<妻に偏っている家庭責任>
現在わが国では、少子高齢化による労働力人口の減少を女性労働力のさらなる活用によって補うべく、保育所や育児休業制度、短時間勤務制度などの整備充実が図られている。しかしながら依然として、仕事をしながら家事・育児をすることが難しいため出産を機に退職する女性が多いのが現状である。
その背景の一つに、性別役割分担意識が根強く、家事や育児などの家庭責任が男性よりも女性の方に偏っている状態が続いていることがあるといわれている。実際、男性が家事・育児等にかかわる時間は、妻がフルタイムで就業している共働き世帯でも、妻が働いていない専業主婦世帯でも50分程度と変わらない(図表1)。
このように女性に家庭責任が偏っている状態では、仕事を続けることは難しいと多くの女性が考えるのは無理もないことだろう。女性の継続就業を可能にするためには、男性の家事・育児参加を促進させ、女性に多くの負荷がかかっている家庭責任を分散させることが必要である。
そこで本稿では、内閣府が実施した各種のアンケート調査結果をもとに、どうしたら男性が家事・育児参加しやすくなるのかを考える。
<残業の削減のために>
内閣府が子育て中の男性有職者を対象に実施した「男性の家事・育児参加に関する調査」によると、家事・育児を十分できていない男性正社員が、今まで以上に家事・育児をするために必要なこととして上位に挙げた項目は「残業の削減」と「休暇の取りやすさ」であった(図表2)。長時間労働と硬直的な働き方が改善されることが、家事・育児参加のために必要であると多くの男性正社員が感じている。
そこでまず、どうしたら残業を減らすことができるのかについて考えよう。
内閣府が男女雇用者を対象に実施した「労働者全般調査」により、残業を減らすための効果的な取組についてたずねた結果をみると、「計画的な残業禁止日の設定」や「上司からの声かけ」が上位2項目である(図表3)。ただし、これらの項目は、既に職場で取り組んでいるものとしても上位に挙げられている。この結果は、残業を減らすために計画的な残業禁止日の設定などの取組を実施しても、実際に男性の家事・育児参加が進んでいない現状を考えると、これらだけでは十分ではないことを示していると思われる。
そこで注目したいのは、実際には取り組まれていないが、実施すれば効果的と思われている項目である。例えば、「短時間で質の高い仕事をすることを評価する」や「担当者がいなくとも他の人が仕事を代替できる体制づくり」、「業務時間外会議の禁止」などである。評価のあり方や仕事の仕方を、長時間労働を前提としたものでないものに変えることが、残業削減に必要であると感じている人も少なくないことがわかる。
今後の残業削減のための取組として、こうした視点を盛り込むことも必要であろう。
<有給休暇の取得促進のために>
もう一つ、図表2で男性が家事・育児をするために必要なこととして挙げられたのが「休暇のとりやすさ」である。
では、有給休暇の取得促進のために何が必要か。図表4をみると、効果的な取組の上位2位は、「計画的に休暇を取得させるルールづくり」と「上司による有給休暇の取得奨励」である。これらの項目は、効果的であるとの認識と実際の実施率とのギャップも大きい。
この他、注目したいのは「経営者による有給休暇の取得奨励」、「人員を増やして時間に余裕をもたせる」といった項目である。これらは実施率は低いが、3割近くが有給休暇の取得促進のために効果的だと回答している。
子どもはいつ病気になるかわからない。そのため子育て中は必ずしも計画通りに休暇を取得できないのが実情である。したがって、有給休暇を取得しやすいようにするには、計画的に休暇を取得させるためのルールのみでなく、たとえ突然に休暇が必要になったときでも仕事がまわるよう、日頃から上司・経営者の理解や、ある程度余裕を持って仕事ができるような人員体制が求められているといえよう。
今後は、こうした職場における残業削減や有給休暇取得促進のための取組などを推進することによって、男性の家事・育児参加の促進につなげていくことが必要である。
さらに、先の「男性の家事・育児参加に関する調査」では、男性が育てられた家庭における両親の性別役割分担意識が家事・育児参加に影響を与えているという結果も示されている。最後にこの点を指摘してまとめとしたい。
<両親の性別役割分担意識が男性の家事時間に及ぼす影響>
図表5をみると、「男性は仕事に専念し、家事・育児は妻に任せるべきだ」よりも、「男性も家事・育児に積極的に参加すべきだ」という意識を持った両親によって育てられた男性の方が家事時間が長いことがわかる。育児時間についても同様の傾向がある(図表省略)。
こうした結果は、両親の性別役割分担意識が、子の家事・育児時間に影響を与えるものであることを示している。現在、子育て中の両親の多くが「男性も家事・育児に積極的に参加すべきだ」という意識をもって男の子を育てれば、将来、家事・育児参加に前向きになる男性が多くなるかもしれない。
これらの結果から、男性の家事・育児参加促進のためには、短期的な取組とともに、長期的な視野に立って意識を変える必要もあることがうかがえる。短期的な取組として、職場において、残業の削減や有給休暇の取得促進のための取組を充実させることも重要である。しかし一方で、長期的な視野に立って、伝統的な性別役割分担意識を変えることも必要であろう。こうした意識改革が効を奏するのには時間がかかると思われる。しかし、将来にわたって女性の活躍推進が必要であることを考えると、今の子育て世代から意識を変えていくことが重要であろう。男性の家事・育児参加を進めるには、今の子育て世代がどのような意識を持つかにかかっていることを多くの人が認識する必要もあると思われる。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 的場康子 (まとば やすこ 上席主任研究員)