子どもがいる無職女性の就労・社会参加に関するアンケート調査より
目次
1.はじめに 2.就労をしていない理由及び不安意識 3.就労・社会参加の経験と意識 4.専業主婦を優遇する税制や社会保険制度と働く意識 5.まとめ
要旨
①わが国は今、女性の活躍推進による経済成長を目指しており、女性労働力の活用が求められている。他方、核家族化や地域コミュニティの希薄化などにより、地域社会において子育てや介護の悩み・不安を共有し助け合ったりする機能が失われつつある中で、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動が注目されている。その主な担い手として、結婚や出産を機に退職した無職の既婚女性など、地域の多様な人材が期待されている。
②当研究所では、子どもがいる無職女性を対象に、民間企業等での就労のみならず、地域における住民同士の助け合い機能を代替する地域活動への参加意向をたずねる「女性の就労・社会参加に関するアンケート調査」を実施した。
③調査結果により、子どもがいる無職女性は、自宅の近くでほどほどに働くことを希望している人が多いことがわかった。また、有償無償を問わず「働く」ということを考えた場合、民間企業に雇用されて働くことのみならず、地域社会の役に立ちたいという思いから、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動への参加を希望している人もいる。
④潜在的な女性労働力を引き出すため、女性が働くということを広義で捉え、民間企業での雇用のみならず、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動に参加したい人の受け皿づくりの充実も必要である。また、配偶者控除などの税制優遇の見直しを慎重に進めながら、子育てや家事との両立がしやすいような働き方を徹底させることが重要である。
キーワード:女性の活躍推進、住民参加型サービス、配偶者控除制度
1.はじめに
(1)調査の目的
わが国は、少子高齢化による労働力人口の減少が進む中、女性の活躍推進により経済成長を目指している。しかし、出産後も就業継続を志向する女性は多くない。
既婚女性を対象に現実にたどりそうなライフコースをたずねた既存調査をみると、「結婚や子どもの成長に関係なく、ずっと働き続ける」という就業継続型を選択する人は22.4%に留まり、「結婚や出産で退職し、子どもが手を離れたら再び働く」の再就業型54.6%と「結婚や出産で退職し、その後はずっと働かない」の退職型18.6%を合わせ、7割を超える女性が結婚や出産を機に退職することを選択している(図表1)。学歴別では大きな差はみられないが、居住地域別でみると、人口集中地区の方が非人口集中地区よりも結婚・出産退職を選択する女性の割合が高い。大都市の方が結婚や出産を機に退職する人が多い傾向がある。
他方、核家族化や地域コミュニティの希薄化などにより、地域社会において子育てや介護の悩み・不安を共有し助け合ったりする機能が失われつつある中、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動が注目されている。その主な担い手として、結婚や出産を機に退職した無職の既婚女性など、地域の多様な人材が期待されている。
そこで当研究所では、子どもがいる無職女性を対象に、民間企業への就労意向のみならず、地域における住民同士の助け合い機能を代替する地域活動などへの参加意向等を明らかにするために「女性の就労・社会参加に関するアンケート調査」を実施した。この中から本稿では今後の就労・社会参加に関する意識等についての調査結果をもとに、潜在的な女性労働力を引き出し、女性の活躍推進を図るための課題について考える。
(2)アンケート調査の概要
アンケート調査の概要は図表2の通りである。
調査対象者の属性として、暮らし向きについての年齢別内訳を図表3に示した。全体では「普通」が約半数であり、「苦しい」(「苦しい」と「やや苦しい」の合計)と「ゆとりがある」(「ゆとりがある」と「ややゆとりがある」の合計、以下同様)がおおよそ4分の1ずつとなっている。年代別にみると、年代が高い方が「ゆとりがある」の回答者の割合が高い。
2.就労していない理由及び不安意識
(1)収入を得る仕事をしていない理由
現在、収入を得る仕事をしていない理由をたずねた結果が図表4である。年代によって回答傾向が異なり、30代と40代は子育てや家事を理由とする回答が多い。中でも「子育て・家事に専念したいから」や「子どもと過ごす時間が減るから」など、子育てや家事を優先する生活を積極的に選んでいると思われる回答が目立つ。女性の就労促進が期待されている一方で、子育てや家事をおろそかにしたくないという思いを持つ女性も依然として一定程度存在していることがわかる。女性の活躍推進のためには、子育てや家事を重視したいという女性の思いを尊重しながらも、女性の社会的活躍の場を広げていくような方策が求められる。
他方、50代以上は自分の健康・体力に自信がないことや、そもそも働く必要性を感じていないことを挙げる人が多い。年代が高い人の方が暮らし向きについて「ゆとりがある」と回答した割合が高かったことをみても、生活のゆとり感と働く意識は関係していることがうかがえる。
(2)就労しないことの不安
