目次

1.調査研究の概要
2.障害のある従業員に対する理解・配慮をめぐる認識
3.障害のある従業員に対する理解・配慮を促す取り組み
4.まとめと今後の課題

要旨

①企業に雇用された障害者が職場に定着する上で、従業員の理解は重要であると考えられる。そこで、従業員数100人以上の上場企業を対象にアンケート調査を実施し、障害のある従業員に対する他の従業員の理解を促すために企業が行っている取り組みに注目した。

②障害のある従業員に対し、一緒に働く従業員の理解・配慮が「かなりある」または「ある程度ある」と答えた企業の割合は、どの障害種別においても8割を超えている。ただし、理解・配慮が「かなりある」と答えた割合は、障害種別や企業の従業員数などによって異なる。

③障害のある従業員に対する他の従業員の理解・配慮を促すことが重要であると答えた企業は92.0%にのぼる。しかし、理解・配慮を促すために、最近1年間に他の従業員に対して研修・勉強会等を実施、マニュアル・パンフレット等を配布した企業は、それぞれ22.8%、11.0%にとどまる。

④自由回答結果によれば、上記以外の取り組みとしては、障害の特性や配慮すべき点、障害者雇用の現状・方針などに関する口頭での説明、社内報・社内LANを通じた情報発信などが行われている。また、取り組みを実施・検討する上での課題としては、継続性の確保、多様な障害・職場への対応、参考となる情報の取得、プライバシーへの配慮などがある。

キーワード:職場、定着、理解、配慮

1.調査研究の概要

 企業の障害者雇用をめぐる状況は近年大きく変化している(水野 2015b)。その変化のひとつが、企業で雇用される障害者の増加である。しかし、雇用された障害者が職場に定着するためには、まだ多くの課題があると考えられる。

 高齢・障害・求職者雇用支援機構は、障害者を雇用している企業に対して、雇用した障害者が定着している理由は何だと思うかを質問している。図表1でその結果をみると、1・2位の項目と僅差で、3位に「現場の従業員の理解があるから」(67.6%)があがっている。また、同機構が雇用・就労支援機関(障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所など)に対して、障害者が就職先に定着するために重要だと感じることを質問した結果では、「就職先の現場の従業員の理解」(96.2%)という回答が最も多い(図表2)。つまり、障害者を雇用する側も支援する側も、障害者の定着のためには職場の従業員の理解が重要だと認識している。

 一方、厚生労働省は、雇用される側である障害者に対し、前職の離職理由を質問している。その結果、図表3の通り「職場の雰囲気・人間関係」がいずれの障害種別においても1位か2位となっている。この結果と前述の結果を合わせてみると、職場の従業員の障害者に対する理解の有無が両者の人間関係の良し悪しに影響を与え、さらにそれが障害者の定着に影響しているとも考えられる。

 そこで本稿では、障害者の職場定着を進めるためにはその障害特性や配慮すべき事項、障害者雇用そのものなどに対する従業員の理解を促すことが重要であるという問題意識のもと、企業がそのためにどのような取り組みを行っているかに着目することとした。図表4には、分析に用いた企業対象アンケート調査の概要、図表5には調査に回答した企業の属性や障害者雇用の状況を示す。

 なおこの調査の結果は、別稿(水野 2015b など)でも紹介している。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)
企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)
企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)
企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

2.障害のある従業員に対する理解・配慮をめぐる認識

(1)理解・配慮の程度

 障害のある従業員に対して一緒に働く従業員の理解や配慮はどの程度あると思うか、障害種別に質問した。図表6の通り、どの障害のある従業員に対しても理解・配慮がある(「かなりある」+「ある程度ある」)と答えた割合は8割を超える。回答企業の多くは、障害のある従業員に対する周囲の理解・配慮はあると思っていることがわかる。ただし、この結果はあくまでも企業による評価であり、障害のある従業員の受け止め方と異なる可能性があることには注意が必要である。

 理解・配慮が「かなりある」と答えた割合のみをみると、肢体不自由、視覚障害、知的障害に比べ、内部障害、聴覚障害、精神障害といった外見ではわかりにくい障害における割合がやや低い。後述の理解・配慮を促す取り組みを実施・検討する上での課題に関する自由回答においても「精神障害は障害が目に見えないため取り組みが難しい」との記述があった。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

 図表7をみると、従業員数が999人以下の企業に比べて1,000人以上の企業で、理解・配慮が「かなりある」と答えた割合が低い。従業員数がより多い企業のほうが、障害のある従業員に対する理解・配慮が行き届きにくい、あるいは理解・配慮の状況を把握しにくいと考えられる。

 また、障害者の実雇用率が2.0%未満、障害者雇用に本格的に取り組み始めてからの年数(以下、「障害者雇用への取り組み年数」)が10年未満の企業においても、理解・配慮が「かなりある」と答えた割合が低い場合が多い。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

(2)理解・配慮を促すことの重要性

 障害のある従業員に対する他の従業員の理解・配慮を促すことは、自社にとってどの程度重要だと思うかを質問した。図表8の通り、全体では「重要である」「やや重要である」の割合がそれぞれ63.7%、28.3%であり、両者を合わせると9割を超える。

