病気休暇など)」(以下「病気休暇」)に「ある」と回答した人が最も多く39.3%を占めている。次に「リフレッシュ休暇」28.1%、「ボランティア休暇(社会貢献のための特別休暇)」(以下「ボランティア休暇」)13.9%などが続いている。
回答者の勤務先の企業規模別にみると、いずれの特別休暇制度も企業規模が大きいほうが「ある」の回答割合が高い傾向がある。特に「リフレッシュ休暇」と「ボランティア休暇」は企業規模が大きくなるにつれて高い。「子どもの学校行事のための休暇」(以下「学校行事休暇」)は29人以下の企業が最も高いが、その他の制度はすべて3,000人以上の企業が最も高い。概ね、規模の大きな企業のほうが特別休暇制度を導入している傾向が高いことがうかがえる。
また、回答者の勤務先に年次有給休暇とは別に設置されている特別休暇制度の名称と内容、賃金の支給の有無を自由記述でたずねた結果の一部を図表4に示した。これをみると、休暇中の賃金を支給する(有給)方式が多く、また、企業規模を問わず、多様な特別休暇制度が導入されていることがわかる。
(2)特別休暇制度の利用割合
次に、勤務先に「ある」と回答した特別休暇制度について、2014年度1年間に利用したことがあると回答した人の割合を示したものが図表5である。
勤務先に「ある」と回答した特別休暇制度の中で、利用したことがある割合が最も高い制度は「記念日休暇(誕生日など)」(以下「記念日休暇」)であり、僅差で「学校行事休暇」が続いている。「病気休暇」や「孫の世話のための休暇」(以下「孫休暇」)、使途に制限なく少なくとも1か月以上の期間取得できる「サバティカル休暇(長期勤務者対象の長期休暇)」(以下「サバティカル休暇」)は対象者が限定されるため単純比較はできないが、対象者を限定しないにもかかわらず「ボランティア休暇」の利用割合が最も低い。
性別にみると、女性のほうが利用割合が高い制度が多いが、特に「学校行事休暇」「教育訓練休暇(自己啓発、研修などのための特別休暇)」(以下「教育訓練休暇」)、「ボランティア休暇」は、10ポイント前後の差で女性が男性を上回っている。
一方、企業規模別については、利用割合との関連は特にみられない。特別休暇制度の利用状況は、企業規模にかかわらず、各特別休暇制度を取得する必要性ないし意向がある従業員の多寡や、各職場における特別休暇制度の「利用のしやすさ」などによって決まるものと思われる。
(3)特別休暇制度の利用意向
勤務先における制度の有無や利用経験の有無にかかわらず、利用したいと思う特別休暇制度を複数回答で答えてもらった結果を示したものが図表6である。
「利用したいと思う制度はない」の回答者が全体の10.9%であり、残りの約9割の人々は何らかの休暇制度を利用したいと思っている。その中で利用したいと回答した人が最も多い特別休暇制度は「病気休暇」であり、全体の54.1%が回答した。以下「リフレッシュ休暇」「学校行事休暇」「記念日休暇」「サバティカル休暇」などが続く。ちなみに「孫休暇」は、孫がいる人が利用するものである。今回の調査対象者の年齢(20~59歳)から類推すると、孫のいない人が多いために、現在の利用意向が低いものと思われる。
性別にみると、「学校行事休暇」で女性が男性を12.5ポイント上回っている。女性の場合、自分のための「リフレッシュ休暇」と同じくらい多くの人が「学校行事休暇」を利用したいと回答した。
企業規模別にみると、「病気休暇」と「学校行事休暇」などは企業規模による回答割合の差があまり大きく開いていない。これらの休暇制度は企業規模を問わず幅広い層の人々が利用したいと思っていることがわかる。
また、各特別休暇制度の利用意向(利用したいと思う割合)と導入割合(勤務先に制度がある割合)との関連をみるために、利用意向と導入割合をプロットしてイメージ図として表したものが図表7である。
利用意向も導入割合も高い典型的な特別休暇制度には、「病気休暇」や「リフレッシュ休暇」があてはまる。
他方、利用意向は高いが導入割合が低い制度には、「学校行事休暇」や「記念日休暇」などがある。本調査対象は子どもを育てながら働いている人である。こうした家庭生活に配慮した特別休暇制度への期待は、子どもの養育や家族と過ごすための時間を重視したいとの思いが強く反映された結果であろう。
3.特別休暇制度を導入する効果
特別休暇制度は年次有給休暇とは異なり、企業が任意で設定するものである。実際、厚生労働省の委託事業で実施された「平成25年度特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度に関する意識調査(2014年)によると、特別休暇制度を導入していない企業の割合は48.2%であり、そのうち64.7%の企業が導入していない理由として「年次有給休暇だけで十分である」と答えている。年次有給休暇の取得を前提とする企業が多い中、特別休暇制度を企業が導入する効果について人々はどのように認識しているか。
特別休暇制度の導入効果をたずねた結果、「有給休暇を減らすことなしに休暇を取得できる」(46.0%)と「目的が明確なので職場の人の理解が得やすい」(42.4%)に4割以上が回答している(図表8)。これらの回答から、多くの人が「取得可能日数が限られている年次有給休暇を使うことへの抵抗感」と「職場の理解がないと休みにくいという意識」を感じている中、年次有給休暇と独立して特別休暇制度を導入することにより、こうした抵抗感・意識を緩和し、年次有給休暇を補足して円滑に休暇を取得できる効果があると認識していることがわかる。
4.まとめ
以上、特別休暇制度に対する子育て世代の意識等をみてきたが、特別休暇制度は企業が任意に設定するものであるため、あまり普及していないようである。実際、特別休暇制度を導入していない企業の多くが「年次有給休暇だけで十分である」としている。ただし、特別休暇制度の中には記念日休暇、学校行事休暇、病気休暇、リフレッシュ休暇など、勤務先に導入されていると利用割合が高いものがあり、またそれらは今後の利用意向も高い。年次有給休暇のみでなく、こうした特別休暇制度を導入することで、人々の休暇取得慣行に変化をもたらす可能性が期待できる。具体的に、休暇取得促進のための特別休暇制度の導入意義として以下の2点が挙げられる。
1つは年次有給休暇の補足機能である。例えば病気やケガの場合に年次有給休暇に優先して利用できる病気休暇を設置すれば、年次有給休暇を将来の病気に備えて節約しなくても安心して取得できる。2つ目は会社が従業員に休むきっかけづくりを付与できる点である。例えば子どもの養育のための学校行事休暇、従業員の能力開発のための教育訓練休暇、ボランティア休暇などの設置を通じて、会社は従業員の私生活の活動に対する理解、支援を表明することができる。従業員がこうした目的で年次有給休暇を別途取得する場合でも、職場の理解が得られやすいため休みやすさにつながる。
今後、企業は長時間労働の抑制など「働き方」のみでなく、年次有給休暇の取得促進に寄与する特別休暇制度を職場の状況に合わせて組み入れた休暇制度として整備するなど、「休みやすさ」にも視点を置いた見直しを図ることで、子育て世代のワーク・ライフ・バランスを支え、仕事に対する意欲と能力を十分に発揮できる職場環境を整えることも必要と思われる。(提供:第一生命経済研究所)
上席主任研究員 的場 康子 (研究開発室 まとば やすこ)