第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、全国に勤務する大企業・中小企業勤務者1,440 名を対象に職場でのコミュニケーションについてアンケート調査を行いました。この程、その調査結果がまとまりましたので、ご報告いたします。

 本リリースは、ホームページ(URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/ldn_index.html )にも掲載しています。

≪調査結果のポイント≫

職場のコミュニケーション<楽しさ・信頼>
● 大企業の男性管理職で最も高い「楽しい人間関係を築きたい」「仲間を信頼している」

職場のコミュニケーション<気遣い>
● 大企業の管理職、特に女性管理職での気遣いの度合いが高い

職場のコミュニケーション<付き合い方>
● 衝突を避けてうまく付き合おうとする傾向は女性で高い

異性と同性のどちらと仕事をするほうが楽か
● 同性と仕事をするほうが楽と感じる人は女性より男性で多い

上司と部下のコミュニケーションの難しさ
● 男女ともに管理職は女性部下とのコミュニケーションに難しさ

正規社員と非正規社員のコミュニケーションの難しさ
● 正規社員→非正規社員は難しくないが、非正規社員→正規社員に難しさ

職場でのコミュニケーションで「自分はうまくやっている」
● 中小企業の男性非正規社員で低く、大企業の女性管理職で高い

職場の人間関係の満足度
● 中小企業の男性非正規社員の満足度は半数に満たない

≪調査実施の背景≫

 近年、ライフスタイルの多様化が著しく進んでいます。生涯未婚率が上昇し、単身世帯・一人親世帯も増加するなど、世帯構成が大きく変化しました。また、25 歳から39歳の女性就業率が上昇し、共働き世帯も増加しました。女性においては、管理職の積極的な登用が推進される一方で非正規社員の占める割合は高く、その就労環境や意識は様々となっています。また、育児や介護に従事する就労者も多く、女性のみならず男性においても仕事と家庭のバランスについての意識が強くもたれるようになりました。

 現在の職場では、このように様々なライフスタイルや事情・背景を持つ就労者によって構成されているケースが多くなりました。例えばそこには、キャリア志向の強い女性の管理職、就労はあくまで家計補助と位置づけて就労する女性、従来の日本型企業の価値観で組織を捉えている男性、非正規就労の男性など、様々な働き方の人がいて、様々な意識を持っていると考えられます。

 こうした中、職場におけるコミュニケーションはどのような状況となっており、どのような課題を抱えているのでしょうか。この点に着目し、今回、職場におけるコミュニケーションの現状と課題を明らかにすることを目的としてアンケート調査を実施しました。

≪調査概要≫

1. 調査対象 全国の企業に勤務する20~59 歳の男女1,440 名
2. 調査方法 株式会社クロス・マーケティングのモニターを用いたインターネット調査
3.調査時期 2014 年9月
4. 回答者の主な属性

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

職場のコミュニケーション<楽しさ・信頼>

大企業の男性管理職で最も高い「楽しい人間関係を築きたい」「仲間を信頼している」

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 「職場では、わきあいあいと楽しい人間関係を築きたい」(以下、「楽しい人間関係を築きたい」)と、「職場の仲間を信頼している」(以下、「仲間を信頼している」)について意識をたずねました(図表1)。

 「楽しい人間関係を築きたい」「仲間を信頼している」ともに、大企業の男性管理職で「そう思う」とする割合が相対的に高くなっていました。

 「楽しい人間関係を築きたい」については、中小企業・大企業ともに、管理職では女性より男性で高く、非管理職と非正規社員では女性で高い傾向がみられます。特に大企業の管理職における男女差は20 ポイントと大きく、意識に差がある様子がうかがえました。

 また、「仲間を信頼している」については、管理職では6割から7割を占めました。男性非正規社員では4割程度と低い一方で、女性非正規社員では半数を超えており、男女で約10 ポイントの差があることがわかりました。

職場のコミュニケーション<気遣い>

大企業の管理職、特に女性管理職で気遣いの度合いが高い

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 「職場の同僚や部下が悩んでいたら、積極的に相談に乗ったりフォローをする」(以下、「相談やフォローをする」)、「職場の人たちには、何かと気配りするように心がかけている」(以下、「気配りする」)について意識をたずねました(図表2)。

 全体的にみて「そう思う」とする割合は、いずれの回答も男性より女性で中小企業より大企業で割合が高いことがわかります。

 最も割合が高かった大企業の女性管理職では、75.4%が「相談やフォローをする」と回答しているのに対し、最も低かった中小企業の男性非正規社員では31.8%と、その差は43.6ポイントに及んでいます。

