目次

1.はじめに
2.就職を前にした大学3年生の職業意識
4.まとめ

要旨

① 大学生の就職や職業意識を明らかにするため、当研究所は2012年11月下旬、全国の大学3年生を対象にインターネットによりアンケート調査を実施した。回答数は987人である。本稿では主に大学生の就職にあたっての企業規模や地域選択などについての意識に注目し、大学新卒採用市場の雇用ミスマッチを少しでも縮小させ、多くの大学生がスムーズに職業生活へ移行ができるための課題について考察する。

② 多くの学生は、終身雇用されるかわからない、大企業に就職しても安心できないなど、雇用の先行きが不透明であることを実感している。その一方で、就職後は仕事優先というより、ほどほどの収入でも家庭や趣味など余暇を楽しむ生活をしたいと考えている学生も多い。厳しい経済情勢に直面している今、大学生は概ね、半ば諦観しつつ生計維持ができる範囲内で、自身のワーク・ライフ・バランスを重視した働き方を望んでいることがうかがえる。

③ 就職に伴う地域移動意識をみると、多くの企業が集中している大都市に就職先を求めて地域移動をすることを考えている学生が大勢を占めている。しかし他方、Uターンなど出身地で就職を考えている学生を中心に、地元への貢献意識をもって地域密着で働きたいと思っている学生も少なからずいることが明らかとなった。

④ 本調査結果から、大学生のスムーズな職業生活への移行を可能にし、人材の効果的な活用を図るために、企業規模にこだわらずに就職する意向のある学生と、採用意欲のある中小企業とのマッチングや、地方就職を考えている学生に対する支援などの工夫を、企業、行政、大学の連携によって行うことが必要であることが示された。

キーワード:大卒就職、職業意識、Uターン就職

1.はじめに

(1)調査の背景と目的

 少子高齢化により生産年齢人口の減少が進む中、わが国の経済の維持発展のため、人材の効果的な活用が不可欠である。しかし近年、わが国を取り巻く厳しい経済情勢を背景に、大学生のいわゆる「就職難」が長期化し、安定的な職業に就けない若者を多数生み出している。

 文部科学省「学校基本調査」によれば、1990年以前は大学(学部)卒業者の8割前後が就職していたが、90年代にかけて就職者の割合が低下し、一時的な仕事に就いた者及び進学も就職もしていない者や進学者の割合が増加した(図表1)。2000年に入って就職率の低下傾向に歯止めがかかったものの、そのまま6割前後の低水準で横ばいが続く一方で、進学率が1割強、一時的な仕事に就いた者及び進学も就職もしていない者の割合が約2割の状態が継続している。大学生が職業生活に移行するにあたり、「新規学卒就職」というルート以外の道を進む人が一定の割合で存在するという実態がこの10年余り続いている。

 こうした中、「就職難」の背景の一つとして、学生の大企業・大都市志向などに伴う雇用ミスマッチが指摘されているが、当研究所では企業と学生との情報や意識ギャップを縮小させる方策を考えるため、2012年11月に大学3年生に対するアンケート調査を実施した。採用・就職活動における情報収集面の課題については的場(2013)ですでに報告した。本稿では、厳しい社会状況に置かれている大学生が、職業生活への移行を前にして「働く」ということをどのように考えているのか、主に大学生の就職にあたっての企業規模や地域選択などについての意識を紹介し、大学新卒採用市場の雇用ミスマッチを少しでも縮小させ、多くの大学生がスムーズに職業生活へ移行ができるための課題について考察する。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)アンケート調査の概要

 アンケート調査は株式会社クロス・マーケティングに委託して、インターネット調査により2012年11月22日~28日に実施した。アンケート調査の対象は株式会社クロス・マーケティングのモニターから抽出した全国の大学3年生987人である。対象者の抽出にあたっては、文部科学省「平成24年度学校基本調査」を参考として、性別、居住地別に学生数の割付をおこなった。

 居住地別回答数は、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)と近畿圏(京都府、大阪府、兵庫県)の居住者が552人(全体の55.9%)、それ以外の道県居住者が435人(同44.1%)である(図表2)。また、大学の専攻学部を文系・理系別(以下、文理別)にみると、文系は666人(全体の67.5%)、理系は321人(同32.5%)という構成である。ただし医学系(医学、歯学、看護学、薬学等)の学生は本調査対象から除外した。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

