目次
1.調査研究の概要 2.障害者雇用の状況 3.障害者雇用に取り組み始めてからの年数 4.今後の障害者雇用の方針 5.障害者雇用等にかかわる考え方 6.まとめ
要旨
①2014年に従業員数100名以上の上場企業を対象に障害者雇用に関するアンケート調査を実施し、243社から回答を得た。この調査結果の一部については、2006年に同様の企業を対象に実施した調査と比較し、経年変化を探った。
②2006年から2014年の間に、障害者を1人以上雇用している企業の割合は、どの障害種別においても高くなった。特に精神障害者におけるその割合の増加は著しい。
③障害者雇用に「本格的に取り組んだことはない」(8.0%)企業と、本格的に取り組み始めてから10年未満(「3年未満」7.2%+「3年以上5年未満」11.0%+「5年以上10年未満」26.2%)の企業を合わせると半数を超える。
④今後、障害者雇用を「増やす」と答えた企業の割合は2014年では68.3%であり、2006年より13.6ポイント上昇している。その割合は障害者の実雇用率が2.0~2.2%の企業においても68.4%を占めており、法定雇用率(2.0%)以上の企業でも障害者雇用を増やす意向が強いことがわかる。
⑤企業が「ダイバーシティ」「ノーマライゼーション」「CSR」という考え方を重視している割合は、いずれも2006年より2014年のほうが高い。特に「ダイバーシティ」を重視している割合は大幅に増加し、「ノーマライゼーション」を重視している割合を超えた。また、「ダイバーシティ」を重視していない企業に比べて重視している企業では、障害者の実雇用率が高い傾向がある。
キーワード:雇用、障害者雇用率、ダイバーシティ
1.調査研究の概要
(1)企業の障害者雇用をめぐる変化
企業の障害者雇用をめぐる状況は近年変化している。筆者は2006年に上場企業を対象とする障害者雇用に関するアンケート調査を実施したが、この調査時点から現在までの間にも、障害者雇用に関する法制度や障害者雇用の実態は大きく様変わりした。
例えば、民間企業に義務付けられている障害者の法定雇用率*1は、2006年時点では1.8%であったが、2013年4月からは2.0%となった。また、2006年から2014年の間に、民間企業における障害者の実雇用率*2は1.52%から1.82%に伸び、雇用されている障害者数は28万4千人から43万1千人と1.5倍程度にもなった(厚生労働省2014a)。中でも、知的障害者は4万4千人から9万人に、精神障害者は2千人から2万8千人に増えた。今後は、2016年4月の改正障害者雇用促進法の施行に向けて、障害者雇用の状況はますます変化することが予想される。
(2)アンケート調査の概要
こうした動きを背景に、企業の障害者雇用に対する取り組み姿勢や考え方は過去からどのように推移し、現在どのような状況にあるのか、そして今後どのような方向に向かっているのかなどを明らかにするため、2006年とほぼ同様の方法で2014年にアンケート調査を行った。2006年と2014年に実施したアンケート調査(以下それぞれ「2006年調査」「2014年調査」と表記)の概要を図表1に示す。本稿では、両調査の結果の一部を紹介する。
なお、2006年調査の結果の詳細は、既発行のレポート(水野 2007)に掲載されており、本稿に掲載するデータのほとんどはその再掲である。
(3)回答企業の状況
図表2で回答企業の業種をみると、2006年調査に比べて2014年調査では「製造業」の割合がやや低く、「建設業」の割合がやや高い。2014年調査におけるその他の業種の割合は、2006年調査の結果とあまり差がなく、対象企業の分布(図表省略)に比べても大きな偏りはない。
図表3で回答企業の従業員数をみると、2006年調査に比べて2014年調査では従業員数500~999人の企業が少なく、1,000人以上の企業が多い。また、従業員数別の回収率は、2006年調査・2014年調査いずれの調査においても、従業員数の多い企業で高い傾向がある(図表省略)。よって、両調査は大規模な企業の回答割合が高いといえる。
2.障害者雇用の状況
(1)障害者の実雇用率
図表4で障害者の実雇用率をみると、2006年調査に比べて2014年調査では、実雇用率が1.8%以上の企業の割合が非常に高い。また、図表5で2014年調査における実雇用率を従業員数別にみると、従業員が多いほど実雇用率が2.0%以上の企業の割合が高く、1.5%未満の企業の割合が低い。
(2)雇用している障害者の数
