目次
1.はじめに 2.継続就業の実態 3.再就職にあたっての意識 4.再就職経験者の働く意欲 5.女性が希望通り継続就業できる社会の実現のために国に望むこと 6.まとめ
要旨
①当研究所では、育児と仕事との両立を可能とするための就労支援について検討を行なうため、2013年11月、30~49歳の子どものいる男女を対象に調査を実施した。この調査結果から、本稿では女性就業の特徴として「再就職」が多いことに注目し、女性の再就職の実態と意識を示す。これにより、女性が意欲を持って働き、さらなる活躍推進を図るため、再就職という視点を含めた両立支援のあり方についての検討を行なう。
②多くの女性は再就職にあたり様々な「壁」を経験しているが、中でも「希望する仕事内容」で再就職先を選ぶことの難しさを感じている。新卒時には女性でも「希望する仕事内容」から勤め先を選ぶ人が多いが、再就職を経験している女性の多くは、仕事内容よりも両立のしやすさから勤め先を選んでいる。
③「希望する仕事内容」から再就職先を選んだ人は、「勤務時間等」で選んだ人よりも仕事のやる気もやりがいへの満足度も高い。労働者の能力を最大限に発揮するには、働く意欲を高めることも重要であり、多くの女性が希望する仕事内容から職業選択をして、家庭との両立も可能な再就職ができることが求められる。
④そのためには、両立支援制度の設置促進のみならず、子どもがいる母親のための再就職支援を労働市場において活性化させるなど、就業中断をしても働き続けるための「再就職支援」にも光をあて、行政や企業等が検討を重ね、充実させていくことが望まれる。
キーワード:女性の活躍推進、継続就業、再就職支援
1.はじめに
(1)調査の目的
少子高齢化が進む中、わが国は今、労働力を確保するため女性の活躍推進を目指している。「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013年6月14日閣議決定)では、2020年までに「25~44歳までの女性就業率73%」という目標が掲げられた。総務省「労働力調査」によれば、近年この年齢層の就業率は、2011年66.8%、2012年67.8%、2013年69.5%と徐々に上がっている。これは主に、この年齢層の女性の未婚化・晩産化の進行によるとされているが、少子化に歯止めをかけつつ労働力を維持するためには、出産しても働く女性の活躍が不可欠である。目標達成まであと3ポイントに迫っているとはいえ、仕事と育児等の生活を両立するための支援制度の普及を図ることで、さらに就業率を上昇させることが重要である。
しかし、企業において両立支援制度の整備が進められているものの、女性の活躍推進に必ずしも寄与しているわけではないのが現実のようである。厚生労働省の調査によると、両立支援の取組が女性の継続就業のために十分に機能し女性の離職防止、女性の働く意欲の向上、キャリア形成に「役立っている」(「役立っている」と「まあ役立っている」の合計)と感じている企業は、正社員数101人以上企業の約半数という結果がある(図表1、2)。改正育児・介護休業法で両立支援の取組を義務付けられている企業の半数程度しか、その取組の効果を感じていない。しかも、正社員規模によって両立支援の取組に対する評価は異なり、小規模企業ほど消極的評価である。
こうした背景には、企業の取組と従業員の就業意識との間にギャップが存在していることがあげられる。従業員の就業意識を的確に捉えずに両立支援の取組を行なっても、その効果は期待できないだろう。
そこで当研究所では、両立支援の対象者が多く含まれる30~49歳の就業実態と意識を明らかにするためにアンケート調査を行なった。本稿ではその結果から、女性就業の特徴として「再就職」が多いことに注目し、男性との比較をしながら女性の「再就職」の実態と意識を示す。これにより、子どものいる女性が意欲を持って働き、さらなる活躍推進を図るため、「再就職」という視点を含めた両立支援のあり方についての検討を行なう。
(2)アンケート調査の概要
調査はインターネットにより2013年11月に実施した。対象としたサンプル数は、30~49歳で首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)と近畿圏(京都、大阪、兵庫)の都府県に住み、民間企業で働く男女1,037人である。性別と就業形態により、男性正社員332人(サンプル全体の32.0%)、女性正社員328人(同31.6%)、女性非正社員(パート・アルバイト、契約社員)377人(同36.4%)としてサンプルの割付を行った*1。
このうち本稿では、育児と仕事との両立を可能とするための支援についての検討を行うため、子どものいる就業者707人(男性正社員223人、女性正社員216人、女性非正社員268人)を分析の対象とする。
2.継続就業の実態
まず、学校を卒業してから現在までの継続就業の実態を性別、就業形態別、従業員規模別にみる(図表3)。男性正社員は学校卒業後から就業中断せずに働いている人(図表3の①と②の合計、以下同じ)が9割以上を占めている。ただし従業員規模別にみると、現在300人未満企業に勤めている人では65.9%が「②勤務先は変更」と回答しているのに対し、300人以上の企業に勤めている人では72.5%が「①勤務先も同じ」と回答している。現在の勤め先の従業員規模が大きい人の方が、勤務先も変わらずに働いている人の割合が高い。
