目次
1.はじめに 2.職場のコミュニケーション 3.性・雇用形態・職位別にみたコミュニケーション相手 4.職場の人間関係の自己評価と満足度 5.考察
要旨
①今日の職場においては、女性管理職や男性非正規社員が増加するなど、様々なライフスタイルや事情・背景を持つ就労者によって構成されているケースが多くなった。こうした中、職場でのコミュニケーションの実態を探るべくアンケート調査を実施した。
②「職場の人と楽しい人間関係を築きたい」「職場の仲間を信頼している」とする人は、大企業の男性管理職で最も多かった。「職場の同僚や部下が悩んでいたら、積極的に相談に乗ったりフォローをする」「職場の人たちには、何かと気配りするように心がけている」「業務を円滑に進める上で、タイプの合わない人ともうまく付き合うべきだと思う」とする割合は、大企業の女性管理職で多かった。
③男性は女性より「異性と仕事をするより、同性と仕事をするほうが楽である」と考える人が多い。また、中小企業の女性非正規社員においては、正規社員とのコミュニケーションが難しいと思う割合が他に比べて高かった。
④職場の人間関係における自己評価・満足度は、中小企業の男性非正規社員で最も低い。
⑤アンケートの結果から、性・雇用形態・職位の違いによって職場におけるコミュニケーションにギャップがある点が確認された。中小企業・大企業の別でも差がみられている。今日の職場でのコミュニケーションを考えるにあたっては、個々の職場独自の事情に合わせて課題を発見し、対策を考える必要性がある。
キーワード:職場のコミュニケーション、女性管理職、非正規社員
1.はじめに
(1)研究の背景と目的
近年、ライフスタイルの多様化が進んでいる。生涯未婚率は、1990年には男女とも5%前後だったが、2010年には男性で約20%、女性で約10%に達した。また、世帯構成も大きく変化している。1990年から2010年にかけて単身世帯は約1.8倍に増加し、一人親世帯も増えた。さらに、25歳から39歳の女性就業率が上昇し、共働き世帯も増加している。
こうした中で、男女共同参画の観点から女性管理職の積極的な登用が推進されている。我が国の女性の管理職は、国際的に見てもその数が極めて少ないことから、2020年までにあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を30%程度まで引き上げるとする「202030」目標が掲げられ、その数値に注目が集まっている。アベノミクスにおいても女性の活躍が推進されており、厚生労働省や経団連をはじめとする各団体からも、女性活用に関して企業に向けた提言が出されている。
ただし、女性の働き方についてみると、男性の就業者の多くが正規社員であるのに対して、女性では非正規社員の占める割合が高い。また、出産・育児支援制度があるにもかかわらず、出産を機に退職をする女性は未だ少なくない。その背景としては、育児と仕事を両立して「続けられない」という事情がある場合と、「続けたくない」という自らの意思である場合がある。また、配偶者の転勤や転職に伴う転居を機に自分の仕事を変える、もしくは退職するのは女性であるケースが多く、こうした事情も女性の正規社員としての就労継続を難しいものとしている。
一方、ライフスタイルの多様性は女性に比べると高くないとされる男性だが、それでも多様化の傾向はみられる。例えば男性においても育休の取得が推奨されるようになり、積極的に取得を推進する企業もある。また、男性の非正規社員の占める割合も上昇した。
このように、今日の職場は、様々なライフスタイルや事情・背景を持つ就労者によって構成されているケースが多くなった。そこには、例えばキャリア志向の強い女性管理職、就労はあくまで家計補助と位置づける女性、従来の日本型企業の価値観で組織を捉え女性の上司に違和感を覚える人、非正規社員として働く人など、様々な人がおり、それぞれが異なる意識を持っている。多様性が高まればこそ、相互理解に向けたコミュニケーションがより重要となると考えられるが、こうした状況において職場でのコミュニケーションは円滑に行われているのだろうか。
