<企業に雇用されている障害者数は増加しているが・・・>
企業で働く障害者は増え続けている。図表1で2004~2014年の推移をみると、企業で雇用されている障害者数は10年間で25万8千人から43万1千人と、1.7倍近くになった。また、実雇用率(常用労働者総数に占める障害者数)も1.46%から1.82%に上昇している。
ただし2014年において、法で定められた障害者の雇用義務を達成している企業(法定雇用率達成企業)の割合は44.7%にとどまっており、未達成企業が過半数を占める(図表省略)。より多くの障害者が企業等の事業所に雇用され、そして定着して活躍するためには、まだ多くの課題があると考えられる。
<事業所が障害者雇用に対して感じている最大の課題は「適当な仕事があるか」>
では、障害者雇用に関して、具体的にはどのような課題があるのだろうか。
厚生労働省は、常用労働者5人以上を雇用する民営事業所(以下、「事業所」と表記)、およびそこに雇用されている障害者の双方に対して、「障害者雇用実態調査」を5年ごとに実施している。この調査の結果から、まずは事業所が身体障害者・知的障害者・精神障害者をそれぞれ雇用するにあたって感じている課題を、図表2に示す。
身体・知的・精神障害者のいずれの雇用に関する課題も、第1位は「会社内に適当な仕事があるか」である(それぞれ76.2%、83.7%、77.2%)。雇用する側が障害者に“適している”と思う仕事の有無が、障害者雇用に影響しているといえる。
これに続いて、身体障害者と知的障害者の雇用の課題としては「職場の安全面の配慮が適切にできるか」(それぞれ51.4%、44.8%)、「採用時に適性、能力を十分把握できるか」(それぞれ37.5%、44.8%)が第2・3位を占めている。また、精神障害者の雇用の課題としても「採用時に適性、能力を十分把握できるか」(43.2%)は第3位になっているが、「従業員が障害特性について理解することができるか」(47.4%)の割合はそれを上回って第2位にあがっている。
<身体・精神障害者の離職理由は「賃金・労働条件」と「職場の雰囲気・人間関係」にあり>
一方、雇用される側である障害者からみると、働き続ける上ではどのような課題があるのだろうか。障害者の離職理由から探る。
前述の「障害者雇用実態調査」においては、前職を個人的理由で離職した身体障害者と精神障害者に対し、その理由の具体的内容を尋ねている。図表3で回答結果をみると、「賃金、労働条件に不満」が身体障害者では1位(32.0%)、精神障害者では2位(29.7%)となっている。ここで、前述の事業所に対する調査の結果を振り返ると、身体障害者・精神障害者雇用の課題として「給与、昇給昇格等の処遇をどうするか」をあげた割合はそれぞれ9.0%、7.2%であり1割にも満たなかった。障害者側では給与などの処遇に対して不満があり、それが離職にもつながっているのに対し、事業所側はそれを課題としてあ まり認識していないといえる。
また、離職理由として「職場の雰囲気・人間関係」をあげた割合も、身体障害者では2位(29.4%)、精神障害者では1位(33.8%)と高い。職場の雰囲気や人間関係が障害者の就業継続を妨げる一因には、周囲の従業員の理解の不足があることも考えられる。前述の調査結果で「従業員が障害特性について理解することができるか」という点を、精神障害者の雇用の課題としている事業所は半数近かったが、身体障害者の雇用の課題とする事業所は3割弱でありさほど多くなかった。だが、精神障害者だけでなく身体障害者とともに働く従業員の理解も、事業所の認識以上に課題となっている可能性がある。
これら2項目の次に多くの身体障害者・精神障害者が離職理由としてあげたのは、「仕事内容が合わない」(それぞれ24.8%、28.8%)である。多くの事業所が身体障害者・精神障害者雇用の課題として「会社内に適当な仕事があるか」をあげているが、雇用する側が障害者に“適している”と思っている仕事が、実際には必ずしも“適していない”ことも考えられる。
障害者が処遇や職場環境、仕事内容などに満足できず、離職に至ってしまうことは、本人にとってはもちろん、事業所にとっても望ましくはないだろう。雇用する側は、雇用される側である障害者の仕事や職場に対する思いを十分把握しているかどうか、見直す必要があるのではないか。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 水野 映子 (みずの えいこ 上席主任研究員)