女性正社員では、学校卒業後から就業中断せずに働いている人が約6割であり、学校卒業後「③一時仕事から離れた後も正社員として就業」している人が26.4%を占めている。男性正社員に比べ、継続就業をしている人の割合が低く、就業中断をした人(図表3の③)の割合が高い。従業員規模別では、上記男性正社員の場合と同様、現在の勤め先の従業員規模が大きい人の方が、勤務先も変わらずに働いている人の割合が高い。
ここでは特に、女性正社員の場合、現在300人未満企業に勤めている人の37.2%が「③一時仕事から離れた後も正社員として就業」していることに注目したい。女性が一時仕事から離れた場合の正社員としての再就職先は、従業員規模が小さい企業が多いという実態が示唆されている。
女性非正社員では、学校卒業後は正社員として働いていたが「⑤一時仕事から離れた後、非正社員として就業」している人が約7割を占めている。その傾向は、現在の勤め先の従業員規模の大きさによってあまり変わらない。
以上から、現在300人以上企業に勤めている男性正社員以外、すなわち300人未満企業に勤める男性正社員や、就業形態を問わず現在働いている女性の大多数は「再就職」を経験していることがわかる。次に、再就職にあたって困難に感じたことや再就職先を選んだ理由など、再就職経験者の実態や意識についてみる。
3.再就職にあたっての意識
(1)再就職の際に困ったこと
図表3で、学校卒業後から就業中断せずに勤務先も変わらずに継続就業をしている以外の項目を回答した人(図表3の②~⑥、以下「再就職経験者」)に、仕事を辞めた後、再就職をするにあたって困難を感じたことがあるかをたずねた結果が図表4である。
男性正社員の場合、半数以上が「特にない」と回答しており、この割合は女性よりも高い。女性の方が男性よりも再就職の際に何らかの困った経験をしている人の割合が高いことがうかがえる。
具体的に困ったことの内容をみると、男性正社員、女性正社員、女性非正社員ともに、最も多い回答は「希望する仕事内容がなかなか見つからなかった」である。300人以上企業に勤める男性正社員を除き、「給料」よりも「仕事内容」にこだわって勤務先を探している人が多いようである。
ただし、男女正社員について現在の勤め先の従業員規模別にみると、男女ともに300人未満の企業に勤めている人の方が「希望する勤務地での再就職は難しかった」への回答割合が高い。大規模企業に勤めている人よりも小規模の企業に勤めている正社員の方が、再就職にあたり「勤務地」へのこだわりが強い傾向があることがうかがえる。
ちなみに女性の場合、正社員、非正社員ともに「子どもがいることを理由に断られたことがある」に約1割が回答している。男性では回答者がいない。子どもがいるために再就職が阻まれた経験がある女性がいるという現実も示された。
次に、再就職経験者が現在の勤め先を選んだ理由をみる。
(2)現在の勤め先を選んだ理由
再就職経験者は、どのような理由で再就職先を選んだのであろうか。
男性正社員についてみると、従業員規模にかかわらず「希望する仕事内容だから」に約半数が回答している(図表5)。
女性は正社員、非正社員ともに「勤務時間や勤務日数が自分の生活に合っているから」や「自宅から近いから」の回答割合が高い。
再就職先を選ぶにあたり、男性は「仕事内容」を重視するのに対し、女性は「勤務時間や勤務日数」「勤務場所」など自分の生活との両立を重視しているようだ。ちなみに、学校卒業後から勤務先も変わらず継続就業をしている男女正社員(図表3の①)が、現在の勤め先を選んだ理由の第1位は「希望する仕事内容だから」(男性50.5%、女性37.3%)であった(図表省略)。女性正社員も新卒時には「仕事内容」から勤め先を選んだ人が多い。
再就職を経験した女性の多くは、様々な障壁を感じながらも、「希望する仕事内容」より現在の自分の生活を優先して、再就職先を選んでいるようである。このことが働く意欲にどのように影響を与えているか。次に、再就職経験者の働く意欲について、「継続就業意向」や「仕事のやる気」等をたずねた結果をもとに考察する。
4.再就職経験者の働く意欲
(1)継続就業意向
再就職経験者は現在の勤め先でどのくらい長く勤めたいと考えているか。性、就業形態別に継続就業意向をみたものが図表6である。「できるだけ長く勤め続けたい」の回答割合は女性正社員で最も高く51.3%、女性非正社員では37.2%である。ただし「当面は勤め続けたい」を含めると、女性非正社員は男性正社員と同様に約8割を占める。継続就業意向は、女性正社員も女性非正社員も男性正社員と大きく変わらない。
ちなみに従業員規模別にみても特質すべき差はみられなかった(図表省略)。性別や就業形態、従業員規模にかかわらず、多くの再就職経験者は、継続就業意向が強いことがわかる。
(2)仕事のやりがい・やる気
