<老後準備の一つとしての就労>
国民年金(老齢基礎年金)の支給開始年齢は65歳であるが、2000年の年金制度改正により、老齢厚生年金についても、男性は2025年度以降、女性は2030年度以降、支給開始年齢が65歳となる。これに合わせて2025年度以降、原則希望者全員を65歳まで雇用することが高年齢者雇用安定法の改正により企業に義務付けられた。現在現役で働く世代は、このような制度の変化に対応しながら、就業形態にかかわらず、自らの生活を維持し、老後に向けての準備をおこなうことが求められている。
こうした中、本稿では、2013年11月に全国の40代、50代男女3,376人を対象に実施した「40・50代の不安と備えに関する調査」をもとに、老後準備の一つとして「就労」に注目し、高齢期の就労意向は何によって決まるのか、その背景意識を探る。
<世帯収入や世帯の金融資産残高別にみた就労意向>
現在40~50代の人に、何歳まで働きたいかをたずねたところ、「60歳」までが23.8%、「65歳」までが35.9%、「70歳」までが17.8%である(図表1)。65歳以降も働きたいと思っている人が6割を超えている。
就労意向は、現在の収入や老後のための資産形成の状況によって異なると思われる。そこで世帯年収別に働いていたい年齢をみたところ、世帯年収が低いほど70歳を過ぎても働きたいという人が多いものの、500万円以上ではいずれも「65歳」まで働くという人が約36%であまり大きな差はない。働いていたい年齢の平均をみると、いずれも 64歳前後である。
世帯の金融資産残高別にみても、金融資産残高が低いほど70歳を過ぎても働きたいという人が多いものの、いずれも35%前後が「65歳」まで働くとしており、大きな差はみられない。
現在の世帯年収や金融資産残高が低い人ほど、高年齢になっても働きたいと思っている人が多い傾向はあるが、世帯年収や金融資産残高が低くても働くのは65歳までと思っている人が一定の割合で存在している。高齢期の就労意向は、年収や金融資産残高のみで決まるのではなく、暮らしていけると思うかといった老後生活に対する意識とも関連があることが考えられる。
そこで次に、老後生活に対する意識の一つとして公的年金への信頼度と、就労意向との関連をみる。
<公的年金への信頼度別にみた就労意向>
少子高齢化、長寿化など人口構造の変化により、将来の年金給付水準の抑制が必至とされる中、公的年金に対する現役世代の信頼低下が指摘されている。実際、40~50代に「老後、公的年金(厚生年金、国民年金等)しか生活資金がなかったとして生活できると思うか」とたずねたところ、「公的年金だけでは生活できない」と回答した人が65.9%、「ぎりぎり生活できる」が28.1%、「余裕を持って生活できる」が6.0%である(図表省略)。老後、公的年金だけでは生活できないと思っている人が圧倒的に多い。
こうした公的年金に対する意識別に働いていたい年齢をみたところ、65歳を過ぎても働く意向のある人は「公的年金だけでは生活できない」と回答した人が最も多く、働いていたい年齢の平均でみても、「ぎりぎり生活できる」や「余裕を持って生活できる」と回答した人と1歳以上の開きがある(図表2)。図表1で働いていたい年齢の平均を世帯年収や金融資産残高別でみた場合よりも、生活できるかどうかの意識別でみた方が差が大きい。
また、世帯の金融資産残高が3,000万円以上の人に絞って、公的年金に対する意識別に働いていたい年齢をみても、「公的年金だけでは生活できない」と回答した人が約半数おり、そのうちの約6割が65歳を過ぎても働きたいと思っている(図表省略)。
絶対的な収入や資産の金額だけではなく、生活できるかどうかに関する本人の意識も就労意向を決める一つの要素であることが推察できる。
<60歳以降も働く理由>
生活できるかどうかに関する意識が就労意向を左右するようだが、最後に、こうした老後の生活意識の持ち方によって高齢期に働く理由が異なるかをみる。
60歳以降も働く理由を、公的年金だけで生活できるか否かの意識別にみたものが図表3である。「公的年金だけでは生活できない」と考える人の72.3%が「生計を維持するため」と答えている。ただ、一方で「余裕を持って生活できる」と思っている人でも約半数が「生計を維持するため」としている。公的年金だけでは生活できないと考える人のみならず、老後余裕を持って生活できるという人でも経済的理由から働くという人も一定程度いる。この傾向は世帯の金融資産残高が3,000万円以上の人に限ってみても同様であり(図表省略)、家計の経済状況によってのみ就労意向が決まるわけではないことがうかがえる。
現役世代の多くは公的年金を当てにできないことから、高齢期の生活を支えるためには「就労」が重要な生活基盤であると認識している。ただ、働いていたい年齢は経済力のみでなく、人それぞれが持つ老後の暮らし方に対する意識によっても異なる。
このようなことから、まずは現役で働いている間に各人が、ある程度生活できると考える生活水準を定め、老後生活の準備を意識することが重要だと思われる。その上で、働くことが必要な年齢まで働くことができるよう、今から就労継続のためのキャリアデザインを考えることも必要と思われる。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 的場 康子 (まとば やすこ 上席主任研究員)