投資対象の不動産といえばマンションや商業ビルが思い浮かびますが、最近では医療オフィスビルや学生・高齢者住宅、教育施設、トランクルーム、駐車場、データセンターなど「オルタナティブ(代替)不動産」がアジア太平洋地域で注目されています。香港を始めとする大都市で不動産が高騰し、利回りが極端に低いためですが、東京やシドニーのデータセンターは、6~7%の利回りが期待できるといいますから、注目されるのもうなずけます。
データセンターからREITまで「オルタナティブ不動産」
従来の不動産投資対象とは異なる不動産を「オルタナティブ不動産」といいます。明確な定義はないのですが、データセンターや学生・高齢者住宅からトランクルーム、駐車場、医療オフィス、農場、ビルボード(広告掲示板)、REITまで、広範囲な資産に対して使われている言葉です。
オルタナティブ不動産は経済や市場サイクルの変動の影響を受けにくく、長期的に安定した収入を期待できるのが特徴です。オルタナティブ不動産投資に最も積極的なREIT、株式ファンド、投資マネージャー、不動産事業会社及び開発者が2016年に投じた金額は、総額430億ドルに上ります。
安定した高リターンが狙えるアジアのオルタナティブ不動産
不動産コンサルタントJLLの調査によると、魅力的な利回りと長期的な成長の見通しに惹かれ、アジア太平洋地域のオルタナティブ不動産に乗り換える商業用不動産投資家が急増しているそうです。
投資家は常に、リスクを分散しリターンを高める意図で、新しい投資対象を探しています。欧米と比較すると、アジア太平洋地域のオルタナティブ不動産市場はまだ未成熟ですが、「リスク分散と高リターンを狙える新しい分野」として注目されています。 オフィスビルなど従来の不動産のリターンは、東京では4.5〜5%、シドニーで2.5〜3.5%、ショッピングモールは東京で4.5〜5.5%、シドニーで2.5〜4%。これに対し、オルタナティブ不動産のリターンは東京やシンガポールで6~7%、シドニーで4~6%といいます。
医師の不動産投資に最適?医療オフィスビル
不動産投資に興味がある医師なら、医療オフィスビルへの投資にも関心が高いでしょう。
医療オフィスビルは複数のクリニックが集まり、多様な医療サポートを提供する施設で、単独で開業するよりも集患しやすく、入居しているクリニック同士で協力し合えるという利点もあります。
日本では「四谷メディカルモール」が医療オフィスビルとして有名です。ワンフロアに内科から整形外科、耳鼻科、皮膚科、放射線科などを併設しており、電子カルテや医療ITシステムの導入により、診察の効率化を図っています。
日本でも近年「大病院よりも身近で安心便利な専門医療サービス」への需要が高まっており、こうした医療オフィスビルが増えていくものと予想されます。
今後注目すべきは教育施設や介護施設
こうしたトレンドは、今後も続くのでしょうか?
アジア太平洋地域では、都市化や家計資産の増加、テクノロジーの加速などによって広範な人口動態の変化が起きており、2027年までに都市人口が4億人を超えると予想されています。今後はオルタナティブ不動産の中でも、学校・塾といった教育施設やトランクルーム・倉庫といった保管施設の需要が伸びるかもしれません。
同地域のインターナショナルスクールは、今後15年間で1,000万人の生徒の獲得を目指し、生徒数は現在の3~4倍に増えると予測されています。これによりオーストラリア、中国本土、香港、インド、東南アジアでも教育施設や学生向け宿泊施設が増えるでしょう。
またスマートフォン、クラウドコンピューティング、IoT(モノのインターネット)の普及や高齢化の加速により、インターネットユーザーは現在より5億6,000人、高齢者は1億4,600万人増えると予想されているため、データセンターや高齢者住宅、介護施設の需要もさらに拡大するでしょう。
これらの材料から、JLLは「アジア太平洋地域のオルタナティブ不動産市場の見通しは明るい」と結論付けています。
オルタナティブ不動産投資の注意点
しかし注意点もあります。通常、高齢者ケアやデータセンターは政府によって厳しく規制されており、現地の法律に従って管理する必要があります。
またアジア太平洋地域内でもオルタナティブ不動産市場の成熟度はそれぞれ異なり、市場動向の予測と投資判断は容易ではありません。したがって、知識と経験が豊富で、信頼できる専門家のアドバイスは必須です。(アレン琴子、英国在住のフリーライター / d.folio)