目次

1.はじめに
2.子育て分野での就労意向
3.子育て支援員への関心度
4.まとめ

要旨

①2015年4月から子ども・子育て支援新制度(以下「新制度」)が施行され、保育事業の拡大が図られる。そのため保育人材の確保が重要な課題となっており、保育士確保のための取組が強化されている。しかし保育士のみでは必要量を満たせないことから、子育て分野で働くことに関心のある地域住民に必要な研修を提供し、研修を修了した人を「子育て支援員」と認定し保育従事者等として活用する制度が新制度と共に創設される。

②そこで当研究所では、新制度施行前に、子どもを持ち働いていない既婚女性を対象として「女性の就労・社会参加に関するアンケート調査」を実施し、子育て分野の仕事への就労意向、並びに「子育て支援員」についての関心度等についての意識をたずねた。

③調査の結果、主に30代、40代で子育て分野で働くことに前向きな人が少なくないことが明らかとなった。また、こうした人を中心に「子育て支援員」に関心のある人が多い。新制度の導入により、保育事業を拡大し子育て支援の充実を図るにあたり幅広い人材の確保が求められている中、一定程度期待できる担い手の存在が浮き彫りになった。

④こうした女性労働力を、地域の子育て支援の充実に活かすため、一つには、子育て支援員の認知度向上の取組を行い、普及させることが必要である。もう一つは、保育事業の運営主体は民間企業のみならず、地域住民による非営利活動など、多様な事業主体があることの周知も必要である。子育て分野で働きたい人が、自分のライフスタイルに合った働き方ができるよう、地域内で子育て支援をおこなう団体・組織等についての情報提供を充実させることも、子育て支援の充実のために重要と思われる。

キーワード:子ども・子育て支援新制度、子育て支援員

1.はじめに

(1)子ども・子育て支援新制度の施行に向けて

 国を挙げて女性の活躍推進が図られている中、共働きの増加等により保育需要が高まり、利用したくても利用できない待機児童の問題が続いている。他方、核家族化や地域コミュニティの希薄化により、子育て中の親が子どもの発達や子育てについて学べる機会や、地域の中で子育ての悩みや不安を共有し助け合ったりする場が少なくなっているなど、子育て環境が変化して、孤独や不安を感じながら子育てをしている人が増えていることも指摘されている。

 こうした問題を解決するために、2015年4月から子ども・子育て支援新制度(以下「新制度」)が施行され、地域の実情に応じて保育の供給量を増やし、子育て支援の充実が図られる。特に0~2歳児を対象とする小規模の保育事業を増やすことで、0~2歳児の待機児童が多い都市部の保育需要に対応するとしている。また新制度では、共働き家庭だけでなく、すべての子育て家庭を支援するための「地域子ども・子育て支援事業」を充実させる。例えば、急な用事や短期のパートタイム就労などのために利用できる「一時預かり事業」や、地域の身近なところで気軽に親子の交流や子育て相談ができる「地域子育て支援拠点事業」などの拡充を図るとしている。

 このように新制度では、保育所等の整備のみならず、小規模保育事業や地域子ども・子育て支援事業など、様々な保育事業の展開が見込まれている。そのため施行にあたり、これら事業に従事する保育士などの人材確保が重要課題となっている。

(2)子育て支援員制度の創設

 保育士については、待機児童解消のために実施している「待機児童解消加速化プラン」(2013年5月)の中で、保育所の供給量拡大に併せて、保育士の就業支援や処遇改善、潜在保育士の復帰支援など、その確保のための取組が強化されている。

 他方、新制度では前述の通り、保育所のみならず、地域の子育てニーズに対応した様々な子育て支援事業が供給されることとなっている。これら事業の量的拡大に対応するためには、保育士のみでは必要な人材の供給量をまかなうことができない可能性がある。そのため、保育士以外の担い手も確保することが必要とされている。そこで、「保育や子育て支援の仕事に関心を持ち、子育て支援分野の各種事業に従事することを希望する者等」*1の地域住民に必要な研修を提供し、その研修を修了した人を「子育て支援員」として認定し、保育従事者等として活用する制度が、新制度の施行に併せて創設されることとなった*2。

