<推進される企業の女性活用>

 女性の就労と活躍の推進は、今や国をあげてバックアップされている。国際的にみても極めて女性管理職比率が低い我が国だが、組織の指導的立場に立つ女性比率の下限を法律で制定する「クオータ制」は導入されていない。クオータ制は、元来、議員や閣僚などの政治における男女比格差の是正のために設けられた北欧由来の制度である。近年様々な国で導入が進んでおり、一般企業の管理職の男女比率の格差是正に適用する国もみられている。日本では行政機関や企業における指導的立場の女性比率に関して法制化はなされていないものの、企業ごとに独自の数値目標を設定するなど、大企業を中心に女性管理職比率を積極的に向上させる動きが活発化している。

 本稿では、女性の活躍と企業の支援について、日本能率協会が実施した「第3回ビジネスパーソン1,000人調査」から概観する。

<「女性の活躍」に対する具体的イメージ>

 まず、「女性の活躍」と聞いてどのようなものがイメージされるのかについてたずねた。その結果、最も多かったのは「子育てをしながら働いている」であり、男性で33.8%、女性で42.6%があげた(図表1)。これに続いて、女性の回答では「管理職として働いている」(35.1%)、「専門職として働いている」(33.1%)があげられた。

 一方、男性の回答では、「男性と同じ仕事をしている」(26.6%)、「女性ならではの仕事をしている」(22.8%)と続いており、「管理職として働いている」「専門職として働いている」についてはいずれも2割程度となっていた。

 なお、「役員として働いている」「経営者として働いている」については女性で2割弱、男性では1割弱の回答となっていた。

 全体的にみて、女性の活躍とは単に会社で昇進したり男性と同様に働くだけでなく、「子育てをしながら働いている」イメージが持たれている。その上で、女性の回答では管理職や専門職勤務、また高収入についてのイメージが男性に比べて高く、子育てとキャリアを両立させることが、働く女性像として意識されているといえる。

これからの企業
(画像=第一生命経済研究所)

<大企業ほど女性活躍を重視>

 それでは、女性の活躍推進については、企業規模別にどのようにとらえられているのだろうか。勤務先で女性が活躍することがどの程度重視されているかについてたずねたものを、企業規模別にみたものが図表2である。

 これをみると、女性の活躍を重視している(「重視している」と「やや重視している」の合計)とする割合は、企業規模が大きいほど高く、企業規模が「5,000人以上」の企業では42.6%であるのに対し、「1~100人未満」の企業では26.7%にとどまっている。

 女性の活躍を重視していない(「重視していない」と「あまり重視していない」の合計)とする割合は企業規模が小さいほど高い傾向にあり、「1~100人未満」の企業の約3割が重視していないと回答した。

これからの企業
(画像=第一生命経済研究所)

<就業時間が制限される社員へのサポートも大企業ほどなされている>

 図表1でみたように、女性の活躍として最もイメージが強いのは「子育てをしながら働いている」ことである。しかし、妊娠・出産・育児をするにあたり、どうしても就業が制限される期間が発生する。また、近年では介護のために就業時間を調整する必要性も高まっている。介護離職が問題となる中、これは男女を問わず今後ますます必要となっていくだろう。

 同調査から、子育てや介護などで就業時間が制限される社員に対するサポート状況についてたずねたものをみたところ、ここでも図表2と同様、企業規模が大きいほどサポートがなされている傾向がみられた(図表3)。企業規模が「5,000人以上」の企業では42.5%がサポートしている(「サポートしている」と「ある程度サポートしている」の合計)と回答しているのに対し、「1~100人未満」の企業でサポートしていると回答した割合は17.2%となっていた。

 就業時間が制限されることにより、組織として具体的にどのような支障が生じるのかについて、就業時間が制限されている人と一緒に働いた経験があり、困ったことがあったと回答した人に対し、実際にどのようなことで困ったかをたずねたものをみた。その結果、男女ともに最も多かったのは「突発的な休みが多い」(男性52.7%、女性61.3%)となっており、これに「フォローのために自分の仕事量が増える」(男性42.9%、女性50.0%)が続いた(図表省略)。

これからの企業
(画像=第一生命経済研究所)

<「女性の活躍」から「男女の活躍」という視点で>

 キャリアもプライベートも、という形で女性が「活躍」しようとする場合、就業時間が制限される時期があるのは否めない。その際に、その欠員をカバーできるほどの調整力や資金力、人員確保等に企業規模によって差が生じてしまうことはやむをえない。しかし、それでは規模の大きな企業に勤める女性ほどキャリアとプライベートの両立に有利ということになってしまう。中小企業白書によれば、日本の企業の99.7%は中小企業である。従業員数でみれば、大企業勤務者1,397万人に対し、中小企業勤務者は3,217万人いる。日本の企業全体の風土を変えていくには、大企業の先進的な取り組みによる牽引もさることながら、企業規模にかかわらず企業風土や個人の価値観の側面からのアプローチも必要となってくる。

 介護離職の増加など、就労と介護の両立問題が拡大する中、勤務時間や働き方を調整するニーズは男女問わず今後ますます高まっていく。さらに、男性の育児が義務ではなく権利として主張される動きがあるなど、企業において「女性の活躍支援」という視点だけでは時代にそぐわなくなっている側面がある。

 性別や勤務する企業の規模にかかわらず、仕事とプライベートを両立できる生活。目指すべきものはすなわち、「女性の活躍推進」からさらに一歩進めた「男女の活躍推進」である。この実現のためには、まずプライベートよりも仕事を優先することが「活躍」なのではなく、男女ともにプライベートと仕事を両立させることこそが「活躍」であるという意識を社会的に定着させる必要がある。そうした意識が当たり前のものとして受容され、男女を問わず育児や介護に柔軟に対応できる働き方を実現できる社会が、今後求められるのではないだろうか。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 宮木 由貴子
(みやき ゆきこ 上席主任研究員)