全国の男女3,376 名に聞いた40・50 代の不安と備えに関する調査より

 第一生命保険株式会社(社長 渡邉 光一郎)のシンクタンク、株式会社第一生命経済研究所(社長 矢島 良司)では、全国の40 代・50 代の男女3,376 名を対象にマネー・ヘルス・タイムのそれぞれの分野でどのような不安を抱き、どのような備えをしているのかアンケート調査を行いました。この調査を元に、本稿では親と同居する40・50 代のシングルに焦点をあてて分析しています。

 本稿は、ホームページ(URL:http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/ldn_index.html )にも掲載しています。

≪調査結果のポイント≫

本人年収
● 自分・親世帯の1割強が「収入なし」

世帯の金融資産残高
● 自分・親世帯の金融資産高が自分・子世帯よりも多いのは親に資産があるケースもあるから

就労形態と無職者の割合
● 自分・親世帯における「正社員・正職員」は35.7%、4人に1人が「無職」

支出項目の見直しに関する意向
● 自分・親世帯の消費に対する意識は自分・子世帯と比してあまり高くない

親の介護に対する不安
● 自分・親世帯の人は自分が親の介護をすることになるとの意識が高い

生きがい
● 自分・親世帯の人は「趣味」が生きがい 親と同居でも「家族だんらん」は生きがいにならず
● 自分・親世帯における男性の無職者は「生きがい」としてあげる項目数が少ない

生活満足度
● 世帯形態別にみた生活満足度は自分・親世帯で最も低い

≪調査実施の背景≫

 総務省の資料によると、2006 年以降、親と同居する若年未婚者は減少傾向にあるのに対し、近年は親と同居する壮年未婚者が増加しています。若年未婚者・壮年未婚者ともに、親と同居している未婚者は女性より男性で多いのが特徴です。この20 年で生涯未婚率も急上昇しましたが、これについても男性が2割を超えて女性の倍を占めているのが実態です。

 このようなライフスタイルは、1999 年頃に山田昌弘氏によって「パラサイト・シングル」と表現され、「学卒後もなお、親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者」とされました。当時、パラサイト・シングルは食住を親に依存することで可処分所得が多く、消費に積極的なライフスタイルとしてとらえられましたが、2002 年頃からニートが急増し引きこもりが問題視されるようになるなど、今日親と同居している未婚者、特に壮年未婚者の事情は様々です。

 親の高齢化が進み、介護の問題等が発生する時期を迎える壮年者において、親と同居するシングルの生活実態はどのようなものなのでしょうか。当研究所では、全国の40・50 代男女3,376 名を対象に、「マネー」「ヘルス」「タイム」の3つの側面から「生活リスクへの不安と備えに関する調査」を行い、この結果から、親と同居するシングルの男女に焦点をあてて分析・考察をしました。

 なお、本リリース中では親と同居する40・50 代のシングルを「自分・親世帯」、子どもと同居する40・50 代のシングルを「自分・子世帯」と表記して扱っています。

≪調査概要≫

1. 調査対象  全国の40・50 代男女3,376 名

2. 調査方法  株式会社クロス・マーケティングのモニターを用いたインターネット調査

3.調査時期  2013 年11 月

4. 分析対象  本ニュースリリースでは、このうち以下の世帯形態について分析した結果を使用しています。

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

本人年収

自分・親世帯の1割強が「収入なし」

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 自分・親世帯、自分・子世帯、単身世帯(別居子無)、単身世帯(別居子有)別に本人の年収をみました。自分・親世帯の年収についてみると、「収入はない」とする人が12.6%いることがわかりました。また、「103 万円未満」とする人が19.4%と約2割を占め、年収が300 万円未満の合計で54.8%と過半数を占めています(図表1)。

 自分・子世帯、いわゆる「シングルファザー(父子世帯)」「シングルマザー(母子世帯)」とされる世帯の年収についてみると、300 万円未満とする人で62.0%を占めており、自分・親世帯より年収が低くなっています。厚生労働省の全国母子世帯等調査では、現在、父子世帯数は22 万3,300 世帯で、1983 年に比べ33%の増加、母子世帯が2011 年に推計約123万7,700 世帯と1983 年に比べ約1.7 倍に増加するなど、自分・子世帯は自分・親世帯同様、近年増加しています。

