<2013年度の女性管理職割合6.6%>

 わが国は今、女性の活躍推進を目指し、「指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度とする」ことを政府の目標として掲げている。しかしながら、企業等の役員、管理職における女性の割合は依然として低い水準に留まっている。

 厚生労働省が今年8月に発表した「平成25年度雇用均等基本調査(確報)」によれば、課長相当職以上の管理職全体に占める女性割合(女性管理職割合)は、2013年度6.6%であった(図表1)。前回調査の2011年度は6.8%であったので、2年前よりも0.2ポイント下がっている。目標を達成するには、あと7年で23ポイントあまりも上昇させなくてはならない。

子どものいる女性正社員の職業能力開発
(画像=第一生命経済研究所)

 なぜ女性の管理職登用が進まないのか。先の調査では、女性管理職が少ない企業にその理由をたずねている。その結果をみると「現時点では、必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいないため」とする企業が最も多く58.3%を占めている(図表省略)。6割近くの企業が、管理職になるために必要な知識などを持っている女性がいないことを、女性管理職が少ない理由としている。女性が業務上必要な知識を蓄積させるためには、ある程度の在職年数が必要であるとともに、職業に関する自らの能力を開発・向上させる「職業能力開発」の取り組みも必要である。今後、育児などの家庭生活との両立をしながらでも継続就業して、職業経験や知識を備えた女性が増えることが、管理職割合を上昇させることにつながると思われる。

 本稿では、当研究所が2013年11月に実施した「女性の継続就業に関するアンケート調査」における正社員を分析対象とした結果をもとに、主に子どもを育てながら働いている女性の職業能力開発の意識や実態に注目し、女性管理職割合が目標値に近づくための課題について考える。

<子どものいる女性正社員の約3割が管理職になりたい>

 一般的に30~40代で管理職に就く人が多いとされるが、この年代の管理職昇進に対する意識はどのようなものか。性別にみると、男性では半数近くが「管理職に昇進したいと思う」(「できるだけ早く管理職に昇進したいと思う」と「自分なりのペースで管理職に昇進したいと思う」の合計、以下同様)と回答している(図表2)。女性は男性よりも低いものの「管理職に昇進したいと思う」に約3割が回答している。

 子どもを育てながら正社員として働く女性の約3割が管理職昇進に前向きである。各職場において、こうした昇進意欲のある女性のモチベーションを維持・向上させ、適切に評価されるようになれば、目標達成までそれほど遠い道のりではないように思われる。

子どものいる女性正社員の職業能力開発
(画像=第一生命経済研究所)

<女性正社員の5割が職業能力開発の必要性を感じているが実施していない>

 しかしながら、職業能力開発に対する考え方が、同じ正社員であっても男女で若干異なる。この差が実際の管理職登用に影響を与えている可能性もあると思われる。

 教育訓練(研修)や自己啓発などの能力開発(以下「職業能力開発」)についての考えをたずねた結果をみると、「能力開発は必要であり、実施している」への回答割合が男性は30.5%であるが、女性は25.5%である。「能力開発は特に必要ではないので、実施していない」の回答割合も、男性(13.0%)を女性(17.1%)が上回っている。男性の方が女性よりも職業能力開発の必要性を意識し、実際に実施している人が多い。

 ちなみに、管理職への昇進意欲と職業能力開発の実施状況の関係をみると、男女ともに「できるだけ早く管理職に昇進したいと思う」と回答した人の6割以上が「能力開発は必要であり、実施している」と回答している(図表省略)。昇進意欲の強い正社員の多くは職業能力開発を実施しており、その傾向は男女ともに同様である。

子どものいる女性正社員の職業能力開発
(画像=第一生命経済研究所)

<職業能力開発の内容は「業務の一環として行われる教育訓練」が男女共に約半数>

 次に、どのように職業能力開発を実施しているのか。職業能力開発を実施している人に、その具体的内容をたずねた結果が図表4である。

 男女ともに約半数が「勤務先で勤務時間内に業務の一環として行われる教育訓練(研修)」に回答している。「社内の自主的な勉強会、研究会の参加」も、男性と同じくらいの割合で女性も回答している。