 「気配りする」については、中小企業の男性非正規社員のみ半数に満たないとの結果でした。

職場のコミュニケーション<付き合い方>

衝突を避けてうまく付き合おうとする傾向は女性で高い

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 「業務を円滑に進める上で、タイプの合わない人ともうまく付き合うべきだと思う」(以下、「うまく付き合うべき」)と「職場では『理解しあうこと』より『衝突しない』ことの方が重要だと思う」(以下、「衝突しないことが重要」)について意識をたずねました(図表3)。

 全体的にみて、男性より女性で「そう思う」とする回答割合が高いことがわかります。

 「うまく付き合うべき」についてみると、大企業の女性管理職は85.0%を占めて最も高くなっていました。続いて回答が多かったのは中小企業の女性非正規社員(80.0%)で、これに中小企業の女性管理職(78.3%)が続いています。一方、割合が低かったのは男性非正規社員で、中小企業・大企業ともに6割に及びませんでした。

 「衝突しないことが重要」が最も高かったのは、大企業の女性非管理職(67.5%)で、以下、中小企業の女性非正規社員(64.7%)、中小企業の女性非管理職(59.0%)、中小企業の男性非正規社員(55.2%)と続きました。

異性と同性のどちらと仕事をするほうが楽か

同性と仕事をするほうが楽と感じる人は女性より男性で多い

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 「自分は異性と仕事をするより、同性と仕事をするほうが楽である」についてたずねました(図表4)。

 その結果、「あてはまる」(「非常にあてはまる」と「まああてはまる」の合計)と回答したのは、大企業の男性非管理職(47.9%)、大企業の男性管理職(44.2%)、中小企業の男性管理職(44.0%)の順で多いことがわかりました。その割合は半数に満たないものですが、女性の回答結果と比べると差が非常に大きいことがわかります。最も差が大きかった大企業の非管理職では男女差が30.3 ポイント、大企業の管理職で29.7 ポイント、中小企業の管理職で26.0 ポイントとなっていました。

上司と部下のコミュニケーションの難しさ

男女ともに管理職は女性部下とのコミュニケーションに難しさ

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 上司と部下のコミュニケーションの難しさについて、まず上司としての管理職の回答をみると、男性管理職で男性の部下とのコミュニケーションを難しいと感じている割合は、中小企業で18.3%、大企業で16.0%であるのに対し、女性の部下とのコミュニケーションについては中小企業で23.4%、大企業で21.7%となっていました(図表5上図)。

 これに対し、女性管理職においても、男性の部下より女性の部下とのコミュニケーションの方が難しいと感じられています(図表5下図)。特に、大企業の女性管理職では、女性部下とのコミュニケーションを難しいと感じる割合が男性部下とのコミュニケーションを難しいと感じる割合を10.0 ポイント上回っていました。男女ともに、管理職は女性部下とのコミュニケーションを難しいと感じているのは興味深い結果です。

 部下としての非管理職からみた男性上司・女性上司とのコミュニケーションについてみると、中小企業においては、女性非管理職と男性非正規社員で、男性上司より女性上司とのコミュニケーションを難しいと考えている人が多いとの結果を得ました(図表5上図・下図)。

 一方、大企業ではいずれも男性上司より女性上司とのコミュニケーションが難しいとの回答傾向があり、女性上司に対する難しさと男性上司に対する難しさの差は男性非管理職で12.0 ポイント、女性非正規社員で10.5 ポイントとなっていました(図表5上図・下図)。

正規社員と非正規社員のコミュニケーションの難しさ

正規社員→非正規社員は難しくないが、非正規社員→正規社員に難しさ

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 正規社員からみた非正規社員とのコミュニケーションについてみると、男性非正規社員とのコミュニケーションが難しいとする割合は全体的に高くありませんが、女性非正規社員とのコミュニケーションについては、中小企業の男性管理職、大企業の男性・女性管理職で20%を超えました(図表6上図・下図)。大企業の男性非管理職においても19.2%と、約2割は女性非正規社員とのコミュニケーションを難しいとしています。しかし、全体として3割を超えるものはなく、正規社員からみた非正規社員とのコミュニケーションを難しいと感じる人はそれほど多くないといってよいでしょう。

 これに対し、非正規社員からみた正規社員とのコミュニケーションの実態については異なる結果が示されています。中小企業についてみると、非正規社員が正規社員とのコミュニケーションに対して難しいと感じる割合は、正規社員が非正規社員に感じる割合よりも高くなっています。特に差が大きかったのは、中小企業における正規社員と女性非正規社員との意識ギャップです。中小企業の女性非正規社員は、正規社員に対するコミュニケーションが難しいと思っている割合が高く、特にそのギャップは男性非管理職との間では27.5 ポイントに及んでいます(32.4%-4.9%)(図表6上図)。大企業ではそれほど大きな差は見られませんでした。

 参考として、非正規社員同士のコミュニケーションに対して難しさを感じるかどうかもたずねましたが、この結果は正規社員に対して難しさを感じる割合よりも低く、コミュニケーションの相手が正規社員か非正規社員かで、感じ方が異なることが示されました(図表省略)。

