首都圏・近畿圏在住の子どものいる専業主婦1,000 名に聞いた『女性の就労・社会参加に関するアンケート調査』より
第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、首都圏・近畿圏在住の子どものいる専業主婦1,000 名を対象に、就労や社会参加に対する意識を明らかにするためにアンケート調査を行いました。この程、その調査結果がまとまりましたのでご報告いたします。
本リリースは、ホームページ(URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/cgi-bin/dlri/ldi/total.cgi?key1=n_year )にも掲載しています。
≪調査結果のポイント≫
収入を得る仕事をしていない理由 ● 30代、40代は子育て・家事のため、50代、60代は健康・体力面の理由が多い。
就労しないことの不安 ● 30代と40代では5割前後が「現在の家計維持が心配である」と「老後の生活資金の準備ができない」に回答。
就労・社会参加の経験と今後の意向 ● 自宅の近くの企業(商店を含む)に就労意向のある人は39.2%。
希望する働き方 ● 「収入はほどほどでよく、適度に働きたい」が約9割。 ● 「自分の住んでいる地域で働きたい」が約8割。
希望する年収 ● 年収100 万円以下(所得税、住民税を負担しない範囲)で働くことを希望している人が約8割。
就労・社会参加にあたって重視すること ● 地域活動に参加意向のある人は、「地域社会の役に立てること」「自宅の近くで働けること」を重視している。
税制等における専業主婦優遇制度に関する意見 ● 「税金や社会保険料の控除の制度は現行通りあった方がよい」が71%。
本リリースは、当研究所から季刊発行している『Life Design Report』(Spring 2015.4)に掲載したレポート「女性の活躍推進の多様なあり方」をもとに作成したものです。当該レポートは、ホームページ(http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi//2015/rp1504c.pdf )にて全文公開しています。
≪調査実施の背景≫
わが国は、少子高齢化による労働力人口の減少が進む中、女性の活躍推進により経済成長を目指しています。しかし、出産後も就業継続を志向する女性は多くありません。
他方、核家族化や地域コミュニティの希薄化などにより、地域社会において子育てや介護の悩み・不安を共有し助け合ったりする機能が失われつつある中で、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動が注目されています。その主な担い手として、結婚や出産を機に退職した無職の既婚女性など、地域の多様な人材が期待されています。
こうした中、当研究所では、子どものいる無職主婦を対象に「女性の就労・社会参加に関するアンケート調査」を実施し、民間企業への就労意向のみならず、地域における住民同士の助け合い機能を代替する地域活動などへの参加意向等についての意識をたずねましたので、その結果を紹介します。
≪調査概要≫
1. 調査対象 30~69 歳で首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)と近畿圏(京都、大阪、兵庫)の都府県に住み、既婚(有配偶)で子どもをもつ無職の女性1,000 人(30 代、40 代、50 代、60 代それぞれ250 人ずつの割付をおこなった)
2. 調査方法 インターネット調査(株式会社クロス・マーケティングのモニター)
3. 調査時期 2014 年10 月
収入を得る仕事をしていない理由
30 代、40 代は子育て・家事のため、50 代、60 代は健康・体力面の理由が多い。
現在、収入を得る仕事をしていない理由をたずねたところ、年代によって回答傾向が異なり、30 代と40 代は子育てや家事を理由とする回答が多い結果となりました。中でも「子育て・家事に専念したいから」や「子どもと過ごす時間が減るから」など、子育てや家事を優先する生活を積極的に選んでいると思われる回答が目立ちます(図表1)。女性の就労促進が期待されている一方で、子育てや家事をおろそかにしたくないという思いを持つ女性も依然として一定程度存在していることがわかります。女性の活躍推進のためには、子育てや家事を重視したいという女性の思いを尊重しながらも、女性の社会的活躍の場を広げていくような方策が求められます。
他方、50 代以上は自分の健康・体力に自信がないことや、そもそも働く必要性を感じていないことを挙げる人が多くなっています。年代が高い人の方が暮らし向きについて「ゆとりがある」と回答した割合が高く(図表省略)、生活のゆとり感と働く意識は関係していることがうかがえます。
就労しないことの不安
30 代と40 代では5割前後が「現在の家計維持が心配である」と「老後の生活資金の準備ができない」に回答。
このまま就労をしない日々が続くことに対してはどのように思っているのでしょうか。就労しないことの不安をたずねたところ、前述の収入を得る仕事をしていない理由と同様、年代によって回答傾向が異なります。30 代と40 代では「現在の家計維持が心配である」と「老後の生活資金の準備ができない」に5割前後が回答しています(図表2)。就労していないことが、現在の家計維持のみならず、老後の生活資金の準備にも影響を与えることを心配している人が多いことがうかがえます。