 子育て支援員に期待されている役割は、「小規模保育」や「事業所内保育」「家庭的保育」等においては保育士の補助をおこなう(図表1)。また、子育て中の親子の交流の場を提供する等の「地域子育て支援拠点事業」や育児の相談に応じる等の「利用者支援事業」では、保育士の機能を超え、専任職員として子育てをサポートする役割も想定されている。

子どもがいる無職女性の子育て分野で働く意識
(画像=第一生命経済研究所)

 これによって、地域の子育て世代のために役に立ちたいという住民の力を活用することで、子育てを住民相互が支える仕組みを確立し、潜在的な女性労働力を引き出しながら地域における子育て機能を向上させ、子育てしやすい社会を目指す狙いがある。

 こうした中、新制度施行を前に、当研究所では、子どもを持ち働いていない既婚女性を対象に「女性の就労・社会参加に関するアンケート調査」を実施し、子育て分野での就労意向、並びに「子育て支援員」についての関心度等についての意識をたずねた。本稿では調査結果を踏まえ、子育て分野で働くことの女性の意識を紹介し、保育事業を拡大して地域の子育て機能向上を狙う新制度に備え、幅広く保育人材を確保するための課題について考える。

(3)アンケート調査の概要

1)調査概要
 アンケート調査の概要は図表2の通りである。

子どもがいる無職女性の子育て分野で働く意識
(画像=第一生命経済研究所)

2)調査対象者の属性
 調査対象者の主な属性として年代別末子年齢等の内訳を図表3に、これまでの勤務経験の内訳を図表4に示した。

 調査対象者の年代別に末子の年齢等の内訳をみると、30代では8割以上が未就学児、40代では約8割が中学生以下である。50代になると8割以上が高校を卒業しており、60代では9割以上が企業等に勤務していると回答している。

子どもがいる無職女性の子育て分野で働く意識
(画像=第一生命経済研究所)

 調査対象者のこれまでの勤務経験の内訳をみると、「学校を卒業してから現在まで、企業等に勤務したことがない」と回答した人は6.1%であり、ほとんどの人は企業等に勤務したことがある。勤務経験者の就労形態をみると、「正社員・正職員として企業等に勤務したことがある」と回答した人が最も多く63.5%を占める。次いで正社員・正職員に加え、非正社員・非正職員(パート・アルバイト・契約社員)としての勤務経験がある人が21.1%、非正社員・非正職員のみしか勤務経験がない人は8.6%である。

 調査対象者の年代別にみると、30代、40代では「正社員・正職員と、非正社員・非正職員(パート・アルバイト・契約社員)として企業等に勤務したことがある」割合が3割弱であり、50代、60代よりも高いことが特徴的である。50代、60代の方が30代、40代よりも、正社員・正職員としての就労しか経験していない人の割合が高い。

子どもがいる無職女性の子育て分野で働く意識
(画像=第一生命経済研究所)

2.子育て分野での就労意向

(1)子育てにかかわる仕事の就労意向

 先述の通り、新制度では子育て支援事業を充実させるために、保育士のみならず、子育て分野で働くことに関心のある地域住民など、幅広く担い手を確保することとしている。こうした中、本アンケート調査では、企業等に勤務経験がある人が多いものの現在は無職の女性が子育てにかかわる仕事に対して、どの程度関心があるかをたずねた。保育人材の確保のために、どの程度期待できるのであろうか。

 調査の結果、子育て分野で働きたいと回答した人は全体の12.3%であったが、「現在はできないが、将来的にこの分野で働きたい」(22.2%)を合わせると、3割以上が前向きな回答であった(図表5)。

