<男性の介護離職者の増加>

 「40~50歳代の就労者の約3人に1人は要介護者を抱えている」。このような調査結果が今年3月に厚生労働省「平成24年度仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」により発表された。高齢化により親の介護に直面する人は今後も増加することが見込まれる。わが国経済の発展に必要な労働力を維持するため、仕事と介護との両立のための対策が個人のみならず社会的にも重要となる。

 実際、介護・看護のために仕事を離職する人が男女とも増減の変動はあるものの増加傾向にある(図表1)。しかも介護・看護のために離職して、その後、職に就かず無業のままという人が、女性のみならず男性でも増えている。

 介護保険制度や介護休業制度等、国を挙げて介護のための支援策を進めてはいるが、仕事と介護の両立はなかなか難しいのが現状のようである。本稿では、厚生労働省が介護に直面している従業員や企業に対して実施した各種アンケート調査結果をもとに、介護特有の仕事との両立の難しさを指摘し、今後、企業がどのように両立のための支援をしていくべきかを考える。

介護離職を減らすため相談体制の充実を
(画像=第一生命経済研究所)

<介護のために仕事を辞めた理由>

 冒頭に示した厚生労働省の報告書では、40~50歳代の正社員就労者、及び介護を理由とした離職者(離職前は正社員)を対象に実施したアンケート調査結果が示されている。離職者調査の集計結果により、離職した時の年齢をみると、男性では「41~50歳」と回答した割合が48.0%、女性では「30~40歳」が35.6%、「41~50歳」が38.8%となっている(図表省略)。男女とも概ね40歳代での離職が多い。

 介護を機に仕事を辞めた理由をみると、男女とも「仕事と『手助・介護』の両立が難しい職場だったため」と回答した割合が最も高い(図表2)。次に「自分の心身の健康状態が悪化したため」が続いている。仕事に加えて介護による疲れが健康状態の悪化を招いたという人もいるであろう。両立の難しさをうかがわせる回答結果である。

 他方、仕事を辞めたときの就業継続意向をたずねた結果をみると、「続けたかった」が男性56.0%、女性55.7%と男女ともに半数以上を占めており、「続けたくなかった」(男性21.7%、女性19.2%)、「わからない」(男性22.3%、女性25.2%)を大きく上回っている(図表省略)。両立のための各種制度が整備されつつあるものの、家計の主な担い手であろう働き盛りの人が、仕事を継続したいにもかかわらず、両立が難しいために離職をせざるをえないという状況が続いていることを改めて示す結果である。

介護離職を減らすため相談体制の充実を
(画像=第一生命経済研究所)

<介護をしていることを表明しやすい職場づくり>

 仕事と介護との両立の難しさはどこにあるか。様々な要因が考えられるが、ここでは「介護に直面していることを職場に表明しにくい」という点に注目したい。先述の厚生労働省調査によれば、介護について上司や同僚に知られることの抵抗感が「ある」(「ある」と「ややある」の合計)と回答した割合は、介護を担っている正社員就労者では約2割、離職者(離職前の意識)では約4割となっており、離職者の方が「知られたくない」と思っている人の割合が高い(図表略)。この結果は、自分が介護をしていることを表明できないまま仕事を続けることの困難さを示していると思われる。

 介護に直面している人の多くは40歳以上であり、重職に就いている場合もある。立場上、職場に迷惑をかけたくないという意識から、終わりが見えにくい介護生活を表明しにくいこともあろう。あるいは公私の別を明確にしたい意識が強く、家庭内のプライベートな問題である介護を公にしくにいと考える人もいるかもしれない。しかしながら、職場に介護をしていることを表明できなければ、介護休業制度などの各種支援制度を利用することもできず、介護と仕事との両立も難しい。

 したがって、仕事と介護との両立支援のためには、両立のための各種支援制度の整備に加え、介護に直面した従業員がその事実を表明しやすくし、両立のためにどのような支援が必要かを共有できるよう、職場内で相談しやすくなるような工夫を行うことが必要と思われる。

<介護との両立支援ではまず従業員のニーズ把握を>

 ところが現状では、従業員の生活実態やニーズの把握まで行っている企業は少ない。

 厚生労働省が行なった企業に対する調査で、現在取り組んでいる両立支援として「介護休業制度や介護休暇等に関する法定の制度を整える」と回答した企業は9割近くにのぼるが、「介護に関する相談窓口や相談担当者を設けること」や「従業員の仕事と介護の両立に関する実態・ニーズ把握を行うこと」と回答した企業はそれぞれ約1割に留まっている(図表3)。

 他方、企業における仕事と介護の両立支援として重要と考えられるものをたずねた結果をみると、第1位は「従業員の仕事と介護の両立に関する実態・ニーズ把握を行うこと」(43.4%)である。2位以下は、制度や情報提供の充実が続くが、「介護に関する相談窓口や相談担当者を設けること」に27.1%の企業が回答している。現状は制度整備を優先している企業が多いが、従業員の生活実態の把握や相談体制の構築も重要であると認識していることがわかる。

 このようなことから今後、自分の就業継続意向に反して離職する人を減らし、多くの人が仕事と介護の両立を可能とするために、企業は介護特有の両立の難しさを認識して、両立支援制度の整備のみならず、その制度を活用できる下地をつくる必要がある。そのためには、職場内でのコミュニケーションを活性化し、従業員の実態把握、相談体制の充実、制度の周知徹底等を図ることが重要であろう。(提供:第一生命経済研究所

介護離職を減らすため相談体制の充実を
(画像=第一生命経済研究所)

研究開発室 的場 康子