このまま就労をしない日々が続くことに対してはどのように思っているのだろうか。就労しないことの不安をたずねた結果が図表5である。上記の収入を得る仕事をしていない理由と同様、年代によって回答傾向が異なる。30代と40代では「現在の家計維持が心配である」と「老後の生活資金の準備ができない」に5割前後が回答している。就労していないことが、現在の家計維持のみならず、老後の生活資金の準備にも影響を与えることを心配している人が多いことがうかがえる。
他方、50代と60代では「特に不安はない」が最も高い。50代は約半数、60代では7割を超えている。ただし、いずれの年代も第2位が「老後の生活資金の準備ができない」であり、50代では約3割が回答している。
年代によって程度の差はあるものの、現在就労していないことが老後の生活資金に影響を与えることを不安に思っている女性が少なからずいることが浮き彫りになった。
3.就労・社会参加の経験と意識
(1)就労・社会参加の経験と今後の意向
次に、子どものいる無職女性の就労・社会参加についての経験と意識について示す。
これまでに民間企業での就労や、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動(子育て支援、家事援助、介護など)をおこなったことがあるかどうかをたずねた結果が図表6である。
本調査の対象は、2014年10月の調査実施時点で民間企業や国、地方公共団体などで正規・非正規を問わず働いていない人である。育児休業等の休職者も含まれていない。そのため、①自宅の近くの民間企業(商店を含む)や②自宅の近くでない民間企業に「ⓐ現在、参加している」と回答する人はいない。今後、就労意向がある人に着目すると(図表6のⓑ+ⓓ)、①自宅の近くの民間企業(商店を含む)に就労意向のある人は39.2%、②自宅の近くでない民間企業に就労意向のある人は24.1%である。同じ民間企業でも、自宅の近くでない企業よりも、自宅の近くの企業の方が就労意向が高い。
他方、先述のように、核家族化や地域コミュニティの希薄化により、不安を感じながら子育てしている人々や、単身で生活をする高齢者などに対する支援の必要性から、市区町村社会福祉協議会、ファミリーサポートセンター、NPO法人、ボランティアグループ等が提供する生活支援サービスの充実が求められている。その担い手として、女性や高齢者をはじめ地域に住む様々な人々が期待されている。こうした背景から本調査では「働く」ということを広義で捉え、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動(子育て支援、家事援助、介護など)における「社会参加」も含めた。これらの地域活動(図表6の③~⑥)それぞれの参加経験及び意向をみると、参加したことがある人はいずれも2%前後に留まっている。しかし今後参加したいと思う人の割合は約1割から2割であり、今後の参加意向が経験率を大きく上回っている。
(2)希望する働き方・年収・仕事内容
1)希望する働き方 今後、図表6の①~⑥のいずれかに就労・社会参加したいと思っている人に、どのような働き方を希望するかをたずねた結果が図表7である。
「高い収入を得るために長時間働きたい」(Aの意見「Aに近い」と「どちらかといえばAに近い」の合計、以下同様)に近い意見の人は10.9%であるのに対し、「収入はほどほどでよく、適度に働きたい」に近い意見の人(Bの意見「Bに近い」と「どちらかといえばBに近い」の合計、以下同様)は89.1%である。ほどほどに働きたい と思っている人の方が圧倒的に多い。
勤務形態についての意見は、「正社員・正職員にこだわりたい」(Aの意見)が13.0%であり、「正社員・正職員にこだわらず、パートやアルバイトでもよい」(Bの意見)が87.0%である。9割近くの人がパートやアルバイトでもよいと思っている。
働く場所については、「自分の住んでいる地域で働きたい」(Aの意見)が78.0%であり、「働けるのであれば、場所は問わない」(Bの意見)の22.0%を大きく上回っている。これから働こうと思っている人の多くは、自分の住んでいる地域でほどほどに働きたいと思っていることがうかがえる。
2)希望する年収 「収入はほどほどでよい」と思っている人が多かったが、実際に、どのくらいの収入を得たいと思っているのであろうか。今後、図表6の①~⑥のいずれかに就労・社会参加をしたいと思っている人に、就労・社会参加により得られる収入の希望額をたずねた結果が図表8である。全体でみると、年収100万円以下、すなわち所得税、住民税を負担しない範囲で働くことを希望している人が約8割を占めている。
ただし、希望する働き先によって希望収入額も異なる。民間企業に就労希望の人は、約半数が「年収60万円以上100万円以下」(48.6%)と回答している。
これに対して地域活動に参加希望の人は、「収入はいらない(無償でよい)」が21.6%であり、収入を得ることを希望する人でも「月に2万円以上5万円未満」が32.4%、「月に2万円未満」が27.0%と、6割近くの人が月に5万円未満と回答している。
3)就労・社会参加にあたって重視すること 今後、就労・社会参加したいと思っている人に、就労・社会参加するにあたって何を重視したいかをたずねた結果が図表9である。この点も希望する働き先によって回答傾向が異なる。
①自宅の近くの民間企業(商店を含む)に就労意向のある人は「自宅の近くで働けること」の回答割合が最も高いが、次いで「自分の好きな曜日、時間帯、時間数で働けること」が高い。収入よりも働く場所や時間を重視している人が多い。