他方、50 代と60 代では「特に不安はない」が最も高く、50 代は約半数、60 代では7割を超えています。ただし、いずれの年代も第2位が「老後の生活資金の準備ができない」であり、50 代では約3割が回答しています。
年代によって程度の差はあるものの、現在就労していないことが老後の生活資金に影響を与えることを不安に思っている女性が少なからずいることが浮き彫りになりました。
就労・社会参加の経験と今後の意向
自宅の近くの企業(商店を含む)に就労意向のある人は39.2%。
図表3は、これまでに民間企業での就労や、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動(子育て支援、家事援助、介護など)をおこなったことがあるかどうかをたずねた結果です。本調査の対象は、2014 年10 月の調査実施時点で民間企業や国、地方公共団体などで正規・非正規を問わず働いていない人ですので、育児休業等の休職者は含まれていません。そのため、①自宅の近くの民間企業(商店を含む)や②自宅の近くでない民間企業に「ⓐ現在、参加している」と回答する人はいません。今後、就労意向がある人に着目すると(図表3のⓑ+ⓓ)、①自宅の近くの民間企業(商店を含む)に就労意向のある人は39.2%、②自宅の近くでない民間企業に就労意向のある人は24.1%です。同じ民間企業でも、自宅の近くでない企業よりも、自宅の近くの企業の方が就労意向が高いです。
他方、先述のように、核家族化や地域コミュニティの希薄化により、不安を感じながら子育てしている人々や、単身で生活をする高齢者などに対する支援の必要性から、市区町村社会福祉協議会、ファミリーサポートセンター、NPO法人、ボランティアグループ等が提供する生活支援サービスの充実が求められています。その担い手として、女性や高齢者をはじめ地域に住む様々な人々が期待されています。こうした背景から本調査では「働く」ということを広義で捉え、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動(子育て支援、家事援助、介護など)における「社会参加」も含めました。これらの地域活動(図表3の③~⑥)それぞれの参加経験及び意向をみますと、参加したことがある人はいずれも2%前後に留まっています。しかし今後参加したいと思う人の割合は約1割から2割であり、今後の参加意向が経験率を大きく上回っています。
希望する働き方
「収入はほどほどでよく、適度に働きたい」が約9割。「自分の住んでいる地域で働きたい」が約8割。
今後、就労・社会参加したいと思っている人に、どのような働き方を希望するかをたずねたところ、「高い収入を得るために長時間働きたい」(Aの意見:「Aに近い」と「どちらかといえばAに近い」の合計、以下同様)に近い人は10.9%であるのに対し、「収入はほどほどでよく、適度に働きたい」に近い人(Bの意見:「Bに近い」と「どちらかといえばBに近い」の合計、以下同様)は89.1%です(図表4)。ほどほどに働きたいと思っている人の方が圧倒的に多いことがわかります。
勤務形態についての意見は、「正社員・正職員にこだわりたい」(Aの意見)が13.0%であり、「正社員・正職員にこだわらず、パートやアルバイトでもよい」(Bの意見)が87.0%です。9割近くの人がパートやアルバイトでもよいと思っています。
働く場所については、「自分の住んでいる地域で働きたい」(Aの意見)が78.0%であり、「働けるのであれば、場所は問わない」(Bの意見)の22.0%を大きく上回っています。これから働こうと思っている人の多くは、自分の住んでいる地域でほどほどに働きたいと思っていることがうかがえます。
希望する年収
年収100 万円以下(所得税、住民税を負担しない範囲)で働くことを希望している人が約8割。
「収入はほどほどでよい」と思っている人が多い結果でしたが、実際に、どのくらいの収入を得たいと思っているのでしょうか。
今後、就労・社会参加をしたいと思っている人に、就労・社会参加により得られる収入の希望額をたずねたところ、年収100 万円以下、すなわち所得税、住民税を負担しない範囲で働くことを希望している人が約8割を占めています(図表5)。
ただし、希望する働き先によって希望収入額も異なっており、民間企業に就労希望の人は48.6%が「年収60万円以上100万円以下」と回答しています。
これに対して地域活動に参加希望の人は「収入はいらない(無償でよい)」が21.6%であり、収入を得ることを希望する人でも「月に2万円以上5万円未満」が32.4%、「月に2万円未満」が27.0%と、8割を超える人が月に5万円未満と回答しています。
就労・社会参加にあたって重視すること
地域活動に参加意向のある人は、「地域社会の役に立てること」「自宅の近くで働けること」を重視している。
今後、就労・社会参加したいと思っている人に、就労・社会参加するにあたって何を重視したいかをたずねた結果が図表6です。この点も希望する働き先によって回答傾向が異なります。
