第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、従業員数100 人以上の上場企業に対して障害者雇用に関するアンケート調査を実施し、243 社より回答を得ました。そのうち、障害者雇用に対する取り組み姿勢についての結果を、2006 年に実施した調査の結果と比較しながらご報告いたします。

 本リリースは、ホームページ (URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year) にも掲載しています。

≪調査結果のポイント≫

雇用している障害者の数
● 障害者を雇用している割合は、どの障害種別においても8年前より上昇。
特に、精神障害者では42ポイント増。

障害者雇用に本格的に取り組み始めてからの年数
● 取り組み始めてから10年に満たない企業が過半数。
● 従業員数の多い企業のほうが、取り組み始めてからの年数が長い。

障害者雇用の方針
● 障害者雇用を「増やす」と答えた企業は68%であり、8年前より14ポイント増加。
● 実雇用率(雇用している障害者の割合)が法定雇用率以上でも障害者雇用を「増やす」と答えた企業は多い。

障害者雇用等にかかわる考え方
● 「ダイバーシティ」という考え方を重視している企業の割合は67%であり、8年前に比べて30ポイント近く増加。

障害者雇用等にかかわる考え方と障害者雇用との関係
● 「ダイバーシティ」という考え方を重視している企業では、実雇用率(雇用している障害者の割合)が高い。

本リリースは、当研究所から季刊発行している『Life Design Report』(Spring 2015.4)に掲載したレポート「企業の障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化」をもとに作成したものです。当該レポートは、ホームページ(http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi//2015/rp1504d.pdf )にて全文公開しています。

≪調査の背景≫

 企業の障害者雇用をめぐる状況は近年変化しています。当研究所では2006年に上場企業を対象とする障害者雇用に関するアンケート調査を実施しましたが、この調査時点から現在までの間にも、障害者雇用に関する法制度や障害者雇用の実態は大きく様変わりしました。

 例えば、法律により民間企業に義務付けられている障害者の法定雇用率*は、2006年時点では1.8%でしたが、2013年4月からは2.0%となりました。また、2006年から2014年の間に、民間企業で雇用されている障害者数は1.5倍程度になり、その数が常用労働者総数に占める割合(実雇用率)も1.52%から1.82%に伸びました。今後は2016年4月の改正障害者雇用促進法の施行に向けて、障害者雇用の状況はますます変化することが予想されます。

 こうした動きを背景に、企業の障害者雇用に対する取り組み姿勢や考え方は過去からどのように推移し、現在どのような状況にあるのか、そして今後どのような方向に向かっているのかなどを明らかにするため、2006年とほぼ同様の方法で2014年にアンケート調査を行いました。ここでは、両調査の結果の一部を紹介します。

* 障害者雇用促進法は、事業主に対し常用労働者の一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇うことを義務付けている

≪調査の概要≫

 2006年と2014年に実施したアンケート調査(以下それぞれ「2006年調査」「2014年調査」と表記)の概要は以下の通りです。

上場企業に聞いた 『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』
(画像=第一生命経済研究所)

≪回答企業の特性≫

上場企業に聞いた 『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』
(画像=第一生命経済研究所)

雇用している障害者の数

障害者を雇用している割合は、どの障害種別においても8年前より上昇。
特に、精神障害者では42 ポイント増。

上場企業に聞いた 『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』
(画像=第一生命経済研究所)

 2014年調査の回答企業が雇用している障害者の数を図表1に示します。まず障害者の総数をみると、障害者が0人、すなわち障害者を全く雇用していない企業は2.5%のみであり、10人以上雇用している企業が6割近くなっています。従業員数別にみると、100~999人の企業では障害者数1~9人が約4分の3ですが、1,000人以上の企業では障害者数10人以上が大半を占めています。