1)全障害者の数 2014年調査の回答企業が雇用している、全障害者の数を図表6に示す。障害者が0人、すなわち障害者を全く雇用していない企業は2.5%のみであり、10人以上雇用している企業が6割近い。従業員数別にみると、100~999人の企業では障害者数1~9人が約4分の3であるが、1,000人以上の企業では障害者数10人以上が大半を占める。
なお、2006年調査では障害者数に関して質問しなかったが、障害者を全く雇用していない企業は5.7%であった(図表省略)。
2)障害種別にみた障害者の数 図表7には、2014年調査の回答企業が雇用している、それぞれの障害者の数を示す。1人以上雇用している割合は、肢体不自由者(84.0%)で最も高く、視覚障害者(35.4%)で最も低い。知的障害者・聴覚障害者・精神障害者を1人以上雇用している割合はそれぞれ5割強でほとんど違わないが、知的障害者を10人以上雇用している割合(16.0%)は聴覚障害者・精神障害者を10人以上雇用している割合(それぞれ9.5%、8.6%)より高い。知的障害者は一企業で雇用されている数が聴覚障害者・精神障害者に比べてやや多いことがわかる。
2006年調査と比べると、どの障害者を1人以上雇用している割合も2014年調査のほうが高い。中でも精神障害者を1人以上雇用している割合は、40ポイント以上増えている。
図表8には、それぞれの障害者を1人以上雇用している割合を、従業員数別、および雇用している全障害者の数別に示す。従業員数100~999人の企業より1,000人以上の企業、全障害者の数が1~9人の企業より10人以上の企業で、それぞれの障害者を雇用している割合は高い。当然ではあるが、より大規模な企業や障害者数が多い企業で、多様な障害者が働いているといえる。
(3)障害者の雇用形態
障害者を雇用している企業に対して、障害者の雇用形態(正規・非正規従業員の構成)を尋ねた結果を図表9に示す。全体では「正規従業員のみ」という企業は21.1%、「正規従業員のほうが多い」という企業は30.0%であり、両者を合わせると過半数を占める。
従業員数別では1,000人以上の企業、障害者の実雇用率別では2.0%以上の企業、全障害者数別では障害者数10人以上の企業において、非正規従業員のほうが多いと答えた割合が高い。すなわち、障害者が多い企業では、非正規従業員として雇用されている障害者の割合が高い。
3.障害者雇用に取り組み始めてからの年数
障害者を雇用している企業に対して、障害者雇用に本格的に取り組み始めてからの年数を尋ねた結果を図表10に示す。「本格的に取り組んだことはない」と答えた企業の割合と、10年未満(「3年未満」+「3年以上5年未満」+「5年以上10年未満」)と答えた企業の割合を合わせると52.3%となる。つまり、過半数の企業は10年前には障害者雇用にまだ本格的に取り組んでいなかったことがわかる。一方、取り組み始めてから10年以上(「10年以上20年未満」+「20年以上」)の企業は32.5%である。
従業員数別では100~999人より1,000人以上の企業のほうが、実雇用率別では2.0%未満より2.0%以上の企業のほうが、取り組み始めてからの年数が長い。
4.今後の障害者雇用の方針
全ての企業に対して今後の障害者雇用の方針を尋ねた結果を図表11でみると、2014年調査では「増やす」と答えた企業が68.3%を占め、「現状維持」が25.9%、「未定」が4.9%となっている。「減らす」と答えた企業はない。2006年調査に比べると、「増やす」の割合が上がり、「現状維持」「未定」の割合が下がっている。
図表12で、障害者雇用を増やすと答えた割合を従業員数別にみると、2014年調査においては、499人以下の企業では約半数、500~999人の企業では68.4%、1,000人以上の企業では78.0%となっている。2006年調査と比べると、どの従業員数の企業においても増やすと答えた割合は高いが、特に500人以上の企業で2006年調査との差が大きい。
また障害者の実雇用率別にみると、2014年調査では、増やすと答えた割合は実雇用率1.5~1.8%の企業で最も高い(81.3%)が、実雇用率2.0~2.2%の企業においてもかなり高い(68.4%)。一方、2006年調査を振り返ると、実雇用率が1.8%以上、すなわち当時の法定雇用率以上の企業は、2割強しか障害者雇用を増やすと答えていない。2006年調査に比べて2014年調査の回答企業は、実雇用率が法定雇用率以上になっても、障害者の雇用を増やす意向が強いことがわかる
5.障害者雇用等にかかわる考え方