②自宅の近くでない民間企業に就労意向のある人は「多くの給料がもらえること」の回答割合が最も高く、次に「自分の好きな曜日、時間帯、時間数で働けること」が続く。自宅に近いことにこだわらない場合は、収入を重視する人が多い傾向がある。
③から⑥の地域活動に参加意向のある人は、回答傾向が似ており、いずれも「地域社会に役に立てること」や「自宅の近くで働けること」が上位を占めている。収入よりも地域社会の役に立つことや働く場所を重視する人が多い。
4.専業主婦を優遇する税制や社会保険制度と働く意識
以上から、就労・社会参加の経験がない女性の中にも、今後、就労・社会参加することを希望している人が一定程度いるが、その多くは自分の住んでいる地域でほどほどに働きたいと思っていることがわかった。その背景を考えると、一つには、専業主婦家庭を優遇する現行の税制や社会保険制度が関係していると思われる。例えば、妻の年収が130万円未満であれば、健康保険の被扶養者及び厚生年金の第3号被保険者が適用され、妻は健康保険料、厚生年金保険料を払う必要がない。妻の年収が103万円以下で他に所得がない場合、妻に所得税はかからず、また、夫は配偶者控除を受けることができる。妻の年収が100万円以下であれば妻に住民税もかからない。
実際、これから働こうとしている人に、現行制度と働き方の意識をたずねた結果を示したものが図表10である。「社会保険料を払うのはもったいないので、年収(労働時間)を抑えて働きたい」(Aの意見)に近い意見の人は78.6%であり、「自分で社会保険料を払ってでも、収入(労働時間)の調整をせずに働きたい」(Bの意見)の21.3%を大きく上回っている。現行の厚生年金の第3号被保険者等の制度が適用される範囲内で働くことを考えている人が多い。
そして、こうした「税金や社会保険料の控除の制度は現行通りあった方がよい」(Bの意見)に近い意見の人が71.0%であり、「撤廃すべきである」(Aの意見)の28.9%を大きく上回っている。多くの人が、専業主婦を優遇する制度が継続されることを望んでおり、その範囲内で働くことを考えている。
ただし、もしこうした優遇制度がなければ、労働時間の調整をせずに働くかどうかをたずねた結果をみると、「税金や社会保険料の控除の制度がなくても、家庭責任があるから、あまり長い時間は働きたくない」(Aの意見)に近い意見の人が79.5%を占めており、「税金や社会保険料の控除の制度がなければ、労働時間の調整をせずに働きたい」(Bの意見)の20.5%を大きく上回っている。いわゆる専業主婦の多くは、制度があってもなくても労働時間を抑えて働きたいと思っているようだ。
5.まとめ
本調査結果により、子どもがいる無職女性の働く意識をみてきたが、「働く」ということを考えた場合、民間企業に雇用されて働くことのみならず、地域社会の役に立ちたいという思いから、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動への参加を希望している人もいることが浮き彫りになった。子育てや家事を重視したいという思いを尊重しながら社会で活躍できる場が求められているといえる。今後、女性の活躍推進を図るには、まずはこうした女性の働く意識を幅広く捉えることが必要である。その上で、潜在的な女性労働力を引き出すために何が必要か。
一つは、女性が働くということを広義で捉え、民間企業での雇用のみならず、住民同士の助け合い機能を代替する地域活動に参加したい人の受け皿づくりも充実させることである。例えば、地域活動に参加したい人が自分に合った働き方で参加できるよう、地域活動に関する情報の周知を高めることが求められる。今後、自治体が中心となって、地域活動に参加したい人と、担い手を募集している組織とのマッチング機能を向上させることなどが必要であろう。
もう一つは、家庭責任を重視したい女性が一定程度いることを踏まえると、配偶者控除などの税制優遇の見直しのみではなく、個人の望むような両立生活ができるよう労働時間の柔軟性を高めるなど働き方の選択肢を増やし、女性が活躍する場を広げることである。現在、女性の就労促進を図るためということで、配偶者控除の制度など、いわゆる専業主婦を優遇する税制や社会保険制度の見直しの議論がなされている。しかし本調査から、こうした優遇措置がなくても、子どもがいる女性は家庭責任があるために長時間働きたくない人がほとんどであることがわかった。むしろ、配偶者控除の見直しなどによって、さらに手取り収入が減ることを危惧する人が増えるかもしれない。労働意欲にネガティブに作用する制度は見直されるべきであるが、まずはこうした優遇措置が女性の労働意欲にどのように作用するかの検討を重ねた上で、慎重に判断されることが望まれる。
女性の活躍推進には多様なあり方がある。出産しても継続して就業することを可能にすることも一つのあり方であれば、出産退職しても再雇用されることを可能にすることも一つのあり方である。さらに、地域に活躍の場を求めて、雇用形態にとらわれずに働くことを可能とすることも一つである。女性が働くということを幅広く捉え、「社会に役に立ちたい」という多くの女性の思いを活かすことができるようにすることが女性の活躍推進を図る上で重要である。(提供:第一生命経済研究所)
上席主任研究員 的場 康子 (研究開発室 まとば やすこ)