要旨

① 就職活動本格開始直前の2012年11月下旬に大学3年生を対象に就職についてのアンケート調査を実施した。多くの学生は働くことに前向きであり、就職先についての検討もすでに始めている。他方、「卒業までに就職先が決まるか不安である」が8割以上であるなど、就職に対する不安も多くの学生が感じている。

② 企業や職業を選択する際に重視するポイントの上位3位は「やりがいが感じられる仕事ができること」(49.8%)、「自分の能力や適性と合っていること」(38.7%)、「職場の雰囲気・人間関係がよいこと」(33.1%)であった。

③ 多くの学生は、その手軽さを理由にインターネットや大学の就職部を活用した情報収集をおこなっているが、職業選択の決め手となる仕事内容や職場の雰囲気がわかるためには、OB・OGなど志望企業で働いている人の意見やインターンシップなどの経験が重要であると認識している。

④ 調査結果から、多くの学生は働いている人との意見交換やインターンシップ経験に基づく情報を重視していることが明らかとなり、企業においても採用活動に際し、こうした機会をできるだけ多く提供する工夫が求められている。

1.はじめに

(1)問題意識

 2014 年3月卒業の大学生の採用・就職活動が本格化している。一般社団法人日本経済団体連合会の「採用選考に関する企業の倫理憲章」によって、2013 年度入社の学生から、採用を目的とした企業の広報活動開始時期は大学3年(また修士1年)の12月1日以降、面接等実質的な選考活動については卒業・修了学年の4月1日以降に開始することとされた。これは、学生の学業への影響を考慮し、採用・就職活動の早期化の自粛を求めるものである。一方、広報活動の12 月開始により、これまでよりも選考までの期間が短縮化されたので、企業・学生双方にとって効率よく情報収集をすることが必要とされることとなった。最近、インターネットを活用した採用・就職活動が注目されているのも、こうしたことが背景にあると思われる。

 採用・就職活動にあたっては時間との戦いの中で効率性を重視することも必要であるが、企業と学生との間で十分に情報交換を図ることも重要である。そうすることで、企業にとっては人材の定着、学生にとっては職業生活へのスムーズな移行及び安定につながる。採用・就職活動では「情報収集」が重要な鍵を握るといえる。

 こうした背景から当研究所では、学生の情報収集面に注目し、就職活動を目の前に控えた大学3年生を対象にアンケート調査を実施した。この中から本稿では、就職に対する意識や情報収集の実態に関する結果を紹介し、就職活動における情報収集面での課題について考察する。

(2)アンケート調査の概要

 アンケート調査は株式会社クロス・マーケティングに委託して、インターネット調査により2012 年11 月22 日~28 日に実施した。アンケート調査の対象は株式会社クロス・マーケティングのモニターから抽出した全国の大学3年生953 人である。対象者の抽出にあたっては、文部科学省「平成24 年度学校基本調査」を参考として、性別、居住地別に学生数の割付をおこなった。

 居住地別回答数は、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)と近畿圏(京都府、大阪府、兵庫県)の居住者が552 人(全体の55.9%)、それ以外の都道府県居住者が435 人(同44.1%)である(図表1)。また、大学の専攻学部を文系・理系別(以下、文理別)にみると、文系は666 人(全体の67.5%)、理系は321 人(同32.5%)という構成である。ただし医学系(医学、歯学、看護学、薬学等)の学生は本調査対象から除外した。

大学3年生の就職に関する意識と情報収集の実態
(画像=第一生命経済研究所)

2.就職についての意識

(1)進路選択についての意識

 これから就職活動を始めるにあたり、大学3年生はどのような意識を持っているのか。まず、大学卒業後の希望進路をたずねた結果をみると、「民間企業に就職したい」が70.8%を占め、最も多い(複数回答、図表省略)。次いで「公務員(教員を除く)として就職したい」が27.7%、「専門職(法律家・会計士等)に就きたい」が9.5%、「教員になりたい」が9.1%となっている。「決まっていない」は12.0%である。大学3年生のほとんどが11 月時点で進路を考えているようだ。

