多くの企業が、障害のある従業員に対する他の従業員の理解・配慮を促すことが重要と考えているが、そのための取り組みは行っていない
第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、従業員数100 人以上の上場企業に対して障害者雇用に関するアンケート調査を実施し、243 社より回答を得ました。
そのうち、障害のある従業員に対する他の従業員の理解・配慮を促すことに対する企業の意識と、そのために企業が行っている取り組みに関する結果をご報告いたします。
本リリースは、ホームページにも掲載しています。 URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year
≪調査結果のポイント≫
障害のある従業員に対する理解・配慮の程度 ● 理解・配慮が「かなりある」「ある程度ある」と答えた企業は8割以上。 ● 「かなりある」と答えた割合は、従業員数が多い企業のほうが低い。
障害のある従業員に対する理解・配慮を促すことの重要性 ● 重要と答えた企業は92%。 ● 全従業員数や障害のある従業員数が多い企業で重要と答えた割合が特に高い。
障害のある従業員に対する理解・配慮を促すための取り組みの現状 ● 研修等を実施した割合は23%、マニュアル等を配布した割合は11%にとどまる。 ● 研修等を実施・マニュアル等を配布した対象者は「障害のある従業員の上司」が最も多い。
≪調査の背景≫
近年、企業で雇用される障害者は増加しています。しかし、雇用された障害者が職場に定着するためには、まだ多くの課題があると考えられます。その課題のひとつが、障害者とともに働く従業員の理解であることが、既存の調査などから示唆されています。
そこで、障害者の職場定着を進めるためには従業員の理解を促すことが重要であるという問題意識のもと、企業がそのためにどのような取り組みを行っているかに着目し、企業を対象とするアンケート調査を実施しました。調査の概要は以下の通りです。
≪調査の概要≫
・調査時期:2014年11月中旬~12月上旬 ・調査対象:従業員数100人以上の上場企業2,882社 ※『会社四季報 CD-ROM』2014年秋号(東洋経済新報社)より該当企業を全件抽出 ・有効回収数(率):243社(8.4%) ・調査方法:郵送配布・郵送回収
※人事部長を通じ障害者雇用担当者(いない場合は人事担当者)に回答を依頼
なお、この調査の別の結果は、以下のニュースリリース、レポートでも紹介しています。
・News Release 2015年4月「上場企業に聞いた『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』 ~障害者雇用を増やす方針の企業は8年前に比べて増加し68%に~」 http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2015/news1504_2.pdf ・Life Design Report 2015年4月「障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化」 http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi//2015/rp1504d.pdf
≪回答企業の特性≫
障害のある従業員に対する理解・配慮の程度
理解・配慮が「かなりある」「ある程度ある」と答えた企業は8割以上。「かなりある」と答えた割合は、従業員数が多い企業のほうが低い。
障害のある従業員に対して一緒に働く従業員の理解や配慮はどの程度あると思うか、障害種別に質問しました。
図表1の通り、どの障害のある従業員に対しても、理解・配慮がある(「かなりある」+「ある程度ある」)と答えた割合は8割を超えています。回答企業の多くは、障害のある従業員に対する周囲の理解・配慮はあると思っていることがわかります。ただし、この結果はあくまでも企業による評価であり、障害のある従業員の受け止め方と異なる可能性があることには注意が必要です。また、理解・配慮が「かなりある」と答えた割合のみをみると、肢体不自由、視覚障害、知的障害に比べ、内部障害、聴覚障害、精神障害といった外見ではわかりにくい障害における割合がやや低くなっています。
図表2で、理解・配慮が「かなりある」と答えた割合を従業員数別にみると、どの障害種別においても999人以下の企業に比べて1,000人以上の企業で低くなっています。従業員数がより多い企業のほうが、障害のある従業員に対する理解・配慮が行き届きにくい、あるいは理解・配慮の状況を把握しにくいと考えられます。
障害のある従業員に対する理解・配慮を促すことの重要性