そこで本稿では、今日の職場におけるコミュニケーションの現状と課題を明らかにすることを目的として、アンケート調査を実施した。
(2)調査概要
調査概要と主な属性は図表1のとおりである。
2.職場のコミュニケーション
まず、それぞれの人が職場に対してどのような意識を持っているかについてみた。この場合の「職場」とは、勤め先の中で主に仕事をしている部・課などを指している。
(1)職場の楽しさ・職場の仲間への信頼
「職場では、わきあいあいと楽しい人間関係を築きたい」(以下、「楽しい人間関係」)と、「職場の仲間を信頼している」(以下、「仲間を信頼」)についての意識をたずねたものをみる(図表2)。
「楽しい人間関係」「仲間を信頼」ともに、大企業の男性管理職で「そう思う」(「そう思う」と「まあそう思う」の合計)とする割合が相対的に高かった。
「楽しい人間関係」については、中小企業・大企業ともに、管理職では女性より男性で高く、非管理職と非正規社員では女性で高い傾向がみられた。特に大企業の管理職における男女差は20ポイントと大きく、意識に差がある様子がうかがえる。
また、「仲間を信頼」については、管理職では6割から7割を占めた。男性非正規社員では4割程度と低い一方で、女性非正規社員では半数を超えており、男女で10ポイント近い差があることがわかった。
(2)職場の人への気遣い
続いて、「職場の同僚や部下が悩んでいたら、積極的に相談に乗ったりフォローをする」(以下、「相談やフォロー」)、「職場の人たちには、何かと気配りするように心がかけている」(以下、「気配り」)についてたずねた結果をみる(図表3)。
まず、全体的にみていずれの回答も男性より女性で、中小企業より大企業で割合が高いことがわかる。
最も割合が高かった大企業の女性管理職では、75.4%が「相談やフォロー」と回答しているのに対し、最も低かった中小企業の男性非正規社員では31.8%と、その差は43.6 ポイントに及ぶ。
「気配り」については、中小企業の男性非正規社員のみ半数に満たないとの結果だった。
(3)職場の人との付き合い方
さらに、「業務を円滑に進める上で、タイプの合わない人ともうまく付き合うべきだと思う」(以下、「うまく付き合うべき」)と「職場では『理解しあうこと』より『衝突しない』ことの方が重要だと思う」(以下、「衝突しないことが重要」)についてたずねたものをみる(図表4)。
全体的にみて、図表3と同様に男性より女性の回答割合が高いことがわかる。
「うまく付き合うべき」についてみると、大企業の女性管理職は85.0%を占めて最も高かった。続いて回答が多かったのは中小企業の女性非正規社員(80.0%)で、これに中小企業の女性管理職(78.3%)が続いている。一方、割合が低かったのはここでも男性非正規社員で、中小企業・大企業ともに6割に満たなかった。
「衝突しないことが重要」が最も高かったのは、大企業の女性非管理職(67.5%)で、以下、中小企業の女性非正規社員(64.7%)、中小企業の女性非管理職(59.0%)、中小企業の男性非正規社員(55.2%)と続いた。
3.性・雇用形態・職位別にみたコミュニケーション相手に対する意識
このように、職場のコミュニケーションに対する意識やとらえ方が、属性によって異なる状況下で、就労者は職場の人とのコミュニケーションについてどのように考えているのだろうか。
(1)仕事における同性・異性別のやりやすさ
まず、「自分は異性と仕事をするより、同性と仕事をするほうが楽である」についてたずねたものをみる(図表5)。
その結果、「あてはまる」(「非常にあてはまる」と「まああてはまる」の合計)と回答したのは、大企業の男性非管理職(47.9%)、大企業の男性管理職(44.2%)、中小企業の男性管理職(44.0%)の順で多かった。その割合は半数に満たないが、女性の回答結果と比べると差が非常に大きいことがわかる。最も差が大きかった大企業の非管理職では男女差が30.3 ポイント、大企業の管理職で29.7 ポイント、中小企業の管理職で26.0 ポイントとなっていた。
(2)性・雇用形態・職位別にみたコミュニケーションに対する意識