では、仕事のやりがいや仕事のやる気について、再就職経験者はどのように考えているのか。「仕事のやりがいに満足している」人の割合は、男女正社員、女性非正社員ともに6割以上である(図表7)。また「現在の仕事にやる気がある」の回答割合をみると、7割前後が肯定的な回答をしている。
他方、現在の勤務先を選んだ理由として「希望する仕事内容だから」(以下「希望する仕事内容」)を選択した人と、「勤務時間や勤務日数が自分の生活に合っているから」(以下「勤務時間等」)を選択した人とで、「仕事のやりがいに満足している」や「現在の仕事にやる気がある」への回答割合に差がみられた。
特に女性正社員と女性非正社員では、現在の勤務先を選んだ理由として「希望する仕事内容」を選択した人の方が、「勤務時間等」を選択した人よりも「仕事のやりがいに満足している」と回答した人の割合も、「現在の仕事にやる気がある」と回答した人の割合も10ポイント以上高い。ちなみに、先の継続就業についての意識は、勤め先を選んだ理由にかかわらず、強い傾向が示された(図表省略)。
図表5でみたように女性の多くは再就職先を選んだ理由として「勤務時間等」をあげているが、女性の場合、勤務時間等の条件よりも、希望する仕事内容で勤務先を選べることの方が、仕事のやる気を高め、就労意欲につながることがうかがえる。
5.女性が希望通り継続就業できる社会の実現のために国に望むこと
最後に、女性が育児をしながら希望通り継続就業できる社会の実現のためには何が必要であるか、国に対する要望をたずねた結果をみる。女性正社員では「希望すれば利用できる短時間正社員制度を企業に義務付けて欲しい」(以下「短時間正社員制度」)や「保育所を増やして欲しい」への回答割合が高いが、男性正社員や女性非正社員では「一度辞めても、再就職をしやすくして欲しい」への回答割合もこれらの項目と同じくらい高い(図表8)。また、「育児休業制度を3年間取得できるようにして欲しい」よりも、「希望すれば利用できる再雇用制度を企業に義務付けて欲しい」への回答割合の方が男女正社員、女性非正社員ともに高い。
女性の継続就業のためには、労働時間の柔軟化や保育所の整備とともに、就業中断を選択した人に対する再就職支援も必要であると思っている人も少なくないことが示された。
6.まとめ
以上の調査結果より、子どものいる30~49歳の女性は再就職を経験している人が多いことから、再就職を前提とした女性の活躍をいかに図るかという視点も、両立支援の取組として重要であることが浮き彫りになった。
実際、多くの女性は再就職にあたり様々な「壁」を経験しているが、中でも「希望する仕事内容」で再就職先を選ぶことの難しさを感じている。新卒時には女性でも「希望する仕事内容」から勤め先を選ぶ人が多いが、再就職を経験している女性の多くは希望する仕事内容よりも両立のしやすさから勤め先を選んでいる。再就職の際には、希望する仕事内容をあきらめて、両立のしやすさを優先することにしている人もいるのではないか。
しかし、「希望する仕事内容」から再就職先を選んだ人は、「勤務時間等」で選んだ人よりも、仕事のやる気もやりがいへの満足度も高いという結果が示された。労働者の能力を最大限に発揮するには、働く意欲を高めることも重要である。希望する仕事内容と両立のしやすさが女性にとってトレードオフの関係ではなく、多くの女性が希望する仕事内容から職業選択をして、両立できる働き方が可能な再就職ができることが求められる。
そのためには例えば、子どもがいる母親のための再就職支援を労働市場において活性化させることが挙げられる。厚生労働省では、子育てをしながら就職を希望している人に対し求人情報を提供する「マザーズハローワーク」(一般のハローワークとは独立して設置)を2014年4月現在で全国に17か所、「マザーズコーナー」(一般のハローワーク内に設置)を同160か所で展開している。さらに2014年度から、育児・介護による離職者に対し研修と職業紹介を一体的に実施して再就職支援を図る「研修・職業紹介一体型再就職応援事業(通称:キャリア・リターン応援制度)」を実施することとなっている。希望する仕事に就くために必要なスキルを獲得するための支援も、働く意欲を高めるためには重要であろう。
女性の活躍推進のためには、両立支援制度の設置促進のみならず、希望する仕事に就き、意欲を持って働くという視点を含めた幅広い就労支援が必要である。その一つとして、就業中断をしても働き続けるための「再就職支援」にも光をあて、行政や企業等が検討を重ね、充実させていくことが望まれる。(提供:第一生命経済研究所)
【注釈】 *1 男性の場合、30~49歳では非正社員が少ないため正社員のみを対象とした(総務省「労働力調査」2013年によると、25~54歳の男性非正規従業員割合は11.4%である)。女性の場合は非正社員が半数程度(同52.2%)であるので、正社員と非正社員を同数程度、対象とした。なお本調査は、株式会社クロス・マーケティングに委託し、同社モニターを利用して実施された。
【参考文献】 ・公益財団法人21世紀職業財団,2013,「育児をしながら働く女性の昇進意欲やモチベーションに関する調査」 ・内閣府,2013,「ワーク・ライフ・バランス推進のための意識調査」
上席主任研究員 的場 康子 (研究開発室 まとば やすこ)