職場でのコミュニケーションで「自分はうまくやっている」

中小企業の男性非正規社員で低く、大企業の女性管理職で高い

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 職場の人間関係の自己評価として、「あなたご自身は、職場でのコミュニケーションについて『自分はうまくやっている』と思いますか」との設問文でたずねました。その結果、「うまくやっている」(「非常にうまくやっている」と「どちらかといえばうまくやっている」の合計)と回答した割合が最も高かったのは大企業の女性管理職で84.2%を占め、これに大企業の女性非正規社員では82.5%と続き、中小企業の女性管理職と大企業の男性管理職がともに80.0%となりました(図表7)。

 それぞれの属性ごとにみると、全体的に男性より女性で評価が高いことがわかります。最も自己評価が低かったのは中小企業の男性非正規社員で53.3%となっており、最も高かった大企業の女性管理職と比べると30 ポイント以上の差がみられました。

職場の人間関係の満足度

中小企業の男性非正規社員の満足度は半数に満たない

全国の大企業・中小企業勤務者1,440 名に聞いた 『職場でのコミュニケーションの現状と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 最後に、職場の人間関係の満足度についてたずねました。満足度(「非常に満足している」と「どちらかといえば満足している」の合計値)は、大企業の女性非正規社員で、72.5%を占めて最も高くなっていました(図表8)。これに大企業の女性管理職が70.8%で続いています。以下、中小企業の女性管理職、大企業の男性管理職、大企業の女性非管理職がいずれも67.5%で続きました。

 それぞれの属性ごとに比較すると、男性より女性で、中小企業より大企業で満足度が高い傾向があります。最も満足度が低かったのは中小企業の男性非正規社員で、満足度は46.7%と半数に及びませんでした。

≪研究員のコメント≫

 今回の調査結果から、性・雇用形態・職位の違いによって職場のコミュニケーションに対する意識や自己評価、満足度に差があり、職場にいる人の多様化が進む中でコミュニケーションの複雑化が進む可能性が示唆されました。例えば今回の調査結果にもあるように、正規社員からみた非正規社員とのコミュニケーションと、非正規社員からみた正規社員とのコミュニケーションには明らかな意識ギャップがあります。また、非正規社員男性の職場コミュニケーションの自己評価や満足度が他に比べて目立って低いことも確認されました。しかしこうした事実は、職場において漠然とは認識されたとしても、正規社員と非正規社員で共有される機会は多くありません。

 しかも、今日の職場にいる人の多様化は性・雇用形態・職位の違いにとどまりません。例えば、年金支給開始年齢の引き上げは、60 歳以降も働く人の増加を促進し、定年後再雇用制度の活用などによって就労者の年齢幅も広がっていく傾向にあります。また、障害者や外国人の雇用も増加傾向にあります。本リリースでは、中小企業と大企業という大きな分類で分析を試みましたが、日本の企業の多くは中小企業です。こうした企業規模の違いに加え、業種や男女比、地域等によっても、コミュニケーションの問題が様々であることは想像に難くありません。

 職場にいる人の多様化に伴い、従業員がコミュニケーションの面でとまどうケースは少なくないでしょう。多様な人々を受容し、円滑なコミュニケーションができる職場を構築していくにあたっては、それぞれの職場ごとに個別の対応を考えていく必要があります。そのためにはまず実態の把握が不可欠ですが、アンケートやヒアリングだけでは、複雑化した職場の実態を把握することは難しいと考えられます。職場のコミュニケーションの課題は、個々の職場のメンバーが時間をかけてコミュニケーションを重ねていくことでしか把握できないでしょう。

 従来、職場での人間関係の維持や相互理解を図るためのコミュニケーションの多くは、ランチや飲み会といった業務外の時間に持たれてきました。しかし今日、そうした機会は減少傾向にあり、職場のコミュニケーション機会の確保は難しくなっています*1。加えて、業務時間内のやりとりもメールなどで行われがちとなっており、対面でのコミュニケーション機会自体が不足している職場も少なくありません。

 「飲みニケーション」が死語となった今日、職場の人間関係の構築・維持に向けたコミュニケーション機会の確保は、ライフスタイルの多様化に伴ってますます難しいものとなるでしょう。しかし、多様化しているからこそ、相互理解に向けた職場のコミュニケーションが重要であると考えられます。こうした意識の下、企業ごとに自社の状況に合わせた職場のコミュニケーションを考えていく必要があると思われます。(提供:第一生命経済研究所

注1:宮木 由貴子「職場のランチ・飲み会はどう評価されているか」2015 年2月(http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/watching/wt1502a.pdf

(研究開発室 上席主任研究員 宮木由貴子)

㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(津田・新井)
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