目次

1.はじめに
2.家族の介護の経験
3.介護経験者が感じる問題
4.介護経験者の介護に関する知識
5.まとめ ~男性の介護経験と介護に対する意識

要旨

①18~69歳の男女7,256人に対して実施した調査の結果の中から、介護経験者、特に男性の実態や意識に着目した。

②家族の介護経験がある男性は17.9%にのぼった。その割合は60代、50代の順に高いが、40代以下でも1割前後となっている。就業形態別にみると、正社員の男性の13.6%、非正社員、自営業・自由業、無職の男性のそれぞれ2割以上に介護経験がある。

③男性の介護対象者は、自分の親の割合が65.3%を占めている。年代別にみると、男性の30代以下では祖父母を介護した割合が最も高く、40代では自分の父親、50代以上では自分の母親を介護した割合がそれぞれ半数前後となっている。

④在宅介護サービスに関する不安や抵抗感のうち、「ホームヘルパーなど外部の人が家に入ることに抵抗感がある」と答えた割合は男性が女性を10ポイント下回るが、「近所や親族の目が気になる」と答えた割合は女性より男性で若干高い。

⑤男性が介護時に困ったこととしては、「先の見通しが立たなかった」の次に「働き方を変えざるを得なかった」があがっている。女性と比べると、困ったこととして「介護の方法や制度に関する情報が十分に得られなかった」をあげた割合は男性でやや高い。また、「介護が必要になった際に使う介護用品や福祉機器」などの認知度は男性で低い。

⑥以上より、介護離職や不本意な働き方への変更を余儀なくされる人を減らすこと、男性を含む介護経験者が情報共有・交換できる仕組みをつくることなどが課題と考えられる。

キーワード: 介護、介護離職、情報

1.はじめに

 かつて、家族の介護は女性の役割というイメージが強かった。だが現在では、男性にとっても介護が身近な生活問題になっている。

 厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、要介護者等の主な介護者でありかつ要介護者等と同居している人の中で、男性の割合は2001 年では23.6%であったが、徐々に増加し2013 年には31.3%になった(図表1)。また、総務省の「就業構造基本調査」によると、2007 年10 月~2012 年9月の5年間で「介護・看護」を理由に前職を離職した人48 万7千人のうち、20.1%を男性が占めている(図表2)。この割合は、10 年前の14.8%を5ポイント超上回っている。つまり、家族等の介護に携わる人や介護のために仕事を辞める人の中に占める男性の割合は、この10 数年間に増えている。これらの割合は今後さらに増える可能性もある。

「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)

 そこで本稿では、第一生命経済研究所が2015 年に実施した「今後の生活に関するアンケート」のうち、介護の分野に関するデータを用いて、介護経験者、特に男性の介護経験者の実態や意識に注目することとした。調査の概要は図表3の通りである。

 なお、この調査の結果の一部は『ライフデザイン白書 2015 年』(第一生命経済研究所編、ぎょうせい発行)にも掲載している。

「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)

2.家族の介護の経験

(1)介護経験の有無

 まず、これまでに家族を介護したことがあるかをたずねた。図表4の通り、男性では「現在介護している」割合が5.0%、「現在は介護していないが、以前に介護したことがある」割合が12.9%であり、その合計、すなわち介護したことがある男性の割合は17.9%となっている。この割合は女性に比べれば低いが、男性の6人に1人以上には介護経験があることを示している。

「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)

 次に図表5には、男性が家族を介護したことがある割合を年代別、就業形態別に示す。年代別にみると、60代で33.9%と最も高く、次に50代で22.4%となっている。ただし、40代以下でも1割前後の人に介護経験があり、若くても家族の介護に携わる男性がいることがわかる。

「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)

 就業形態別にみると、介護したことがある割合は無職の25.5%で最も高く、有職の中でも自営業・自由業(21.9%)、非正社員(20.2%)ではそれぞれ2割を超えている。また、「現在介護をしている」割合は、無職で6.8%と最も高いが、自営業・自由業では6.2%、非正社員では4.3%、正社員では4.1%とそれぞれ5%前後となっており、働きながら介護に携わっている男性も少なからずいることが示されている。

(2)介護の対象者

 家族を介護したことがある人に対し、現在介護しているのは誰か(あるいは以前介護した人で直近に介護したのは誰か)をたずねた。

 図表6の通り、男性では「自分の母親」(40.8%)が最も高く、これに次ぐ「自分の父親」(24.5%)と合わせると、自分の親が65.3%と約3分の2を占めている。一方、男性が配偶者の親を介護した経験がある割合は、女性よりかなり低い。

 次に図表7には、男性の介護対象者を年代別に示す。30代以下の男性では「自分の祖父母」が過半数を占めている。40代では「自分の父親」が45.3%と最も高いが、50代以上では「自分の母親」が「自分の父親」を上回って半数を超えている。

「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)
「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)