 なお、図表は省略しますが、2006年調査において障害者を全く雇用していないと答えた企業の割合は、2014年調査より高く5.7%でした。

 次に障害種別にみると、2014年調査で1人以上雇用している割合が最も高いのは、肢体不自由者(84.0%)、最も低いのは視覚障害者(35.4%)となっています。知的障害者・聴覚障害者・精神障害者を1人以上雇用している割合はそれぞれ5割強でほとんど違いませんが、知的障害者を10人以上雇用している割合(16.0%)は聴覚障害者・精神障害者を10人以上雇用している割合(それぞれ9.5%、8.6%)より高くなっています。知的障害者は一企業で雇用されている数が聴覚障害者・精神障害者に比べてやや多いことがわかります。

 2006年調査と比べると、障害者を1人以上雇用している割合はどの障害種別においても2014年調査のほうが高いです。中でも精神障害者を1人以上雇用している割合は、40ポイント以上増えました。

障害者雇用に本格的に取り組み始めてからの年数

取り組み始めてから10 年に満たない企業が過半数。
従業員数の多い企業のほうが、取り組み始めてからの年数が長い。

上場企業に聞いた 『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』
(画像=第一生命経済研究所)

 障害者を雇用している企業に対して、障害者雇用に本格的に取り組み始めてからの年数を尋ねた結果を図表2に示します。

 全体では、「本格的に取り組んだことはない」「3年未満」「3年以上5年未満」「5年以上10 年未満」と答えた企業の割合を合わせると52.3%となります。つまり、過半数の企業は10 年前には障害者雇用にまだ本格的に取り組んでいなかったことがわかります。一方、取り組み始めてから10 年以上(「10 年以上20 年未満」+「20 年上」)の企業は32.5%です。

 従業員数別では100~999 人より1,000 人以上の企業のほうが、実雇用率別では2.0%未満より2.0%以上の企業のほうが、取り組み始めてからの年数が長くなっています。

障害者雇用の方針①

障害者雇用を「増やす」と答えた企業は68%であり、8年前より14 ポイント増加。

上場企業に聞いた 『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』
(画像=第一生命経済研究所)

 全ての企業に対して、今後の障害者雇用の方針を尋ねました。

 図表3をみると、2014 年調査では「増やす」と答えた企業が68.3%を占め、「現状維持」が25.9%、「未定」が4.9%となっています。「減らす」と答えた企業はありません。

 2006年調査に比べると、「増やす」の割合が13.6ポイント上がり、「現状維持」「未定」の割合が下がっています。障害者雇用を増やす方針を示す企業が、8年間で大幅に増えたことがわかります。

障害者雇用の方針②

実雇用率(雇用している障害者の割合)が法定雇用率以上でも障害者雇用を「増やす」と答えた企業は多い。

上場企業に聞いた 『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』
(画像=第一生命経済研究所)

 次に、障害者雇用を増やすと答えた企業の割合を、従業員数別および実雇用率(雇用している障害者の割合)別に図表4に示します。

 従業員数別にみると、2014年調査においては、499人以下の企業では約半数、500~999人の企業では68.4%、1,000人以上の企業では78.0%が増やすと回答しています。2006年調査と比べると、どの従業員数の企業においても増やすと答えた割合は高いですが、特に500人 以上の企業で2006年調査との差が大きくなっています。

 また実雇用率別にみると、2014年調査では、増やすと答えた割合は実雇用率1.5~1.8%の企業で81.3%と最も高いですが、実雇用率2.0~2.2%の企業においても68.4%とかなり高くなっています。一方、2006年調査を振り返ると、実雇用率が1.8%以上、すなわち当時の法定雇用率以上の企業は、2割台しか障害者雇用を増やすと答えていません。2006年調査に比べて2014年調査の回答企業は、実雇用率が法定雇用率以上になっても、障害者の雇用を増やす意向が強いことがわかります。

障害者雇用等にかかわる考え方

「ダイバーシティ」という考え方を重視している企業の割合は67%であり、8年前に比べて30 ポイント近く増加。

上場企業に聞いた 『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』
(画像=第一生命経済研究所)