 単身世帯においては、別居子の有無にかかわらず、自分・親世帯、自分・子世帯より収入が高くなっていました。

世帯の金融資産残高

自分・親世帯の金融資産残高が自分・子世帯よりも多いのは親に資産があるケースもあるから

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 金融資産についてみると、自分・子世帯では「わからない」とする割合が20.7%であるのに対し、自分・親世帯では40.1%が「わからない」としており、世帯の金融資産額を把握していない人が多いことがわかりました(図表省略)。

 「わからない」とする人を除いて再集計すると、金融資産が1千万円以上とする人が自分・親世帯では38.1%(13.1%+15.9%+9.1%)を占め、自分・子世帯(17.8%)の倍以上に及びます(図表2)。

 「わからない」とする割合の高さや、1千万円以上の金融資産保有者の多さは、それらが同居している親の保有資産というケースがあることによるものと推察されます。

就労形態と無職者の割合

自分・親世帯における「正社員・正職員」は35.7%、4人に1人が「無職」

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 就労状況についてみると、自分・親世帯では正社員の割合が35.7%と自分・子世帯に次いで低くなっていました(図表3)。

 性別に比較すると、男性の無職者の占める割合が自分・親世帯では23.8%と、他の世帯に比べて高いことがわかりました(図表4)。

支出項目の見直しに関する意向

自分・親世帯の消費に対する意識は自分・子世帯と比してあまり高くない

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 支出項目の見直しに関する意向について、「今後経済的ゆとりができたときに支出を増やしたい」項目と、「今後支出を減らそうと思っている」項目についてそれぞれたずねました。これについては、全体値と自分・親世帯、自分・子世帯の結果を比較しています(図表5)。

 まず、「特にない」とする割合は、「増やしたい項目」「減らしたい項目」ともに自分・親世帯で最も多くなっていました。自分・子世帯は「増やしたい項目」「減らしたい項目」ともに具体的な回答項目が多く、支出項目の見直しに積極的であるといえます。一方で、自分・親世帯では特に食費・外食費についての意識がいずれも高くないことから、食事に関して親に依存するなど、自ら関与していないケースもあるものと推察されます。

親の介護に対する不安

自分・親世帯の人は自分が親の介護をすることになるとの意識が高い

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 一方、親の介護についての不安についてみると、親と同居する40・50 代のシングルにおいては、「介護施設を希望しても入れないこと」(75.5%)、「介護を必要とする期間がどのくらいになるかわからないこと」(72.5%)に続いて、「自分以外に家族や親戚で介護できる人がいないこと」(72.2%)が続いています(図表6)。

 また、「自分の時間が減ること」についても、全体で60.4%であるのに対して、自分・親世帯では65.0%となるなど、親が介護状態になった際の自分の関与を意識している様子がうかがえます。

 一方で、「親に何かあった時にすぐにかけつけられないこと」についての不安は、全体で55.6%であるのに対して自分・親世帯では29.6%となっており、不安感は高くありませんでした。

生きがい

自分・親世帯の人は「趣味」が生きがい親と同居でも「家族だんらん」は生きがいにならず

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 生きがいについてみると、男女ともに自分・親世帯の人では「趣味に熱中しているとき」に生きがいを感じている割合が高く、それぞれ全体値を上回りました(図表7)。

 一方で、親と同居しているにもかかわらず、「家族だんらんのとき」については生きがいを感じている割合が全体値より大幅に低くなっています。また、「旅行に行っているとき」「食事やお酒を楽しんでいるとき」などについても、全体値と比べて差が目立ちました。

 さらに、生きがいが「特にない」とする人が全体値と比してやや高いこともわかりました。

生きがい

自分・親世帯における男性の無職者は「生きがい」としてあげる項目数が少ない

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 自分・親世帯のうち、男性の無職者の結果をみると、「趣味に熱中しているとき」が7割を超えて高くなっていました(図表8)。