2.就職を前にした大学3年生の職業意識

(1)働き方や就職先についての意識

 就職を目の前に控えた大学3年生は「働く」ということをどのように考えているのか。最初に、働き方や生き方、就職先についての意見をたずねた結果をみる。

1)働き方・生き方についての意識
 まず、雇用形態についての意識をみると、「正社員にこだわりたい(Aの意見)」(「Aに近い」と「どちらかといえばAに近い」の合計、以下同様)と思っている学生の割合が84.9%、「正社員にこだわらず非正社員やフリーターでもよい(Bの意見)」(「Bに近い」と「どちらかといえばBに近い」の合計、以下同様)の割合が15.1%であり、大多数が正社員での就職を希望している(図表3)。

 また、「自分に向かないと思っても、一つの会社に長期勤続するつもりだ」と思っている学生が64.9%であり、「自分に向かないと思ったら、転職するつもりだ」の35.0%を大きく上回っている。

 厳しい雇用環境の中、就職したら正社員として働き、長期勤続をしようと思っている学生が多いことがわかる。

 勤務地については、「勤務地を限定せずに(転勤あり)働きたい」(35.1%)と思っている学生よりも「ある一定のエリアで(勤務地限定・転勤なし)働きたい」(64.9%)と思っている学生の方が多い。性別にみると、女子よりも男子の方が勤務地を限定せずに働きたいと思っている学生が多いが、男子でも59.3%がエリア限定の働き方を望んでいる(図表省略)。

 就職後の生活については、ワーク・ライフ・バランスを重視した生活を希望する学生が多いことがうかがえる。「余暇を犠牲にしてでも、経済的に豊かな生活をしたい」の回答割合(27.6%)よりも「ほどほどの収入でも余暇を楽しむ生活をしたい」の割合(72.4%)の方が高い。また、「家庭や趣味よりも、仕事を優先に生活をしたい」の回答割合(27.8%)を「仕事よりも、家庭や趣味を優先とした生活をしたい」の割合(72.1%)が上回っている。仕事優先というよりも、ほどほどの収入でもよいから家庭や余暇を大切に生活したいと思っている学生が多い。性別にみると、この傾向は女子の方が強い(図表省略)。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

2)企業規模へのこだわり意識
 就職先として考えている企業規模について、「大企業に就職したい」か、それとも「企業規模にこだわらずに就職したい」かをたずねた結果、「大企業に就職したい」(以下「大企業志向」)が38.0%、「企業規模にこだわらずに就職したい」(以下、「規模こだわりなし」)が62.0%であり、大企業志向よりも企業規模にこだわらずに就職することを考えている学生の方が多い(図表4)。性別にみると、男子は「大企業志向」の割合が44.8%であるが、女子は29.8%である(図表省略)。全体としては企業規模にこだわらないという考えの学生が多いが、男子は大企業志向、女子は企業規模にこだわらない人が多いという傾向がある。

 ちなみに大企業への安心感については、「大企業に就職すれば、一生安心だ」の回答割合が20.6%に過ぎず、「大企業に就職しても、安心ではない」が79.4%を占めている(図表省略)。終身雇用については「企業に就職すれば、終身雇用されると思う」の回答割合は21.5%に過ぎず、「企業に就職しても、終身雇用されるかわからない」が78.5%を占めている。大学生の多くは就職しても必ずしも一生安定的に雇用されるわけではないと現実社会を厳しく捉えていることがわかる。

 こうした大企業への安心感や終身雇用に対する意識と、企業規模へのこだわりとの関係をみたものが図表4である。「大企業に就職すれば、一生安心だ」の回答者の78.3%が「大企業志向」であるが、「大企業に就職しても、安心ではない」の回答者では72.4%が「規模こだわりなし」である。終身雇用については、「企業に就職すれば、終身雇用されると思う」の回答者の64.2%が「大企業志向」であるのに対し、「終身雇用されるかわからない」の回答者では69.2%が「規模こだわりなし」である。

