<女性が職業をもつことに対する意識>
わが国では今、女性の活躍推進による経済成長を目指している。子育てと仕事との両立支援策なども社会的に浸透しつつあり、出産後も働き続ける女性が徐々に増えている(厚生労働省「第1回21 世紀出生児縦断調査(平成22 年出生児)の概況」2012年12 月)が、依然として多くの女性が出産を機に退職する状況が続いている。
内閣府の調査から、女性自身の結婚・育児と職業との関係についての意識の推移をみると、最新の2014 年の結果では「子どもができても、ずっと職業を続ける方がよい」(以下「就業継続」)とする割合が最も高く45.8%を占めている(図表1)。女性の約半数は、出産しても就業継続をすることがよいと思っている。
一方、「子どもができるまでは、職業をもつ方がよい」に11.6%、「子どもができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業をもつ方がよい」に32.4%が回答している。これらを合わせると、子どもができたら仕事を辞めることがよいと思っている女性も44.0%おり、「就業継続」と同程度の割合である。時系列でみても、2004年から結婚や出産を機に仕事を辞めるのがよいとする女性の割合に大きな変化はなく、約半数を占めている。
<就労・社会参加したいか>
こうした中、当研究所では、子どもがいる無職女性が働くことに対してどのように考えているのかを明らかにするためアンケート調査を実施した。本調査では、働き先については民間企業のみならず、住民同士が互いに助け合い、生活支援を行う住民参加型サービスなどの地域活動も含めた。少子高齢化が進む中、地域において子育てや介護などの生活支援サービスを充実させることが必要とされており、その担い手として、地域に住む様々な人々が期待されているからである。
図表2で、「①自宅近くの民間企業」から「⑥社会福祉協議会における住民参加型サービス」のそれぞれについて、過去の就労・社会参加経験の有無ごとに今後の就労・社会参加意向をたずねた結果をみると、過去の就労・社会参加経験の有無にかかわらず、①から⑥のいずれかの働き先で今後、就労・社会参加したいと回答した人は30代から60 代までの無職女性の49.9%であった(図表2)。
働き先別にみると、「民間企業」に就労意向のある人は41.9%を占めるが、「地域活動」に参加したい人も25.9%であり約4人に1人の割合である。
年代別にみると、就労・社会参加したいと思う女性は年齢が若いほど多い。中には、図表1にあるように子どもが「大きくなったら再び職業をもつ」ことを考えている人もいるかもしれない。働き先をみると、30代・40代では「民間企業」で働きたいと思う人が6割前後、「地域活動」に参加したいと思う人は3割前後である。年代が高くなるにつれて「民間企業」「地域活動」ともに就労・参加したい割合が低下するものの、50代・60代の約5人に1人が「地域活動」に参加したいと答えている。
<どのような仕事がしたいか>
図表2の①~⑥のいずれかについて、過去に就労・社会参加の経験が無いが今後、就労・社会参加したいと思っている人に、どのような仕事がしたいかをたずねた結果が図表3である。
全体では「経理、会計、総務、商品管理、データ入力など、オフィスワーク(事務)がしたい」(以下「事務」)45.2%、「保育など、子育てにかかわる仕事がしたい」(以下「保育」)27.4%、「スーパーのレジやコンビニエンスストア、飲食店の店員など、接客・販売の仕事がしたい」(以下「接客・販売」)24.6%が上位3位である。
年代別にみると、30代・40代では「事務」や「接客・販売」の仕事を希望している人が多い。他方、「老人ホームなどで、お年寄りの話し相手などをしたい」(以下「話し相手」)や「お年寄りなどの通院、買い物などの外出支援をしたい」(以下「外出支援」)は年代が高くなるほど回答割合が高い。「保育」は年代による差はあまり大きくなく、各年代とも2割から3割の人が希望している。
希望する働き先別にみると、「民間企業」で働くことを希望する人は「事務」や「接客・販売」の仕事をしたい人が多い。なお、サンプル数が少ないので参考値であるが、「地域活動」に参加することを希望する人は「保育」や高齢者の「外出支援」「話し相手」「学習塾や習い事の講師、添削指導など、子どもの教育にかかわる仕事がしたい」とする回答割合が相対的に高い。
子どもの保育や教育、高齢者の生活支援は、多くの地域で拡充が必要とされるサービスであり、その人材確保が課題となっているが、本調査結果から、地域活動に参加し、こうした分野で働きたい人が一定程度存在していることが明らかとなった。
<働き先の探し方>
では、このように働きたいと思っている人は、働き先を探すなどの具体的なアクションをおこしているであろうか。働くにあたり、仕事を探すなどの行動をしているかどうかをたずねた結果、全体の63.5%が「何もしてない」と回答した(図表4)。働きたいと思っていても、そのために働き先を探している人の方が少数派である。
探している人のうち、具体的にどのような行動をしているかをみると、「インターネットの求人情報サイトで探している」(以下「インターネット」)割合が最も高い。次に「地域情報誌で探している」(以下「地域情報誌」)や「新聞・雑誌の求人欄で探している」(以下「新聞・雑誌」)が続いている。
年代別にみると、「何もしてない」割合が40代で最も低く、60代で最も高い。30代は60代の次に「何もしてない」割合が高いが、まだ子どもが小さいため、具体的に動けない人が多いのかもしれない。50代以降になると働く意欲はあっても、体力面などで踏み出せない人もいると思われる*1。具体的にどのように仕事を探しているかを年代別にみると、30代・40代は「インターネット」を活用する人の割合が高い。50代・60代は「インターネット」よりも、「地域情報誌」や「新聞・雑誌」といった紙媒体で働き先を探している人が多い。
<多様な媒体での情報提供の必要性>
以上、子どもがいる無職女性の就労・社会参加意識をみたが、30代・40代では5~6割が自宅の近くの民間企業での就労、3割前後が地域の住民参加型サービスなどに参加したいと思っている。特に地域の住民参加型サービスなどに参加したいという人で、子どもの保育・教育や高齢者の生活支援に携わりたいという人が相対的に多い傾向がある。地域における子育てや介護支援の重要性が高まる中、こうした潜在労働力を引き出すことが必要である。
しかし実際に働こうという意思はあっても、なかなか実行に移すまでに至らない人が多い。働き先を探すなどの具体的行動をおこしている人は少数派である。まずは、子どもが小さくても、あるいは体力的に自信がなくても、多くの女性が自分のライフスタイルに合わせて働くことができるよう、企業や地域活動団体等が働き方の多様化を進めることが必要である。さらに、働きたい人が働き先を探すにあたり、30代・40代は「インターネット」、50代・60代は「地域情報誌」や「新聞・雑誌」など、年代によって利用する情報媒体が異なる。したがって企業や地域活動団体は、多様な媒体を介して、働こうと思っている人に有効な情報提供などの働きかけが必要である。働く意欲はあっても「何もしていない」人の目に触れやすくなれば、働く一歩を踏み出す人が増え、地域社会の課題解決に寄与する人材を引き出すことにもつながると思われる。(提供:第一生命経済研究所)
【注釈】 *1 現在収入を得る仕事をしていない理由として、50代は「自分の健康・体力に自信がないから」への回答割合が他の年代に比べて高い(的場康子,2015,「女性の活躍推進の多様なあり方-子どもがいる無職女性の就労・社会参加に関するアンケート調査より-」『Life Design Report』(Spring 2015.4)。
上席主任研究員 的場 康子 (研究開発室 まとば やすこ)