2014年9月に、全国の企業勤務者1,440人(中小企業・大企業それぞれ720人)を対象に「職場のコミュニケーションに関する調査」を実施した。本稿はその中から、育児休暇・介護休暇の取得に対する考え方と、取得した人に対する意識についてたずねたものを紹介する。
<女性で高い利用意識>
「会社における『育児休暇』や『介護休暇』について、あなたはご自分についてどのようにお考えですか(お考えでしたか)」との問いに対する回答は、図表1のとおりである。育児や介護が必要ないという人も「ある」と仮定して回答してもらった。
全体的に、「必要に応じて積極的に制度を活用したい/活用した/活用するべき」との回答は、男性より女性で多い。また、中小企業の男性非正規社員の人で「制度自体がない/制度が機能していない」とする回答が多い(「制度自体がない」という状態は現行法上は存在しないことになるが、自分の会社には制度がないという認識をしている人が少なくないため選択肢として設けている)。
また、「制度を活用したいと思うが、仕事にブランクをあけたくないので、実際は活用しない/活用しなかった/活用するべきではない」とする割合は、管理職の男性で他の属性よりやや高かった。
いずれにしても、「活用したい」(「必要に応じて積極的に制度を活用したい/活用した/活用するべき」と「周囲の目や評価が気になるができれば活用したいと思う/活用した/活用するべき」の合計)とする割合は全体的にみて高いことがわかる。
<育児休暇取得者に不満を感じている人は正規社員の女性で多い>
職場における育児休暇取得者に対して不満を感じるかどうかを尋ねたところ、大企業・中小企業ともに正規社員では、男性より女性で「不満を感じる(感じた)」(「不満を感じる(感じた)」と「どちらかといえば不満を感じる(感じた)」の合計)とする割合が高いことが明らかとなった(図表2)。
一方で、介護休暇取得者に対して不満を感じるかどうかについてみると、全体的に育児休暇の取得者に対する不満よりも低い傾向を示した(図表省略)。家族のケアという点においては育児休暇と性質が近い休暇といえるが、取得者に対する不満の様子は育児休暇とは異なるようである。現状では育児休暇の取得者に比べて介護休暇の取得者のほうが少なく、職場の人の取得経験が多くないことも影響していると考えられる。
<何がどう不満なのか ~自由回答より~>
では、育児や介護をしている人が休暇をとることについては具体的にどのような点が不満に感じられているのだろうか。
自由回答結果から、不満を内容別にグループ化すると、まず①業務上の支障と、②マネジメントへの不満や要望があげられる。また、心理的な側面が強調されたものとして、③休暇取得者による周囲への配慮不足、④コミュニケーション、⑤普段の業務態度があげられており、休暇を取得する人がどのような人なのかによって不満を感じたり感じなかったりする様子も示された。さらに、⑥非正規社員の視点からも示唆に富む意見が散見された。
①から⑥それぞれの具体的な意見の例は、以下のとおりである(ほぼ原文のまま抜粋しているが、明らかな誤字やわかりにくい部分についてのみ修正・補足をしている)。
① 業務上の支障
・少人数で現場をこなしている状態なので、一人でも抜けられると現場の進行の妨げになる(中小企業・管理職・男性・55歳)
・ミーティングの時間を合わせなければいけないのが、時々不満に思った(中小企業・管理職・女性・39歳)
・大変だと思うが、仕事が中途半端なうえ、お願いして帰ってしまう。他の人が大変(中小企業・管理職・女性・43歳)
・他の人に仕事の負担が増えるのが納得できない。お給料はそのままなので(中小企業・非正規社員・女性・38歳)
・理解できるし、しかたないと思うが、その代わりに、他の社員に負荷がかかることについて不公平感を感じることがある(大企業・管理職・女性・40歳)
・制度の利用是非はともかく、自分の担当している仕事は何らかの形で片付けてほしい。周囲の同僚に一方的に負担をかけることがないよう、自覚はしてほしいと思う(大企業・管理職・女性・41歳)
・基本的に、甘い考えがあると思う。自分自身の取得する休暇ではなく、仕事中を任せられる人や機関があれば、そこに雇用も生まれるだろうし、仕事にも専念できると思う(大企業・管理職・女性・42歳)
② マネジメントへの不満・要望
・休暇を取得する本人がマイナス評価されない分、カバーした人にプラス評価をするべきだと思う(大企業・管理職・女性・46歳)
・育児や介護は男女関係なく人生の家庭で起こる状況であり、休暇はとるべきだと思う。問題なのは、取った人自身ではなくそれをカバーできる環境が作れるかどうか?である(大企業・管理職・女性・52歳)
・育児休暇を取得した場合、取得せずに働いている人との評価を明確にしてほしい。休暇を取っている人が優遇されるのは全く納得がいかない、モチベーションが下がる(大企業・管理職・女性・54歳)
・その人たちには(何も)思わないが、会社に人員の増強を願いたい(大企業・非正規社員・男性・37歳)
・誰にでもあることだし、仕方の無いことだとは理解しますが、長期的かつ恒常的となるならば責任者の立場で一旦人事部預かりにするなどしないと、職場の秩序が乱れると感じます(大企業・非正規社員・女性・51歳)
③ 休暇取得者における周囲への配慮不足
・仕方がないことではあるが、当たり前のように休暇を取るのではなく出勤時に挽回する意識がないと周りからの批判をかう(中小企業・管理職・女性・45歳)
・子どもがいるのだから、当たり前という態度を感じた。休暇明けの出社時に部長にしか、「すみませんでした」と言わない(中小企業・管理職・女性・54歳)