 一方、「あまり重要でない」「重要でない」の割合はそれぞれ4.6%、0.4%とわずかであった(図表省略)。

 企業の特性別にみると、全従業員数が1,000人以上、障害のある従業員数が10人以上、実雇用率が2.0%以上、障害者雇用を増やす方針である、ダイバーシティの考え方を重視している企業で、重要であると答えた割合が特に高い。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

3.障害のある従業員に対する理解・配慮を促す取り組み

(1)理解・配慮を促す取り組みの現状

 障害のある従業員に対する他の従業員の理解や配慮を促すために、この1年間に研修・勉強会等(以下「研修等」)を実施したことが「ある」と答えた企業の割合(以下「実施割合」)は22.8%、マニュアル・パンフレット等(以下「マニュアル等」)を配布したことが「ある」と答えた企業の割合(以下「配布割合」)は11.0%であり、いずれも高くはなかった(図表9)。また、これらの一方または両方について「ある」と答えた割合も26.6%にとどまった(図表省略)。

 参考までに、筆者が2006年に実施した企業対象の調査で「障害者への理解を促すために従業員に対して行っている啓発・教育活動」について質問した結果をみると、「研修の実施」「マニュアルの配布」と答えた企業はそれぞれ10.7%、4.4%であった(水野2007)。質問方法が異なるため単純には比較できないが、2006年に比べると今回の調査のほうが研修等の実施割合やマニュアル等の配布割合は高いと推測される。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

 企業の特性別にみると、全従業員数や障害のある従業員数が多く、実雇用率が高い企業で、研修等の実施割合やマニュアル等の配布割合が比較的高い。障害のある従業員の数・割合や、ともに働く従業員の数が多いほうが、それらを行いやすいのかもしれない。また、障害者雇用を増やす方針である、ダイバーシティという考え方を重視している、障害のある従業員に対する理解・配慮の促進が重要であると答えた企業においても、研修等の実施割合、マニュアル等の配布割合が比較的高い。障害者雇用への取り組み姿勢との関連がうかがえる。

 研修等を実施した企業、マニュアル等を配布した企業の数は少ないが、参考までにそれらの企業の取り組み状況について図表10に示す。まず、研修等の実施状況についてみると、受講した従業員の立場・部署は「障害のある従業員の上司」「障害のある従業員が配属されている部署の従業員」がそれぞれ半数を超える。「その他の立場・部署の従業員」の回答例としては、「管理職」「新入社員」「人事採用担当者」「全社員」などがある(後述の自由回答結果も参照)。

 研修等を主催した部署は「人事関連の部署」(88.9%)が圧倒的に多い。研修等で行ったことの中で最も多いのは「講師などから話を聞いた」(74.1%)であり、「冊子、パンフレット、DVD などの教材を見た」(40.7%)が続く。研修等で触れられた障害としては、「知的障害」と「精神障害」がそれぞれ約半数を占める。

 また、障害のある従業員が「研修・勉強会等で話をした」「研修・勉強会等の企画・運営に携わった」割合は、それぞれ22.2%、14.8%である。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

 一方、マニュアル等の配布状況についてみると、配布した従業員の立場・部署は、「障害のある従業員の上司」が84.6%を占める。配布したマニュアル等で触れられた障害は、「精神障害」が46.2%で最も多い。障害のある従業員が「マニュアル・パンフレット等で紹介された」「マニュアル・パンフレット等の企画・作成に携わった」割合は、それぞれ23.1%、19.2%である。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

 次に、それぞれの障害のある従業員がいる企業の中で、その障害について研修・マニュアル等で触れられた割合を分析した。図表11の通り、肢体不自由、内部障害、聴覚障害、視覚障害のある従業員がいる企業では、研修等でそれぞれの障害について触れられた割合は1割以下に過ぎない。それらに比べると、知的障害・精神障害のある従業員がいる企業において、研修等でそれぞれ知的障害・精神障害について触れられた割合はやや高いが、それでも2割に達しない。また、マニュアル等においてそれぞれの障害について触れられた割合は1割未満である。障害のある従業員がいても、その障害について研修やマニュアル等で取り上げられることは多くないといえる。

(2)理解・配慮を促す取り組みの具体例

 前述の研修等の実施やマニュアル等の配布を含め、障害のある従業員に対する他の従業員の理解を促すためにこの1年間に行った取り組みについて、自由回答形式で具体的に質問した。その結果を図表12に示す。

 回答が多かったのは、研修等を含む口頭での情報提供・説明である。その対象者や方法、内容は多岐にわたる。障害のある従業員の配属部署が対象の場合、その障害の「特性」や「配慮すべき点」「労務管理上必要な情報」などについて、「研修」「勉強会」「説明会」などの場で、あるいはそれ以外の方法で伝えている。研修等の講師は、社外の支援機関などから招いたり、「産業医」「保健師」が担当したりしている。それ以外の場合には、人事担当者からの情報提供が多いと考えられるが、中には障害者本人が「自身の障害や配慮してほしいこと」について「全体朝礼」の場で伝えたという回答もある。

