<子育て世代に多い子どもの安全に対する不安感>

 子どもが安全に育つための環境づくりは、我々大人たちの責務である。しかし子どもの安全を脅かす事件も後を絶たない。こうした社会状況を反映してか、子どもの安全に対して不安に思っている人が多い。内閣府が昨年7月に実施した「子どもの安全に関する世論調査」によれば、子どもが犯罪に巻き込まれるかもしれないという不安を感じたことが「ある」人の割合(「ある」と「どちらかといえばある」の合計)は、20歳代で58.9%、30歳代で59.9%、40歳代で63.2%と、ちょうど小学生前後の子どもがいる世代で高い(図表1)。小学生になると活動範囲も広くなり、放課後など1人で、あるいは子ども同士で行動することも多くなる。また、近年共働き家庭が増えているが、親が昼間留守にしている家庭では特に、子どもの放課後の安全確保に対しての不安が大きいものと思われる。

 そこで本稿では、子どもの放課後生活の安全を守るための1つの取組として「学童保育の充実」について考える。

多様なニーズに対応した学童保育を
(画像=第一生命経済研究所)

<もう1つの待機児童問題>

 学童保育は、就労等のために親が昼間家庭にいない小学生が、学校の余裕教室や学内専用施設などで、放課後や長期休暇の間に宿題をしたり遊んだりして過ごす生活の場であり、児童福祉法において「放課後児童健全育成事業」として定められている。そのほとんどは自治体による直営もしくは委託により運営されている。公的には「放課後児童クラブ」と表記されているが、ここでは便宜上「学童保育」とい う通称を用いる。

 学童保育は2013年5月1日現在、21,482か所あり、約89万人の小学生が登録している(図表2)。共働き家庭の増加などのため、施設数は増えても、それを上回る需要の高まりにより、利用したくても利用できない、いわゆる「待機児童」も増えている。保育所の待機児童問題は社会的に注目されているが、学童保育においても「待機児童問題」が発生しているのである。学童保育の待機児童数は2007年をピークに減少し続けていたが、2012年から再び増加に転じており、保育所同様、量的拡充が求められている。

多様なニーズに対応した学童保育を
(画像=第一生命経済研究所)

<保育所よりも開所時間が短い学童保育>

 さらに学童保育の現状をみると、単に量的拡充のみが必要ということではなさそうだ。

 例えば、学童保育の終了時刻の問題がある。共働き家庭の多くは、子どもが小学校に入学するとともに預け先を保育所から学童保育に変える。保育所は18時以降も開所しているところが8割以上を占めているが、学童保育は6割程度であり、18時までに終了するところが4割近くを占めている(図表3)。保育所よりも学童保育の方が終了時刻が早いところが多い。

多様なニーズに対応した学童保育を
(画像=第一生命経済研究所)

 他方、企業における育児と仕事との両立のための支援制度の整備状況をみると、「短時間勤務制度」や「所定外労働の免除」が設置されていても、子どもが小学校入学以降も利用可能な制度として整備している企業はそれぞれ1割程度である(図表4)。子どもが小学校に入学すると同時に、通常の働き方に戻らなければならないのに、学童保育の開所時間は保育所よりも短いという状況に直面している人が多いと思われる。自分よりも先に学校から帰宅している子どもの放課後生活を、不安に思いながら働いている親も少なくないと考えられる。働き方の多様化に伴い、少なくとも保育所なみの開所時間とするなど、親の就労状況を考慮した運営のあり方が求められる。

多様なニーズに対応した学童保育を
(画像=第一生命経済研究所)

<親の働き方やニーズに合わせて学童保育の充実を>

 こうした中、最近では学習塾やスポーツクラブを経営する民間企業が運営する学童保育も注目されている。その企業の特徴を活かし、学習やスポーツなどの指導や夕食、送迎サービスつきで夜10時まで開所しているところもある。こうした民間企業による学童保育の利用料金は週5日の利用で月額5万円前後であり、公的補助を受けて運営している一般的な学童保育(月額5,000円前後)よりも高額である(厚生労働省資料)。しかし、子どもが放課後、勉強やスポーツなどを習いながら、安全な場所で親の帰宅時間まで過ごすことができる点を評価して、利用する家庭も少しずつ増えているという。

 2015年度から子ども・子育て支援の新制度がスタートする。学童保育も、その新制度の中に市町村事業として位置づけられる。今後は市町村の責任で、地域の需要に合わせて学童保育の充実が図られることになる。まず、利用したい児童が利用できるだけの十分な供給量を確保することが必要である。さらに、親の多様な働き方に対応するとともに、子どもの知力や体力の向上など、子どもの成長に合わせた教育的要素を求める親のニーズにも配慮することも求められよう。共働き家庭が増える中で、子どもの安全を確保し、安心して育てることができる社会の構築のため、学童保育をいかに充実させるか、質量ともの検討が必要と思われる。(提供:第一生命経済研究所

研究開発室 的場 康子