続いて、「管理職からみた部下」「部下からみた上司」「正規社員からみた非正規社員」「非正規社員からみた正規社員」「非正規社員同士」のコミュニケーションについてみる。
1)上司(管理職)からみた部下(非管理職・非正規社員)とのコミュニケーションの難しさ 上司としての管理職の回答をみると、男性管理職で男性の部下とのコミュニケーションを難しいと感じている割合は、中小企業18.3%、大企業で16.0%であるのに対し、女性の部下とのコミュニケーションについては中小企業で23.4%、大企業で21.7%となっており、男性より女性の部下とのコミュニケーションのほうが難しいと感じられていることがわかった(図表6)。
これに対し、女性管理職においても、男性の部下(中小企業21.6%、大企業17.4%)より女性の部下(中小企業28.1%、大企業27.4%)とのコミュニケーションの方が難しいと感じられている。特に、大企業の女性管理職では、女性部下とのコミュニケーションを難しいと感じる割合(27.4%)が男性部下とのコミュニケーションを難しいと感じる割合(17.4%)を10.0ポイント上回っている。男女ともに、管理職は女性部下とのコミュニケーションを難しいと感じているのは興味深い結果である。
2)部下(非管理職・非正規社員)からみた上司(管理職)とのコミュニケーションの難しさ 次に、部下としての非管理職からみた男性上司・女性上司とのコミュニケーションについてみる。中小企業においては、女性非管理職と男性非正規社員で、男性上司より女性上司とのコミュニケーションを難しいと考えている人が多いとの結果を得ており、男性非管理職と女性非正規社員においてはその逆の傾向が示されたが、いずれも その差は大きくない。
一方、大企業ではいずれも男性上司より女性上司とのコミュニケーションが難しいとの回答傾向があり、その差は男性非管理職で12.0 ポイント、女性非正規社員で10.5ポイントとなっていた。
3)正規社員からみた非正規社員とのコミュニケーションの難しさ 一方、正規社員からみた非正規社員とのコミュニケーションについてみると、男性非正規社員とのコミュニケーションが難しいとする割合は全体的に高くなかったが、女性非正規社員とのコミュニケーションについては、中小企業の男性管理職、大企業の男性・女性管理職で2割を超えた(図表7)。大企業の男性非管理職においても19.2%と、約2割は女性非正規社員とのコミュニケーションを難しいとした。しかし、全体として3割を超えるものはなく、正規社員からみた非正規社員とのコミュニケーションを難しいと感じる人はそれほど多くないといってよい。
4)非正規社員からみた正規社員とのコミュニケーションの難しさ これに対し、非正規社員からみた正規社員とのコミュニケーションの実態については異なる結果が示された。中小企業についてみると、非正規社員が正規社員とのコミュニケーションに対して難しいと感じる割合は、正規社員が非正規社員に感じる割合よりも高い。特に差が大きかったのは、中小企業の正規社員と女性非正規社員との意識ギャップである。中小企業の女性非正規社員は、正規社員に対するコミュニケーションが難しいと思っている割合が高く、特にそのギャップは男性非管理職との間では27.5 ポイント(中小企業の男性非管理職の回答4.9%、中小企業の女性非正規社員の回答32.4%)に及んでいる。一方で大企業ではそれほど大きな差は見られなかった。
参考として、非正規社員同士のコミュニケーションに対して難しさを感じるかどうかもたずねたが、この結果は正規社員に対して難しさを感じる割合よりも低く、コミュニケーションの相手が正規社員か非正規社員かで、感じ方が異なることが示された。
4.職場の人間関係の自己評価と満足度
(1)職場の人間関係の自己評価
職場の人間関係の自己評価として、「あなたご自身は、職場でのコミュニケーションについて『自分はうまくやっている』と思いますか」との設問文でたずねた。その結果、「うまくやっている」(「非常にうまくやっている」と「どちらかといえばうまくやっている」の合計)と回答した割合が最も高かったのは大企業の女性管理職で84.2%を占め、これに大企業の女性非正規社員では82.5%と続き、中小企業の女性管理職と大企業の男性管理職がともに80.0%となった(図表8)。