 また、企業や職業を選択する際に重視するポイントは何かをたずねたところ、「やりがいが感じられる仕事ができること」が最も多く49.8%、「自分の能力や適性と合っていること」が38.7%、「職場の雰囲気・人間関係がよいこと」が33.1%の順で上位3位となっている(図表2)。仕事内容や職場の雰囲気などを職業選択のポイントとして重視している人が多い。

 性・文理別でみると、専攻学部にかかわらず、男子は雇用の安定や給与、将来性などを、女子は自分の能力や適性に合っていることや職場の雰囲気などを重視する人が多いことがみてとれる。

大学3年生の就職に関する意識と情報収集の実態
(画像=第一生命経済研究所)

(2)働くことについての意識

 働くことについてどのように考えているかをみると、「仕事を通して、自分自身を向上させたい」に約8割、「仕事を通して、社会に貢献できればよいと思う」、「できるだけ早く親から独立をしたい」、「職業や就職先について、いろいろ検討している」に約7割の学生が「あてはまる」(「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下同様)と肯定的な回答をしている(図表3)。

 性・文理別にみると、専攻学部にかかわらず、「自分自身を向上させたい」という意識は女子のほうが高く、「親からの独立」意識については男子のほうが高い傾向がある。「社会に貢献できればよいと思う」割合は性別にかかわらず理系のほうが高い。専攻学部や男女で若干の意識の差はあるが、多くの学生が働くことを前向きに考え、自分自身の成長や社会に貢献できることを期待している。

大学3年生の就職に関する意識と情報収集の実態
(画像=第一生命経済研究所)

(3)就職活動に対する意識

1)就職に対する不安感
 一方、就職活動を前にして不安を感じている学生も多い。「卒業までに就職先が決まるか不安である」に80.5%、「自分がどのような職業に適しているかわからない」に68.3%の学生が「あてはまる」と回答している(図表4)。性・文理別でみると、専攻学部にかかわらず女子の方が高い回答割合を示している項目が多く、男子よりも不安感を持っている人が多いことがうかがえる。

 前述のように多くの学生は職業について前向きに検討中のようであるが、他方、職業や企業を選択することの難しさや不安を感じているといえる。

大学3年生の就職に関する意識と情報収集の実態
(画像=第一生命経済研究所)

2)情報収集面での意識
 就職活動における情報収集の側面に着目した意識をみると、「インターネットによる情報だけでは就職先を決められない」「企業の採用基準がわからない」に8割以上が「あてはまる」と回答している(図表5)。また、「働いている人に実際に会って話を聞く機会がほしい」「世の中にどのような企業があるかわからない」にも約7割が回答している。

 性・文理別にみると、特に理系女子で「働いている人に実際に会って話を聞く機会がほしい」の回答割合が、また文系女子では「企業の採用基準」や「世の中にどのような企業があるか」、「就職活動の仕方」がわからないとの回答割合が高い傾向がある。

 学生の多くは、インターネットによる情報のみに頼れないことを認識しており、どのような企業があるか、企業の採用基準は何かなど、企業や職業選択のために必要な情報を収集する上での不安を感じていることがわかる。

大学3年生の就職に関する意識と情報収集の実態
(画像=第一生命経済研究所)

3.就職活動のための情報収集

(1)利用しているもの

 それでは、学生はどのように情報収集をおこなっているのであろうか。就職活動の情報収集のために利用しているもの(利用したものを含む)をたずねた結果、「採用情報のウェブサイト」(民間企業が運営する就職情報サイト)が62.9%で最も高く、次いで「企業のホームページや企業のSNS(Social Networking Service)」が48.5%と続いている(図表6)。12 月の解禁前に実施した調査であるため、まだ本格的に情報収集を始めていない人もいると思われるが、11 月時点でも6割以上が「採用情報のウェブサイト」を利用している。

 また、利用しているもののうち特に重視するものを選択してもらった結果をみても、これら2項目の回答割合が高い。就職活動にあたりインターネット上の情報を利用し、かつ重視している人が多いことがうかがえる。