①自宅の近くの民間企業(商店を含む)に就労意向のある人は「自宅の近くで働けること」の回答割合が最も高く、次いで「自分の好きな曜日、時間帯、時間数で働けること」が高いです。収入よりも働く場所や時間を重視している人が多いことがわかります。
②自宅の近くでない民間企業に就労意向のある人は「多くの給料がもらえること」の回答割合が最も高く、次に「自分の好きな曜日、時間帯、時間数で働けること」が続きます。自宅に近いことにこだわらない場合は、収入を重視する人が多い傾向があります。
③から⑥の地域活動に参加意向のある人は、回答傾向が似ており、いずれも「地域社会の役に立てること」や「自宅の近くで働けること」が上位を占めています。収入よりも地域社会の役に立つことや働く場所を重視する人が多いです。
税制等における専業主婦優遇制度に関する意見
「税金や社会保険料の控除の制度は現行通りあった方がよい」が71%。
これから働こうとしている人に、現行制度と働き方の意識をたずねた結果、「社会保険料を払うのはもったいないので、年収(労働時間)を抑えて働きたい」(Aの意見)に近い意見の人は78.6%であり、「自分で社会保険料を払ってでも、収入(労働時間)の調整をせずに働きたい」(Bの意見)の21.3%を大きく上回っています(図表7)。現行の厚生年金の第3号被保険者等の制度が適用される範囲内で働くことを考えている人が多いです。そして、こうした税金や社会保険料の控除の制度は「現行通りあった方がよい」(Bの意見)に近い意見の人が71.0%であり、「撤廃すべきである」(Aの意見)の28.9%を大きく上回っています。多くの人が、専業主婦を優遇する制度が継続されることを望んでおり、その範囲内で働くことを考えているようです。
ただし、もしこうした優遇制度がなければ、労働時間の調整をせずに働くかどうかをたずねた結果をみると、「税金や社会保険料の控除の制度がなくても、家庭責任があるから、あまり長い時間は働きたくない」(Aの意見)に近い意見の人が79.5%を占めており、「税金や社会保険料の控除の制度がなければ、労働時間の調整をせずに働きたい」(Bの意見)の20.5%を大きく上回っています。いわゆる専業主婦の多くは、制度があってもなくても労働時間を抑えて働きたいと思っているようです。
≪研究員のコメント≫
以上、調査結果により、子どもがいる無職女性の働く意識をみてきましたが、「働く」ということを考えた場合、民間企業に雇用されて働くことのみならず、地域社会の役に立ちたいという思いから、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動への参加を希望している人もいることが浮き彫りになりました。子育てや家事を重視したいという思いを尊重しながら社会で活躍できる場が求められているといえます。今後、女性の活躍推進を図るには、まずはこうした女性の働く意識を幅広く捉えることが必要です。その上で、潜在的な女性労働力を引き出すために何が必要でしょうか。
一つは、女性が働くということを広義で捉え、民間企業での雇用のみならず、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動に参加したい人の受け皿づくりも充実させることです。例えば、地域活動に参加したい人が自分に合った働き方で参加できるよう、地域活動に関する情報の周知を高めることが求められます。今後、自治体が中心となって、地域活動に参加したい人と、担い手を募集している組織とのマッチング機能を向上させることなどが必要です。
もう一つは、家庭責任を重視したい女性が一定程度いることを踏まえると、配偶者控除などの税制優遇の見直しのみではなく、個人の望むような両立生活ができるよう労働時間の柔軟性を高めるなど働き方の選択肢を増やし、女性が活躍する場を広げることです。現在、女性の就労促進を図るためということで、配偶者控除の制度など、いわゆる専業主婦を優遇する税制や社会保険制度の見直しの議論がなされています。しかし本調査から、こうした優遇措置がなくても、子どもがいる女性は家庭責任があるために長時間働きたくない人がほとんどであることがわかりました。むしろ、配偶者控除の見直しなどによって、家庭での手取り収入が減ることを危惧する人が増えるかもしれません。労働意欲にネガティブに作用する制度は見直されるべきではありますが、まずはこうした優遇措置が女性の労働意欲にどのように作用するかの検討を重ねた上で、慎重に判断されることが望まれます。
女性の活躍推進には多様なあり方があります。出産しても継続して就業することを可能にすることも一つのあり方であれば、出産退職しても再雇用されることを可能にすることも一つのあり方です。さらに、地域に活躍の場を求めて、雇用形態にとらわれずに働くことを可能とすることも一つです。女性が働くということを幅広く捉え、「社会の役に立ちたい」という多くの女性の思いを活かすことができるようにすることが女性の活躍推進を図る上で重要であると思います。(提供:第一生命経済研究所)
(研究開発室 上席主任研究員 的場康子)
㈱第一生命経済研究所 ライフ デザイン研究本部 研究開発室 広報担当(津田・新井) TEL.03-5221-4771 FAX.03-3212-4470 【URL】http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi