世界の富裕層に関してまとめた報告書「World Wealth Report」によると、100万ドル以上の投資可能な資産を持つ個人「high net worth individual(HNWI)」の人口が最も多いのは米国で、その数は528万5,000人(2017年)に上っています。これに続くのが日本で、316万2,000人(同)です。
このように米国も日本も富裕層が世界的に見て多い国であると言えますが、両国の富裕層のライフスタイルには違いがあると言われています。それが顕著に現れているのが、富裕層の職業や住む場所などです。
アメリカ人富裕層の多くはビジネスオーナー、日本は?
アメリカでは富裕層の7割以上がビジネスオーナーと言われていますが、日本では富裕層の中に占める「無職」の人の割合も高く、トレーディングや不動産投資などで資産形成をしている人も多いと言われています。
米国には“アメリカン・ドリーム”という言葉がありますが、起業して成功し、さらにさまざまな企業を設立したり投資したりして富を増やしていく、という富裕層もいるでしょう。アメリカの電気自動車(EV)大手である、テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)もその一人です。
イーロン・マスク氏は小さい頃にコンピュータを独学で学び、12歳で商業ソフトウェアを販売した奇才です。大学を退学後に起業した会社を売却したことによって資産を形成し、その後、新たに企業を続々設立したほか、成長分野を手掛ける企業に投資するなどして、資産を増やしていきました。
日本でもこうした形で資産を手にした富裕層も多くいますが、例えば都会のタワーマンションに住んで、仮想通貨や株のトレーディングなどで資産を増やしている人たちも目立ちます。こうした資産を増やしている人を「無職」と呼ぶかどうかは別としても、一般的に「職業」と呼べる方法でお金を稼ぐということとは、やはり少しニュアンスが違うようです。
アメリカにももちろんこうした富裕層の人たちも多くいますが、全体的な傾向として見れば、アメリカと日本のライフスタイルの違いの一つと言えるのではないでしょうか。
日米の富裕層は住んでいる場所にもそれぞれ特徴が
日本とアメリカの富裕層では、住んでいる場所にもそれぞれ特徴があります。日本では富裕層は東京に集中していますが、アメリカではさまざまな地域に分散する傾向があります。
これはアメリカの国土は広大で、大規模な都市が各地に分散していることが要因と考えられています。東海岸と西海岸にそれぞれ大都市があることからも、それが分かります。カリフォルニア州やニューヨーク州、テキサス州、フロリダ州などが、富裕層の多く住む土地として知られています。
寄付の文化に見るアメリカと日本の富裕層の違い
アメリカの富裕層のライフスタイルを考えるうえで欠かせないのが、社会的な活動への関心の高さです。キリスト教の影響から、チャリティー活動に熱心な風土があるとともに、寄付が社会に根付いています。
ローカルな問題だけではなく、世界に視野を広げ、国際的な貧困や格差の問題に取り組み、途上国の女性や子どもなどの生活状況改善を促す動きもあります。例えばマイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏が「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」を立ち上げ、積極的な社会活動を行っていることはよく知られています。
現にビル&メリンダ・ゲイツ財団は、バングラデシュ、ブルキナファソ、エチオピア、インド、ナイジェリアでは母子の栄養改善事業を行い、乳幼児死亡率の低減や母子の栄養状態の改善に向けた事業を展開をしています。ビル・ゲイツ氏のこうした活動が一つの規範となり、アメリカ国内だけではなく日本の富裕層の中にも感化された人は少なくないでしょう。
日本の富裕層の中にも寄付や慈善活動をしている人はいますが、アメリカほどその文化が根付いているとは言えないと指摘する専門家もいます。富裕層だけを対象にした調査ではありませんが、個人寄付の総額の名目GDPに占める割合を調査したデータでは、日本とアメリカで10倍近い開きが出ています。
ライフスタイルの違いがグローバリゼーションでなくなっていく?
日本とアメリカの富裕層のライフスタイルを職業や居住地、寄付活動などで比べるだけでも、これだけの違いがあることが分かります。
単に個人の趣向だけではなく、それぞれの国の文化や慣習などが背景にあると考えられます。上記の他、購買行動や食生活、時間の使い方などでもさまざまな相違点があることでしょう。今回はアメリカと日本の富裕層の一部のライフスタイルの違いを取り上げましたが、より多くの国や地域と比べれば、別の違いが見えてくるはずです。
世界ではグローバリゼーションが進み、各国でそれぞれ起こる流行のほか、世界的に同時に起こるムーブメントも見られるようになってきています。国と国との文化面の垣根が徐々に低くなっているとも言え、各国の富裕層のライフスタイルも今後近づいていくかもしれません。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト / d.folio)