 また、「テレビを見たり、ラジオを聞いているとき」「勉強や教養に身を入れているとき」なども、自分・親世帯全体の値を上回っていました。

 そのほかについては回答割合が低く、平均回答項目数も2.84 と最低値でした。

生活満足度

世帯形態別にみた生活満足度は自分・親世帯で最も低い

『親と同居する40・50 代のシングルの実態と課題』
(画像=第一生命経済研究所)

 「家庭生活」「職業生活」「余暇・レジャー」「友人・知人やサークル・団体との交流」「生活全体」の5つの領域の満足度について、「満足している」から「不満である」に5~1点をそれぞれ付与し、平均値を比較しました(図表9)。

 この結果、自分・親世帯は全体的に他の世帯に比べて低い値を示しており、生活満足度が非常に低いことが明らかとなりました。

 自分・親世帯のうち無職者のみの平均値をみると、いずれの満足度も自分・親世帯全体と比べてさらに低くなっていました。

≪研究員のコメント≫

 今回の結果から、自分・親世帯の生活満足度の低さと男性の無職率の高さが確認されました。特に自分・親世帯の男性無職の生活満足度は低く、生きがいの多様性も低いなど、全体値と比べてかなりの乖離がありました。また、40・50 代の自分・親世帯で、今後親の介護に従事するケースは少なくないと思われますが、実際に親の介護への不安や備えの必要性が感じられており、親の介護は将来的に訪れるものとして自分・親世帯のシングルに意識されています。親世帯と子世帯が別居しているケースと異なり、実子が親と同居し、将来的に親の介護を担うことは、親にとって安心できる側面もあるでしょう。ただし今日、親と同居する未婚者の多くは男性で、35 歳以上の占める割合が増加している上に、多数の無職者がいます。こうした人たちが、親の死後、親の年金収入等が途絶えた後に収入がないまま独居者となる可能性が懸念されます。実際、本調査では「自分が老後に1人暮らしをすること」について不安を持っている人(「非常に不安」と「やや不安」の合計)は全体値で56.6%であるのに対し、自分・親世帯の人では70.5%にのぼっていました(図表省略)。「非常に不安」と回答した人だけでも3割近くを占めており、「単身(別居子無)」者と比 べてもかなり不安が大きいことがわかっています。

 また金銭面だけでなく、ネットワークの課題もあります。実際に親の介護をすることになれば、学生時代や趣味活動の友人等、自らのネットワークが疎遠になったり途絶えるケースも少なくないと考えられます。

  本稿では、随所で自分・子世帯との比較も行いましたが、特にシングルマザーについては、今日、養育費支援や就業支援、自立支援、補助手当てといった優遇措置や社会的支援が行われています。さらに、子育ては子どもの年齢に応じた今後の見通しが立てやすいのに対し、介護は時期や将来の見通しが立ちにくく、同居家族が介護する場合、介護従事者の人生設計が難しくならざるをえません。こうした側面もあってか、経済的には自分・親世帯より厳しい状況にある自分・子世帯の生活満足度は、自分・親世帯より高いことが示されました。先に述べた「自分が老後に1人暮らしをすること」を「不安である」とする人も、自分・子世帯においては半数に満たないのが実情です(「非常に不安」とする人はわずか6.6%)。

 生涯未婚率は今後さらに高まると予測されており、壮年・中年未婚者の増加傾向も続くと考えられます。現在親と同居している壮年・中年未婚者も、将来的には独居となる可能性が高く、さらに無職であることは生活困窮のリスクを高めることとなりかねません。来年度より、生活保護の前段階としてのセーフティネットとして「生活困窮者自立支援制度」が開始され、早期自立を促すための各種支援が行われます。こうした制度と併せて、親と同居する壮年・中年未婚者自身が将来的な独居を見据えたライフデザインへの意識を高めていく必要があるでしょう。そのために、まずは引き続きこうした世帯の実態を明らかにし、具体的な問題点を浮き彫りにするとともに、必要な情報を提供すべく社会に向けた情報発信が必要であると考えられます。(提供:第一生命経済研究所


(研究開発室 上席主任研究員 宮木由貴子)

㈱第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 広報担当(津田・新井)
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