<性別役割分業意識の保守化>

 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきか」。これは性別役割分業意識を測る代表的な質問として、内閣府の世論調査において時系列で測定されているものである。いわゆる高度成長期には「夫は仕事、妻は家庭」が典型的であったとされている。20年前の1992年でも、この考えに「賛成」の割合(「賛成」と「どちらかといえば賛成」の回答割合の合計、以下同様)が全調査対象者の60.1%であったが、この割合は徐々に低下し続け、2002年には47.0%、07年には44.8%となった(図表省略)。ところが、12年の調査結果では再び賛成割合が51.6%に上昇し、性別分業を肯定する人の方が多数派に反転した。

 こうした保守化傾向を後押ししているものの一つに、若年層の意識変化があると思われる。男女ごとに年齢別にみると、男女ともに20歳代、30歳代の賛成割合が10年前の02年と比べ増加している(図表1)。若年層の賛成割合の増加が、全体割合を押し上げていると推察される。

若者の性別役割分業意識を考える
(画像=第一生命経済研究所)

<大学生の結婚・出産後の望ましい就業のあり方についての意識>

 また別の角度からみた若年層の意識として、これから社会に出ようとしている大学生に、結婚・出産後の望ましい就業のあり方をたずねた結果をみても、性別分業を肯定するような回答が少なくないことがわかる。当社が全国の大学3年生を対象に2012年11月に実施したアンケート調査(回収数987人)によると、女子が自分の結婚や出産後の理想生活として「結婚し、子どもをもっても仕事を続ける」(以下「継続就業」)と回答した割合が43.3%で最も高いものの、「出産を機に退職し、子育て後に再び仕事を持つ」と「出産を機会に退職し、その後は仕事を持たない」の合計(以下「出産退職)の割合が44.8%であり、継続就業と出産退職とで意見が分かれている(図表2)。また、男子が結婚後にパートナーに望むことは「継続就業」が39.8%、「出産退職」が48.6%であり、女子が自分自身の理想と考えている場合の構成割合と似ている。男女ともに「女性は出産を機に退職する」ことを理想とする人の方が「継続就業」を理想とする人よりも多い。これから社会に出ようとしている大学生の多くも、仕事と育児との両立生活より性別分業を意識していることがわかる。

 働く女性が増加し、男女とも自由な意思で社会参加ができるようになりつつある中、若者の間で「夫は仕事、妻は家庭」という意識が根強いのはなぜか。以下、こうした意識が支持される背景と今後の展望を考える。

若者の性別役割分業意識を考える
(画像=第一生命経済研究所)

<なぜ性別役割分業意識が支持されるのか>

 背景の一つ目として、近年の厳しい就職・雇用事情が考えられる。文部科学省「平成24年度学校基本調査(確定値)」によれば、大学卒業者について「就職者のうち正規の職員等でない者」、「一時的な仕事に就いた者」及び「進学も就職もしていない者」を合算すると12万8千人である。これら安定的な雇用に就いていない者の卒業者に占める割合は22.9%である(図表省略)。この割合を性別にみると、男子が22.0%、女子が24.1%であり、男子より女子の方が安定的な雇用に就いていない者の割合が高い。こうした社会情勢の中、結婚して男性の経済力に頼る生き方を志向するようになった女性も少なくないと思われる。

若者の性別役割分業意識を考える
(画像=第一生命経済研究所)

 特に、厳しい雇用環境の中で、非正規雇用者の増加が問題となっている。実際この10年間に、若年層では雇用者に占める非正規職員の割合が男女ともに上昇しているが、特に女性で非正規職員の割合が高い(図表3)。こうした実態も、男性に稼ぎ手としての役割を期待する女性の性別分業意識に影響していると思われる。ちなみに男性の場合、非正規雇用者の増加は「未婚化」に結びつくことが多いとされている。これは経済的に依存したい女性の意識に男性が応えたくても応えることができない等のためである。雇用不安の中での伝統的な性別分業意識への回帰は、若者の家族形成にも大きく影響を及ぼすことが危惧される。

 また二つ目には、労働時間の短縮化が依然として進まないことなどにより、仕事と育児との両立が難しいと考えられていることもある。例えば、厚生労働省「毎月勤労統計調査」により、労働時間数(ただし、この数値は事業所が労働者に賃金を支払った時間のみである)の推移をみると、19年前から全体では減少傾向にあることが示されている(図表4)。ただし、これは労働時間が比較的短い非正規雇用者が増加したためなどであると言われており、実際、依然として正社員(図中の一般労働者)の労働時間は減っていない。こうした社会風潮を敏感に捉え、男女ともに育児をしながら仕事をすることは難しいとして、性別分業が現実的であると考える人もいると思われる。

若者の性別役割分業意識を考える
(画像=第一生命経済研究所)

<男女ともに生活を支える生き方が可能となる社会の実現を>

 このように、厳しい就職事情や雇用環境などを背景に、性別分業が現実的と考えるようになった人々が増え、それが「保守化」の動きとして捉えられるようになった。

 しかしながら家計の実態をみると、「夫は仕事、妻は家庭」ではすまされない現実もみてとれる。10年余り前からの家計収入の推移をみると、世帯主(男性)収入は減少傾向にある(図表5)。高齢者や非正規労働者が増加していることも要因として考えられるが、世帯主収入の減少を補うかのように配偶者(女性)収入が家計を支えていることがうかがえる。わが国の社会情勢を考えると、おそらく今後も共働 きで世帯収入を維持することが必要になると推察される。

 したがって、保守化という意識変化にのみ注目するのではなく、その背景には厳しい雇用環境があるということを認識した上で、国や企業において、雇用の安定や仕事と家庭生活の両立支援のための取組 を強化して、男女ともに生活を支える生き方が可能となる社会を目指すべきである。(提供:第一生命経済研究所

若者の性別役割分業意識を考える
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研究開発室 的場 康子