重要と答えた企業は92%。全従業員数や障害のある従業員数が多い企業で重要と答えた割合が特に高い。
障害のある従業員に対する他の従業員の理解・配慮を促すことは、自社にとってどの程度重要だと思うかを質問しました。
図表3の通り、全体では「重要である」「やや重要である」の割合がそれぞれ63.7%、28.3%であり、両者を合わせると9割を超えます。
また、全従業員数が1,000人以上、障害のある従業員数が10人以上、実雇用率が2.0%以上の企業で、重要であると答えた割合が特に高くなっています。
障害のある従業員に対する理解・配慮を促すための取り組みの現状①
研修等を実施した割合は23%、マニュアル等を配布した割合は11%にとどまる。
障害のある従業員に対する他の従業員の理解や配慮を促すために、この1年間に研修・勉強会等(以下「研修等」)を実施したことや、マニュアル・パンフレット等(以下「マニュアル等」)を配布したことがあるか質問しました。その結果、研修等を実施したことが「ある」と答えた企業の割合は22.8%、マニュアル等を配布したことが「ある」と答えた企業の割合は11.0%にとどまりました(図表4)。
また、研修等を実施したことがある割合やマニュアル等を配布したことがある割合は、全従業員数や障害のある従業員数が少なく、実雇用率が低い企業のほうが、より低くなっています。障害のある従業員の数・割合や、ともに働く従業員の数が少ない企業のほうが、それらを行うことが難しいのかもしれません。
障害のある従業員に対する理解・配慮を促すための取り組みの現状②
研修等を実施・マニュアル等を配布した対象者は「障害のある従業員の上司」が最も多い。
障害のある従業員に対する他の従業員の理解や配慮を促すために、研修等を実施した企業やマニュアル等を配布した企業の数は少ないですが、参考までにそれらの企業の取り組み状況について図表5に示します。
まず、研修等の実施状況についてみると、受講した従業員の立場・部署は「障害のある従業員の上司」「障害のある従業員が配属されている部署の従業員」がそれぞれ半数を超えています。研修等で行ったことの中で最も多いのは「講師などから話を聞いた」(74.1%)です。研修等で触れられた障害としては、「知的障害」と「精神障害」がそれぞれ約半数を占めています。また、障害のある従業員が「研修・勉強会等で話をした」「研修・勉強会等の企画・運営に携わった」割合はそれぞれ22.2%、14.8%です。
次に、マニュアル等の配布状況をみると、配布した従業員の立場・部署は「障害のある従業員の上司」が84.6%を占めています。マニュアル等で触れられた障害は、「精神障害」が46.2%で最多です。障害のある従業員が「マニュアル・パンフレット等で紹介された」「マニュアル・パンフレット等の企画・作成に携わった」割合はそれぞれ23.1%、19.2%です。
≪研究員のコメント≫
障害のある従業員が企業に定着するためには他の従業員の理解・配慮が重要であるという観点から、それを促すための企業の取り組みに注目し、企業対象のアンケート調査を実施しました。調査結果では、従業員の理解・配慮を促すことが重要と答えた企業が9割を超えました。
しかし、そのための取り組みのうち、従業員向けの研修・勉強会やマニュアル・パンフレットの配布は、障害者を雇用している企業においても多くは行われていません。ここでは紹介していませんが、取り組みを実施・検討する上での課題としては、継続性の確保、多様な障害・職場への対応、参考となる情報の取得などが自由回答であげられました。
そういった課題がある中でも、一部の企業は前述の取り組みの他、障害の特性や配慮すべき点、障害者雇用の状況・方針などに関する口頭での情報提供・説明、社内報や社内LANを通じた情報発信などを行い、障害のある従業員に対する理解・配慮の促進を図っていることが、自由回答の結果から明らかになっています。これらの取り組みの対象者は、障害のある従業員の配属先の上長や同僚をはじめ、幅広い層にわたっています。
企業にとっての今後の課題は、まずは障害のある従業員に対する他の従業員の理解・配慮がどの程度あるか、十分かどうかを確認した上で、その状況や対象者に応じて取り組みを行うことでしょう。一方、障害者雇用の支援機関は、現在でも障害特性などに関する一般的な情報を企業に提供したり、個別の職場に対応したりしていますが、こうした支援についての認知を企業に広げたり、支援内容を拡充したりすることが課題といえます。(提供:第一生命経済研究所)
(研究開発室 上席主任研究員 水野映子)
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(津田・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/index.html