<減り続ける三世代世帯>
戦後、高度経済成長を迎えた我が国においては、産業構造の変化により都市化・工業化が進む中で、多くの人が地方から都市に移動し核家族化が進んだ。低成長経済に移行した後は、高齢化の進展・非婚者の増加等によって、現在まで単独世帯・夫婦のみ世帯が増え続けている。これらの間、親と子ども家族が同居する三世代世帯は一貫して減少している(図表1)。
三世代世帯の減少など世帯構造の変化は、これまでのように家族や地域で助け合って家事・育児・介護などをおこなう社会から、子育てや介護を外部化して社会的に支える社会への変化を余儀なくし、子ども・子育て支援制度や介護保険制度など、社会保障制度の改革が求められるようになった。
こうした中、少子高齢化に直面したわが国の経済の活性化のために一億総活躍国民会議が2015年11月26日に発表した「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」では、三世代世帯に注目し「子育てを家族で支え合える三世代同居・近居がしやすい環境づくり」を進め、「三世代の『同居』や『近居』の環境を整備するため、三世代同居に向けた住居建設、UR 賃貸住宅を活用した親子の近居等を支援する」ことを打ち出した。子育て世代からみて親と子の三世代で支えあって暮らす家族のあり方に改めて注目し、このような暮らし方を希望する人々を後押ししようとしている。
こうした背景から本稿では、当研究所が『ライフデザイン白書2015年』を発行するために実施したアンケート調査をもとに、近所付き合いや子育て、介護等に関する意識や実態について二世代世帯と三世代世帯との比較をおこない、子育て世代から見て三世代世帯にどのような特徴や利点があるのかを考える。
<年代別にみた世帯構造の構成割合>
まず、本調査における性・年代別の世帯構造の分布を示す(図表2)。本稿で注目する世帯は三世代世帯(本人が父母、以下同様)、すなわち子育て世代(回答者本人)が自分たち夫婦の親及び子どもと同居している世帯である。その比較対象として二世代世帯(本人が親、以下同様)、すなわち子育て世代(回答者本人)と子どもから成る世帯をみる。
図表2によると、三世代世帯は全体では5.7%である。図表1よりも割合が低いのは、子どもの祖父母が回答者の三世代世帯が含まれていないためであると思われる。年代別にみると、40代と50代で三世代世帯の割合が9%台であり、他の年代よりも高い。
<三世代世帯の方が正規で働く女性が多い>
就労状況について二世代世帯と三世代世帯とを比較すると、二世代世帯の女性は「無職(専業主婦を含む)」が58.9%であるのに対して、三世代世帯の女性は42.1%と、三世代世帯の女性の方が働いている人が多い(図表3)。三世代世帯の女性の方が子育てをしながら働いている人が多いことが示された。しかも、二世代世帯の女性は「正社員・正職員」が9.0%であるのに対して、三世代世帯の女性は「正社員・正職員」が21.4%であり、正規で働いている人の割合が高い。
<三世代世帯の方が近所の人と「親しくつきあっている」人の割合が高い>
地域社会における人々のつながりの希薄化が指摘されている中、どの程度の近所付き合いをしているかをみる。二世代世帯と三世代世帯で暮らしている人とを比較すると、「親しくつきあっている」の回答割合は二世代世帯が14.1%、三世代世帯が20.9%であり、三世代世帯の方が高い(図表4)。
図表3をみると、三世代で暮らしている人の方が「自営業(家族従事者含む)、自由業、農林漁業」で働いている人が多い。こうした地域に根ざした働き方をしている人が多いことも、三世代世帯で親しく近所付き合いをしている人が多いことに関連があると思われる。
<三世代世帯の方が「現在住んでいる地域に愛着がある」と思っている人が多い>
現在住んでいる地域に愛着があるかをたずねた結果をみると、三世代世帯の方が「A:現在住んでいる地域に愛着がある」に近い意見を持っている人(「Aに近い」と「どちらかといえばAに近い」の合計)が多い(図表5)。
図表は省略するが、親しく近所つきあいをしている人ほど、住んでいる地域に愛着があると思っている人が多い傾向がみられ、三世代世帯の方が、地域コミュニティに根ざして暮らしている人が多いことがうかがえる。
<三世代世帯の方が子どもと学校や進路のことを話している人が多い>
次に、三世代で暮らす子育て世代の子どもとのコミュニケーションについてみる。
まず、「子どもと学校のことについて話す」に「あてはまる」と回答した人は二世代世帯で28.9%に対して三世代世帯では35.5%である(図表6)。三世代世帯の方が子どもと学校のことについて話しているという人が多い。それぞれの世帯構造について性別でみると、三世代世帯の男女ともに二世代世帯を上回っており、三世代世帯の男性は約4人に1人が、女性は約半数が「あてはまる」と回答している。
