<高年齢者雇用安定法の改正>

 「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正法が2013年4月1日に施行され、段階的に希望者全員を65歳まで雇用することを企業に義務付けた。これは2000年の年金制度の改正により、厚生年金の支給開始年齢が65歳に引上げられたので、年金支給開始年齢まで希望者全員が働き続けられる環境を整備し、無収入となる人を生じさせないようにするためである。このような社会環境の変化に応し、年金支給までいかに働くか、また雇用するか、個人レベル、企業レベル双方で対応を図ることが求められている。

 こうした中、本稿では高齢者雇用のための企業の対応を概観した上で、これから定年を迎える40・50代の定年後の継続雇用の可能性や準備についての意識を紹介し、希望通り60歳以降も働き続けるための課題について考える。

<65歳まで雇用するための企業の対応>

 「高年齢者雇用安定法」では65歳まで雇用を確保するため、企業に「定年の廃止」、「定年の引上げ」、そして定年に達した人を引き続き雇用する「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じるように義務付けている。

 厚生労働省「平成25年高年齢者の雇用状況」(2013年10月)によれば、2013年6月1日現在、こうした高年齢者雇用確保措置を実施している企業は、全国の常時雇用労働者31人以上の企業(143,070社)の92.3%(132,067社)である。ほとんどの企業が65歳まで雇用確保をするための対応をしている。高年齢者雇用確保措置を実施している企業のうち、「定年の廃止」を実施している企業が2.8%、「定年の引上げ」が16.0%、「継続雇用制度」を導入している企業が81.2%である。定年の延長による対応よりも、継続雇用によって65歳まで雇用を確保している企業が圧倒的に多い。

 継続雇用制度には、大きく分けて「勤務延長制度」と「再雇用制度」がある。「勤務延長制度」は「定年年齢が設定されたまま、その定年年齢に到達した者を退職させることなく引き続き雇用する制度」であり、「再雇用制度」は「定年年齢に到達した者をいったん退職させた後、再び雇用する制度」である。厚生労働省「平成25年就労条件総合調査結果の概況」(2013年11月)によれば、定年後の継続雇用制度を有する企業のうち、再雇用制度を有する企業の割合が約8割、勤務延長制度を有する企業の割合が約2割である(図表省略)。定年後の継続雇用制度を導入している企業のほとんどは、「再雇用制度」によって対応しているのが実態である。

<定年後の継続雇用者の雇用状況>

 次に、定年後の継続雇用者の雇用状況をみる。前出の「平成25年高年齢者の雇用状況」によると、60歳を定年としている企業における定年到達者のうち、継続雇用された人は76.5%、継続雇用を希望しないで定年退職をした人は22.3%、継続雇用を希望したが継続雇用されなかった人は1.2%である。定年により退職する人も約2割いるが、多くは継続雇用を希望して働いている。

 さらに、継続雇用者を企業はどのように雇用しているのか。東京都「高年齢者雇用安定法改正に関する調査」により、企業による雇用状況をみると、定年前と職種、職務、勤務地を変えずに雇用している企業が多い。定年後の継続雇用者がいる企業のうち、継続雇用者の職種について「定年前と同じ職種であることが多い」と回答した企業が97.5%であり、職務も「同一部署の、同一職務を担当させていることが多い」とする企業が90.3%、勤務地も変わらず「定年前と同じ会社に勤務している人が多い」とする企業が97.7%であった(図表省略)。また、勤務時間についても「定年前と同じフルタイムである人が多い」とする企業が80.0%であり、定年前よりも勤務時間や日数を減らす人が多い企業は少数派である(図表1)。

60歳以降も働き続けるために
(画像=第一生命経済研究所)

 他方、継続雇用者の年収について、定年到達時の年収との比較をみると、定年前と変わらないとする「100%」は9.6%に過ぎず、定年前の「60%未満」が26.9%、「60~70%未満」が25.2%と、半数以上の企業が定年前の年収水準よりも低く設定している(図表2)。また、60歳以上の従業員の契約形態をみても、「嘱託社員」で処遇する企業が48.4%で最も多く、次いで「正社員」が41.0%、「パート(アルバイト)」が40.9%、「契約社員」が25.9%である(複数回答、図表省略)。60歳以上の従業員を「正社員」で処遇すると回答した企業は「パート(アルバイト)」と同じくらいの割合であり、しかもこれらの回答割合を「嘱託社員」の方が上回っている。