 「OB・OGなど働いている人の意見」についてみると、これを利用している人は15.3%と少ないが、すでに利用している人の中でこれを特に重視するとしている人の割合は51.0%と半数以上を占めている。図表5で「働いている人に実際に会って話を聞く機会がほしい」と思っている人が約7割を占めていたことと考え合わせてみると、就職活動をするにあたり「OB・OGなど働いている人の意見」を重視し、これを求めている人が多いことがうかがえる。

大学3年生の就職に関する意識と情報収集の実態
(画像=第一生命経済研究所)

(2)就職活動の情報として利用する理由

 利用している情報ごとに、利用する主な理由をたずねた結果をみたものが図表7である。「採用情報のウェブサイト」や「企業のホームページや企業のSNS」などのインターネットによる情報を利用している理由の第1位は、「手軽に情報収集ができる」である。理由の第2位をみると、「企業のホームページや企業のSNS」は「信頼できる」であるが、「採用情報のウェブサイト」「SNS」などは「まわりの人が利用している」となっている。

 これに対して、「大学主催の企業説明会」や「大学の就職部・キャリアセンター」といった大学からの情報や、「大学の先生の意見」や「大学の先輩の意見」などのまわりの人の意見(「友人の意見」を除く)は、「信頼できる」が利用する理由の第1位である。ちなみに、回答数が少ないために参考として示すが、「公的な就職支援機関(ハローワークなど)」などの求人紹介のサービスも「信頼できる」が理由の第1位であり、大学からの情報などと回答項目の分布が似ている。

大学3年生の就職に関する意識と情報収集の実態
(画像=第一生命経済研究所)

 他方、「アルバイト」や「インターンシップ」「ボランティア活動」といった自らの「経験」に基づく情報は、「仕事の内容がわかる」や「職場等の雰囲気がわかる」への回答割合が上位となっている。

 この結果から、多くの学生はインターネット情報をその手軽さのために利用しているが、「インターネット情報だけでは就職先を決められない」と認識しているように、情報の信頼性という点ではまわりの人(友人を除く)の意見を、また職場の雰囲気や仕事内容を知ることができる点ではインターンシップなどの経験に基づく情報の方を評価していることが確認できた。

4.まとめ

 以上、大学3年生が本格的に就職活動を開始する直前の11月時点における、就職に対する意識や情報収集の実態についてみてきた。性別を問わず多くの学生は働くことに前向きであり、就職先についての検討もすでに始めている。他方、「卒業までに就職先が決まるか不安である」が8割以上であるなど、就職に対する不安も多くの学生が感じている。また、企業の採用基準や就職活動の仕方がわからない等、情報収集面での不安を感じている学生も多く、就職活動を乗り切るには情報収集の仕方が重要であることを改めて確認できる結果であった。

 実際、11月時点で多くの大学3年生がすでに就職活動のための情報収集を始めていた。多くの学生は、その手軽さを理由にインターネットや大学の就職部を活用した情報収集をおこなっているが、職業選択の決め手となる仕事内容や職場の雰囲気がわかるためには、OB・OGなど志望企業で働いている人の意見やインターンシップなどの経験が重要であると認識しており、「働いている人に実際に会って話を聞く機会がほしい」と多くの学生が思っている。情報に対する信頼性も、インターネットよりも「大学の先輩の意見」や「OB・OGなど、志望企業で働いている人の意見」等、まわりの人の意見のほうが高い。

 このように、多くの学生は働いている人との意見交換やインターンシップ経験に基づく情報を重視していることが明らかとなったことから、企業においても採用活動に際し、こうした機会をできるだけ多く提供する工夫が求められている。こうして多くの学生が企業と個人レベルでの情報交換の場を有効に活用することができれば、就職先企業との情報ギャップが縮小され、スムーズな職業生活への移行にも寄与するものと思われる。(提供:第一生命経済研究所


研究開発室 上席主任研究員 的場 康子