 年代別にみると、年代が若いほど「この分野で働きたい」と「現在はできないが、将来的にこの分野で働きたい」を合わせた『子育て分野で働く意向のある人』(以下同様)の割合が高い。中でも30代では3割以上が「現在はできないが、将来的にこの分野で働きたい」と回答している。30代の多くは末子がまだ未就学児であることから、子どもがもう少し大きくなったら、この分野で働きたいと思っているのであろう。

 居住地の人口規模別にみると、東京23区や政令指定都市、人口30万人以上の市では、『子育て分野で働く意向のある人』の割合が4割近くにのぼる。人口規模の大きい地域の方が、待機児童が多いなど子育て支援に対するニーズが高い。そうした地域特性を察して、人口規模が大きい地域の住民は、子育て支援充実の必要性を実感し、子育て分野で働くことに前向きな人が多いのかもしれない。

子どもがいる無職女性の子育て分野で働く意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)子育てにかかわる仕事の働き先

 子育て分野で「働きたい」と「現在はできないが、将来的にこの分野で働きたい」と思っている人に、子育てにかかわる仕事をするにあたり、どのような組織で働きたいかをたずねた。現状、子育て分野の主な就労先として、一つの選択肢は雇用契約に基づく民間企業(以下「民間企業」)などがあり*3、もう一つは助け合いの理念に基づく、社会福祉協議会、ファミリー・サポート・センター、NPOなどの住民参加型の地域活動(以下「地域活動」)がある。前者は保育所等を運営している株式会社等の民間保育事業者であり、後者は地域住民による子育て支援を目的に非営利で活動する組織である。

 調査結果は、全体では「民間企業」が53.6%、「地域活動」が46.4%である(図表6)。民間企業の方が多いが、あまり大きく差が開いていない。子育てにかかわる仕事をするにあたり、地域活動に参加して働きたいという人も、民間企業と同じくらいの割合である。

 年代別にみると、30代と40代は子育てにかかわる仕事をするにあたり、民間企業で働きたいと回答した人が6割以上を占めているが、50代と60代では地域活動に参加して働きたいと回答した人の方が多い。

 保育所の多くを占める認可保育所の運営は、2000年の規制緩和により株式会社の参入を認められるまでは主に自治体や社会福祉法人が担ってきた。株式会社による保育サービスが社会的に広まったのは2000年以降のことである。そのため現在、未就学児を育てている人が多く含まれる若年層の方が、保育事業を行なう民間企業の存在を身近に感じているのかもしれない。こうしたことも、子育てにかかわる仕事の就労先を選択する女性の意識に関係していると思われる。

 以上、現在働いていない既婚女性の子育て分野における就労意識をみてきた。こうした意識を踏まえて次に、2015年4月に創設される「子育て支援員」についての認知・関心度をみる。

子どもがいる無職女性の子育て分野で働く意識
(画像=第一生命経済研究所)

3.子育て支援員への関心度

(1)子育て支援員の認知度

 「子育て支援員」のことを聞いたことがある人はどのくらいいるであろうか。アンケート調査では「一定の研修を実施し修了した人を『子育て支援員』として認定し、小規模保育・家庭的保育・一時預かり・事業所内保育の保育従事者等とする事業が始まる予定」であると説明した上で、この「子育て支援員」について、聞いたことがあるかをたずねた。その結果、全体では「聞いたことがある」が36.4%、「聞いたことがない」が63.6%であり、「聞いたことがある」人は4割弱である(図表7)。

 年代別にみると、「聞いたことがある」への回答割合が最も高いのは60代の46.0%であり、次いで50代の42.8%である。これら50代以上に比べて40代以下の「聞いたことがある」人の割合は低く、40代では約2割に留まっている。年代が高い人の方が認知度が高い。