 障害者雇用に対する取り組み姿勢を含めた、企業の方針や理念を示すキーワードとしてしばしば用いられる「ダイバーシティ」「ノーマライゼーション」「CSR」を取り上げ、これらの考え方をどの程度重視しているか尋ねました。

 その結果を図表5でみると、2014年調査において、重視している(「重視している」+「どちらかといえば重視している」)と答えた割合は、それぞれ67.1%、56.4%、86.8%となっています。

 これらの割合は2006年調査と比べるとどれも高いですが、特に2006年調査との差が大きいのはダイバーシティです。2014年調査においてダイバーシティを重視している割合は、2006年調査より28.7ポイントも高く、ノーマライゼーションを重視している割合を上回りました。ダイバーシティという考え方が企業に広く浸透したことがうかがえます。

 なお図表は省略しますが、2014年調査では従業員数が多い企業ほどいずれの考え方も重視している割合が高くなっています。2006年調査では1,000人以上の企業でのみダイバーシティやノーマライゼーションを重視している割合が高かったですが、2014年調査ではその傾向がみられませんでした。

障害者雇用等にかかわる考え方と障害者雇用との関係

「ダイバーシティ」という考え方を重視している企業では、実雇用率(雇用している障害者の割合)が高い。

上場企業に聞いた 『障害者雇用に対する取り組み姿勢の現状と変化』
(画像=第一生命経済研究所)

 次に、それぞれの考え方と障害者雇用との関係を探るため、それぞれの考え方の重視度別に実雇用率(雇用している障害者の割合)を分析しました。その結果を図表6に示します。

 これをみると、実雇用率が高い企業、例えば実雇用率2.0%以上の企業の割合は、それぞれの考え方を重視していない企業より重視している企業のほうが高いですが、CSRの重視度による差よりノーマライゼーションの重視度による差のほうが大きく、さらにはそれらよりダイバーシティの重視度による差のほうが大きくなっています。つまり、企業におけるダイバーシティの重視度は、ノーマライゼーションやCSRの重視度以上に、障害者雇用と関連している可能性が高いと考えられます。

≪研究員のコメント≫

<障害者雇用への本格的な取り組みを始めていない企業が過半数だった10 年前>
 今回は、2014年に実施した上場企業対象の調査をもとに、障害者雇用に対する取り組み姿勢や考え方の現状を明らかにしました。また、この調査結果と2006年に実施した同様の調査の結果を比較することにより、その間の変化も探りました。

 2014年の調査において、障害者雇用に本格的に取り組んだことはない、または取り組み始めてからの年数が10年に満たないと答えた企業は半数を超えています。すなわち、2006年に調査を実施した時期には、かなりの割合の企業が障害者雇用にまだ本格的に取り組んでいなかったか、取り組み始めてから間もなかったといえます。

<法定雇用率以上になっても障害者雇用を増やす方針に>
 その2006年から8年が経過し、企業の障害者雇用は著しく拡大しました。また、障害者雇用を今後増やす方針であると答えた企業の割合も高くなりました。

 注目すべきは、実雇用率(雇用している障害者の割合)が2.0~2.2%の企業も、7割近くが障害者雇用を増やす方針を示したことです。つまり、実雇用率が現在の法定雇用率2.0%以上になっても、障害者雇用を増やそうとしている企業は少なくありません。障害者の法定雇用率は2013年度に1.8%から2.0%に引き上げられましたが、法定雇用率が今後さらに引き上げられると予測している企業もあると想定されます。

<ダイバーシティの理念の浸透と障害者雇用との関係>
 企業経営におけるダイバーシティという考え方は、障害者、女性、外国人など多様な人材の活用という文脈でしばしば用いられます。この考え方を重視している企業の割合は、2006年から2014年の間に大幅に増えました。

 2014年の調査においてダイバーシティを重視していると答えた企業は、実雇用率が高い傾向にあります。ダイバーシティの理念が、企業の障害者雇用の促進に少なからず影響を与えている可能性が考えられます。


(研究開発室 上席主任研究員 水野映子)

㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(津田・新井)
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