<育児休業制度のさらなる課題~育児休業利用者を受け入れる側の職場体制づくり>

 女性の活躍推進に向け、仕事や育児等との両立ができるよう職場環境の整備が進められている。例えば、両立支援のための代表的な制度である育児休業制度は、ほとんどの企業に設置され、在職中に出産した女性の8割以上が利用している(厚生労働省「平成24年度雇用均等基本調査」)。

 しかしながら、依然として育児休業制度を利用しないで出産退職を選択する女性も多い。その理由として、出産後の育児と仕事との両立生活の困難さがよくあげられている。しかし、問題は育児休業を利用する側にのみあるわけではない。育児休業利用者が発生した場合、その職場の同僚など非利用者にも業務量等の面で少なからず影響を与えるものである。育児休業者が担っていた業務を職場内の非利用者でいかに分担し、円滑に進めるか。非利用者の業務調整等、利用者を受け入れる側の職場体制づくりの難しさも指摘されている。職場内で制度に対する理解が得られず、利用しにくいと感じさせる職場環境であれば、退職せざるを得ないと考える人もいるであろう。

 本稿では、育児休業制度の利用等に対する現状と意識を踏まえ、制度利用者にとっても、また職場内の非利用者にとっても育児休業制度が受け入れやすいものとなるための課題を考える。

<育児休業の取得期間>

 まず、育児休業制度をどのくらいの期間取得する人が多いのか、その実態をみる。

育児休業利用者に対する復帰支援
(画像=第一生命経済研究所)

 育児休業を利用した女性の取得期間を2005年度、2008年度、2012年度と比較すると、「6か月未満」の割合が減り「1年~2年未満」が増え、全体的に長期化傾向を見せている(図表1)。

 ただ、2005年度から2012年度にかけて「6か月~1年未満」と回答した人が約半数と最も多くを占めている状況には変わりがない。育児・介護休業法において、休業期間は子どもが1歳になるまでと定められているので、法定通りの期間を取得する人が多い状況が続いている。

<育児休業中の不安>

 半年から1年未満の育児休業制度を利用する人が多いが、育児休業中、利用者はどのような思いで過ごしているのであろうか。

 当研究所が30~49歳の民間企業で働いている人を対象に実施したアンケート調査の中で、育児休業を利用したことのある女性正社員に育児休業中の不安の有無をたずねた結果が図表2である。「復帰後に育児と仕事との両立ができるか不安だった」に約8割(「Aに近い」と「どちらかといえばAに近い」の合計、以下同様)、「職場復帰できるか不安だった」に約6割の人が回答している。

 育児休業から職場復帰できるか不安に思っている人が過半数を占めているが、それ以上に復帰後の両立生活ができるかどうかを不安に思っている人の方が多い。こうした不安を軽減するために、一つには、育児休業利用者自身が復帰後の両立生活の見通しを立てられるよう休業中から準備をしておくことが必要と思われる。

育児休業利用者に対する復帰支援
(画像=第一生命経済研究所)

<育児休業中の過ごし方>

 実際、育児休業利用者は休業中にどのような備えをしているのだろうか。

 育児休業制度を利用したことのある女性正社員に、育児休業中の過ごし方をたずねた結果が図表3である。勤め先と「復職時期や復職後の業務についての話し合い(面談)をした」が57.4%、「勤め先から定期的に社内報の送付や電子メールなどにより連絡を受けた」が36.1%という結果である。一方、自己啓発や会社による在宅研修を行った人は1割にも満たない。

 ここで、「復帰後に育児と仕事との両立ができるか不安だった」人と「不安はなかった」人で、育児休業中の過ごし方についての回答にどのような違いがあるかをみると、復帰後の両立生活に「不安だった」人よりも「不安はなかった」人の方が全ての項目について回答割合が高い。育児休業中に利用者に対して会社が情報提供をしたり、利用者自身が自己啓発を実施したりすることと、復帰後の両立生活に対する不安意識には関係があることがうかがえる。

育児休業利用者に対する復帰支援
(画像=第一生命経済研究所)

<育児休業利用者に対する復帰支援等についての意識>

 他方、育児休業利用者に対する会社からの復帰支援のあり方などについて、利用者のみならず非利用者はどのように考えているか。育児休業利用者と会社ないしは仕事とのかかわりに関する考えをたずねた結果が図表4である。