また、「子どもと子どもの将来や進路のことについて話す」についても同様であり、二世代世帯よりも三世代世帯の方が「あてはまる」と回答した人の割合が高い(図表7)。
こうしたことから、三世代で暮らしている人は、地域での近所付き合いと同様、子どもとのコミュニケーションも相対的に活発であることがうかがえる。それは一つには、子育て中の人々にとって親と同居することにより時間的余裕がうまれ、子どもと向き合う時間が取れるということもあるのではないかと考えられる。
<三世代世帯の女性の約5人に1人が現在介護している>
介護経験についてたずねた結果をみると、「現在介護している」の回答割合が、二世代世帯の4.0%に比べ、三世代世帯が17.1%と大きく上回っている(図表8)。
男女別でみても、男女ともに二世代世帯よりも三世代世帯の方が「現在介護している」人の割合が高い。女性では22.3%と、約5人に1人が現在介護をしていると答えている。三世代で同居して住むことで、家族の介護をおこなっている人が少なからずいることがうかがえる。
<三世代世帯の女性には家族介護に対する困惑がある>
家族を介護したことがある人(図表8の「現在介護している」と「現在は介護していないが、以前に介護したことがある」の合計)に、介護をする(した)際に、どのようなことで困っているか(困ったか)をたずねた結果が図表9である。「特にない」の回答割合が二世代世帯は19.1%であるのに対し、三世代世帯は22.2%である。三世 代世帯の方が、困ったことがないとしている人がやや多い。
内容をみると、二世代世帯、三世代世帯いずれも「先の見通しが立たなかった(立たない)」が最も高くなっているが、それ以外については、二世代世帯の場合、「家事や子育てに支障が生じた(生じている)」24.4%、「介護するために要介護者宅に通うのが大変だった(大変である)」19.2%の回答が多い。特に、二世代世帯の女性の約3割が介護で「家事や子育てに支障が生じた」と感じている。一方、三世代世帯では、「本人が介護サービスを受けることを嫌がった」「自分以外に家族や親戚で介護できる人がいなかった」の回答が高く、女性では3割近くに及んでいる。三世代世帯の場合、要介護者本人の意思や家族の状況により家族介護をしているものの、それに対し介護者の困惑があることが見て取れる結果となっている。
<三世代世帯の介護負担に対する支援の必要性>
以上、自分と子との二世代世帯と、親と子の三世代世帯で暮らしている人の比較を行いながら、地域とのつながりや子どもとのコミュニケーション、介護の実態についてみてきた。二世代世帯に比べて三世代世帯は、自営業など地域に根ざした仕事をしている人が多いこともあり、地域コミュニティとのつながりを意識している人が多い。
また、子どもとのコミュニケーションにおいても、三世代世帯の方が子どもと学校や将来のことについて話している人が多い。特に女性の場合、三世代世帯の方が多く働いており、しかも正社員として働いている人の割合が高いが、子どもとコミュニケーションをよくしている人も多い。共働きをしている女性にとって、三世代での暮らしは良好な親子関係を築くことにも寄与していることがうかがえる。また、親(夫婦のどちらかの母親)との同居・近居・別居別に完結出生児数(結婚持続期間15~19年の夫婦の平均出生児数)をみると、同居が2.09人、近居(同じ市区町村内で別居している場合)が1.99人、別居が1.84人である(国立社会保障・人口問題研究所「平成22年第14回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)第1報告書」)。親(夫婦のどちらかの母親)と同居している夫婦は近居や別居に比べて子ども数が多いという傾向がみられる。こうしたことから同居という暮らし方は出生率にもプラスの影響を与える可能性があるとされている。
他方、介護の実態をみると、三世代世帯で現在介護をしている人が多い。介護が必要なために三世代で暮らしている人が多いということもいえるかもしれない。これから急増する要介護者の増加に対応するためには、介護施設の増設とともに、三世代世帯を増やすことも一方策になるという考え方もあろう。ただ、その前提として、家族のみに過重な介護の負担がかからないように行政や地域による家族介護への支援を強化することが必要である。
子育て世代からみて三世代で暮らすということは、近所付き合いや子どもとのコミュニケーションなどの面では利点があるが、介護が必要になると家族に負担がかかるという側面もある。三世代世帯の推進をおこなうのであれば、在宅介護を支援する施策の充実を図り、家族介護を社会的に支える体制を整えることが不可欠である。
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 的場 康子 (まとば やすこ 上席主任研究員)