それぞれの属性ごとにみると、全体的に男性より女性で評価が高いことがわかる。最も自己評価が低かったのは中小企業の男性非正規社員で53.3%となっており、最も高かった大企業の女性管理職と比べると30 ポイント以上の差がみられた。
(2)職場の人間関係の満足度
最後に、職場の人間関係の満足度についてみる。満足度(「非常に満足している」と「どちらかといえば満足している」の合計値)は、大企業の女性非正規社員で72.5%を占めて最も高かった(図表9)。これに大企業の女性管理職が70.8%で続いている。以下、中小企業の女性管理職、大企業の男性管理職、大企業の女性非管理職がいずれ も67.5%で続いた。
それぞれの属性ごとに比較すると、男性より女性で、中小企業より大企業で満足度が高い傾向がある。最も満足度が低かったのは中小企業の男性非正規社員で、満足度は46.7%と半数に満たなかった。
5.考察
今回の調査結果から、性・雇用形態・職位の違いによって職場のコミュニケーションに対する意識や自己評価、満足度に差があり、職場にいる人の多様化が進む中でコミュニケーションの複雑化が進む可能性が示唆された。例えば今回の調査結果にもあるように、正規社員からみた非正規社員とのコミュニケーションと、非正規社員からみた正規社員とのコミュニケーションには明らかな意識ギャップがある。また、非正規社員男性の職場コミュニケーションの自己評価や満足度が他に比べて目立って低いことも確認された。しかしこうした事実は、職場において漠然とは認識されたとしても、正規社員と非正規社員で 共有される機会は少ない。
しかも、今日の職場にいる人の多様化は性・雇用形態・職位の違いにとどまらない。例えば、年金支給開始年齢の引き上げは、60 歳以降も働く人の増加を促進し、定年後再雇用制度の活用などによって就労者の年齢幅も広がっていく傾向にある。また、障害者や外国人の雇用も増加傾向にある。本稿では中小企業と大企業という大きな分類で分析を試みたが、日本企業の多くは中小企業である。こうした企業規模の違いに加え、業種や男女比、地域等によっても、コミュニケーションの問題が様々であることは想像に難くない。
職場にいる人の多様化に伴い、従業員がコミュニケーションの面でとまどうケースは少なくない。多様な人々を受容し、円滑なコミュニケーションができる職場を構築していくにあたっては、それぞれの職場ごとに個別の対応を考えていく必要がある。そのためにはまず実態の把握が不可欠であるが、アンケートやヒアリングだけでは、複雑化した職場の実態を把握することは難しいと考えられる。職場のコミュニケーションの課題は、個々の職場のメンバーが時間をかけてコミュニケーションを重ねていくことでしか把握できないだろう。
従来、職場での人間関係の維持や相互理解を図るためのコミュニケーションは、ランチや飲み会といった業務外の時間に持たれることが多かった。しかし、今日そうした機会は減少傾向にあり、職場のコミュニケーション機会の確保は難しくなっているのが実態である(宮木2015)。加えて、業務時間内のやりとりもメールなどで行われることが多く、対面でのコミュニケーション機会自体が不足している職場も少なくない。
「飲みニケーション」が死語となった今日、職場の人間関係の構築・維持に向けたコミュニケーション機会の確保は、ライフスタイルの多様化に伴ってますます難しいものとなるだろう。しかし、多様化しているからこそ、相互理解に向けた職場のコミュニケーションが重要であると考えられる。こうした意識の下、企業ごとに自社の状況に合わせた職場のコミュニケーションを考えていく必要があるだろう。(提供:第一生命経済研究所)
【参考文献】 ・ 宮木 由貴子,2015,「職場のランチ・飲み会はどう評価されているか」『Life Design Report』(Spring 2015.4) ・ 宮木 由貴子,2011,「女性管理職の社内コミュニケーションの実態 -男性管理職・男女一般職との比較から-」『Life Design Report』(Summer 2011.7)
上席主任研究員 宮木 由貴子 (研究開発室 みやき ゆきこ)