第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、全国に勤務する大企業・中小企業勤務者1,440 名を対象に職場でのコミュニケーションについてアンケート調査を行いました。この程、その調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします。
本リリースは、ホームページにも掲載しています。 URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year
≪調査結果のポイント≫
コミュニケーション能力の重要性の認識 ● 重要性の認識が最も高いのは「人に口頭で何かを正確に伝える“話す”能力」
コミュニケーション能力の自己評価 ● 自己評価が最も高いのは「書類やメールなどの文章を“読む”能力」
「読む・書く」能力の重要性の認識と自己評価 ● 読む能力は大企業の女性管理職、書く能力は大企業の男性管理職で自己評価が高い
「話す・敬語を使う・プレゼンテーションする」能力の重要性の認識と自己評価 ● 話す能力の自己評価が低いのは大企業の男性非管理職
「相手の話をきいて理解する・講習や研修をきいて理解する」能力の重要性の認識と自己評価 ● 相手の話を「きいて理解する」能力の重要性認識は高いが、講習や研修などにおいて「きいて理解する」能力の重要性認識は高くない
「空気を読む・情報を共有する」能力の重要性の認識と自己評価 ● 女性で特に重要性認識が高い「空気を読む」能力
「リーダーシップ・自己主張」能力の重要性の認識と自己評価 ● リーダーシップの重要性認識・自己評価ともに最も高いのは大企業の女性管理職
「調整・感情コントロール」能力の重要性の認識と自己評価 ● 社内での意見・見解や方向性を「調整する」能力の重要性認識・自己評価も大企業の女性管理職で最も高い
「共感能力・論理性」の重要性の認識と自己評価 ● 論理性の重要性の認識が最も高いのは大企業の女性管理職だが自己評価が最も高いのは大企業の男性管理職
≪調査実施の背景≫
今日、様々な調査において、仕事上重要な能力の1つとして「コミュニケーション能力」が上位にあげられています。しかし、一言でコミュニケーション能力といっても、企業で求められるそれは多岐にわたり、具体的にどのような能力がどのような人で重要ととらえられ、各人においてそれぞれのコミュニケーション能力が自分にどの程度あると思っているかについてまで明らかにされることは少ないのが現状です。
そこで、2014 年に実施した「職場のコミュニケーションに関する調査」から、仕事上のコミュニケーション能力に関するものについて分析しました。ここでは、職場で必要と考えられるコミュニケーション能力として以下の15 項目をとりあげています。
これらの結果について、企業規模ごとに正規社員・非正規社員別、管理職・非管理職別、性別の比較を行うことで、各コミュニケーション能力の重要性の認識と自己評価の実態を明らかにし、課題の発見を試みました。
≪調査概要≫
1. 調査対象 全国の企業に勤務する20~59 歳の男女1,440 名
2. 調査方法 株式会社クロス・マーケティングのモニターを用いたインターネット調査
3.調査時期 2014 年9月
4. 回答者の主な属性
コミュニケーション能力の重要性の認識
重要性の認識が最も高いのは「人に口頭で何かを正確に伝える“話す”能力」
まず、全体的な傾向をみるために、仕事をする上での各コミュニケーション能力の重要性の認識について、調査対象者全体の回答をみました。
仕事をする上でのコミュニケーション能力の重要性について、「重要である」(「非常に重要である」と「まあ重要である」の合計)が最も高かったのは「人に口頭で何かを正確に伝える“話す”能力」でした(図表1)。これに、「会話において相手の話を“きいて理解する”能力」「筋道をたててわかりやすく物事を伝える“論理性”」「感情的にならずに冷静でいる“感情コントロール”能力」「社内での報告・連絡・相談などにより“情報を共有する”能力」が続いています。「人前で発表したり報告をする“プレゼンテーション”能力」や「グループをまとめる“リーダーシップ”能力」「相手の気持ちによりそう“共感”能力」などは下位に位置しました。