・それを当たり前のような顔をされるのはやはり気分がよくない。とにかく人間性が大事(中小企業・非正規社員・女性・37歳)
・自分勝手だと思ったことがある(中小企業・非正規社員・女性・39歳)
・部下がこういった制度を使うのに遠慮しているのに、上司である立場でありながら平気で制度を利用する自己中心的な考えの社員が存在するということ(大企業・非管理職・男性・49歳)
・制度があるので取るのはいいのだが、その制度の恩恵にあずかれる立場の人はいつも私より待遇が良く、年収も高い。やってる仕事は私におしつけて(大企業・非管理職・女性・43歳)
④ コミュニケーション
・その人の仕事を引き継げるように、日頃から情報共有しておいたり、共有の仕方を決めておくといいなあと思った(中小企業・管理職・女性・32歳)
・日頃の人間関係をよくしておくとスムーズに取得できるのでは?(中小企業・管理職・女性・43歳)
・万が一の事態に備えてTo Do リストを作成したり、同僚たちと情報を共有している。普段のコミュニケーションがきちんと取れている人なら突然の休みで、同僚の分もこなそうという気持ちになるが、そうでない人ならあまり良い気持ちはしない。すごく忙しい時は余裕がな くなり、恨めしく思うときもあるが仕方がない(中小企業・非管理職・女性・34歳)
・私も急な事情で休んだりするので周りがサポートするのは当然だと思う。休む人の日頃の仕事の取り組み方や周りとの人間関係の築き方によっては反感をかうと思うので、その人次第だと思う(中小企業・非正規社員・女性・36歳)
⑤ 普段の業務態度
・普段からちゃんと仕事ができる人については不満はないが、ろくろく仕事しないで文句ばかり言うくせに休みだけは一人前に取る人には反発を感じる。結局はその人の普段の働きぶり次第(大企業・管理職・男性・51歳)
・休暇を取ること自体ではなくその人のこれまでの仕事に対する姿勢が問題(大企業・非正規社員・女性・38歳)
・普段きちんと勤めていて、なおかつ謙虚な人には協力したいと思う。その逆には不満を感じる(大企業・非正規社員・女性・41歳)
⑥ 非正規社員の視点
・正社員の人は自由に取得活用していますが自分の職場は契約社員の人のみ自由にとれてない不自由差(原文ママ)がある。不満(中小企業・非正規社員・男性・56歳)
・休暇明けに、仕事をもってかれるのがいや(中小企業・非正規社員・女性・24歳)
・その人が正社員ならば、“社員はいいな”と思います(中小企業・非正規社員・女性44歳)
<制度の整備だけでは回せない職場の実態に対策を>
これらの結果から、企業規模や性別、職位に加え、個々の職場の事情や人間関係によって、育児・介護休暇の取得者に対する意識も様々であることが明らかとなった。休暇制度の整備は進んだものの、現実には、育児・介護休暇の取得を当然ととらえない企業の風土や雰囲気がまだある。それゆえに、企業側と育児や介護で休暇を取得する側の双方が対応を考え直してみる必要があるだろう。
まず、企業側としては、業務上の不公平感の解消に向けた対策が必要である。例えば、いわゆる「イクボス」(育児を支援するボス)が気持ちよく休暇取得者を送り出したとしても、不在中の業務のカバーをするのは同僚や部下であるケースが少なくない。
休暇取得者の業務については、周囲が暗黙の了解でカバーするという形ではなく、状況や必要に応じた柔軟な人員配置や対策・配慮を実施することが企業側にも求められる。マネジメント不足によって従業員の間に不公平感が生じることは、業務遂行や職場の雰囲気にも支障をきたすことになりかねない。イクボスには休暇取得者をフォローしているスタッフに対しても、きめ細かい目配りや気配りが求められるのである。
一方で、育児や介護で休暇を取得する人においては、周囲への配慮やコミュニケーションが必要である。休暇の取得は権利とはいえ、実際に休むにあたっては、業務分担や指示・連絡などといった、周囲を巻き込んだ対応が必要となる。休暇を取得する人とそうした人たちをフォローする職場のスタッフの双方が気持ちよく業務を遂行するには、相互理解が必要である。休暇を取得する人は、引継ぎや申し送りといった業務上のコミュニケーションだけでなく、積極的に依頼や挨拶、御礼、必要に応じた自分の状況説明を行い、周囲の理解の下、協力やフォローを受けられるような環境づくりに自ら努める必要がある。
性・雇用形態など、職場の構成員が多様化した今日、自分と異なるライフスタイルに対する理解は難しくなる一方である。職場で最低限の相互理解がなければ、互いの行動の意図やパターンもわからず、ストレスは増大するだろう。育児中・介護中といった、時間の制約がある人を含め、職場のコミュニケーション機会をいかに確保するかが今後の課題である。(提供:第一生命経済研究所)
【筆者の関連レポート】 「職場でのコミュニケーションの現状と課題 ― 性・雇用形態・職位の違いによるギャップ ―」2015年4月 (http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2015/rp1504b.pdf) 「職場のランチ・飲み会はどう評価されているか」2015年2月 (http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/watching/wt1502a.pdf)
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 宮木 由貴子 (みやき ゆきこ 上席主任研究員)