 雇用安定志向から大企業を選択する意向のある学生も一定の割合で存在しているものの、大企業に就職しても安心ではない、終身雇用されるかわからないとの意識から企業規模にこだわらずに就職を考えている学生が多くを占めている。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)働く目的

 次に、何のために働くのか、働く目的をたずねた結果をみる。

 第1位は「生活のためにお金が必要だから働く」(以下「生活のため」)(69.6%)であり、多くの学生は「生活のために働く」という意識を持っている(図表5)。第2位以下は「生きがいを見つけるために働く」(以下「生きがいのため」)(21.9%)、「自分の自由になるお金がほしいから働く」(以下「自由になるお金のため」)(19.3%)などとなっている。

 性・文理別にみると、性別や文理別にかかわらず第1位は「生活のため」であるが、第2位以下は性別によって回答傾向が異なる。文系理系ともに男子の第2位は「自分の家庭を築くために働く」(以下「家族形成のため」)、女子の第2位は「生きがいのため」である。男子は就労と家族形成を結び付けて考えている学生が多く、女子は自分の生きがいとして働くことを考えている学生が多いようだ。

 性・企業規模へのこだわり別にみると、規模こだわりなしの学生は男女ともに「生活のため」の他、「自分の自由になるお金のため」や「将来に備えて貯蓄をするために働く」が大企業志向の学生よりも高く、経済的動機が強いことがうかがえる。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

3.就職に伴う地域移動についての意識

(1)地域移動についての意識の4つのタイプ

 近年、大都市圏に多くの企業が集中していることから採用力等における地域格差の問題が指摘されている。こうした中、大学生は就職先の地域選択についてどのように考えているのか。次に、大学生の就職に伴う地域移動についての意識をみる。

1)タイプ分類
 大学生は就職をするにあたって、今住んでいる地域から移動をすることを考えているか。これをたずねた選択肢の中で最も多かった項目は「今住んでいる地域(出身地と同じ)で働くつもりだ」(以下「A.出身地である現在の居住地に留まって働く」)の34.0%であった(図表6)。また「今住んでいる地域(出身地と異なる)で働くつもりだ」(以下「C.出身地でない現在の居住地に留まって働く」)と回答した学生は12.7%であり、これらを合計すると現在の居住地が出身地か否かにかかわらず、「今住んでいる地域で働くつもり」と考えている学生の割合が46.7%であった。多くの学生は現在の住まいから地域移動を伴う就職を考えていないようだ。

 次いで「今住んでいる地域にこだわらずに(出身地以外で)働くつもりだ」(以下「D.出身地以外へ移動して働く」)の回答割合は全体の16.8%、「今住んでいる地域から出身地に戻って働くつもりだ」(以下「B.出身地に戻って働く」)は7.3%となっている。ただし「わからない」が29.2%を占めており、就職先が決まらないと判断できない学生も多いようである。

 性別に上記A~Dの「就職にあたっての地域移動意識」(以下「地域移動意識」)をみると、女子の方が「A.出身地である現在の居住地に留まって働く」や「C.出身地でない現在の居住地に留まって働く」の回答割合が高いことが目立ち、今住んでいるところで働くことを考えている学生が多い。男子は就職先が決まらないと就職場所も決まらないと考えている学生が多いようで、「わからない」の回答割合が最も高い。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

2)地域移動意識別にみた移動パターン
 A~Dの地域移動意識4タイプごとに、回答者の出身地、回答者が学生生活を過ごしている現在の居住地、回答者が就職にあたって希望している勤務地について、「大都市圏」(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の「首都圏」並びに京都府、大阪府、兵庫県の「近畿圏」を合計した数値)と「地方」(上記以外の道県を合計した数値)の分布をみたものが図表7である。左側の横帯グラフはA~Dの各サンプルにおける出身地、現在の居住地、希望勤務地それぞれについての地域分布を示している。右側の表は出身地、現在の居住地、希望勤務地のクロス集計結果である。

 「A.出身地である現在の居住地に留まって働く」ことを考えている学生についてみると、大都市圏出身者が61.3%、また地方出身者が38.7%であり、それぞれそのままその地で学生生活を過ごし働きたいと考えている。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

