<ヒーブ協議会と「第9回働く女性と暮らしの調査」>
日本ヒーブ協議会は1978年に設立された一般社団法人である。企業等の消費者関連部門で働く女性が「生活者と企業のパイプ役としてその双方を理解し、新しい価値を創造・提供することで生活者の利益及び企業の健全な発展に寄与する」ことを使命として活動し、今年で35周年を迎える。
1985年よりフルタイムで働く女性を対象に「働く女性と暮らしの調査」を定期的に実施し、2012年12月に第9回調査を実施した。本調査では、「企業人として・生活者として」の女性が就労環境や消費環境をどのようにとらえているか、ワーク・ライフ・バランスや男女共同参画社会についてどのような意識を持っているかについて明らかにした。調査概要は図表1のとおりである。
本稿では、このうち女性が就労を継続する上での障害になりうる介護問題にフォーカスして考察を行う。
<仕事継続の障害と働き方を見直す転機>
まず、「今後5年間、あなたが仕事を継続していくにあたり、妨げになると考えられること」について尋ねた結果をみると、最も回答が多かったのは「自分の会社内での将来像が見えない」(46.9%)だった。これに「仕事が忙しすぎる、業務時間が長い」(36.5%)、「家族の介護が必要となる」(29.7%)が続いている(図表2)。このうち、上位2位までのものは20代で特に割合が高く、将来像が見えない中での多忙な状況に不安を持っている点が確認されている。一方、年代が高いほど割合が高かったのが3位にあげられた「介護」であり、40代で43.1%、50歳以上で60.7%にのぼる。
本調査によれば、現状で「介護を要する家族がいる」とする人は16.2%にとどまるが(図表省略)、今後5年間における家族の介護の必要性については、40代・50歳以上の8割で「ある」(「非常にある」と「ある程度ある」の合計)と答えており、特に50代では過半数が「非常にある」と回答した(図表3)。なお、30代でも6割以上が「ある」と考えている。
さらに「働き方(労働時間や場所、雇用形態など)を見直す転機」についてみる(図表4)。最も多かったのは「自分の健康や体力に変化を感じた時」(54.4%)だが、これに「家族の介護が必要となった時」(45.9%)が続いている。年代別にみると、家族の介護をあげた人は40代で55.7%、50歳以上で72.0%にのぼる。これらのことから、特に40代や50歳以上の女性就労者において、家族の介護がワーク・ライフ・バランスの実現における重要なキーとなっている点が指摘できる。
<40代からの就労と介護リスク>
本調査では、就労目的として「生計維持」(59.7%)をあげた人が調査開始以来最多となった(図表省略)。これに伴い、就労目的として「仕事を通じて自分を成長させたい」「社会とのつながりがほしい」といった項目をあげる人が減少している。自己実現や社会参加目的ではなく、生活のために就労している人が増加している現状において、「介護」という発生時期や継続期間が予測できない事態への備えを行うことは極めて難しい課題といえる。
女性は20・30代では出産や育児と就労のバランスを考えることが多いが、40代や50歳以上になると家族の介護問題と就労とのバランスを考えることになるようだ。晩婚化が進む中、育児と介護が同時期に発生し、就労に影響が及ぶケースも少なくない。年金の支給開始年齢のさらなる引き上げが検討の俎上に載る中で、生計維持を目的に就労している人が介護のために就労を断念するというのは、積み上げてきたキャリアの断絶に限らず、生活そのものを脅かすことになりかねない。
また、40代といえば管理職が射程に入る年代であるが、介護への不安は女性の管理職昇進への意欲を減退させる一因となる可能性が示唆される。実際、調査結果では昇進を望まない女性の最たる理由として「家庭生活やプライベートなどの生活に支障が出そうだから」(50.0%)があげられている(図表5)。
ただでさえ昇進・昇格がワーク・ライフ・バランスを崩すととらえられている中、介護への不安が特に高まる40代以降に責任の重くなるポストに昇進することに躊躇する女性は少なくない。この背景をもってすれば、単純に女性が昇進・昇格に「意欲的でない」と断言することはできないということになる。
<女性だけの問題ではない「介護」>
企業に65歳までの雇用が義務付けられ、就労期間が長期化する中、安心して就労し続けられることは今後の生計維持と生活の質の維持・向上に向けて重要な要素である。今回の調査は女性のみを対象としているが、この問題は女性のみならず男性にも同様に発生する点に留意する必要がある。現状では育児休業取得率に比べて介護休業取得率は低いが、これは介護対象となる親が遠方に住んでいるなどの物理的な問題なども影響しており、現実には介護のために退職・転職をする就労者の例が少なくない。
今後、就労者のライフスタイルに合わせて就労形態を柔軟化させ、多様化させることは、国際的低水準が指摘される日本の女性役員・管理職の割合を引き上げるのみならず、長期的には企業にとって安定した労働力確保にもつながり、女性のみならず男性におけるライフスタイルの多様化にも対応するものとして受け入れられると考える。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室 宮木由貴子 (みやき ゆきこ 主任研究員)