コミュニケーション能力の自己評価
自己評価が最も高いのは「書類やメールなどの文章を“読む”能力」
仕事をする上でのコミュニケーション能力の自己評価について調査対象者全体の回答をみると、「能力あり」(「十分あると思う」と「まああると思う」の合計)とする割合は、上位から「書類やメールなどの文章を“読む”能力」「会話において相手の話を“きいて理解する”能力」「その場の雰囲気を感じとる“空気を読む”能力」などとなっており、「グループをまとめる“リーダーシップ”能力」「人前で発表したり報告をする“プレゼンテーション”能力」「相手を不快にさせずに自分の考えを伝える“自己主張”能力」などは下位に位置しました(図表2)。
「読む・書く」能力の重要性の認識と自己評価
読む能力は大企業の女性管理職、書く能力は大企業の男性管理職で自己評価が高い
「書類やメールなどの文章を“読む”能力」について「非常に重要である」とした人が最も多かったのは大企業の女性非正規社員で、44.2%を占めました(図表3)。これに大企業の女性管理職、大企業の女性非管理職が続いています。一方、読む能力が「十分あると思う」と回答した人は大企業の女性管理職で21.7%であるのに対し、大企業の女性非正規社員と大企業の女性非管理職では15%程度でした。
「書類やメールなどの文章を“書く”能力」について「非常に重要である」と回答した割合は、大企業の男性管理職で44.2%と最も多くなっています。これに大企業の女性管理職、大企業の女性非管理職、中小企業の女性管理職が僅差で続きました。全体として大企業の女性で読む・書く能力を重視する人が多いことがわかります。自己評価は、読む能力とかなり近い傾向を示しており、管理職で比較的高い傾向があります。読む能力・書く能力ともに、自己評価は中小企業の男性非正規社員と中小企業の女性非管理職、大企業の男性非管理職で低くなっていました。
「話す・敬語を使う・プレゼンテーションする」能力の重要性の認識と自己評価
話す能力の自己評価が低いのは大企業の男性非管理職
「人に口頭で何かを正確に伝える“話す”能力」の重要性の認識についてみると、中小企業・大企業ともに女性管理職では6割を超えました(図表4)。大企業の女性非管理職と中小企業・大企業の女性非正規社員でも6割近くに及んでいます。自己評価については、大企業の女性管理職で「十分あると思う」(19.3%)とする割合が最も多くなっている一方で、大企業の男性非管理職では非常に低くなっています。
「話す相手に応じて適切に“敬語を使う”能力」では、中小企業・大企業ともに女性非正規社員で「非常に重要である」とする割合が高くなっていました。自己評価は中小企業・大企業の女性管理職に次いで、中小企業・大企業の女性非正規社員で高いことがわかります。
「人前で発表したり報告をする“プレゼンテーション”能力」についてみると、重要性の認識は大企業の女性管理職で45.0%と高いですが、自己評価は大企業の男性管理職が僅差で最も高くなっています。また、全体的に大企業の女性は「非常に重要である」とする割合が中小企業の女性に比べて高い傾向がありました。
「相手の話をきいて理解する・講習や研修をきいて理解する」能力の重要性の認識と自己評価
相手の話を「きいて理解する」能力の重要性認識は高いが、講習や研修などにおいて「きいて理解する」能力の重要性認識は高くない
「会話において相手の話を“きいて理解する”能力」に対する重要性の認識は、大企業の女性管理職で最も高く、これに中小企業・大企業の女性非正規社員が同割合で続いています(図表5)。重要性の認識が最も低かったのは中小企業の男性管理職でした。自己評価については、大企業の女性管理職で最も高く、これに大企業の女性非正規社員が続きました。
一方、「講習や研修などにおいて“きいて理解する”能力」については、人の話をきいて理解する能力に比べると重要性の認識が全体的に低くなっています。最も高かった大企業の女性管理職においても、その割合は4割程度です。ただし、自己評価については、概ね人の話をきいて理解する能力の自己評価と同程度となっていました。