障害者雇用に対する取り組み姿勢を含めた、企業の方針や理念を示すキーワードとしてしばしば用いられる「ダイバーシティ」「ノーマライゼーション」「CSR」を取り上げ、これらの考え方をどの程度重視しているか企業に尋ねた。その結果を図表13でみると、2014年調査において、重視している(「重視している」+「どちらかといえば重視している」)と答えた割合は、それぞれ67.1%、56.4%、86.8%となっている。
これらの割合は2006年調査と比べるとどれも高いが、特に2006年調査との差が大きいのはダイバーシティである。2014年調査においてダイバーシティを重視している割合は、2006年調査より28.7ポイントも高く、ノーマライゼーションを重視している割合を上回った。ダイバーシティという考え方が8年前より企業に広く浸透したことがうかがえる。
図表14で従業員数別にみると、2014年調査では従業員数が多い企業ほどいずれの考え方も重視している割合が高い。2006年調査では1,000人以上の企業でのみダイバーシティやノーマライゼーションを重視している割合が高かったが、2014年調査ではその傾向がみられない。
次に、それぞれの考え方と障害者雇用との関係を探るため、図表15 には2014 年調査におけるそれぞれの考え方の重視度別の実雇用率を示す。実雇用率が高い企業、例えば実雇用率2.0%以上の企業の割合は、それぞれの考え方を重視していない企業より重視している企業のほうが高いが、CSRの重視度による差よりノーマライゼーションの重視度による差のほうが大きく、さらにはそれらよりダイバーシティの重視度による差のほうが大きい。つまり、企業におけるダイバーシティの重視度は、ノーマライゼーションやCSRの重視度以上に、障害者雇用と関連している可能性が高いと考えられる。
6.まとめ
<障害者雇用への本格的な取り組みを始めていない企業が多かった8年前> 本稿では、2014 年に上場企業を対象に実施した調査をもとに、障害者雇用に対する取り組み姿勢や考え方の現状を明らかにした。また、この調査結果と2006 年に実施した同様の調査の結果を比較することにより、その間の変化も探った。
2014 年調査において、障害者雇用に本格的に取り組んだことはない、または取り組み始めてからの年数が10 年に満たないと答えた企業は半数を超えていた。すなわち、2006 年調査を実施した時期には、かなりの割合の企業が障害者雇用にまだ本格的に取り組んでいなかったか、取り組み始めてから間もなかったといえる。
<法定雇用率以上になっても障害者雇用を増やす方針に> その2006 年から8年が経過し、企業の障害者雇用は著しく拡大した。また、障害者雇用を今後増やす方針であると答えた企業の割合も高くなった。
注目すべきは、障害者の実雇用率が2.0~2.2%の企業も、7割近くが障害者雇用を増やす方針を示したことである。つまり、実雇用率が現在の法定雇用率2.0%以上になっても、障害者雇用を増やそうとしている企業は少なくない。障害者の法定雇用率は2013 年度に1.8%から2.0%に引き上げられたが、法定雇用率が今後さらに引き上げられると予測している企業もあると想定される。
<ダイバーシティの理念の浸透と障害者雇用との関係> 企業経営におけるダイバーシティという考え方は、障害者、女性、外国人など多様な人材の活用という文脈で用いられることが多い。この考え方を重視している企業の割合は、2006 年から2014 年の間に大幅に増えた。
2014 年においてダイバーシティを重視している企業は、障害者の実雇用率が高い傾向にある。ダイバーシティの理念が、企業の障害者雇用の促進に少なからず影響を与えている可能性が考えられる。(提供:第一生命経済研究所)
【注釈】 1 障害者雇用促進法は、事業主に対し、常用労働者の一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇うことを義務付けている。 2 実雇用率とは、雇用している常用労働者総数に占める障害者数。一般には単に「雇用率」と呼ばれることもある。
【謝辞】 アンケート調査にご協力下さった企業に紙面を借りて心より御礼申し上げます。
【参考文献】 ・厚生労働省,2014a,「平成26年 障害者雇用状況の集計結果」. ・厚生労働省,2014b,「平成25年度 障害者雇用実態調査結果」. ・水野映子,2007,「企業の障害者雇用に対する姿勢」『Life Design Report』2007.3-4.
上席主任研究員 水野 映子 (研究開発室 みずの えいこ)