 他方、「社外の勉強会、研究会への参加」になると、男性の割合が女性を10ポイント近く上回る。男性の方が女性より社外ネットワークを意識して職業能力開発をしている人が多いようだ。反対に「民間の英会話学校、パソコンスクール、各種学校への通学」の回答割合は女性の方が男性を約10ポイント上回る。女性は男性よりも民間の教育機関を活用した自己啓発を行なっている割合が高い。

子どものいる女性正社員の職業能力開発
(画像=第一生命経済研究所)

<職業能力開発をする理由の第1位は男女とも「現在の仕事のため」>

 職業能力開発を実施している人に、その実施理由をたずねたところ、男女とも「現在の自分の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」(以下「現在の仕事のため」)が最も多く、次に「将来の自分の仕事やキャリア向上のため」(以下「将来の仕事のため」)が続いている(図表5)。

子どものいる女性正社員の職業能力開発
(画像=第一生命経済研究所)

 男性は「現在の仕事のため」への回答割合が6割以上を占めており、第2位の「将来の仕事のため」と20ポイント以上の開きがあるが、女性は男性ほど「現在の仕事のため」への回答に偏っていない。また女性の場合、「資格取得のため」の回答割合が男性を10ポイント以上うわまわっている。実際、女性は各種学校への通学によって自己 啓発をしている人が相対的に多いことからも、現在の仕事のためのみでなく、将来のキャリア向上のため目的意識をもって実施している人も少なくないようだ。

<女性正社員の半数以上が「時間が無い」ために職業能力開発をしていない>

 他方、「能力開発は必要であると思うが、実施していない」人に、その理由をたずねたところ、最も多く寄せられた項目は男女で異なり、男性は「お金がかかるから」(38.4%)、女性は「時間が無いから」(55.6%)であった(図表6)。

 男性の場合は、金銭的制約と時間的制約の割合がともに4割弱で回答が分散しているが、女性は時間的制約を理由にしている人が非常に多く、半数以上を占めている。子どもを育てながら正社員として働く女性の場合、職業能力開発の必要性は認識していても、育児や家事と仕事との両立で時間的に精一杯であるという現実に直面している人が多いことがうかがえる。

子どものいる女性正社員の職業能力開発
(画像=第一生命経済研究所)

<女性の活躍推進のためには職業能力開発の支援も必要>

 政府は2020年までに指導的地位に占める女性の割合を3割程度にするという目標を掲げているが、現在の女性管理職割合は6.6%であり、目標値に比べて未だ低い水準に留まっている。これから目標値まで引上げるには様々な方策が必要であろうが、その重要な鍵を握るものの一つとして、本稿では仕事に必要な知識や判断力を養うための職業能力開発に対する女性の意識と実態に注目した。

 職業能力開発を実施している女性は約4人に1人であり、約半数が「必要であると思うが実施していない」と回答している。必要性を認識しながら実施していない人は女性のみではないが、実施しない理由として女性の多くは時間的余裕がないことを挙げている。女性の場合、仕事と家庭との両立の難しさが職業能力開発の実施度にも影 響していることがうかがえる。

 今後、女性に対しても職業能力開発の機会を広げることによって、実績を高めることが求められていることを考えると、家庭と「職業能力開発を含めた仕事」との両立を可能とするという視点で、女性の活躍推進を支援する職場づくりも必要なのではないか。女性の活躍を支えるものの一つは職業能力開発であるという認識のもと、女性が職業能力開発をもっとしやすくなるような支援を各職場がおこなうことで、就労意欲を高め、管理職にふさわしい知識と経験を備えた女性が多数活躍できる社会の実現を目指すべきと思われる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 的場 康子
(まとば やすこ 上席主任研究員)