人とのコミュニケーションにおいて「きく」のと、聴衆の1人として一方向的に発せられる情報を「きく」のとでは、「きく」姿勢において大きな違いがあります。重要性の認識についてはかなりの差があるものの、双方の自己評価に大きな差がないのは、自分に後者の「きく」能力があるかについて、普段あまり意識していないことも影響しているのかもしれません。
「空気を読む・情報を共有する」能力の重要性の認識と自己評価
女性で特に重要性認識が高い「空気を読む」能力
職場においては、「その場の雰囲気を感じとる“空気を読む”能力」も求められます。重要性の認識は、大企業の女性非正規社員、中小企業の女性非正規社員、大企業の女性非管理職、中小企業の女性管理職の順で高く、他の項目で目立っていた大企業の女性管理職が目立たない結果となりました(図表6)。大企業の女性管理職はコミュニケーションに関する多くの項目で重要性の認識が他より高くなっていましたが、空気を読む能力については相対的に高くありませんでした。ただし、自己評価については大企業の女性非正規社員に次いで大企業の女性管理職で高く、能力はあると認識している人は少なくありません。一方、空気を読む能力の自己評価が低いのは、中小企業の男性非正規社員と大企業の男性非管理職でした。
「社内での報告・連絡・相談などにより“情報を共有する”能力」についてみると、大企業の女性では重要性の認識が一様に高いですが、大企業の男性非管理職や男性非正規社員では低くなっています。また、中小企業の男性管理職や男性非正規社員でも重要性の認識の低さが目立ちます。自己評価が低いのは中小企業の女性非管理職と大企業の男性非管理職が同割合で最下位でした。
「リーダーシップ・自己主張」能力の重要性の認識と自己評価
リーダーシップの重要性認識・自己評価ともに最も高いのは大企業の女性管理職
「グループをまとめる“リーダーシップ”能力」については、その性質上、管理職を中心に特に求められる能力ですが、とりわけ大企業の女性管理職では重要性の認識も自己評価も他より高いことがわかりました(図表7)。「十分ある」とする割合は、大企業の女性管理職で2割近くに及びますが、大企業の男性管理職では1割強にとどまっています。また、管理職の予備軍ともいえる非管理職についてみると、中小企業では重要性の認識・自己評価ともに女性よ男性で高いですが、大企業の非管理職では男性より女性で高いとの結果を得ました。
さらに、「相手を不快にさせずに自分の考えを伝える“自己主張”能力」、いわゆる「アサーティブ・コミュニケーション」の能力についてみると、重要性の認識はここでも大企業の女性管理職で突出していました。自己評価は大企業の女性非正規社員で最も高くなっています。大企業の男性非管理職と中小企業の男性非正規社員は、同割合で自己評価が最下位となっており、うまく自己主張をする能力がないと考えている人が多い様子が浮き彫りとなりました。
「調整・感情コントロール」能力の重要性の認識と自己評価
社内での意見・見解や方向性を「調整する」能力の重要性の認識・自己評価も大企業の女性管理職で最も高い
「社内での意見・見解や方向性を“調整する”能力」についてみると、重要性の認識は大企業の女性管理職、大企業の女性非管理職で多く、これに中小企業の女性管理職、大企業の女性非正規社員が続くなど、全体的に女性で高くなっています(図表8)。男性についてみると、大企業の男性管理職が35.0%で男性の中では最も高いですが、それ以外は重要性の認識が低いことがわかりました。自己評価については、中小企業の女性非管理職と大企業の男性非管理職が同割合で最下位でした。
「感情的にならずに冷静でいる“感情コントロール”能力」の重要性の認識については、大企業の女性全般と中小企業の女性非正規社員で特に回答が多くなっています。一方で男性は全体的に重要性の認識が低いのが実態です。自己評価は大企業の女性管理職で最も高く、中小企業の男性非正規社員で最も低くなっていました。