3.介護経験者が感じる問題

(1)在宅介護サービスに関する不安

 家族を介護したことがある人に対し、在宅介護サービスに関する不安をたずねた結果を図表8に示す。

 男性では「サービスの利用料が高そうである」(39.1%)が最も高く、「満足のいくサービスが受けられるか不安である」(35.6%)がこれに続く。順位は男女同じだが、上位4項目の割合は女性より男性で低い。特に、「ホームヘルパーなど外部の人が家に入ることに抵抗感がある」と答えた男性の割合は、女性の割合を10ポイントも下回っている。一方、「近所や親族の目が気になる」割合は、男女とも1割に満たないものの、女性より男性でやや高い。男性は女性に比べて、ホームヘルパーなどの介護従事者が自宅に入ることに対する抵抗感は薄い一方、近所や親族など周囲の目は気にしているといえる。自宅で家族を介護する際に、介護サービス利用に対する意識が夫婦などの男女ですれ違う可能性がある。

「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)

(2)介護時に困ったこと

 家族を介護したことがある人に対し、介護の際に困った(または困っている)ことをたずねた。図表9の通り、男性で最も割合が高いのは「先の見通しが立たなかった」(24.5%)である。次に、「働き方を変えざるを得なかった」(15.9%)という仕事にかかわる問題、「本人が望む介護の方法がわからなかった」「本人が介護サービスを受けることを嫌がった」(ともに14.9%)という介護される側の意向にかかわる問題があがっている。いわゆる介護離職にあたる「仕事を辞めざるを得なかった」の割合は7.8%である。

「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)

 女性と比べると、困ったことが「特にない」と答えた割合は男性のほうが高い。つまり、女性のほうが全般的には困ったことが多い。中でも、女性が「自分以外に家族や親戚で介護できる人がいなかった」「家事や子育てに支障が生じた」と答えた割合は、男性がそう答えた割合をそれぞれ10ポイント超上回っている。

 一方、「介護の方法や制度に関する情報が十分に得られなかった」をはじめ、女性より男性のほうが困った割合がやや高い項目もある。男性は女性に比べると介護に関する情報を得にくい面があると考えられる。

4.介護経験者の介護に関する知識

 では、家族を介護したことがある人は、介護に関する知識をどの程度持っているのだろうか。ここでは、家族の介護との関連が高いと思われる9項目の認知度(「よく知っている」「ある程度知っている」と答えた割合の合計)を図表10に示す。

 男性の結果をみると、認知度が最も低いのは「民間の介護保険」(30.7%)、次に「要介護者を介護する方法・技術」(40.5%)である。また、「介護にかかるお金」(52.4%)、「介護が必要になった際に使う介護用品や福祉機器」(53.9%)の認知度も低い。介護費用や介護の実践にかかわる知識が特に少ないといえる。

「ライフデザイン白書2015年」調査にみる介護経験者の状況
(画像=第一生命経済研究所)

 また、「公的介護保険で受けられるサービスの内容」「公的介護保険のサービスを受けるための方法」など、その他の項目の認知度も6割前後にとどまっている。介護を経験した男性でも、公的介護保険制度のサービスの内容や方法について、4割以上が知らないことがわかる。

 男女を比較すると、男性の認知度が女性の認知度を上回っている項目は「民間の介護保険」「介護にかかるお金」「公的介護保険の制度の仕組み」である。他の6項目は男性の認知度のほうが低い。特に、「介護が必要になった際に使う介護用品や福祉機器」の認知度の差は大きい。介護経験のある男性は女性に比べ、一部の点を除くと介護にかかわる知識が若干少ないと考えられる。

5.まとめ ~男性の介護経験と介護に対する意識~

 今回、調査対象とした18~69歳の男性のうち、現在介護をしている人は5.0%、以前介護をしたことがある人は12.9%であり、合わせて17.9%の人に親を中心とする家族の介護経験があった。その割合が最も高いのは60代、次いで50代であるが、40代以下の1割程度の男性も祖父母や親などを介護したことがあると答えた。

 男性が家族を介護した際に最も困ったこととしては、先の見通しが立たなかったことの次に、働き方を変えざるを得なかったことがあがっている。また、仕事を辞めざるを得なかった、収入が減って困ったと答えた人もいる。介護を理由に離職すること=「介護離職」は近年急速に社会問題化しており、「介護離職ゼロ」が政策の柱の一つにも掲げられている。介護離職者を減らすことはもちろん、離職には至らないまでも不本意な働き方への変更や収入減を余儀なくされる人をなるべく減らすことも、男性を含む勤労者の介護と仕事の両立をめぐる課題の一つといえる。

 また、介護経験のある男性は女性より介護に関して知識を持っていない面があり、介護の方法などに関する情報が十分に得られず困ったと答えた割合もやや高い。家族を介護する男性は女性に比べるとまだ少なく、また介護経験を他の人に話したり聞いたりすることをためらう男性も多いと考えられる。家族の介護に既に携わっている人および将来携わる可能性のある人に対する情報提供や、介護経験者同士で情報共有・情報交換ができる仕組みづくりなどを、男性を含めたより多くの層に広げることが必要であろう。(提供:第一生命経済研究所

上席主任研究員 水野 映子
(研究開発室 みずの えいこ)