 「B.出身地に戻って働く」ことを考えている学生は地方出身者が86.7%を占める。そのうちの69.2%は地方の中で移動し現在の居住地に住み学生生活を過ごし、再び地元に戻って働くとしている。また地方出身者の30.8%が大都市圏に移動して学生生活を過ごし、再び出身地に戻って就職することを考えている。

 「C.出身地でない現在の居住地に留まって働く」ことを考えている学生の場合も、その77.4%が地方出身者である。そのうちの59.8%が大学入学時に大都市圏である現在の居住地に移動して学生生活を過ごし、そのほとんどがそのまま大都市で就職することを考えている。地方出身者が多い点では「B.出身地に戻って働く」タイプと似ているが、地方から大学入学時に大都市圏に移動し、そのまま大都市圏で働きたいとしている割合が高い点が異なる。

「D.出身地以外へ移動して働く」ことを考えている学生も59.7%は地方出身者である。そのうちの74.3%が地方の中で移動して学生生活を過ごし、その多くが大都市圏で働くことを考えている。現在の居住地が大都市圏であっても、地方であっても、そのほとんどが大都市圏での就職を考えていることがこのタイプの特徴である。

 以上から、「B.出身地に戻って働く」の回答者を除き、大都市圏出身者でなくても大都市圏で就職をすることを考えている学生が多く、大学生の就職にあたっての大都市志向がみてとれる。しかし他方、「A.出身地である現在の居住地に留まって働く」の回答者の約4割、「B.出身地に戻って働く」の回答者では8割以上が大都市圏以外での就職を望んでいることも明らかであり、必ずしも大都市志向の学生ばかりではないこともうかがえる。

(2)出身地並びに出身地以外で就職しようと思う理由

1)出身地で就職しようと思う理由
 「A.出身地である現在の居住地に留まって働く」と「B.出身地に戻って働く」ことを考えている学生に出身地で就職しようと思う理由をたずねた結果、いずれも第1位は「地元が好きだから」であり、特に後者は77.8%に及んでいる(図表8)。また「B.出身地に戻って働く」の回答者は「地元に貢献したいから」も38.1%であり、「A.出身地である現在の居住地に留まって働く」の回答者の割合を大きく上回っている。概して出身地に戻って働くことを考えている学生は、地元に対する愛着心や貢献意識が強く、そのことが地元での就職を考える理由になっていることがうかがえる。

 ただし、同じ「A.出身地である現在の居住地に留まって働く」と回答した学生でも、その「出身地」の地域特性によって、その地で就職しようと思う意識も異なると思われる。そこで、「出身地」が大都市圏の学生と、それ以外の学生とで出身地で就職しようと思う理由を比較すると、大都市圏出身者は「就職後の生活が経済的に楽だと思うから」や「志望企業があるから」「就職活動をするにあたり、企業数や求人数が多いから」といった項目への回答割合が地方出身者より高くなっている。他方、地方出身の学生は「地元が好きだから」や「地元に貢献したいから」等の回答割合が高いことが目立っており、B.出身地に戻って働く」ことを考えている学生と似たような傾向が示されている。出身地で就職を考える学生の中でも、特に地方に住み、就職を考えている学生は、大都市居住の学生よりも地元への愛着心や貢献意識が強いことがうかがえる。

 ちなみに、情報収集に関する「就職活動をするにあたり、企業説明会などの情報が多いから」の項目は、出身地に留まって働くとしている学生全体で4.4%と最も低いが、出身地別にみると地方出身者では0.9%であり、大都市圏出身者よりさらに低い。「B.出身地に戻って働く」としている学生の中ではこの項目への回答者がゼロである。就職活動にあたり、大都市圏で働く意向のある学生でも企業説明会など情報の多さを認識している割合は多くないが、地方で働く意向のある学生では特に少ないようである。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

2)出身地以外で就職しようと思う理由
 他方、「C.出身地でない現在の居住地に留まって働く」並びに「D.出身地以外へ移動して働く」と考えている学生は、いずれも出身地にこだわらずに働きたいと思っているという点で共通している。またこの考えの学生の多くは図表7で示したように、大都市圏以外の出身で、大都市圏での就職を希望する傾向がある。これらの学生に出身地以外で就職しようと思う理由をたずねた結果が図表9である。