 60歳を定年としている企業が8割以上と大多数を占めている中(図表省略)、60歳以降も継続雇用され、引き続き定年前と同じような職務、勤務時間で働き続けることはできても、全員が正社員というわけではなく、多くは非正社員として、定年前よりも低い年収で処遇されるのが実態のようである。

<これから定年を迎える40・50代が考える定年後の雇用状況>

 こうした現状の中、これから定年を迎える40・50代は自らの定年後の雇用についてどのように考えているのか。当研究所が実施した40・50代に対するアンケート調査によると、今の勤務先で60歳以降も働くための受け皿はあると思うかをたずねた結果が図表3である。

60歳以降も働き続けるために
(画像=第一生命経済研究所)

 「社員全員分の受け皿があると思う」と回答した人は、現在正社員・正職員として働いている人の18.3%、「一部の社員の受け皿はあると思う」と回答した人は50.8%にのぼるが、「受け皿はないと思う」にも16.6%の人が回答している。年代別にみると、男女ともに50代より40代の方が「受け皿はないと思う」と「わからない」の回答割合が高い傾向がある。

 60歳以降もほとんどの人が継続雇用されたとしても、全員が60歳前と同じような働き方ができるとは限らないと、厳しい見方をしている人が多いことがうかがえる。

<60歳以降も働くための準備>

 では60歳以降も働き続けたいと思っている人は、そのために何か準備をおこなっているのだろうか。この点についてたずねた結果をみると、60歳以降も働くにあたり自分のキャリアを伸ばすための準備を「必要と思い、既に準備をしている」の回答者は13.4%であるが、「必要と思うが、まだ準備をしていない」が62.5%にのぼり、「必要と思わない」が24.1%である(図表4)。性別にみても同様の傾向である。年代別にみると、年代が高い方が「準備をしている」とする回答割合が高いが、「必要と思わない」の割合も高くなる。

 定年後も働き続けたいと思っている人の中でも、自らのキャリアを客観的に考えて必要な準備をする人と、特に準備の必要性を感じていない人に分かれるようだ。とりわけ年代が上がるにつれて、後者の割合が高くなる傾向がみられた。

60歳以降も働き続けるために
(画像=第一生命経済研究所)

 現在40・50代の正社員・正職員で、60歳以降も働き続けるための準備をしている人は、実際にどのようなことをおこなっているのであろうか。自由回答でたずねた結果をみると、「資格の取得」という記述が多い。具体的には、税理士、行政書士、介護福祉士、社会保険労務士、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナーなどの記述があった。また、英語やパソコンのスキル向上も目立っていた。こうした技術的な準備の他、人脈づくりや体力向上の必要性を指摘する意見もあった。

<定年後の働き方を見極め、早めに準備をすることが重要>

 年金の支給開始年齢は、現行65歳であるが、将来、現在の40・50代が定年を迎えるころには、さらに上がる可能性も指摘されている。もしも70歳支給ということになれば、70歳まで働かなければならない人も多くなるだろう。自分は何歳まで働き続けられるのか、定年後、継続雇用される場合はどのような働き方をするかなど、選択肢がこれまで以上に多くなり、一人ひとりが自らの生活状況に合わせて対応しなければならない。

 したがって、定年を迎える前から、自分の職業生活にとって定年とは何か、そして定年後の生き方をどうするかを考え、必要に応じて早めに資格取得や職業スキルの向上のための準備をしておくことが重要である。

 他方、こうした個人の努力のみならず、少子高齢化により生産年齢人口が減少することが見込まれる中、人的資源の強化策として、企業や行政が労働者のキャリア形成支援を進めることも必要と思われる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 的場 康子
(まとば やすこ 上席主任研究員)