 障害者の配属先の従業員以外には、「管理職」「部門長」といった役職者、「新入社員」などを対象とした階層別の研修や、「人事部」「店舗」といった特定の部門・職場の従業員対象の研修を実施している。役職者対象の場合、障害者雇用の「あり方」「意義」や「採用活動」など障害者雇用の現状や方針についても伝えている点が、他の対象者の場合とは異なる。一方、若手社員向けの研修には「手話の指導」や「視覚障害の疑似体験」を取り入れた例もある。また、「希望者を対象」とした研修や「全社的な会議」などを通じて、不特定の従業員に向けた情報提供・発信も行っている。

 口頭以外の情報提供手段としては、紙媒体や電子媒体がある。うち、障害特性などについてまとめた「パンフレット」「マニュアル」「レジュメ」は、障害のある従業員の配属先などに配布されている。また、「社内報」「イントラネット」を通じて障害者雇用についての情報をより幅広い従業員に発信したり、「eラーニング」のメニューの1つとして障害者雇用に関する研修機会を設けたりもしている。

 職場実習・インターンシップは、その実施により「障害者に対するイメージを変えることができた」を促すことができたとの回答もある。その他、ジョブコーチ(職場適応援助者)の支援を受けた企業や、社内に相談員を配置するなどの支援体制づくりをした企業もある。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)
企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)
企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

(3)理解・配慮を促すための取り組みを実施・検討する上での課題

 障害のある従業員に対する他の従業員の理解や配慮を促すための取り組みを行ったり検討したりする上での課題を、自由回答形式で質問した。その結果を図表13でみると、研修などを単発ではなく継続して行うこと、多様な障害特性や社内の数多くの事業所・拠点に対応すること、取り組みを行う上で参考となる情報を得ること、障害に関する情報の開示にあたってプライバシーに配慮することなどが、課題としてあげられている。

企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)
企業内の障害者に対する理解促進の取り組み
(画像=第一生命経済研究所)

4.まとめと今後の課題

 障害のある従業員が企業に定着するためには他の従業員の理解・配慮が重要であるという観点から、それを促すための企業の取り組みに注目し、企業対象のアンケート調査を実施した。調査結果では、従業員の理解・配慮を促すことが重要と答えた企業が9割を超えた。

 しかし、そのための取り組みのうち、従業員向けの研修・勉強会やマニュアル・パンフレットの配布は、障害者を雇用している企業においても多くは行われていない。取り組みを実施・検討する上での課題としては、継続性の確保、多様な障害・職場への対応、参考となる情報の取得などが企業から指摘された。

 そういった課題がある中でも、一部の企業は前述の取り組みの他、障害の特性や配慮すべき点、障害者雇用の状況・方針などに関する口頭での情報提供・説明、社内報や社内LAN を通じた情報発信などを行い、障害のある従業員に対する理解・配慮の促進を図っている。これらの取り組みの対象者は、障害のある従業員の配属先の上長や同僚をはじめ、新入社員から管理職、役員まで幅広い層にわたっている。

 それぞれの従業員にとってどのような取り組みが良いかについて、今回の調査のみから明示することはできないが、企業の自由回答であげられた事例は、取り組み方法を検討する上での一助になりうる。例えば、職場実習やインターンシップの受け入れは、障害者と実際に働いたことがなく、かつこれから働く可能性の高い従業員が具体的なイメージを持つためには効果的であろう。一方、社内LAN を用いた情報発信やeラーニングによる研修は、より幅広い従業員の理解促進を目的とする場合には適した方法のひとつと考えられる。

 企業にとっての今後の課題は、まずは障害のある従業員に対する他の従業員の理解・配慮がどの程度あるか、十分かどうかを確認した上で、その状況に応じて取り組みを行うことであろう。一方、障害者雇用の支援機関は、現在でもマニュアルの作成・配布、研修の実施・講師派遣などを通じて障害特性などに関する一般的な情報を企業に提供したり、ジョブコーチとして職場に入り個別のケースに対応したりしているが、こうした支援についての認知を企業に広げたり、支援内容を拡充したりすることが課題といえる。(提供:第一生命経済研究所



〔謝辞〕
アンケート調査にご協力下さった企業の方々に、心より御礼申し上げます。
〔参考文献〕
・厚生労働省,2013,「平成25年度 障害者雇用実態調査」.
・厚生労働省,2014,『平成25年 障害者雇用状況の集計結果』.
・高齢・障害・求職者雇用支援機構,2013,『中小企業における障害者雇用促進の方策に関する研究 調査研究報告書』.
・水野映子,2015a,「雇用する側・される側の双方からみた障害者雇用の課題」『Life Design Focus』.http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/focus/fc1503.pdf
・水野映子,2015b,「企業の障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化」『Life Design Report』(Spring 2015.4).



上席主任研究員 水野 映子
(研究開発室 みずの えいこ)