 居住地の人口規模別にみると、「聞いたことがある」の割合が最も高いのは東京23区に住んでいる人であり、次に政令指定都市と続く。以下、人口規模が小さいほど「聞いたことがない」への割合が高くなっている。人口規模が大きい地域に住んでいる人の方が認知度が高い。

子どもがいる無職女性の子育て分野で働く意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)子育て支援員についての関心度と就労意向

 次に、子育て支援員として働きたい人はどのくらいいるであろうか。子育て支援員についての関心度と就労意向をたずねた結果をみると、全体では「関心があり、子育て支援員としてすぐにでも働きたい」(以下「すぐにでも働きたい」)の回答割合は3.2%と少ないが、「関心があるが、もう少し情報を得てから働きたい」(以下「情報を得てから働きたい」)の31.2%を合わせると、子育て支援員として働くことに前向きな人が約3分の1を占めている(図表8)。

 年代別にみると、「すぐにでも働きたい」への回答割合は、いずれの年代も5%以下と低いが、「情報を得てから働きたい」と回答した人の割合は年齢が若い人ほど高い。特に30代は「すぐにでも働きたい」と「情報を得てから働きたい」を合わせると、半数近くが、子育て支援員に関心があり、働くことに前向きである。反対に、50代以上 は「関心がない」人が約3分の1を占めている。

 子育てにかかわる仕事への就労意向との関連をみると、子育て「分野で働きたい」人では20.3%が「すぐにでも働きたい」と答えている。「情報を得てから働きたい」(71.5%)を合わせると、前向きな回答割合が9割以上である。子育て分野で働きたい人は、子育て支援員として働くことにも前向きな人が多いようだ。

子どもがいる無職女性の子育て分野で働く意識
(画像=第一生命経済研究所)

4.まとめ

 以上、調査結果により、現在無職の既婚女性のうち主に30代、40代で子育て分野で働くことに前向きな人が少なくないことが明らかとなった。また、こうした人を中心に「子育て支援員」に関心のある人が多い。2015年4月の新制度スタートにあたり、保育事業の拡大に対応するために幅広い人材の確保が求められている中、一定程度期待できる担い手の存在が浮き彫りになった。こうした女性労働力を地域の子育て支援充実のために活かすことが重要である。そのために何が必要か。

 一つは、子育て支援員の制度化にあたり、まずはその認知度向上の取組が必要である。特に30代、40代では子育て分野で働くことに前向きな人が相対的に多いにもかかわらず認知度が低いことから、こうした層への積極的な普及活動が求められる。

 もう一つは、保育事業の運営主体は民間企業のみならず、地域住民による非営利活動など、多様な事業主体があることの周知も必要である。未就学児の子どもを育てながらも子育て分野で働くことに前向きな人も少なくない。最近では、子どもを預けたい、あるいは預かってもいいという親同士が知り合いになり信頼関係を築いた上で、お互いに子どもを預け合うなどの相互扶助的な子育て支援活動も広がりつつある。子育て分野で働きたい人が、自分のライフスタイルに合った働き方ができるよう、地域内で子育て支援をおこなう団体・組織等についての情報提供を充実させることも、子育て支援の充実のために重要である。

 このようにして子育て分野で働きたい人の力を引き出し、活用できるような仕組みづくりを行うことで女性の就業が促進されれば、国が目指している「すべての女性が輝く社会づくり」にも一歩近づくのではないだろうか。(提供:第一生命経済研究所

 

【注釈】
1 厚生労働省「第3回子育て支援員(仮称)研修制度に関する検討会 資料1子育て支援員(仮称)研修制度の整理①」2014年9月29日
2 「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」(2014年6月24日)において、「子育て支援員(仮称)の創設」が明記されている。
*3 この他にも雇用契約に基づく子育て分野の就労先として、社会福祉法人や学校法人等があるが、本アンケート調査では、このうち民間企業に絞ってたずねた。

上席主任研究員 的場 康子
(研究開発室 まとば やすこ)