<男性や若年層で増加率の高い介護離職者>

 家族の介護・看護のために離職をする人が増えている。2002年からの離職者数の推移をみると、年々徐々に離職者数が増え、2006年には約14.5万人と、5年で約1.6倍となっている(図表1)。性別にみると、離職者数は女性の方が多い。しかし2002年から5年の変化をみると、女性の離職者数の増加率は約1.5倍、男性は1.7倍であり、男性の方が増加率が高い。

「介護のために離職しない」が可能となるために
(画像=第一生命経済研究所)

 離職者数の年齢階級別構成割合について、2002年と2006年を比較しても、50歳代が最も多くを占めていることに変わりはない(図表2)。しかし、介護において若年層にあたる40歳代以下の比率が2002年では約2割であったのが、2006年には4割近くを占め、介護・看護を理由とする離職者に占める若年層の割合が増加していることがわか る。

 また、性別に年齢構成の変化をみると、男女とも60歳以上の割合が低下し、40歳代以下の若年層の割合が増えている。

「介護のために離職しない」が可能となるために
(画像=第一生命経済研究所)

<離職者に占める無業者の割合も増えている>

 ちなみに、離職後の就業状況は転職するか無業となるかに大別される。2006年では男性の76.2%、女性の80.5%が無業者となっており、転職者に比べ無業者の割合が圧倒的に高い(図表3)。しかも男女ともに、その割合は2002年を上回っている。

 また、性・年齢階級別にみると、2006年では男性の30歳代でも51.7%、40歳代では65.6%、50歳代では79.7%が無業となっており、2002年に比べ大きく増加している。働き盛りの男性でも、介護・看護のために離職して無業になる割合が増えている。

「介護のために離職しない」が可能となるために
(画像=第一生命経済研究所)

 以上のように、男女ともに家族の介護や看護のために離職をする人が増えている。しかも50歳代以下の働き盛りの人の割合が高まっている。このことは、いかに仕事と介護・看護との両立生活が困難であるかを示しているといえる。

 他方、国や企業において、介護と仕事との両立を支援するための取り組みがなされていないわけではない。例えば、育児・介護休業法において、介護休業制度、介護休暇制度、介護のための勤務時間の短縮等の措置が定められており(図表4)、労働者から介護休業等の申出があった際、企業はその申出を拒むことができないとされている。

 両立支援のための制度の整備が進められているにもかかわらず、家族の介護等のために無業となる人が増えているのはなぜか。以下では、当社が正社員として働きながら親の介護を経験している人を対象として実施した「親の介護に関するアンケート調査」をもとに、介護と仕事との両立を支援するための制度の利用状況や意識を紹介し、両立を可能とするためには何が必要かを考える。

「介護のために離職しない」が可能となるために
(画像=第一生命経済研究所)

<介護と仕事との両立支援制度の利用状況>

 まず、各種両立支援制度の利用率(「利用している(したことがある)」の回答割合)をみると、介護休業制度、介護休暇制度、短時間勤務制度のいずれも6%前後となっている(図表5)。ちなみに参考として、2010年に実施した厚生労働省による調査をみても、家族の介護を行っている労働者の介護休業の取得割合(「現在取得している」と「過去に取得したことがある」の合計)は5.8%である(平成21年度厚生労働省委託調査「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査結果について」2010年)。介護と仕事との両立のための支援制度は、あまり利用されていないようである。

 他方、「利用したいが利用できない/利用したかったが利用できなかった」という利用意向割合は、いずれの制度も約2割となっている。実際の利用率よりも、潜在的な利用意向割合の方が高い。両立を可能とするための制度を利用したいと思っても利用できないまま介護をしていると、両立生活のバランスをうまく維持できずに、将来的 に介護離職に追い込まれる可能性が高いと思われる。少なくとも利用意向のある人が利用できるようにすることが、離職者減少に歯止めをかけることにつながるのではないだろうか。

 ただし、ここで注目すべきは「制度の存在を知らない(知らなかった)」の回答割合である。いずれの制度も約4割を占めており、利用率や利用意向割合を大きく上回っている。制度の存在を知らなければ利用はできない。制度の利用促進のためには、まずは認知度を高めることが必要である。

「介護のために離職しない」が可能となるために
(画像=第一生命経済研究所)

<介護と仕事との両立支援制度を利用しない理由>

 次に、なぜ介護と仕事との両立を支援するための制度を利用しないのか、「利用しない理由」をみる。いずれの制度も、理由の第1位は「同僚に迷惑がかかる」、第2位は「収入が減る」である(図表6)。性別でみても上位2位の回答項目は同じであった(図表省略)。なお、本調査の分析対象は40歳代と50歳代が合わせて7割以上を占めている(図表省略)。この年代は会社においても、家庭においても中心的な働き手である場合が多い。そのため、職場や家計への影響を考えて、制度の利用を控える人が多いのではないかと思われる。

 ちなみに、介護休業をした場合、雇用保険から最長3か月間、休業前の賃金の40%相当額が介護休業給付金として支給される。介護休業制度の存在を知らない人が多い中、介護休業給付金の存在までを知っている人はさらに少ないと思われる。確かに収入は減るが完全に無給にはならないことを、制度の存在と合わせて周知徹底させることも、制度の利用促進のためには必要である。

「介護のために離職しない」が可能となるために
(画像=第一生命経済研究所)

<介護に関する情報提供と職場コミュニケーションの充実を>

 今後ますます高齢化が進み、要介護者が増えるに伴い、性別を問わず働きながら介護をする人も増えると思われる。多くの人にとって、自分の家計維持のみならず、介護サービスを利用するための費用を賄うためにも仕事を続けながら介護をする方が望ましいはずである。企業にとっても、介護のために離職者が増えることは経営リスクとなる恐れがある。

 しかしながら現状では、介護のために離職をする人が増えている。要介護者の状況や家庭の事情など、人それぞれ両立生活が困難となる様々な理由があるだろうが、中には、両立支援制度があまり知られておらず、また利用しにくいために、利用する前に仕事を辞めてしまうという人もいると思われる。

 今後、多くの人が普通に仕事と介護を両立させることができるようになるためには、まずは介護保険制度における介護サービスの充実が求められるが、企業においても、両立のための制度等の情報を広く従業員に発信したり、制度を利用しやすい職場環境を整備するなどして、介護をしながらでも仕事を続けられる見通しを従業員に持たせることが必要である。例えば、全従業員を対象としたセミナーの開催など、介護との両立に関する情報や理解を全社的に広めることが挙げられる。また、周囲に気兼ねして利用をひかえる人が多いようであるが、制度の利用者と非利用者間での不公平感解消のために業務量の調整や人事評価面での工夫や、職場内コミュニケーションを大切にして「お互いさま」の気持ちで仕事ができるような職場づくりも必要と思われる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部
研究開発室 的場 康子
(まとば やすこ 上席主任研究員)