「共感能力・論理性」の重要性の認識と自己評価
論理性の重要性の認識が最も高いのは大企業の女性管理職だが自己評価が最も高いのは大企業の男性管理職
「相手の気持ちによりそう“共感”能力」は、一様に女性より男性で重要性の認識が低く、特に中小企業の男性非正規社員の回答は1割にとどまりました(図表9)。重要性の認識が高かったのは中小・大企業ともに女性非正規社員で、いずれも35%以上でした。自己評価は大企業の女性全般と中小企業の女性非正規社員で高くなっていました。自己評価が最も低いのは大企業の男性非管理職で、能力が「十分ある」と回答した人は1.7%でした。
「筋道をたててわかりやすく物事を伝える“論理性”」についてみると、重要性の認識は大企業の女性管理職で最も高く、6割近くを占めましたが、自己評価としては大企業の男性管理職が最も高く、2割近くが「十分ある」と回答しており、大企業の女性管理職より高い割合を占めました。
≪研究員のコメント≫
今回の結果から、仕事をする上でのコミュニケーション能力について、いくつかの示唆や課題が得られました。まずは、個々のコミュニケーション能力の重要性の認識と自己評価について、随所で属性別に差がみられましたが、特に差が顕著だったのは、大企業の女性管理職と比べて大企業の男性非管理職の値が低かった点です。また、中小企業の非管理職における男女差と比べても、大企業の非管理職における男女差が大きいことがわかりました。非管理職は将来の管理職予備軍ですが、大企業についてみる限り、男性の非管理職の意識が低い点が目立ちます。現在、「女性活用」というスローガンのもと、女性のスキルアップやキャリアアップが注目されていますが、企業を担う次世代の育成としては、男性を中心とするコミュニケーション能力への意識喚起と能力の向上も、今後の企業の重要な取り組み課題であるといえそうです。
また、大企業の女性管理職におけるコミュニケーションの自己評価が高い点についても注視する必要がありそうです。従業員満足度調査などでも、管理職が非管理職に比べてかなり肯定的な職場環境評価をする傾向があり、同一の職場に対する評価に齟齬が生じるケースが指摘されています。今回のコミュニケーション能力の評価はあくまで自己評価であり、実際の能力の有無ではありません。自分のコミュニケーション能力を客観的に評価することは難しいですが、実際の能力の差以外に、過大・過小評価も影響していると推察されます。職場に対する認識のギャップを最小化するためにも、管理職と非管理職、非正規社員の相互理解を促進し、多様な立場の人との活発なコミュニケーションを通じて自己のコミュニケーション能力を多方面から客観視できる職場環境が求められます。
さらに、プレゼンテーションや自己主張といった能力に対する重要性の認識があまり高くなかった点も今後の課題といえそうです。本稿で国際比較はできませんが、日本人の性質上、自分を打ち出すことを美徳としてこなかったコミュニケーションスタイルが、今も積極的な発言を阻んでいるように思われます。周囲との軋轢を最小限にしつつ、きちんと発言ができる環境を形成し、業務遂行や人間関係形成において必要な情報発信をすべきであるとの認識を持つ人が増えることで、職場のコミュニケーションも活性化されるのではないでしょうか。
職場において必要とされるコミュニケーション能力は、業界・業態や男女比率などの各職場の特性に応じて様々であり、今回の調査結果が各職場にそのまま当てはまるものではありませんが、まずはこれらの実態について各職場で意識をし、それぞれのコミュニケーション能力の見直しと能力開発の再検討を行っていくことで、従業員満足度の向上や職場のコミュニケーションの円滑化が見込めるのではないでしょうか。(提供:第一生命経済研究所)
(研究開発室 上席主任研究員 宮木由貴子)
㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 広報担当(津田・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/index.html