 まず、「育児休業中も、職場のことがわかるように情報提供が必要である」に対し、女性利用者の9割近くが肯定的な回答(「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下同様)をしている(図表4の①)。育児休業利用者で、社内報や電子メール等により連絡を受けた経験がある人は4割にも満たないが(図表3)、利用者のほとんどが情報提供を求めている。

 また、女性利用者で「育児休業中も、復帰に備えて自分でスキルアップに努めるべきである」に肯定的な回答をした人は約6割である(図表4の②)。復帰に備え、離職ブランクを縮小させるために休業中も自分でスキルアップを図ることの必要性を感じている人は多いにもかかわらず、実際に自己啓発や在宅研修を行なった人は1割にも満たない(図表3)。

 ただし、「育児休業からの復帰に備えて、会社が育児休業者に対しキャリア形成等の支援体制を整えるべきである」に肯定的な回答をした人が女性利用者の約7割を占めている(図表4の③)。多くの女性利用者は必要性を感じながらも自発的に在宅研修等を行うことは難しいと感じているとともに、会社からの支援も期待している様子がうかがえる。

育児休業利用者に対する復帰支援
(画像=第一生命経済研究所)

 一方、育児休業利用者に対する会社による情報提供(図表4の①)やキャリア形成支援(図表4の③)の必要性について、男女問わず非利用者も7割前後は肯定的な回答をしている。会社が復帰支援をおこなうことで、休業者の離職ブランクを縮小させ、育児休業後に即戦力として働けるように促すことは、共に働く上で歓迎すべきことと捉えている人が少なくないことがうかがえる。

 しかし、これらの項目(会社による情報提供やキャリア形成支援の必要性)について、女性利用者の回答割合と比較すると、女性利用者ほどには男女問わず非利用者は感じていないことがわかる。また、女性利用者よりも女性非利用者の方が、「育児休業中も、復帰に備えて自分でスキルアップに努めるべきである」と思っている人の割合が高いことから、非利用者の中には「自分で復帰準備を行うべき」と思っている人が少なくないことがうかがえる。会社内で、利用者と非利用者間の意識ギャップが垣間見られる。

 こうした意識ギャップの存在は、職場内で両立支援を進めるにあたりブレーキになる恐れがある。実際、「同じ部署の人が育児休業を取得すると仕事に支障をきたす」への肯定割合は、男女問わず非利用者が女性利用者を大きく上回っている(図表4の④)。非利用者は、育児休業利用者に対する復帰支援のみならず、制度を利用することに対しても厳しい見方をしている。

<育児休業の普及を見据え、育児休業からのスムーズな職場復帰のための支援を>

 育児休業制度の利用者に支給される「育児休業給付金」が、これまで休業開始前賃金の50%であったが、2014年4月の雇用保険法の改正により、2014年4月1日以降に開始する育児休業から67%(ただし育児休業開始から180日目まで。181日目からは従来通り休業開始前賃金の50%)に引上げられた。経済的理由から育児休業制度の利用を躊躇していた人も利用しやすくなると思われる。

 このような育児休業制度の利用促進策により、今後さらに同制度の利用者の増加が見込まれる。こうした中、スムーズに職場復帰して生産性の高い働きができるよう、育児休業中も両立生活に向けた様々な準備を行うことの必要性を利用者自身だけでなく、共に職場で働く非利用者の中にも感じている人がいることも浮き彫りになった。

 今後は、育児休業制度の利用促進策のみならず、休業による離職ブランクを解消し、復帰後の両立生活への見通しを立てやすくすることにも着目し、利用者自身に自発的な復帰準備を促すとともに、各職場において利用者に対する情報提供や在宅研修等を行うことの合意形成を図ることなど、復帰支援の取組を推進させることも必要である。

 また、育児休業利用者と非利用者間の意識ギャップを縮小させ、利用しやすく、また利用を受け入れやすくする職場環境をいかにつくるかという視点も、今後さらに両立支援を進める上で重要と思われる。(提供:第一生命経済研究所

上席主任研究員 的場 康子
(研究開発室 まとば やすこ)