 「C.出身地でない現在の居住地に留まって働く」と「D.出身地以外へ移動して働く」の第1位の項目はそれぞれ異なるものの、第2位と第3位はいずれも「志望企業があるから」と「就職活動をするにあたり、企業数や求人数が多いから」となっている。特に「D.出身地以外へ移動して働く」の回答者については、多くが大都市圏で働きたいと思っていることからも、職を求めて移動するという意識が強い傾向がみてとれる。

大学3年生の職業意識
(画像=第一生命経済研究所)

4.まとめ

(1)厳しい現実社会を見据えた職業意識

 以上、就職を目の前に控えた大学3年生の職業意識をみてきた。多くの学生は、終身雇用されるかわからない、大企業に就職しても安心できないなど、雇用の先行きが不透明であることを実感している。その一方で、就職後は仕事優先というより、ほどほどの収入でも家庭や趣味など余暇を楽しむ生活をしたいと考えている学生も多い。

 厳しい経済情勢に直面している今、大学生は概ね、半ば諦観しつつも生計維持のために企業規模にこだわらずに就職し、自身のワーク・ライフ・バランスを重視した働き方を望んでいることがうかがえる。

 また、多くの企業が集中している大都市に就職先を求める学生が大勢を占めている。しかし他方、Uターンなど出身地で就職を考えている学生を中心に、地元への貢献意識をもって地域密着で働きたいと思っている学生も少なからずいることも明らかとなった。

(2)中小企業や地方での就職意向のある大学生への対応

 最後に、大学生のスムーズな職業生活への移行を可能にし、人材の効果的な活用を図るために、本調査結果から浮き彫りにされた課題を2点示す。

 一つは、「企業規模にこだわらずに就職したい」という意向への対応である。実際、大企業が新規採用を絞り込んでいるということもあり、大学卒業予定者の「中小企業への就職希望者数は徐々に増加している」(中小企業庁 2012)。採用意欲のある中小企業にとっては好機であるといえる。他方、中小企業は大企業に比べ人材獲得のための情報発信力が弱く、そのことが新卒採用を困難にしているともいわれている。アンケート調査の自由記述にも「中小企業のPRが足りない」「アプローチの仕方がわからない」等の意見が多数あった。求人情報や企業活動等を就職希望者に適切に伝えることができるよう、中小企業も自ら地域の大学と連携を図り、インターンシップなどの取組を強化するなど、情報発信力を高める努力が求められる。

 もう一つは、Uターン就職や地方で就職をしたいという意向への対応である。このような意向のある学生は地元貢献意識が高いことから、彼らの定着により地方経済を支える人材を供給することにつながると思われる。しかしながら、「自分の望むような仕事が地元でできるか不安」(自由記述)といった意見が示すように、地域によっては経済活力の低下により、大学生が希望する職種の雇用があるかが懸念されている。すでに2003年から内閣に「地域再生本部」が設置され、産業や雇用など様々な面からの対策が講じられているが、大学生の地方就職を支えるためにも、企業努力のみならず行政支援により地域経済の活性化を図ることが求められる。また、大学側も学生の広域的な求職活動を援助する方向で、就職支援を充実させることが必要である。実際、特にUターン就職を考えている学生の就職活動の場面において「大学の授業との両立の困難さ」や「大学での企業説明会の増加を望む」意見(自由記述)が目立っていたことからも、広域的に地方企業も呼び込んだ大学内就職説明会の実施など、学生の地方就職に対する支援の工夫を図ることが望まれる。

 このように、企業、行政、大学の連携によって新卒採用市場を活性化させ、今後のわが国経済を担う人材を効果的に活用する方策を具体的に実施していくことが、現在の厳しい経済環境を克服する一つの道でもあると思われる。(提供:第一生命経済研究所

【主な参考文献】
・ 中小企業庁,2012,『2012年版 中小企業白書』.
・ 内閣府,2012,『地域の経済2012 -集積を活かした地域づくり-』.
・ 的場康子,2013,「大学3年生の就職に関する意識と情報収集の実態」『Life Design Report』(Spring 2013.4).

研究開発室 的場 康子
(研究開発室 上席主任研究員)