<ヒーブ協議会と「第9回働く女性と暮らしの調査」>

 本稿は、日本ヒーブ協議会により実施された「第9回 働く女性と暮らしの調査」を元に執筆した「女性の就労に影を落とす介護問題」(Life Design Focus 2013.7.2 http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/focus/fc1307.pdf )に引き続き、第2弾として女性における男女共同参画社会への意識にフォーカスして考察を行ったものである。日本ヒーブ協議会と調査概要については上記の原稿を参照されたい。

 なお、筆者は2013年4月より日本ヒーブ協議会理事を務めている。

<国際的にみて日本の女性管理職は少ない>

 1985年に男女雇用機会均等法が制定されて28年、様々な制度が整備され、就労女性を取り巻く環境は大きく変化してきた。生産年齢人口の減少が進み、出産や育児に加え、高齢化による介護問題がワーク・ライフ・バランスを考える重要な要素の1つとなりつつある今、安定した労働力を確保する上で女性の活用は不可避である。現在、男女共同参画基本計画において、2020年までに政界や企業で指導的地位に占める女性の割合を30%にしようという目標が掲げられている。安倍首相も上場企業に対して女性の管理職や役員の登用を要請するなど、女性の就業とキャリアアップについては、近年特に関心が高まっている。

 政府がこうしたキャンペーンを行う背景の1つとして、日本の就業者における女性管理職の占める割合が、国際的にみて極めて低水準であることがあげられる。国際労働機関(ILO)のデータによれば、フィリピンでは50%を超えているほか、アメリカやフランス、ドイツといった国々で4割前後を占めているのに対し、日本のそれは1割程度にとどまっている。管理的職業従事者の定義が国によって異なる点を鑑みても、日本における割合は低い。上位国には、女性の占める割合を憲法や法律、政党等で設定して男女の比率格差是正を図るクオータ制を導入している国もあるが、日本ではクオータ制は導入されておらず、この導入の是非をめぐって議論がなされている状況である。このような中で、日本の女性は男女共同参画社会の現状についてどのように認識しているのだろうか。

<女性就業者が見た「男女共同参画社会の実現度」>

 企業に勤めている女性が自社における男女共同参画社会の実現度合いをどうとらえているのかについて尋ねた結果、「非常に実現できている」とする回答は9.0%だった(図表1)。一方で「全く実現できていない」とする割合も2.5%と低い値を示し、回答の多くが「まあ実現できている」(57.5%)、「あまり実現できていない」(31.0%)の2つに集中した。

男女共同参画社会は実現されているのか
(画像=第一生命経済研究所)

 この理由について自由回答形式で情報を収集した結果、浮き彫りとなったのは、男女の雇用機会均等にかかわる制度自体は整ってきたものの、それを活用する風土が伴っていないという実態だった(図表2)。結果があいまいな回答に集中した背景には、制度は整備されてきたものの、それらが十分に活かされていない状況において、回答者は「男女共同参画社会の実現」をどのようなものとして認識すればよいかがわからなかったということがあると推察される。

男女共同参画社会は実現されているのか
(画像=第一生命経済研究所)

<女性は「昇進・昇格したくない」のか>

 本調査では、就労目的として「生計維持」(59.7%)をあげた人が調査開始以来最多となった。これに伴うように、就労目的として「仕事を通じて自分を成長させたい」「社会とのつながりがほしい」といった項目をあげる人が減少している(図表3)。

男女共同参画社会は実現されているのか
(画像=第一生命経済研究所)

 また、働き方に対する意識を尋ねた結果を見ると、「現在の会社で昇進・昇格する」ことに対し、「非常に興味がある」「どちらかといえば興味がある」と回答した人はそれぞれ12.4%、43.4%となっており、合わせて半数強しかいなかった(図表省略)。20 代でも合計値は61.3%にとどまっており、年代が高まるにつれてさらに低くなって いた。

 昇進・昇格を望まない理由としては、「家庭生活やプライベートなどの生活に支障が出そうだから」(50.0%)、「自分の生活時間を十分に確保したいから」(42.4%)などが上位にあげられている(図表4)。一方で「現状の働き方や収入に満足しているから」とする割合は25.0%にとどまっている。

男女共同参画社会は実現されているのか
(画像=第一生命経済研究所)

 前出のFocus「女性の就労に影を落とす介護問題」でも言及したが、働く女性にとっては「介護」リスクが仕事を継続する上で大きな不安要素となっている。時期やステップの見通しが比較的立ちやすい育児に対し、介護は時期や要介護の進行度合い、継続期間などの見通しが立ちにくく、ライフデザインを立てにくい。

 女性管理職が少ない背景には、旧来型の男性雇用社会モデルの枠組みの残存だけではなく、女性のライフスタイルやリスク意識にも一因がありそうである。出産や育児、介護といったライフイベントと就労継続のバランスを保ち、生計維持のために長期間安定して働くことを想定した結果、自分や家族を含めたライフデザイン上のリスクを考えると昇進・昇格を前向きに考えることができないとの意識が働く。こうした思考を含めて、単純に「現在の女性は昇進・昇格に後ろ向きである」ととらえるのは早計のようにも思える。

 ライフイベントによる生活環境の変化と就労継続とのバランスをとり、積極的にキャリアアップして仕事や組織にかかわろうとする女性を増やすにあたっては、男女を含めて画一的な働き方を見直し、性別を超えて互いをカバーできる仕事の仕方やマネジメントを推進する必要があるだろう。育児や介護は今後、今以上に男女の如何を問わず関与することが一般化すると考えられるからである。

 今後の日本経済の成長においては、就労形態を柔軟にして多様なロールモデルを提示することで、育児や介護などのライフイベントと就労の両立への不安を軽減し、安心してステップアップを目指せる就業環境を構築することが必要となるだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 宮木 由貴子
(みやき ゆきこ 主任研究員)